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リアクション
●悪巧みは華だぜぇ! ……お、お前が噂の魔法しょ――
「ヒャッハァ〜! このままご褒美はいただきだぜぇ〜!」
土埃を巻き上げながら、派手な装飾の施されたバイクを駆る南 鮪、その背には彼が『ご褒美』として受け取った……もとい、拉致したエリザベートが種モミ袋の中に入れられていた。
「へっへっへぇ〜、後で存分に可愛がってやるからよぉ〜……うおっとお!?」
快調に逃走を続けていたバイクの後輪が、後方から飛来してきた物体に撃ち抜かれバーストを起こす。転倒しながらもエリザベートだけは傷つけるまいと護り抜くところは流石といったところだろうか。
「ネコババする者がいまいかと監視していたが……まさか、イルミンスールの校長を拉致する者が現れようとはな。サイモン、容疑者の確保に向かってくれ」
バイクを撃ち抜いた比島 真紀(ひしま・まき)が、構えていた銃を下ろしてサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)に呼びかける。
「分かった。……反省しないようなら、この一撃をお見舞いしてやるぜ」
頷いてサイモンが飛び立つ直前、二人の背後から声がかかる。
「おっと、行かせるわけにはいかないな」
「!
突然這い寄ってきた気配へ、振り向いた真紀が銃を構える。
「随分と大層なお出迎えだな。俺は見ての通り、ただの通りすがりの覗き魔さ」
自らをそう呼称した弥涼 総司(いすず・そうじ)が、林檎を齧りながら物怖じすることなく二人に歩み寄る。
「……何故に、自分たちの邪魔をする?」
「なあに、ちょいと気になる噂を聞いたんでな。『あまり悪巧みが過ぎると、『あの子』が『お仕置き』にやってくる』、とな」
「! ……貴様、まさか!?」
真紀の問いに、総司がほくそ笑んで答える。
「あいつをのさばらせておけば、そのうち『あの子』ってのが現れて『お仕置き』をしてくれるだろう。その前にお二方に止められちゃあ、面白くないんだよ」
「貴様、個人の娯楽だけで、そのようなことを!」
激昂した真紀が銃を発射するが、弾丸が到着する先に総司の姿はなかった。
「真紀、上だ!」
サイモンの声に見上げた真紀を、総司の振るった剣が襲う。辛うじて銃で受け止めるが、攻撃の手段は完全に封じられてしまった。
「オレは、やりたいと思ったことをやるだけだ。そいつを邪魔されるのはひどく気に入らないんでな!」
総司が剣を振り上げ、刀身に電撃を纏わせて斬りかかる。斬撃は食い止めるが、電撃がもたらす衝撃で真紀は銃を取り落としてしまう。
「真紀! おまえ、勝手なこと言いやがって!」
前に出たサイモンの、重い一撃を受け止めることなく後方に跳んでかわし、総司が振りかぶった剣を地面に叩き付ける。そこから発生した爆炎が、真紀とサイモンを包み込む。
「くっ、このままではみすみす容疑者を見逃すことになってしまう」
焦燥の表情を浮かべた真紀が、炎上するバイクを捨てて逃走を続ける者を見遣って悔しげに呟く。しかしその直後、真紀の意思を汲み取ったかのように、逃走者を遮る新たな人影が現れた。
「紅い衣を身に纏い、全てを見通す神仏の加護の下。魔法少女えむぴぃサッチー、法の守護たる広目天に代わり、その不義に鉄槌を下します!」
「瑠璃色の瞳に写すは愚者の混沌、その度に私は銀の月を描こう。魔法少女アキ、秋の味覚は私が護る!」
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)と明野 亜紀(あけの・あき)が口上と共に決めポーズを取り、鮪の前に立ち塞がる。
「……えっと、姉様? どうしてこのようになったのでしょう」
「これも魔法少女としての務めよ! トヨミちゃんに魔法少女として認められるためにも、亜紀も魔法少女の務めを果たすのよ! ……それに、こうして亜紀と魔女っ娘シスターズ、楽しいじゃない?」
「トヨミちゃんって誰ですか……姉様、最後のが本音ですよね?」
「なぁにコソコソしてんだぁ〜!? どかねぇとぶち抜くぞコラァ!」
小声で何やら話している祥子と亜紀に対し、メンチを切った鮪が構えた銃から弾丸を乱射する。しかし弾丸は二人を撃ち抜くことなく飛び過ぎていく。
