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【2019修学旅行】ジェイダスのお買い物

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【2019修学旅行】ジェイダスのお買い物
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 日の沈んだ古都の一角に、先程までそこを照らしていた夕陽の如く赤い絨毯が敷き詰められていた。
 ざわざわと集まる薔薇の学舎の生徒達と、その手伝いに立ち寄った他学校の生徒達。その一人一人に、薔薇の学舎校長であるジェイダスよりあんみつが贈られていた。あんみつ屋さんでの大食い大会を行った生徒達は苦笑を浮かべながらそれを手にしており、反対にあんみつを待ち望んでいた生徒達は早くもスプーンを差し込み始めている。
「さて、視界は私、あーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)が努めさせて頂きます」
 ジェイダス達が立ち去ろうとしていた寸前であんみつ屋さんへ駆け込んだ筐子は、課題の話を聞くとその品評役を申し出た。彼女の姿を覆うロボットのような形をした段ボールにはなんでも鑑定団の某氏とブリキの玩具が描かれており、即席の品評席に腰を下ろしてあんみつを楽しみながら、彼女は言葉を続ける。
「まずは、赤くて丸いもの! あっこらそこの人、ボーリングのボールを振り被らない! トマトとさくらんぼは大分京都から離れちゃってるんじゃないかなー。かぶら漬け、惜しい! 他にも様々な赤くて丸いものが並んでいますが、ジェイダス校長、どうぞ!」
 やや辛口にコメントを添える筐子に促され、ジェイダスは立ち上がって生徒達を見回した。
「ご苦労だった。お前たちの美しい努力の結果に判定を下すのは忍びないが、課題の正解を発表しよう」
 その間に生徒達の間を縫って、アイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)がお茶を配り歩く。感謝の声に対して「おもてなしは、日本の心どすえ」と冗談めかした言葉を返し、彼女はごった返す生徒の海をお茶を片手に渡っていく。
「赤くて丸いものの正解は、梅干しだ。まずは一つクリア、か」
 その言葉に、わっと生徒達から歓声が湧く。梅干しを買った生徒へと感謝の言葉が飛び、次なる発表に備え息を呑む。
「次は、色とりどりで口の中に入れておくと溶けてしまうもの、でござるな」
 筐子の前の机に乗ったお椀の中で目玉おやじに扮した一瞬 防師(いっしゅん・ぼうし)が声を上げ、その姿を見付けられない生徒達の視線が泳ぐ。
「このグミは余りにかけ離れているでござるなあ。校長、判定をお願いしたく」
「この正解は、金平糖だ。……京あめも間違ってはいない」
 穏やかな面持ちで発された正解に、再び生徒達が歓声を上げる。続く八橋の発表にも同様に即席の会場が湧き上がり、最高潮のままに最難関と思われる課題へと至った。
「……貴様らは、ジェイダスを何だと思っている?」
 どこか意気消沈した様子のラドゥが次々と運び込まれる着物を睥睨し、呆れ返った声音で零す。彼とは裏腹に興味津々と言った様子で着物を眺めていたジェイダスは、ふとシースルー着物に目を留める。
「これはなかなか美しいな。ラドゥ、今夜着て眠ると良い」
「な、何を言っている!?」
 声を裏返らせたラドゥにちらほらと笑声が上がり、その全てを鋭く睨みつけて、ラドゥは僅かに上気した頬の熱を逃がすように深く吐息を零した。続けて、ジェイダスの視線が一点で止まる。
「大・BENか。なるほど、良く考えたものだな」
「……何だ、それは?」
 怪訝と眉を寄せたラドゥに、ジェイダスは悪戯な笑みを浮かべて答えた。
「ビッグ・ベンと読む。今度着てみると良い」
「…………」
 どこか含みのある様子に眉を顰めながらもそれ以上は何も言わず、ラドゥは視線を逸らした。再び着物の一つ一つを丹念に眺めていたジェイダスは、ふと不審な一点で目を留める。
「……? 君は……」
 特製の着物を着つけてもらったは良いものの、下手に脱げば立ちどころに裂けてしまうであろうことが判明した珠輝が、着物に並んで立っていた。
「ふふ、校長、私の愛とセンスはいかがでしょう?」
 しかし怯んだ様子も無く、むしろ恍惚と両腕を広げて見せた珠輝を暫し眺め、非難するようなラドゥの視線も気に留めず、ジェイダスは重々しく頷いて見せた。
「うむ、合格だ。これで課題はすべてクリアだな」
 ぽかんと理解の追いつかない面持ちでその会話を聞いていた生徒達が、一瞬遅れて最大の歓声を上げた。無事に睡眠時間、もしくは恋人と二人きりの時間を確保できた彼らの表情は、晴れ晴れとしていた。
「ジェイダス! な、何をやっている!?」
 スプーンに掬ったあんみつを珠輝へと差し出すジェイダスに、ラドゥは叫ぶような声を上げた。目を見開いた彼の視線を受け止めたジェイダスは、からかうように言葉を返す。
「美しい勝者に協力したに過ぎない」
 その言葉に激昂したラドゥは、ぐいっとジェイダスの腕を引く。平然としたジェイダスはスプーンを自分の口元へ戻し、乗せられた餡をぱくりと咥え込んだ。
「やはり日本の甘味は美しいな。さて、宿へ向かおうか」
 宿は既にイニチエリたちによって確保されていた。つまり夜を徹して観光に勤しむつもりなど、端からジェイダスには無かったのだ。それに気付いた生徒達から不満の声と、同様に自由時間を満喫した嘆息が漏れるのを満足げに耳に入れ、ジェイダスはラドゥを伴って緩やかに歩き出す。
「……おや?」
 うっとりと目を閉じて近付くスプーンを今か今かと待ち受けていた珠輝は、長すぎる焦らし時間の後に、ようやく瞼を押し上げた。開けた視界には、間近に寄せられたリアの双眸が映る。
「いつまでやっている! ほら、さっさと行くぞ」
「私のあんみつは……」
「ポポガが持っている。早く行かないと、食べられてしまうかもな」
 その言葉が言い終えられるよりも早く駆け出した珠輝の、大きく裂けた背中のタイツ部分に溜息を漏らすと、リアもまた彼らの後を追って早足に歩き始めた。

 夜の帳の落とされた古都の景観を眺めながら、薔薇の学舎の生徒達は、疲れた体を休めるため宿へ向かって歩き続けた。澄んだ月光が、見守るように彼らの足元を照らしていた。

担当マスターより

▼担当マスター

ハルト

▼マスターコメント

お久し振りです、薔薇学の修学旅行を担当させて頂きましたハルトです。この度はシナリオへの御参加をありがとうございました。
そしてまずはリアクションの遅延、大変申し訳御座いませんでした。執筆期間中の貴重な休日に体調を崩し、大幅に執筆のペースが遅れてしまったため、このように大幅な遅刻をしてしまう結果となりました。参加者様方には大変なご迷惑をお掛け致しまして、重々申し訳御座いませんでした。今後このような事が無いよう、体調とスケジュールの管理には一層気を配っていきたいと思います。
課題に対する皆さんの真面目なものからネタに走ったものまで様々に個性的なアクションや、仲睦まじい観光など、とても楽しく執筆させて頂きました。特に着物のバリエーションの豊富さは、楽しみながら拝見させて頂きました。薔薇の学舎の修学旅行を、皆さんにも少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

では、またお会いする機会がございましたら宜しくお願い致します。ここまでお読み下さり、ありがとうございました!