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恋は吹雪のように!?

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恋は吹雪のように!?

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第五章 恋は吹雪のように!?
 コタツムリレースが終盤に差し掛かったと言う放送は、ゴール地点付近に設置されたテントにて、昼食作りに腕を振るっていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)向山 綾乃(むこうやま・あやの)のおでん作り、および浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)アリシア・クリケット(ありしあ・くりけっと)永夜 雛菊(えいや・ひなぎく)達の豚汁とかやくご飯おにぎりの制作ピッチを大慌てにしていた。
 大型鍋に一杯のおでんを見たダリルが呟く。
「綾乃、おでんはこれでいいのだろう?」
「はい、味もばっちりです。だけど、昨晩から仕込んだじゃがいもが炊きすぎて崩れちゃってますね」
「いいさ、その分スープのコクが増えている。最も、おでんにじゃがいもというのは理解し難いものである」
「えー!? おいしいですよ? 私の家じゃ、他にもトマトなんかも入れましたよ。ダリルさん、味が心配ですか?」
 ダリルはチラリと大慌ての様子の翡翠達に目をやる。
「向こうに味で負けるのだけは許せないのだ、俺は」
綾乃は、そう言うダリルの青い瞳に炎が映っているのを見逃さなかった。

 翡翠は炊きあがったかやくご飯を手際よく三角形にむすび、ラップに包んでいく。彼の目の前にはおにぎりが山のように
積み上がっている。
「もう少しで私は終わりそう、そっちはどうです?」
 翡翠が見ると、雛菊がジャガイモ、人参、大根、ごぼう、しいたけ、こんにゃくや豚肉等を、次々と食べ易い大きさに切ってお鍋に放り込んでいく。
「剣の腕前だけは天才だもん。こっちは大丈夫。追加って言われた時は驚いたけど」
「仕方がないでしょ?予想以上の人数が参加したのですから。アリシアは?」
 鍋を火術で管理しているアリシアは、次々と雛菊から放り込まれる材料を恨めしそうな顔で見ている。
「大丈夫よ、翡翠君。野菜に芯が残らないよう、鋭意、努力中よ。ねー早くしてよ、ワタシ、お味噌をまだ入れられないよー」
「味噌なんて、最後にボチャンと入れたら終わりじゃん?」
「ダメ、仕上げはとても重要なのよ! お味噌入れたらもう沸騰させられないし」
フン、と火術の力を強めるアリシア。
 ワアアァァァッ! と生徒達の歓声が聞こえる。ダリルが呟く。
「さて、フィナーレだな」

 最終コーナーを、低速で抜けたコタツの集団がのっそりとゴールに向かう。
 
 ゴール前に実況席を構えたルカルカが叫ぶ。
「さぁ、最終コーナーを抜けてまいりました!現在、先頭は佐野選手、エース選手!! おぉーっと!? 一台猛烈に上がってきた!? 最終コーナーで最内のインをついた志方選手です!!」

「ドリフトォォォォ!!」
 優しそうな外見とはかけ離れた声を上げた志方がコーナーで虎鶫をはじき出す鬼神のごとき突っ込みを見せるも、すぐさま虎鶫はバーストダッシュを使い、直線で加速する。
「チィ、さすがに疲れたな。コタツで疲れると言うのも奇妙だが」
 そう言って額ににじむ汗をぬぐう虎鶫の背後に、ザカコが詰める。
「何事も為せば成るものです」
 虎鶫を抜き去るザカコ。
「なっ!? そうかっ!? バーストダッシュだけじゃないな」
 虎鶫を振り返るザカコ、クールに笑う。
「ご名答。アルティマ・トゥーレで氷の坂をコタツの底に作り、そこからバーストダッシュ+奈落の鉄鎖による重力加速を利用してスピードアップしているのです。そのための前方うつ伏せ乗りですよ」
 志方を追い抜かすザカコ、このまま一位まで行く! と、誰もが思った瞬間!!

――ドガシャアアァァーンッ!!
実況席からマイクを持ったまま思わず立ち上がるルカルカ。
「あーっっとおぉっ、ここでクラッシュが発生したぁ!!」
 仰向けになったザカコ、晴れた空を見ている。
「何が……起こったのです?」
 ザカコは目の前にヌゥッと現れるカルキノスに問いかける。
「ザカコの進路上に、エースが駐車……いや駐コタツしていたんだ」
 カルキノスが顎で示す方向を見ると、赤い一輪のバラを持ったまま、コタツと笑顔のままのエースがひっくり返っていた。
「大方、観客のうちの好みの女生徒に花を渡すつもりだったんだろう」
 