「悪事を曝け出す光、その身に受けなさい! 秘技、須弥山の曙!」
「うおっまぶしっ!」
飛び上がった祥子から放たれた強烈な光を受けて、鮪が視界を奪われ、手にしていた銃を取り落としてしまう。
「言っておくけどボクは、魔法なんて生易しい物は使わないぞ!」
ふらつく足取りの鮪へ、地上を飛ぶように駆けた亜紀の踏み込みからの一撃が襲い、吹き飛ばされた鮪が背負った種モミ袋を緩衝材にすることなく、近くの木に思い切り身体を打ちつける。自らの身より背中のエリザベートを大事にしている辺りは、もはやどこか憎めないキャラになりつつあるような気もする。
「ち、ちくしょう……このご褒美だけは誰にも渡さねぇぜぇ……」
気合で立ち上がった鮪が、再び駆け出そうとした矢先、眼前に複数の人影が立ちはだかる。
「……そうそう争い事は起きないと思っていたが……このような事態に巻き込まれてしまうとはな。……手伝うといった手前、見回りには付いてきたが……これ以上は関わらないからな」
「そうなんですか? クルードさんの変身した姿、期待してましたのに……」
「クルードはもう少しやる気を見せなさい。……まあいいわ、ユニ、変身するわよ」
「あ、はい、分かりました」
嘆息するクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)を置いて、ユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)とアメリア・レーヴァンテイン(あめりあ・れーう゛ぁんていん)が用意してきた制服に僅か一秒で着替え――着替えのプロセスはアニメ化の時に紹介します、お楽しみ下さい(ごめんなさい嘘です許して!)――、名乗りを上げる。
「この世に悪がいる限り、正義の心が煌き燃える! 陽光の輝き、【紅炎】のルビー!」
「煌く蒼は蒼天の輝き! 全てを照らす銀光の華嫁、【蒼天】のサファイア!」
「な、なんだぁてめえらぁ!? 紅炎だの蒼天だの、ワケわかんねぇんだよぉ!」
叫ぶ鮪に対して、アメリアとユニが返答代わりにそれぞれ一撃をお見舞いする。
「紅炎を受けなさい!」「撃ち抜け、蒼天!」
重なり合う二人の声、そしてアメリアの放った真紅に燃え盛る炎、ユニの放った蒼く煌く雷をその身に受けて、鮪がぷすぷすと音を立てて鮪焼き……もとい、黒焦げになって地面に伏す。
「燃やさないだけありがたいと思いなさい」「蒼天の煌き、味わいました?」
「お、俺は魚じゃねぇっつうの……」
息の合った決め台詞も、鮪にはもはや遠い世界のことにしか聞こえていなかった。それでも、鮪は種モミ袋から手を離さずにいるし、何より未だに無傷の種モミ袋は、奇跡にしか思えない。
「あぁーーーっ!? ファイ達…じゃなかった。ハッピー☆シスターズの出番と思って来てみたのに、もう事件が解決してるですー!?」
その場に、広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)が息を切らせて到着する。ファイリアの言うように、確かに鮪は未だに煙を上げているし、事件は解決に向かうかのように見えていた――。
「まだまだ……ここからがクライマックスだぜぇ!」
声が聞こえ、そして光が辺りを覆う。視線が集まる中、晴れた光の中に二つの人影が現れた。
「俺、参上ッ!」
木の上で、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)とナーシュ・フォレスター(なーしゅ・ふぉれすたー)がポーズを決める。
「蒼学生他の諸君ごきげんよう! 我らの名は【秘密結社雷と忍ぐ】!! 今日こそ、おまえらのパンチラを拝ませてもらうぜぇ!!」
「……あ〜、何だか向こうの方で爆発だの炎だの光だのが見えるぜ。あいつら派手にやってんのかなあ」
その頃、騒動で一時的に人気の消えた農園内で、井ノ中 ケロ右衛門(いのなか・けろえもん)が背中に籠を背負い、普段は刀を持つ手に今日は火バサミを持って、果実狩りに勤しんでいた。
「んもー、裏方なんてダルくてやってられないですよー」
「あっち、派手……あっちのがミーツェさんやりたかったですー」
