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開幕 取材! 奇人博士!

 ラウル・オリヴィエ博士は、この数日の間に初めての体験をした。それも二つも、である。一つはドラゴニュート因子を搭載したゴーレムの鋳造。そして、もう一つはカメラを向けられインタビューを受けると言う体験である。
「……それで私に何が聞きたいのかな?」
 自分を見つめるカメラに好奇心を覚えつつ、博士は口を開いた。 
「まずは貴方にお会い出来た事に、無上の喜びと感謝を」
 博士の向かいに腰を落ち着け、ミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)は自信に満ちた笑みを浮かべた。
「我がシャンバラ教導団でも、博士の研究には並々ならぬ関心を注いでいましてな。かの高名なオリヴィエ博士と知り合えたのも、何か神懸かり的な巡り合わせの結果。つきましては、博士の研究されているゴーレム、並びに貴重石について、幾つかお話を伺いたいのですよ」
 大げさに賞賛するゲルデラー博士の隣では、パートナーの吸血鬼、アマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)がカメラを回していた。画像の操作と解析を専攻しているだけあって、その手つきは手慣れた物である。そして、その隣りでもカメラを回している人間がいる。パラ実在籍の棚畑亞狗理(たなはた・あぐり)。そしてその相棒の守護天使、バウエル・トオル(ばうえる・とおる)である。実際にカメラを回しているのはトオルで、亞狗理は偉そうに台本を読んでいるだけだが。
「……聞いたかい、ヨシュア君? 僕も随分有名になったものだよねぇ」
「……はあ」
 博士の後ろで、助手のヨシュア・マーブリングはいささか困惑していた。
「それではインタビューを始めましょう」
 ゲルデラー博士は傍らに立つ二人に目配せした。
 昴コウジ(すばる・こうじ)と相方の機晶姫のライラプス・オライオン(らいらぷす・おらいおん)である。博士からの情報収集のついでに、同じ教導団のよしみもあり、インタビューの進行役を手伝っているのだった。
「まず貴重石についてお尋ねするであります。博士が存在を主張する貴重石でありますが、それがあの遺跡に存在する根拠は何でありますか? また、貴重石の特徴、他の鉱石と判別する方法も教えて欲しいであります」
「……あれですよ。超霊的な直感に基づいて、あの遺跡に存在を確信しているんですよ」
「超霊的な直感……で、ありますか?」
 それを世間様では『勘』と言うのだが、博士はその呼び方をひどく嫌っていた。
「それと判別法法ですが、それはまあ、オーラが違うので誰にでもわかるはずです」
「オーラでありますか……?」
「さすがは博士ですな。我ら一般人とは感覚の研ぎすまされ方が違う」
 怪訝な表情を見せるコウジとは対照的に、ゲルデラー博士は必要以上に驚いてみせた。ただまあ、みせた、だけであって、彼が本心から驚いているかは定かではない。
「では……、次の質問に移るであります。ドラゴーレム試作一号についてお尋ねするであります。搭載されている武装、制御方法、またその弱点について教えて欲しいであります」
「よくぞ聞いてくれましたね。あのゴーレムは現段階の私の集大成と言えるものです。武装と呼べる物は搭載していませんが……、まあ、採掘用ですからね。ドラゴニュート因子から得たドラゴンアーツのスキルを発動する事が可能です。これにより、採掘作業時間が従来の三十パーセントほど削減……」
「……それで、どうやって制御しとるんかいのう」
 長くなりそうなお喋りに苛立った亞狗理が口を開いた。
「え、ええ。そうですね。ゴーレム背部にある操縦席から、手動で操作する事が可能です。また操縦席のスイッチで自律モードと操縦モードへの切り替えも可能です。それと、ああ……、弱点でしたっけ? しいて言えば、制御回路に電子部品を使っているので、電気の類いには弱いかもしれませんねぇ」
「……あの、博士」
 ライラプスこと、ライラが口を開いた。
「ゴーレムが暴走状態に落ち入っている場合、破壊許可は頂けるのでしょうか?」
「私のゴーレムを壊す気なのですか?」
 博士は眉を寄せたが、すかさず助手が睨みつけた。
「え、ええと……、壊れてるなら、まあ……、しょうがないかな……、なんて」
