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ちょっと危険な捕物劇

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ちょっと危険な捕物劇

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第1章・協力者達


 他校の生徒達からも、カフェテリア『宿り樹に果実』のお姉さんとして慕われる、ミリア・フォレストのペットが逃げ出したという話は、すぐに広まり、捜索を手伝いたいという申し出が次々に寄せられた。ロレッカ・アンリエンス(ろれっか・あんりえんす)もその内の一人だった。
「これがキィちゃんお気に入りのパラミタヒツジのぬいぐるみなのでありますね。それでは、お借りするであります!」
 ミリアからぬいぐるみを受け取ったロレッカは、そのもふっとした感触に思わず頬を緩める。
「わぁ…もっふもふでありま…はうー」
「お世話かけるわね〜。キィちゃんの事、お願いするわ〜」
 心配そうなミリアに、ロレッカはそばかすが愛らしい笑顔と敬礼で応えた。
「お任せ下さいであります! ぬいぐるみは死守します。自分の命に代えても!」
 言うが早いか店を出たロレッカは、小型飛空艇に乗り込み、イルミンスールの森へと向かう。
「ぬいぐるみより、命を大事にね〜」
 ミリアは少し不安になりながら、手を振ってロレッカを見送った。

 ひと息ついたミリアの前に、可愛らしい花束が差し出される。顔を上げると、スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)が穏やかな微笑みをミリアに向けていた。
「キィちゃんの事、き…伺いました。この花が、少しでもミリアさんの慰めになればいいんだが…いや、いいのですが」
 使い慣れていないせいで、丁寧語が少々ぎこちない。ミリアは、そんな事など気にせず、スレヴィの緑色の瞳の奥にある気遣いに柔らかな笑みを見せ、快く花束を受け取った。
「心配だろうけど、俺や仲間も力になる…なりますから」
「ありがとう〜。とても心強いわ〜」
「それじゃ、キィちゃんについて少し教えてもらってもいいですか?」
 ミリアが頷くと、スレヴィは質問を始め、やがてキィちゃんについての情報を手に入れる事が出来た。
 彼女は、大体の飼い主がそうするように、キィちゃんに家族のような愛情を持って接していた。小高い丘へ向かった理由に心当たりはないが、今朝、キィちゃんが珍しく本棚や道具箱にイタズラをしたので叱ってしまったらしい。最近、店が忙しくあまり構ってあげられなかったのが原因ですねているのではないかと彼女は考えていた。そして、キィちゃんを捜す手掛かりとして、首に空色の首輪がついている事を教えて貰った。
「寂しかったのかしら〜。もっと遊んであげればよかったわ〜」と、思い悩むミリアに、スレヴィは自信たっぷりに断言した。
「大丈夫、絶対に見つけてやるよ」
 その言葉に、ミリアの顔の少しだけ明るくなる。勿論、スレヴィの言葉に根拠はない。しかし、森で待機している仲間達がきっと真実にしてくれると信じているからこその嘘だった。

 乳白金の髪が印象的なガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)と、そのパートナーで端正な顔立ちの機晶姫、シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)は、最近始めた運送屋のバイトを終え、カフェで休憩していた時に事件を知った。
「ウィッカー、どうしたんですか?」
 先ほどから落ち着かない様子のシルヴェスターに、ガートルードが声をかける。
「わしも、協力したいんじゃがなぁ…」
「わかりました。行きましょう」
 迷っているシルヴェスターを尻目に、ガートルードは席を立って会計を済ませ、キィちゃんが抜け出したと言われている丘へ続く道に来た。そこは思ったより狭く、バイトで使っているトラックでは行けそうもない。
「ガートルード、ええんか?」
 慌てて彼女の後を追って来たシルヴェスターがガートルードに尋ねる。
「ウィッカーがやりたい事に協力するのは当然です。私はウィッカーのパートナーですから」
 ガートルードの揺るぎない言葉に、シルヴェスターはぐっと拳に力を入れる。
「……親分、わしゃぁ一生あんたについていくんじゃ!」
 より絆を深めた2人は一路、森へと歩いて行った。

 スレヴィは、仲間の筑摩 彩(ちくま・いろどり)の向かいの席に戻り、森にいるウィルネストに携帯電話で情報を伝えた。
「……ああ、空色の首輪だ。頼んだぞ」
 レースやフリルがあしらわれた制服姿の彩は、もこもことした生地で、一心に服を縫っている。さすがは蒼空学園手芸部なだけあって見事な手つきだ。傍らにはすでに2着のもこもこが積まれており、彩の額には汗が光っていた。
 彩は、玉結びを作りパチンと糸を切ると、スレヴィににこりと微笑んだ。
「出来たよ!」
 頼まれていた3着のパラミタヒツジの着ぐるみをまとめてスレヴィに渡し、彩はテーブルに突っ伏した。
「はぁ〜、疲れた〜!」
 さすがの彩でも、短時間でこの量を作るのは、相当な負担だったのだろう。
「お疲れさん! 後は任せろ!」
 ぐったりしている彩の頭をそっと撫でると、ショートウェーブの髪がわずかに揺れ、彩が右手の親指を立ててウィンクをして見せた。
 スレヴィは彩の作品を大事に抱えて店を出ると、愛馬に跨り、仲間の元へ向かった。

 そしてまた1組、ミリアに話を聞こうとやってきた者達がいた。譲葉 大和(ゆずりは・やまと)と、そのパートナーのラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)だ。
「ミリアさん、この事件、どうも腑に落ちません」
 大人びた端正な顔を引き締め、そう切り出した大和に、ミリアは首をかしげる。
「キメラとキィちゃんは本当に同一のものなのでしょうか。俺には何かもっと大きな事件に思えてならないんです!」
 力説する大和にミリアは、「はぁ〜」と曖昧に頷いた。
「という事で、まずはキィちゃんの外見的特徴を教えて下さい」
「そうね〜、キィちゃんの顔はライオンに似てて〜」
「ふむふむ」
「でも体はヤギのようで〜」
「ほうほう」
「尻尾はヘビなのよ〜」
「なるほど。それじゃまるで、……キメラじゃないですかっ!」
「最初からそう言ってます〜」
「そんな馬鹿な! キィちゃんはお風呂に入れるくらい小さいんでしょう!?」興奮した大和が、ミリアの両腕を掴んでぐっと近付いた。
「きゃ〜。キィちゃんは2メートルくらいありますよ〜。お風呂に入れると私まで濡れてしまうので〜、一緒に入ってるんです〜。うちのお風呂は大きいので〜」
「いや、しかし!」
 尚もミリアに迫る大和の後頭部に、ラキシスのホーリーメイスが振り下ろされる。ごぃんっと、とても素敵な音がした。
「大和ちゃんたら、ミリアちゃんを怖がらせてどうするの!」
 ラキシスは床に伸びる大和にそう言うと、ミリアにぺこりと頭を下げた。
「うちの変態がごめんなさいっ!」
「ありがとう〜、助かったわ〜」と、ミリアは礼を言いながら、カウンターごしに大和の様子を伺った。
「大丈夫かしら〜」
「俺は大丈夫です!」
 ミリアの言葉に勢いよく復活した大和が、怯えるミリアの手を握り締める。
「それで質問の続きですが、とりあえず好みの男性のタイプとスリーサイズから……」
 大和の後ろでは、ラキシスがホーリーメイスを振り上げていた。
 結局、店の周辺で行った聞き込みでも、2人が満足するような情報は得られなかった。