ケロ右衛門と一緒に行動していたシルヴィット・ソレスター(しるう゛ぃっと・それすたー)とミーツェ・ヴァイトリング(みーつぇ・う゛ぁいとりんぐ)が、ぶつぶつと文句を言いつつもさりげなく果実を、既に収獲されていた籠から自分の籠へと移す。
「いいですねー、果物がいっぱいでおいしそーなにおいですよー。……ほいほいっと、ナシ三個ゲットですよー」
「ナシはまだひとつも取れていないのでー、分けて欲しいですー」
「ほらほら、まだまだあるからじゃんじゃんいただいちゃおー」
シルヴィットとミーツェが、籠に収められていた梨を次々と自分たちのものにしていく。
「……なんだかんだで楽しんでんじゃねーかおまえ達。しゃーねー、失敬するだけってのも流石に悪い気がすっから、収獲だけしておいてやっか。元々収獲のために来たんだし、ミリアっつう女の手伝いをするのも悪かねぇ」
「がんばってねー、シルヴィはここで休んでますよー」
「あむ……ナシおいしいですー」
シルヴィットとミーツェがすっかりやる気を失ってのほほんとしている中、独りケロ右衛門が収獲に奮闘していた。
「何よ、あなた達。いきなり出てきたかと思えば、何て下らない事を――」
「年増に用はないでござる! ウィルネスト殿は「年増のしわしわパンツなんて見たくねーぜ!」と言っているでござる!」
「……何だと?」
ナーシュの言葉に、ウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)の冷静な表情にぴしっ、とヒビが入る。ちなみにその背後では祥子と亜紀が「蒼学生他って失礼にも程があるわ」「まあまあ姉様、この状況では仕方ないですよ」と呟いていた。
「おいナーシュ、俺はんなこと言ってねーぞ。むしろ年上の方が好みだ」
「そうでござったか? 注意を引くには効果的と思ったので言ってみたでござるが――」
言いかけたナーシュの身体すれすれを、鋭い電光が奔り、ナーシュが悲鳴をあげる。
「……少し、頭冷やそうか。ボクのことを年増といった報いは、きっちり受けてもらうよ?」
いつの間にか黒のミニスカな格好に着替え、黒のとんがり帽子を被った『ハッピー☆ウィッチ』ウィノナの、見る者を竦ませるプレッシャーを放つ表情が覗く。
「あわわわわー、ウィノナちゃんが本気ですー。よーし、ファイも頑張るのですよー! ウィルヘルミーナちゃん、行くですよー!」
「えっと、戦い、なんですよね? ……分かりました、ボク、行きます!」
ファイリアがフリルがたくさんついた緑色のメイド服を纏い、『ハッピー☆メイド』としてのポーズを決め、続いてウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(うぃるへるみーな・あいばんほー)が胸当てと手甲、ミニスカートをふわりとなびかせ『ハッピー☆ナイト』としてのポーズを決める。
「役者は揃ったようだな……んじゃ、行くぜぇ!」
不敵な笑みを浮かべたウィルネストが、事前に回収したと思しき栗のイガを種にした炎を見舞い、その中身だった栗はナーシュの火術によってあちこちにばら撒かれる。
「何だか面白いことになってるね。止められなくてここまで付いて来ちゃったけど、これはこれでよかったかもね」
「……何暢気なこと言ってるんですか、ミレイユ……」
楽しげな表情のミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)を、飛んでくるイガや栗、その他諸々の攻撃から護りながらシェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)がため息をつく。
「これで、魔女っ娘がお仕置きに来るかな? ワタシ魔女っ娘って見たことないから、見てみたいな」
「……だとしても、これは流石にやり過ぎですよ。ここらで止めた方がいいんじゃないでしょうか?」
ウィルネストの監視という名目でミレイユに同行していた志位 大地(しい・だいち)が声をあげる。
「……いえ、その必要はないようですよ」
シェイドの声に大地が振り向くと、ウィルネストとナーシュが至極あっけなく木から引きずりおろされ、祥子と亜紀の二人の魔法少女、ユニとアメリア、ファイリア、ウィノナとウィルヘルミーナの五人の美少女戦士達に周りを取り囲まれ、フルボッコにされていた。
(弱っ! あれだけ大見得切ったのに、あっけなくやられてますよウィルさん!?)