――ドガシャアアァァッ、ゴシャアァーンッ!!
 実況席のルカルカが悲鳴に近い声をあげる。
「ああーっっと、また、今度は多重クラッシュです!! 倒れているのは、クマラ選手、鈴虫選手そして猫塚選手です!!しかし、不幸中の幸いか、怪我はないようですね」 
 クラッシュ現場で、積み重なったコタツから這い出してくるクマラが、舌打ちする。
「うぅー、エースを意識しすぎたー。あ、カニ」
 駆け寄ってくるカルキノス。
「誰がカニだ」
「だってカニじゃん」
 その背後で、同じようにコタツから抜け出してくる鈴虫と猫塚が、互いに顔を見合わせている。
「あーあ、残念。コーナーで秘技・回転カーブが決まったのになぁ」
 残念がる鈴虫に猫塚が言う。
「何が秘技だ。コタツをあんなにグルグル回しやがって! 俺が弾き飛ばされるところだったぞ!!……ったく、折角仕掛けたトラップが無駄になっちまったじゃねえか」
 猫塚と鈴虫の背後で、観客の声が上がる。

「うわああぁぁ、ぼ、暴走だーっ!!」
「きゃああぁぁっ、こっちに来たああぁぁ」
 コタツを引く犬のジョンを必死で抑えようとするルース。
「ジョン! 戻れ、戻るんだ!!」
 観客の生徒達を押しのけるように突進する犬のジョン。
「朝ご飯をまだやっていなかったのが失敗だったあぁぁ!」
ジョンは悲鳴をあげるルースとコタツを引きずり、ダリル達が昼食を作るテントに突進していくのであった。

 これまでレース中のサポートをしていたミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)は、後をカルキノスに託し、観客席からレースを眺めていた。
「満夜……やはり最下位か。我輩がいないと何もできぬヤツだな」
 ミハエルの視線の先には、先頭集団から遅れて最終コーナーを回った朱宮の姿があった。
「まぁ、少々助けても最下位からトップになるなんてないだろう……」
 ミハエルはそっと目を閉じ、呪文を詠唱し始める。

 朱宮はコタツの中で氷術を使い、自身の進むコースを凍らせていたが、中々思ったようなスピードが出ず、「最下位は、嫌ぁー!!」と、泣き言を言っていた彼女は、いつの間にか一瞬でトップを走る佐野に並んでいた。
「あれ?」
 佐野も、朱宮を見てあんぐりと口を開けている。
 興奮のあまり、実況席の机の上に仁王立ちになったルカルカが叫ぶ。
「これこそ、本当のシャイニング・ウィザード!! 何が起こったのでしょう? 朱宮選手、いきなりトップ戦線に並びましたああぁぁっ!!」

 観客席のミハエルは頭を抱える。
「しまった、張り切りすぎたか……」
「そうだな。反則は初回は口頭注意だけだ、やめるなら今の内だ」
 ミハエルが振り向くとカルキノスがジト目で彼を見ている。
 ミハエル、肩を落とし、解除の呪文を唱える、と同時に失速していく朱宮。
「あれ、あれ?あれええぇぇえぇー」
 失速する朱宮を残し、佐野、虎鶫、志方の三名がゴールに向かって突き進む。
 実況、観客ともに熱気は最高潮に達している。凄まじい歓声が響く。
「佐野選手、わずかにリードか!? しかし、追い上げる虎鶫、志方の両選手! 届くか、届くかっ、逃げるかっ!?」
 ゴールテープを見て、最後の力を振り絞る選手達。
 佐野も、温存しておいた体力が底を尽きており、虎鶫と志方も既にスタミナ・魔力は限界値を突破していた。
 ゴールには、誰かに勧められたためだろうか、ゴールテープを持つフブキの姿が見える。

 「ツケマァァァァイ!!」
 輝くコタツを加速させた志方が佐野を抑えて、トップに立つ。
「SPリチャージ!? コタツにSPを注ぎ込んでいるのか!!」
 佐野、志方に進路を妨害され、前に出られない。
 虎鶫は最後のバーストダッシュに賭けていた。
「コタツでレース……普通なら絶対にかみ合わない組み合わせだな。だが、負けるのはゴメンだぜ!?」
「届くのか?……まぁ、やってみるか」
 ゴールを見つめる虎鶫、志方の目、そして佐野のサングラスに映るフブキの姿。
 実況席のルカが、血管を浮き上がらせるような声で叫ぶ。
「佐野選手が少し遅れたっ、志方選手と虎鶫選手が競り合う!! さぁ、第一回コタツムリレースの栄冠は、どっちだぁぁぁっ!?」

―……。
――……。
―――…………。

―ウオオオォォォオオーッッ!!!

