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【秋のスペシャル】はーろーーーうぃーーーーーーーんっっ!!

リアクション公開中!

【秋のスペシャル】はーろーーーうぃーーーーーーーんっっ!!
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リアクション


●俺たち、ゴム人間族

「おや? 林田樹じゃないかー」
 ひょいと杯を持ち武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は声を上げた。
 彼の仮装は和風な妖怪、二本の角の鬼である。
 ただの鬼ではない。威風堂々、鬼の大将といった様相だ。
 上半身は裸、ドロや血糊でボロボロにした晴れ着をマントのように肩にひっかけ、髪も左目を隠した状態で少し乱れるようにセットしている。加えて、袴も少し汚して雰囲気を出した。
 腰には荒々しい長ドス、徳利を縄で縛り、これを片手で握るのだ。
 歩いていた林田 樹(はやしだ・いつき)は気づいて、牙竜のテーブルに歩み寄った。
「おう! カサハリ、久しぶりだな。元気だったか?」
 カサハリ、とは『傘貼り浪人』をもじったあだ名だ。樹が勝手に牙竜をそう呼んでいる。
「ところでそいつはどういう意図の衣装だ?」
 よくぞ訊いてくれた、とばかりに牙竜は答える。
「日本三大悪妖怪と言われるもののひとつ酒呑童子をモチーフにしてみた。越後国の酒呑童子出生伝説によると、元々は美少年だったが、想いを遂げられなかった女性の恨みで鬼になってしまったものだとか…………まぁ、気にしないでおこう」
 牙竜は杯をぐいと干した。この杯は偽物ではなく、ちゃんと徳利から辛口の日本酒が注がれているのである。常温だが、呑めば熱燗をやった以上に血液が沸く、そんな銘酒だった。
「ま、一献」
 彼は彼女にも大盃を渡してニヤニヤ笑った。
「その衣装、よく似合ってるなー。ナンパされて大変だろ?」
「冗談」
 へっ、と鼻で笑って樹はこれを受け取った。
 樹の衣装は彼女のパートナー、ジーナが用意したものだ。
 定番中の定番、吸血鬼の格好である。濃紺のタキシード、下はハイネックの白シャツ、マントにカマーバンドでシックにきめている。マント裏は目の覚めるような緋色だ。
 グラマーな樹ではあるが胸を潰さずに男装しているので、胸元はボリュームたっぷりのぱっつん状態だ。ちょっとつつけば破裂しそうだった。
 樹は一息で杯をあけ、旨い、と熱い息を吐き出してから言う。
「つまらん男が寄ってきても目にも入らんよ。そもそも、こんな私をナンパしようとする度胸のある物好きが何人いるんだか」
「それこそ冗談だろ。俺だったら、林田のようないい女放っておかないが……おっと、しかし今は素敵な恋人がいて甘い日々をすごしてるんだった。手は出せないな」
 くくっと牙竜が笑うと、樹はみるみる紅潮した。
「わ、私らは普通だ普通! 『素敵な恋人』『甘い日々』なんて大層なもんじゃないってっ!」
 くいっと良い飲みっぷりでさらに一献あけるや、すぐさま彼女も逆襲するのである。
「そういうカサハリこそ、相変わらず一途に、獅子座の乙女の尻を追い回してるのか?」
 この指摘にやや詰まったか、牙竜は追求を避けるように杯を干し、手酌で酒を足さんとした。
「……っと、酒が切れた」
 持参の徳利からは、雫が二三落ちるのみである。
「うまく誤魔化したな」
 ニヤリとすると樹は、どしんと音を立ててテーブルに何か置いた。
 ラベルの貼っていない、やけに黒々とした一升瓶であった。
「お前さんも成人したばかりの割に、なかなかの呑みっぷりじゃないか。酒ならある。なぁ~に、ちょっと一升瓶のワイン開けるくらいだ、遠慮するな!」
「えっと、俺はワインは……あまり……」
 飲み慣れてない、と言いかけた牙竜を手を振って黙らせ、樹はこれまた特大のワイングラスを二個取り出し、その双方になみなみとダークレッドの酒をそそいだのだった。
「知名度は低いが味は特上のワイン蔵の樽から直送したやつだ。ま、一升瓶しか入れ物がなかったのは勘弁な」
 そこへ、
「楽しそうだね」
 セルマ・アリス(せるま・ありす)が顔を見せた。
