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なし

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【秋のスペシャル】はーろーーーうぃーーーーーーーんっっ!!

リアクション公開中!

【秋のスペシャル】はーろーーーうぃーーーーーーーんっっ!!
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リアクション


●Treat or .....?

 大きな月が、幽鬼のように青白い光を照射している。
 光源はほぼこれだけだ。
 パーティ会場の外れともなると中央のにぎわいは遠くなり、光も暖かみもやはり異国のように遠い。
 なんとも薄暗く、しんと冷え、つい駆け足になりがちな一帯だった。

 この場所を独り、多比良 幽那(たひら・ゆうな)が歩いていた。
 仮装は、十二星華・蛇遣い座のシャムシエル。
 特徴的な長い髪を、尾のように振りつつぽつりぽつり徘徊している。
「さすがに会場から離れすぎましたか……。戻ったほうがいいかもしれませんね」
 と、幽那が呟いたとき、
「ととと、とりっくおあとりーとぉ!」
 出し抜けに彼女の背後の茂みから人間大の怪物が飛び出してきた。
 怪物は月日を浴びて銀色に輝き、もふもふとした全身の毛を逆立てていた。
 威嚇するにはやや控えめすぎるポーズだが、とりあえず襲いかかるような姿勢で唸っている。
 どうやら狼男、いや、狼娘……らしい。
 らしい、と表現が控えめなのは、高峰 結和(たかみね・ゆうわ)の仮装が本気のウェアウルフというよりは、あどけないコスプレの域を出ていないからだ。
 しかも、怖がらせるために飛び出て来たくせに、なんだかその本人がびくびくしている。
「あっあのあの……」
 もふもふの狼娘結和は、震える指でシャムシエル幽那の足元を指さした。
「そちらの方々は……?」
 幽那の足元にはひょっこり、五体のジャック・オ・ランタンが出現していた。実をいうと最初からいたのだが、小ぶりなので結和は見落としていたのだ。
 いずれも幽那のお供でアルラウネたち、くり抜いたカボチャマスクを被って仮装しているのだ。
 その一体、名をヴィスカシアは、偉そうにジャック・オ・ランタンの仮装をし、
 リリシウムは、ジャック・オ・ランタンの仮装はすれど、なぜか幽那につっかかっている。
 ディルフィナは、ぽやぽや〜とジャック・オ・ランタンの仮装で踊り、
 ナルキススは、無表情でジャック・オ・ランタンの仮装で突っ立っていた。
 最後にラディアータは、クールにジャック・オ・ランタンの仮装をしているのである。
「怖がらなくていいよ。ハロウィンといえばカボチャ! カボチャといえば私よね!! ということで、カボチャ軍団を結成していたの。せっかくだしお菓子の交換をしない?」
 幽那は笑顔で言った。
 するとジャック・オ・ランタンたちが、手に手にお菓子を持ってちょこちょこと近づいて来た。
 よく見ると、あまり怖くない。むしろ、
「アルラウネ……可愛いですね……」
 結和もいくらか緊張を解いていた。すると、その言葉に幽那は喜び、
「本当? じゃあ、サービスしちゃう!」
 今夜だけよ、と言い添えて、アルラウネをさらに召喚したのである。ポンと一気に倍にした。新参のアルラウネもちゃんとカボチャマスクを被り、踊ったり笑ったりと忙しい。
「わあ……」
 結和は嬉しくなって、それでもおずおずとお菓子の入った籠を取り出した。
「い、いかがですか? 変な味はしないと思うんですけど……!」
 ところがこれが、危険な予感がひしひしとするシロモノであった。
 サイケデリックな変な色であったり、もくもく煙が出ていたりする。
 結和の『イタズラ』とは、こんなお菓子を食べさせることである。念のため申し述べておくと、毒は入っておらずきちんと美味らしい。
 しかし幽那も肝が据わっている。怖がったりせずふふっと笑って、
「じゃあひとつもらおうかな?」
 とバスケットをのぞいた。

 さて、そんなこんなで幽那と結和が盛り上がっているその背後から、二体のモンスターが迫りつつあった。
 一体はゾンビ、それも、天使が腐ったようなゾンビだ。四枚の羽を持つがそのいずれも朽ちており、腐ったり穴が開いたり、翔ぶはおろか羽ばたくのも難しそうだ。
 無論、腐食は翼にとどまらない。
 皮膚は斑状に黒くただれ、服も腐ったボロ布であり、衣類と呼ぶははばかれよう。
 干物のようになった髪は半分近くがざっくりと抜け落ち、片方の眼球は顔面からはみ出て垂れ下がっていた。
 半開きの口からは赤黒い粘液が、ぽとぽととしたたり落ちている。落ちるそばから液体は、嫌な匂いの煙を発して蒸発していた。
 そして全身あまつところなく、腐肉喰らいの小さな昆虫が這い回っているのだ。
 かくて屍天使は虚ろな目で、なぜか片腕だけ真っ直ぐに伸ばした状態で片足を引きずって歩いた――幽那の背を目指して。
(「ハロウィン……祭りなんですから徹底的に驚かせて恐怖を植えつけないとですね。こういう祭りは楽しんだもの勝ちです……遙遠は遙遠なりに楽しませて頂きますよ……」)
 腐っていない側の目を薄く開いて、緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は歯の抜けた口を奇妙に歪めた。
 なんとこのゾンビ、すべて遙遠の仮装なのだ。特殊なマスクを被り半日以上かけて作成した特殊造形、たとえ遊びでも遙遠は手を抜かない。
 もう一体の怪物も紹介しよう。
 魔神バルバトス――に酷似した姿だ。
 酷い猫背でひたひたと歩んでくる。
 姿形こそ美しけれど、その目には発狂した者特有の血走った光がギラギラと宿っていた。
 手にはガンランス、その切っ先は針のように鋭く、しかも、べったりと赤い血で濡れている。
 ひくひくと、こめかみを痙攣させながら彼女は歩む。口の端からもよだれが糸のように零れているではないか。
 彼女は常にブツブツとなにか呟いていた。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロ……」
 壊れた機械のように、ずっと彼女はそれを繰り返していた。
 こちらは秋葉 つかさ(あきば・つかさ)の仮装だ。
 つかさ本来の姿ではない。少なくとも、服装は。
 しかしこの目つき、口調……これは…………本当に演技なのだろうか?
 誰かがストップといえば止まるのだろうか。終わりと言えば、にこやかに笑っておしまいとなるだろうか?
 彼女は唐突に舌なめずりした。
(「お菓子をくれても悪戯するに決まっています、あははっ、串刺しがいいですか? 撃たれるのがいいですか?」)
 そんなつかさの意を本能的に感じたか、
「……へ、へくしょんっ」
 悪寒がして結和はくしゃみをした。
 まるでそれを合図とするかのように、
「あははははっ!」
 ぶぅんとガンランスを振り上げ、つかさは結和の背に襲いかかった……。