呆然とする大地の眼前で、数の暴力……もとい、正義の鉄槌が下されていた。
「よくもその他って言ってくれたわね? 後、亜紀とのゆりんゆりんな時間を台無しにしてくれたわね?」
「あのー姉様、何だか物凄い怨念というかプレッシャーを感じるんですけど、気のせいですよね?」
容赦なく攻撃を下す祥子に、亜紀が冷や汗を浮かべつつ二人を蹴り続ける。
「たとえ悪戯でも、他人を欺くこと許しません!」
「いっそ燃やしてあげた方がいいのかしらね?」
「悪事を働こうとした悪党さんは、成敗ですっ!」
「これに懲りたら、もう二度とこんなことはしないで下さいね? でないと、また叩きのめしますよ?」
ユニとアメリア、ファイリアとウィルヘルミーナの脚が、地面に転がされたウィルネストとナーシュを踏みつける。
「アウチ、ちょ、髪踏むの反則でござるっ! 逃げるつもりはないでござるが、逃げられないでござる!」
「アイタタタ! 蹴るな! いやごめんなさい蹴らないで! ……お、スカートからパンツが……よし、もっと蹴れ、蹴るんだ!」
「何、パンツですと!? ……おお、これは確かに――」
金に光る髪を踏まれて悲鳴をあげるナーシュも、そしてボコボコにされながらも果敢にパンツを瞳に焼き付けるウィルネスト、残念ながら彼女たちは『ぱんつ』を履いていないようである。
「……あなたの記憶から存在まで抹消してあげるわ!!」
ウィルネストとナーシュの態度を見知った女性陣一行の思いを代表するかのように、ウィノナの電撃を纏った一撃が二人に炸裂し、放物線を描いてミレイユとシェイド、大地の傍に着弾する。ぷすぷすと煙を立てる二人からは、もはや一つの言葉も聞こえてこない。
(……女性を怒らせると、とんでもないことになるのだけは理解できました)
そんなことを思いつつ、大地が完全に気を失ったウィルネストを担ぎ上げる。
「……まあ、これで少しは懲りるでしょう。ウィルさんは俺が責任を持って連れ帰ります。……後で、エリザベート校長にも叱ってもらわないとですね」
「じゃあワタシたちは、あの金髪のお兄さんかな? 結局魔女っ娘来なかったね、残念だな」
「ミレイユ、まだそんなことを――」
ミレイユにため息をついたシェイドの言葉を遮って、背後から鋭い声が飛んでくる。
「アイツだ、アイツを追ってくれ! アイツが持ってる袋の中には、イルミンスールの校長が拉致されてるんだ!」
衝撃の事実に皆が振り向くと、いつの間にか復活した鮪が、種モミ袋を抱えて逃走を再開していた。
「へっへぇ〜、俺のことを忘れるとは気にいらねぇが、今はラッキーだぜぇ! あばよぉ〜」
まさに悪者と言わんばかりの言葉を残して、鮪が駆け出していく。そのどこにそんな体力があるんだと言わんばかりの逃走っぷりに、追う一行との距離は徐々に広がっていく。
「あそこまで行けば、もう追ってくるヤツはいないぜぇ〜――」
道が途切れ森に繋がっているのを見て、鮪が勝利を確信した笑みを浮かべた瞬間、それは起こった。
森の中から、馬が飛び出してくる。その背に、一つの人影を乗せて。
馬の背には十代前半と思しき少女が、片手で手綱を操り、もう片手には矛のような武器を携え、凛々しい表情を浮かべて鮪へ一直線に向かっていく。
「ま、まさか、お前が噂の、魔法しょ――」
「お仕置きですっ!」
呆然とする鮪へ、魔法少女と呼ばれた少女がすれ違い様に矛の一撃を見舞う。数倍に伸びた刃の一撃を受けて、鮪が遥か彼方の空へ吹き飛んでいく。
「ちくしょう覚えてろよぉ〜……」
声が近くから遠くなり、そして聞こえなくなっていく。その一方で、鮪の手を離れた種モミ袋は、反転した馬の背に乗った少女の突き出した矛に引っかかり、事なきを得る。
「悪巧みの予感がしたので来てみたのですが……まさかこのような場所でお会いするとは、これも運命というものでしょうか?」
馬から降りて呟く少女の眼前で、袋の縛り目が解け、中に入れられていたエリザベートが――。
「すぅ……すぅ……」
「……あの〜、もしかして、今までずっと眠っていたんですかぁ?」
「どうやらそのようだな。イルミンスールの校長は豪胆であると聞いていたが、まさに噂通りの人物のようだ」
「うぅ〜、本当ならここで助けられたエリザベートさんが、私に涙を流して感謝の言葉を言ってくれるはずだったんです〜」
「……どんな筋書きを考えていたんですか、おば上は」
「ウマヤド、おば上って呼ぶのダメ! 私はトヨミちゃん、魔法少女トヨミちゃんです!」
ふわりとスカートをなびかせ――もちろん中は見えない――、青年に矛を構える少女こそ、かつて斑鳩の地で出会いを果たし、最近パラミタにやってきた『推古天皇』の英霊、【終身名誉魔法少女】飛鳥 豊美(あすかの・とよみ)であった――。
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