 向けられたワイングラスを未成年だから、と、かわして、セルマは替わりに、血のように赤い葡萄ジュースを口元に運ぶ。
「見てこれ、ジャック・オ・ランタンをかわいく作ってみたんだ!」
 セルマが手にしたカボチャランタンは、確かに普通のものとは違っていた。
「テンプレートを使えば、カボチャの顔以外の柄にすることもできると思ってね」
 カボチャにぽっかり開いた穴は黒猫のシルエットであった。内側からの灯でぼんやりと光っている。
 かぼちゃの中身を掻きとり、皮の部分にテンプレの絵に合わせてナイフを入れて作成したのだ。
「へえ、いいね」
 樹はカボチャに触れて「おーあったかい」などと言って笑った。
 一方で牙竜は、
「カボチャは世につれ、世は酒につれ、か……」
 などと意味の通らないことを呟きつつワインを飲み続けている。顔色はそれほど変わっていないが、彼は完全に目が据わっていた。
 抱いてるランタンのみならず、セルマ自身も黒猫イメージで仮装していた。
 白いのはYシャツだけ、黒いベスト、黒いスラックスに黒のリボンタイをつけており、結び目に鈴をつけていた。超感覚を発動しているので、黒猫耳、黒猫しっぽも生えている。
 スマートでお洒落な黒猫少年というわけだ。
「おー! みんなやってるな」
 そこにまた、一匹猫があらわれた。セルマらと同じテーブルにつく。
 今度の猫はコスプレというよりは着ぐるみだ。大きな猫頭のおかげで三頭身、ゆるキャラちっくな姿となっている。白一色で首には鈴、右目のみ蒼色、左目は黒という構成、顔は笑っているはずなのになんだか薄ら怖い。
「某地域の全国区有名ゆるキャラを目指してみたが、あれこれ事情があってそっくりとはいかなかった。しかしせっかくだ、『如月のよいにゃんこ』と呼ぶことを許す」
 というのは如月 正悟(きさらぎ・しょうご)の声だった。猫頭をすっぽり被っており顔は出ていないにもかかわらず、どうやっているのか正悟は、器用にワインをガンガン飲んでいる。
「着ぐるみは暑いはずなのに、心は寒い……酒でごまかすっきゃねー」
「おい、あまりハイピッチで呑むと……」
 牙竜がたしなめようとしたのだが逆効果となった。
「って、なに、田中てめぇ! 今度は姉御といちゃついているのか!」
 と、突如頓狂な声を上げ、どしんどしんと地団駄踏んで正悟は一同を睨め回したのである。
「田中貴様……モテない感の前でイチャイチャしやがって! くっそ、モテない俺に対する嫌がらせか? セルマと一緒に倒れてしまえー!
「え? 呼んだ?」
 樹と話し込んでいたセルマは正悟の叫びを半分以上聞いておらず、首をかしげただけだった。
「見るがいい……この嫉妬に狂った我が従者たちを!」
 銃を握って正悟はこれを前後に振った。
 この動作が合図だった。
 するとみるみる、四人のテーブルの下から異形の存在が這い出したのだ。
 それはゴム。
 一メートル四方はあろうかというゴム。生ゴム。
 四角形で風呂敷のような形状である。これらが、
「リアジュウシネー!」
 一斉に声を上げてセルマ、牙竜、樹を目がけ飛びかかった。
「って何だこのゴム人間!」
 ランタンをかき抱くとセルマは踵を返し猛ダッシュだ。
「このランタンだけは絶対死守する!」
 牙竜の反応も迅い。
「あれはゴム人間……あの悪夢再びかよ!?」
 彼は酒に酔った人間特有のあの真顔で、ひょいと樹を横抱きにした。
 要するにお姫様抱っこだ。
「取りあえず逃げるぞ。林田!」
 言いながら思いっきり樹の胸……露骨な言い方をすると横チチに触れてしまうが真剣な表情を崩さず駆け出す。
 いい迷惑なのは樹である。
「『リアジュウ何とか』って! ゴムの親玉め、またか! ていうか、どこ触ってんだカサハリ!
 どちらかというと正悟より牙竜に怒ってその頭部をバンバンと手で叩くが、牙竜はまったく動じず目線も正面から動かさず、ただタッタッタと走るのだ。
 そんなセルマ、牙竜をゴムゴム怪物が追いかけていく。例の「リアジュウシネー!」を主張しながら。
 さらにそれをおいかけて正悟が走る。例の着ぐるみのまま走る。
「目の前の敵を倒す、それが第一歩ダー!」
 誰が敵なんだよ! とランタンを抱きしめつつ抗議するセルマの声など、如月のよいにゃんこはさっぱり聞いていないのだった。