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リアクション
◆ 特殊講堂 2 ◆
山本 夜麻(やまもと・やま)は、特殊講堂の座敷部屋に一番乗りすると、カメラのセッティングをしていた。
前回、何故動画で撮っておかなかったのだろう……
座布団大乱舞! オカルト的にもネタ的にもすごくいい画だったのに!!
夜麻は、それをずっと後悔していた。
「だから今回はビデオカメラ持ってきたんだ〜。なる話が本当に起こる瞬間を、ばっちり記録しちゃうよ〜♪」
思いが勝手に口をついて出る。
「……なる話? あんなのウソに決まってんだろ」
「え?」
パートナーのヤマ・ダータロン(やま・だーたろん)が呆れ眼で夜麻を見つめる。
「友達死んでんのに語尾に☆付けて話さねーよ普通。もしそれが本当なら、友達が枕元に殴りこみに来ちまうぜ?」
「そ……そっか。そうだよね……でもでも! カメラはずっと回しておくよ。なる話が本当にならなくても、変な声とか不気味な影とか、何かが撮れるかもしれないし。──霊が撮れたら編集してネットに流すんだ〜。「おわかり頂けただろうか」とか「〜とでもいうのだろうか」ってナレーション入れるの」
「壮大な夢だな」
「あの手の話って、一度も本当になったことなんて無い……それは十分わかってる! 僕の所には現れないもしれないけど、これだけいれば一人くらい襲われる可能性があるかもしれないじゃない?」
「なるほどね。まあ万が一本当になったとしても、俺は大丈夫だろ。カバだし。ヤマモトはどうするんだ?」
「僕? 僕は襲われそうになったら……『僕じゃなくてあの人が犯人です!』って誰かに適当に押し付けるよ」
「……お、俺には押し付けるなよ?」
夜麻は否定とも肯定ともつかない笑みをヤマに向けた。
「…………」
「でも、出るまで暇だよね〜」
その時。
襖がするりと開いた。
「──…っと、先客か」
カメラを持ったベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)とパートナーのマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)が、驚いた顔をして立っていた。
夜麻の持っているビデオカメラを見て、にやりとする。
「動画ね。自分はこれだけど──」
ベアは自分のカメラを軽く持ち上げた。
ナルハナシ事件を写真にしてアルバムに納める事を名目でやって来たが、それは建前。
(百合園女学園の美少女が怖がってる写真を撮ってやる!)
怖がってる顔・驚く顔を写真に納めて──蒼学の連中に売りつけて一儲けだぜ!
男性には聖域と言われるほどの百合園女学園……公認で参加できる…
なんて──
なんて夢のような出来事!!
「私もはりきってベアのお手伝いするよっ、珍しくベアがまともな意見を出してきたからね! 『事件を写真にして納める』! ……いつもは馬鹿っぽい行動しかしないのに」
「馬鹿っぽいとはなんだ、馬鹿っぽいとは」
「まぁまぁ。今回は、問題なく協力するからさっ」
「あ……あぁ…」
マナの嘘の無い笑顔に、ほんの……ほんの少しだけ、罪悪感が芽生えたベアだった。
「霊がいるなんて面白いよね! これにかこつけていろんな人驚かせて楽しんじゃうもんね〜!」
クラーク 波音(くらーく・はのん)は、顔をほころばせた。
「んふふ〜百合園に霊が出るって噂を聞いちゃったら、行って脅かして遊ばないわけにはいかないよね〜♪」
「ララも波音おねぇちゃんと一緒にみんなを脅かすんだよ〜!」
パートナーのララ・シュピリ(らら・しゅぴり)が明るい声を出した。
「よぉし! ララはね、脅かしの最終兵器だからね」
「最終兵器?」
「そう! じゃんじゃん驚かせるよ〜…っていうか、霊なんて面白いもの退治しちゃったらもったいない!」
「最終兵器……かっこいい……」
ララは噛み締めるように呟いた。
「脅かし方は『隠れておいて突然現れてびっくりさせる』のが効果よさそうだよね〜」
「かっこいい……」
パートナーのララにも手伝ってもらうし、皆どういう風に驚いてくれるか楽しみだな♪
波音は口元を抑えて笑いを堪えた。
「──…どうやらあの人達も、怖がってる連中を驚かそうとしているみたい」
挙動不審気味の波音とララを見て、如月 玲奈(きさらぎ・れいな)は推測する。
怪談夜話会に参加した人達から『なる話』の内容を聞いたのが数時間前──
「私達は今聞いたから今日は関係ないし、ちょっと探険してくるね!」と、言い残してパートナーのジャック・フォース(じゃっく・ふぉーす)と一緒に部屋を出た。
『へぇ……つまり今日がその日になるのか。今日、次元が繋がる──確か、他の霊の影響も受けるって聞いた事があるな』
去り際に残したジャックの台詞が、その場にいた人達の空気を凍らせたせたのは言うまでもない。
もちろん嘘プー。
ジャックは心の中で舌を出していた。
そして今。
あの怖い話を話を聞いてしまった臆病な連中が、寄り添って固まって傷を舐めあうという、面白そうな事をすると聞いて百合園女学院にやって来た。
絶好のちゃ〜〜〜〜んす☆
脅かしてやる!
