天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

雪下の幻影少女 

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雪下の幻影少女 

リアクション

【8・その名を連ねて】

 元の姿に戻った環菜は、現在は食堂で鞠絵のしょうが湯を飲み温まっていた。
 他にもそれぞれバラバラに散っていた生徒達も、今はほとんど食堂に集まっている。雪だるまの完成を喜び合う、美央ほか雪だるま王国生徒達はまだ外だったが。
 すべての発端である幻影少女も、環菜の対面で居心地悪そうに座っていた。
「それでつまり、この人は……」
「そう。紛れも無く正体は幽霊よ。この学園に入学する直前に事故にあった子でね。それでどうしても蒼空学園に入りたくて、私をあちこちで探してたの」
 ルミーナの問いに答える環菜。少女の方も小さく頷いていた。
「加えて、あんな雪の巨人を操れるほどに魔法の才能も相当なものだったみたい。亡くなってもなお、その魔力のおかげで現世に留まれてるみたいだし。理屈はわからないけどね」
 淡々と語る環菜に、少女は急に怒った風でバンとテーブルを叩いた。
「そうよ! だからワタシは、例え幽霊でもこの学園の生徒になる資格があるの!」
「……だからって、いきなり入学させてくれないと巨人で学園を壊すなんて脅迫されればさすがに断らざるをえないわよ」
「だって、校長先生はそのぐらいしないと、言うこと聞いてくれないって皆噂してたから」
「失礼ね。べつにそんなことないわよ、ねぇ?」
 と、生徒達に目を向ける環菜だったが。全員が一斉に目を逸らせた。
「ご、ごほん……とにかく。あなたが行った今回の事件を鑑みても、そんな危険人物をわが校の生徒として認めるわけにはいかないわ」
「か、環菜さん! でも、この子はきっと本気でこの学園を壊そうとはしてなかったと思いますわよ? 本当にそのつもりだったなら、もっと効果的に巨人を暴れさせていた筈ですもの」
「だからって、今回の罪が軽くなるわけでもないわ」
「環菜さん……!」
「もういいんです、ルミーナさん」
 少女は立ち上がると、ぺこりと頭を下げ、
「ご迷惑を、おかけしました」
 そのまま、スゥ、と身体を透き通らせていく。
 それはまるで本当に幻であるかのように、儚く消えて――
「ちょっと待ちなさい」
 ――ようかというシーンを、環菜は容赦なく砕いて少女の手を掴んだ。
「まさかとは思うけど、このまま成仏しようとかいうつもりじゃないでしょうね?」
「え? だ、だって。ワタシは他に行くところもないですし……」
「冗談じゃないわ。アナタのおかげで、私がどんな目に遭ったと思ってるの? 校長室は勝手に荒らされるし、顔にシロップはかけられるし。何より、あの巨人の除雪作業に一体いくらかかると思ってるのかしら?」
「で、でもワタシ幽霊ですからお金なんて持ってないですし」
「だったら、ここで働きなさい。それまで成仏なんかさせないわ。神や仏が許そうと、この私が絶対許さないから。そのつもりでいなさい」
 その言葉が意味するところを知り、幻影少女は涙目になってこくりと頷くのだった。
 それにルミーナほか生徒達は一斉に沸き立った。
「はは、素直じゃないなあ。あ、そうそう。このあとカンナ校長全全快祝いにパーッと宴会でも……」
 そう提案しかける市井だったが。
「なに言ってるの? この後、全員で雪かき作業に取り掛かるに決まってるじゃないの」
 環菜の一言で、一気に静まる生徒達。
「私や蒼空学園の為に、頑張ってくれた皆だもの。もちろん、断るなんてしないわよね」
 にっこり、と悪魔の微笑みを浮かべる環菜に、異議を唱えられる人物は存在しなかった。
「ああ、そうそう。アイスは買っておいたでしょうね?」
     *
 数時間後。
 生徒達は本当に、巨人から落ちた腕や足の雪かきをさせられていた。
 もっとも巨大雪だるまだけは、見物料がとれそうだということで除雪対象からは外れていたが。
「まったく。結局お前は見物だけかよ。性格悪いったらないよな」
「性格悪く、無いですよ? 最善の処置しただけです。まあ、自分が動いても足手まといの可能性もありますしねえ……お疲れ様でしたね?」
 といったやりとりをするのはレイスと翡翠。
 翡翠は疲れるみんなに、叱咤激励飛ばしながら……形だけっぽく雪をかいていた。
「てか、あんたが雪を操ってくれればそれで済むんじゃないのか?」
 そしてレイスは、隣で自らの手で雪を運ぶ幻影少女に声をかける。
「ああ、それなんですけど。あの巨人を操るのに、相当な魔力を使ってしまって当分雪を操ることはできないみたいなんです」
 だからちゃんと自分の手で作業しましょう、と続けて、嬉しそうに働く少女であった。

 その様子を校長室から眺めるルミーナ。
「あてが外れました? あの子が力をしばらく使えなくて」
「え? べつに? またいつか力が戻る日も来るでしょ……戻らなかったとしても、どのみち働いて貰うことに代わりはないわ。学園の一員として……ね」
 そして校長室の氷やドライアイスを撤去し、書類を整理する環菜。
「ああ、そうそう。これお願いね」
 ルミーナは唐突に渡された蒼空学園名簿に、不思議そうに首を傾げたが。
 その中にちゃんとひとつの名前が追加修正されているのに気づき、クスリと笑みをこぼすのだった。

                                     おわり

担当マスターより

▼担当マスター

雪本 葉月

▼マスターコメント

 こんにちは。マスターの雪本葉月です。
 今回は、なんとも色々と予想外の展開となっていきました。
 アクションを受ける前、どういう流れになるか予想をいくつか立てていたのですが……それらを軽々と打ち破った大喧騒に発展していったのでビックリです。
 シナリオテーマは『友達』や『仲間』といったことだったのですが。やっぱり人が集まり、関わりあうと良くも悪くも凄い力になると改めて実感した回でした。