 貴重石、ドラゴーレムに関する情報は得た。貴重石については疑問が残り、そして博士の人格についても疑問が出てきたが、それはとりあえず置いておこう。ドラゴーレムに関する情報は探索のポイントになるかもしれんな。
 そんな事を思いながら、ゲルデラー博士は次の質問に移る事にした。
「ところで、博士。貴方が貴重石回収を依頼した人間はどのような人物なのですかな?」
 当然出てくるであろう質問に、博士はきょとんと目を丸くした。
「普通の青年でしたよ」
 そう。残念ながら、博士は自分の研究以外に興味はないのである。
「緊急時の取り決め等はなかったでありますか?」
 半ば呆れた顔で、コウジは尋ねた。
「だって、緊急事態が起こるなんて夢にも思ってませんでしたからね」
「現に起こってるじゃないですか……!」
 助手は危険な目つきで博士を睨みつけたが、それは当然の行為である。
「これでインタビューは終わりですが……」
「なんでしょう、ゲルデラー博士?」
「ものは相談なのですが、博士。私どもに同行される気はないですかな?」
「はい?」
「我々のような凡人には貴重石の判別は難しく思えます。博士にも同行頂き、貴重石にまつわる諸々のご教授を賜われるとありがたい。でなければ、博士の素晴らしい発明品をお貸し願えませんかな。博士のお力添えがあれば、今回の探索任務もすべからく順調に進む事でしょう」
 だが、ゲルデラー博士のほめ殺し……、もとい説得は通用しなかった。
「危険ですから」
 彼の機晶石よりも硬いモノグサな意思は砕けなかった。
「残念ながら、使えそうな作品もパラ実崩壊の際に紛失してますし……。ああ、そうだ」
 そう言うと、博士は机の下から、木箱に入った爆薬を取り出した。
「採掘用の爆薬です。バイト君に渡し忘れてまして、これで良かったら使ってください」
「ふむ……。まあ、折角ですから使わせて頂きます……」
 不満はあったがゲルデラー博士は表には出さなかった。出したのはこの男である。
「こんな爆薬ごときで面倒を丸投げとはのう……」
 ドスの聞いた声で、亞狗理は吐き捨てるように言った。
「のう、博士さん。そんな都合のいい理屈が通ると思ってるんかいのう……!」
「いけませんよ、亞狗理。博士さんに向かってそんな……」
 トオルはたしなめるように言ったが、その様子は状況を楽しんでるようにも見えた。
「パラ実崩壊前は随分、楽しい実験に明け暮れてたようじゃのう。貴様の実験に関する資料が、オレ様が押さえさせてもらったけえ。まあ、無理にとは言わんが、オレ様の金と名声がかかったこの映像企画『棚畑亞狗理・探検隊』に協力したほうが、身のためだと思うんじゃがのう?」
「差し当たって、照明機材、音響機材、その他替えテープ等を頂けると助かります」
 そう言って、トオルは不気味に優しい笑みを浮かべた。
 だが、博士の反応は亞狗理の想像を上回っていた。
「……逆に聞きますけど、君が誰かにそんな風に言われたら、どうします?」
「そんなもん、決まってるけえ。そんな真似する奴は、死ぬほど後悔させて……」
「つまり、そういう事です。脅迫に屈するようでは、パラ実では生きていけませんからねぇ」
 亞狗理は悲しげな目でトオルを見た。
「ほんに、パラ実にはロクな奴がおらんのう……」
「我が身を省みる大切さがわかる言葉ですね」
 カメラに集中したまま、アマーリエはぼそりと呟いた。
「まあ、そう言うな。なあ、亞狗理君とやら」
 ゲルデラー博士は亞狗理に目を向けた。
「教導団で放送する番組を作るのが、私の今回の目的だ。だが、私とパートナーだけでは撮れる絵にも限りがある。そこで提案なのだが、必要な機材は使って構わない、ここは協力して撮影を行わないかね。互いに利益になる話だと思うが……、どうですかな?」
 ゲルデラー博士の誘いはとても魅力的だった。
「だがのう、それじゃオレ様が貴様の下につくみたいじゃけえ。気に食わん」
「何か誤解されていますな。これはそう……、業務提携と考えてもらえませんかな」
「業務提携……。なんだか賢そうな響きじゃのう」
亞狗理は満足そうに微笑んだ。
「気に入った。その話乗ったるけえ」
「……なんだかわかりませんが、話はまとまったようですね」
 博士はポンと手を叩いた。
「ではそろそろ、私のゴーレム理論について語らせて……」
「いえ。結構です」
 博士が言い終える前に、アマーリエはカメラの停止ボタンを押していた。