こんな機会は滅多に無いから、がんばるぞっ!
「…………」
前を歩く4人の後姿。
オペラグラスを首からぶら下げた崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は、こっそり後に続く。
お化けの類は怖くないし『なる話』を信じてるわけでもない。
今回は怖がる女の子(or男の子。可愛ければよし)の高見の見物をさせてもらおうと思っていた。
そのための、オペラグラス。
(怪談話如きに踊らされている連中を、高いところから見物してやりますわ。周りの皆が怪談話に恐れおののく様を堪能します)
「あの4人……どうやら脅かしてやろうとしているみたいですね……」
亜璃珠は顎に手を当て、しばらく考え込むような仕草をみせた。
「……とりあえず、特殊講堂内の見晴らしのよさげな所から様子を眺める事にしますわ。あの4人に注意しながらね。きっと何かを起こすはずだから……」
皆が集まってくる時間まで、あともう少し。
「さてと、どこに待機しようかしら?」
冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は、辺りの様子を伺っていた。
手が届く範囲で、私なりに出来る事をしなければ。
日が傾きつつある今、早々と特殊講堂に入っていく面々の姿が見える。
(幽霊騒ぎ……これに乗じて驚かす人達がきっといるでしょうから、私が代わって鉄槌を下しましょう)
怖がっている人を更に怖がらせるなんて、いけないことです。
私がなんとかしなければ!
小夜子の殺気を感じて、ルイス・マーティン(るいす・まーてぃん)とパートナーのサクラ・フォースター(さくら・ふぉーすたー)が声をかけてきた。
「もしかして、警備…ですか?」
「……は、い」
突然話しかけられ、少し訝しそうに小夜子は答えた。
答え終わってからハッと気付く。
もしかして、私を足止めしようと──?
「あぁ、良かった! 僕達もです! 解決方法が分かるまで皆を守り抜こうと思いまして」
「お互いの死角を消す形で見回りをするつもりでした。何かあったら対応できるように剣はしっかり準備しています」
サクラがルイスの顔を見て、力強く頷く。
「ピアスの話が丸ごと虚偽であるケースも考えられますが……実際に死人が出ているのが事実であれば、同じ事が起こる可能性も否定出来なくはない。慎重に動くべきでしょう。全て空振りに終わるならそれも僥倖です」
「そうですね……」
どうやら嘘をついているわけではないと判断でき、小夜子の表情が和らいだ。
「私もそう思います!」
「実力行使を余儀なくされる場面では、ルイスと連携して戦います。ルイスが壁、私が攻撃です」
「どうですか? 君も一緒に」
「分かりました──共に戦いましょう。でもあなた達は幽霊など……その、怖くはないのですか?」
「そうですね。余り…怖くはありません。私自身が幽霊みたいなものですから」
サクラが苦笑しながら言った。
「…悪戯は……まあ、ある程度の悪ノリは多目に見ます。それぐらいの方が気が紛れるかもしれない」
ルイスは、ふっと小さな溜息をついた。
「忌々しい事に僕は騎士なのです。生徒の身を守るのも……義務の内ですから」
言い終わると、ルイスが真っ直ぐに前を向いた。
「行きましょう」
三人は講堂へと向かって歩き出した。
特殊講堂から少し離れた場所で、桐生 円(きりゅう・まどか)と、パートナーで円のマスターでもあるオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)、そしてもう一人のパートナーミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)の三人が、うんこ座りをしながら顔を突き合わせていた。
「じゃあ、夜に決行ねぇ〜」
「でも本当に重かったです、マスター」
「自分なんて、空京で盗んだカメラを運んできたのよぉ〜テレビ局にありそうな重厚なやつ〜」
「ミネルバちゃんも頑張ったよ! なんかの賞とったらおいしいもの食べれるんだよね?」
意味不明な会話を繰り広げられている。
三人の側には、何故か巨大なカメラと、そして、不気味な着ぐるみ。
「さぁ、それじゃあそろそろ準備してもらいましょうかねぇ〜」
オリヴィアは立ち上がって、不適な笑みを浮かべた。
「カメラを回して特撮とるのよぉ〜。オリヴィアは監督様なんですからぁ〜」
「おいしいもの〜おいしいもの〜♪」
ミネルバは小躍りしながら、地球外生物の着ぐるみに手をかけた。
大人ですら泣いてしまいそうな程の、恐ろしい姿形……
「でも、幽霊の方は良いんですか? マスター」
「……プラズマに構っている場合じゃないのぉ〜。存在を認めるつもりは一切ありません〜」
幽霊が苦手なオリヴィアは、幽霊=プラズマと言い張っている。
なる話によって身を守ろうとしている人達が集まる特殊講堂の近くで、3人は一体何をやろうと言うのか……
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