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展覧会の絵 『彼女と猫の四季』(第1回/全2回)

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展覧会の絵 『彼女と猫の四季』(第1回/全2回)

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第四章 お昼休みには読書を

 イルミンスール魔法学校大図書室。
「あのう」
 小さな声に、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は読んでいた資料から顔を上げた。
「あなたも四枚目をお探しなのですか?」
 ザカコはキョロキョロとあたりを見回してみたが、付近には誰もいない。
「自分ですか?」
「はあい」
 マネット・エェル( ・ )だった。
「『彼女と猫の四季』の話ですよね?」
「はあい」
 ザカコはポリポリと頬をかいた。
「四枚目を探すというか……自分としては別段、四枚目があってもなくてもよいのですが……ただやはり『四季』なのに『三家』はどうしても不自然ですから……もし『彼女と猫の四季』が三枚なら三枚であることの理由が知りたい、と。そういうことです」
「そちらの資料には書かれていないのですか?」
 マネットは、ザカコの手元を差して見せた。
「んー、決め手に欠けますねぇ。どうにも……絵に関しての話題は見つかるのですが……『名画だ』『クズだ』『「彼女」はどこだ?』『お前の目は節穴か』『「猫」などいないじゃないか!?』……エトセトラエトセトラ……感想すら一致しません……。四枚目云々の前に、噂だけの代物で、本当に見たことのある人などいないんじゃないでしょうか」
 ザカコは深い息をついた。
「いえ、四枚目は存在するのです」
「まぁ、まだ調べていない資料もありますからね……にしても、自信たっぷりですね」
「わたくしのますたぁがそうおっしゃいましたから」
「信頼しているんですね」
「そうです、あなた」
 マネットは何かをひらめいたように手を打った。
「まだ四枚目を探すのですよね」
「まぁ……資料にはあたりますが……」
「では、いい方法があるのです」

「で、九鳥はいつまでこうやってればいいわけ?」
 カンバスをガリガリと削りながら、九鳥・メモワール(ことり・めもわぁる)が呟いた。
 贋作を削り落とし、その下に隠れてる絵を暴き出す。
 九鳥がペインティングナイフを振るう度、絵の具がこそげ落とされ、その下から新しい絵が現れてくる。
「四枚目が出てくるまでかしら」
 図書室から持ち出してきた資料のページをめくる手は休めず、九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )が答える。
「他に誰かいないの? 疲れちゃった」
「さっき実行委員から感謝もされたし、いいじゃないの」
 九鳥は、先ほど「おおっ! こんな絵が隠れていたんですね! これでまた一つ展覧会が盛り上がりますっ! ありがとう!」と、嬉しそうに絵を受け取った実行委員を思い出した。
「おかげで図書室からはつまみ出されたけどね」
 九鳥が首を巡らす。
 情報収集にマネットだけを残して、二人は美術室に避難してきているのだった。
「あれは図書室で絵なんか削りだしたあんたが悪いわ――それにしても贋作って多いのねえ。それだけ沢山出てくると色々信じられなくなりそう」
「そんなことより、四枚目ってのはホントにあるんでしょうね?」
 九鳥の視線をまっすぐに受け止め、九弓は読んでいた本を指で叩く。
「そうね――あのおかしな噂の数々は、聞いた人の興味を引いて、四枚目を探させるための仕掛けって仮説はどう? 流したのは四枚目を探し求める誰かで、その隠された『四枚目』はそういう贋作の下に隠れているの」
「なるほど。悪くないわね。じゃあ、絵を探しているのは画家の亡霊ってとこ?」
「遠くないかも」
「本気で言ってるの?」
 その時、九弓の携帯が鳴った。
「はい――ああマネット。そう……え? まぁいいのじゃないかしら。九鳥が喜ぶわ」
 携帯を切る。
「なんだって?」
「資料調べは芳しくないみたい。ああ、でも助っ人見つけたそうよ」
「助っ人? それは助かる」
 そこで会話を切って、九弓は講堂のある方向をにらんだ。
「こうなってくると……噂の怪盗が現れてくれた方が話が早いかもしれないわね」