 観客が総立ちになるゴール前。
 観客に向かって堂々と手をあげる選手がいる。
「勝ったのは虎鶫、虎鶫涼選手です……!!最後に、コタツから足を出し、二位の志方選手と足の差でしたぁぁぁっ!!」
 虎鶫がコタツから出て、観衆の割れんばかりの拍手喝采を浴びている。
 ゼェゼェと息を整える佐野のコタツに、志方頭を下げて入ってくる。
「何だよ……?」
「友情の抱擁です」
ニッコリと笑った志方が佐野に抱きつく。
「や、やめやがれ志方!! みんな見てるだろう!!」
 佐野が何気なく見たテントではパートナーの向山が、静かに青筋を立てて接客をこなしている。
 志方はその後も、虎鶫のコタツに入り、熱い抱擁をしていた。
 その抱擁は、トップ集団から遅れたメルティナと屍枕の二人乗りコタツがゴールするまで続いた。

 レースが終わった後、大勢の生徒達を前にレースの実行委員長であるルカルカによる表彰および閉会式が行われていた。
 閉会式を見ているフブキにブリッツが話しかける。
「よう、もう気は済んだか?」
 フブキは、少しバツの悪そうな顔を浮かべるブリッツに笑いかける。
「うん、ブリッツ、ありがとう。私を思いっきり泣かせるために、守ってくれて」

「ああ、いいよ。どっちにしろあんな男、お前には似あわなかったんだから」

 笑うブリッツにフブキが笑顔のまま固まる。
「待って。どうして私の彼を知ってるの?」

「いや、なんか頼りないヤツだったからさ、俺がビシッと一度ヤキ入れてやったんだ」

「あ・・・あの人が言った「僕には無理だ」って・・・そういう事かぁぁっ!!」

 絶叫するフブキ、猛烈な吹雪が吹き荒れる。ゴール付近に移転したイブと楠見の「火術かけます」の店に殺到する生徒達。

 ルカルカがパンパンと手を叩く。
「丁度いいわ、寒くなきゃおでんや豚汁がおいしくないもの。皆も昼食会へどう?」
 ルカルカの呼び掛けに雪だるま王国女王である赤羽が歩み出る。
「折角ですから、我々が作ったあの巨大雪だるまの中で宴会をしませんか?」
 赤羽が指差す巨大雪だるまのてっぺんにはブーメランパンツ一丁で凍りついたソルファインが飾りつけられてる。
 生徒達から沸き起こる拍手喝采。

 同じ頃、校長室でカンナをくいとめようと麻雀勝負をしかけた影野は、奇跡の逆転勝ちをおさめていた。
 安堵の表情を浮かべる影野の前では、「今度はこの蒼空学園の権利を丸ごと賭けるわ!」と絶叫するカンナを湯上が必死の形相でおさえていた。

 そして、巨大雪だるまのカマクラ内において、レース参加者のみならずクイーン・ヴァンガードまでもが参加し、いつまでも続きそうな盛り上がりを見せた宴会の最後は、ルカルカによる閉会の言葉が誠に簡潔にこう述べられた。
「皆お疲れっ。来年、第二回コタツムリレースで会いましょう☆」

 宴会後、上着を一枚脱いでいたカマクラの外へ向かう生徒達に、少し早めの春一番の風が心地よく吹いていた。

 尚、余談になるがコタツムリレース優勝を決めた虎鶫が愛用していたコタツは、噂を聞きつけた製造元が「優勝モデル」として売りに出そうとしたが、その頃には、みんなコタツを物置に閉まうところであったそうだ。
 そして、雪遊びの楽しさを説く「雪だるま王国」に、フブキとブリッツが準国民として入国し、翌日から徐々に溶けていく巨大雪だるまの保護に尽力したそうだが、それはまた、別のお話である。


担当マスターより

▼担当マスター

深池豪

▼マスターコメント

 はじめまして、深池豪と申します。
 初めてのリアクション執筆という事で、皆さんのアクションを楽しく拝見させて頂きました。
 その反動ゆえか、本編の執筆は随分悩み、あっちを立てればこっちが立たないという、産みの苦しみを存分に味わってしまいました。 
 特に、中盤の戦闘シーンやラストのコタツムリレースを、いかに緊迫感のある様に見せるのかという点には苦労しました。
 でも、私個人としては楽しくリアクションを書くことができたと思いますが、いかがだったでしょうか?
 皆さんにも少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

 今回の称号はレース優勝者を含め、一部の方のみに付けさせて頂きましたが、特に選定に思惑は無く、単にいいネーミングが浮かばなかったのです。ゴメンナサイ……。
 それでは、またお会いできる時を楽しみにしております。