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ホワイトデー…言葉に出来ない思いを伝えたい

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ホワイトデー…言葉に出来ない思いを伝えたい

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第2章 仕返し?いえ・・・善意のプレゼントです

「L・O・V・Eっと・・・・・・文字入りはこっちのペットボトルに入れて、と」
 風森 望(かぜもり・のぞみ)は1.5Lのペットボトルに、補充用の飴玉を入れて飴玉銃を改造する。
「あらあら・・・、カフェでのんびりしているようですね。フフフ・・・」
 標的のアーデルハイトを見つけ、望みはニヤッと不適な笑みを浮かべた。
「―・・・なっ何をするのじゃ!?」
 銃口を向けられた魔女は大声で言い、ガタンッと椅子から立ち上がる。
「待ったなし!お覚悟なさいませ、アーデルハイト様!」
「イヤじゃぁあ〜っ」
 アーデルハイトはぎゃあぎゃあと騒ぎ、カフェ内を全力で逃げ回る。
 ズダダダダァアッ。
 マシンガンから銃弾を放つように、ギラリと輝く銃口から飴玉を放つ。
 床やテーブルの上、そこら辺に飴玉が散らばっていく。
「どんなイベントなんだろ?」
「思い人に気持ちを伝えるためのイベントらしいですよ」
「ほぉ〜。どんな伝え方なんか・・・・・・な!?」
 カフェに足を踏み入れた瞬間、陣のこめかみに望が放つ流れ飴玉が貫通する。
「ふぎゃぁあ飴玉がぁあっ!」
 じたばたと暴れながらも、柱を支えに立ち上がろうとする。
 迫り来る飴玉をガードしようとファイアストームを放つが、溶けた飴がべちゃぁあっと陣の目についてしまう。
「みぎゃああ!!!目が〜!目がぁぁぁ!!!!」
 両目を手で押さえ、床の上をのたうちまわる。
「陣さん!?」
 間髪飴を避けた歌菜が、陣の方へ駆け寄る。
「か、歌菜ちゃん。大丈夫かっ」
「大丈夫です、それより陣さん・・・」
「(も、もしかしてオレのことを心配してくれているんか!?)」
「よかった。陣さんが買ったプレゼント、本当に無事でよかったです。陣さんも大丈夫そうですね」
「(ちょっ、お・・・オレのことはどうでもいいんかぁああぃいーーっ!?)」
 扱いの差に彼は心の中で悲しみの叫び声をあげた。
 被害者が出たことに気づかない望は、まだアーデルハイトを追いかけている。
「狙い撃つぜっ!と言いたくなるシチュエーションですね」
「ひゃわぁあっ」
 アーデルハイトに照準を合わせたシャープシューターが彼女の頭上を通過する。
「うぅ・・・おっかないのじゃあ。・・・ぬ?飴に文字が書いてあるのぅ!私宛なのか?」
 床に転がる飴を拾って文字を見る。
「こっちはL・・・、こっちのはO。これはV・・・あっ、これも文字が違うのじゃ。ふむ、Aと書いてあるのかのぅ?」
「それは私からの想いです」
「うーむ・・・ロベ?」
「ちっ違います!」
「分かっておる、冗談じゃ」
 笑いながら言う彼女に、望はムッとする。
「そんなベタな冗談を言ったところで逃がしませんっ」
「イヤじゃ、イヤじゃ〜!」
 テーブルをひっくり返し、アーデルハイトは望から逃げようと駆け回る。
 逃げる魔女を追いかけ、自業自得と言う言葉を、彼女の身に教え込もうとする。
「さぁ、追い詰めましたよ」
「んぎゃぁっ」
 飴を踏んでしまったアーデルハイトが、すてんと床の上へ転ぶ。
「はわわっ・・・」
「お覚悟はよろしいですか!?」
「なぁあんてのぅ♪」
 望が放つ迫りくる飴玉を、マントの裏に隠し持っていた圧力鍋の蓋でガードする。
 兆弾した飴が望の腕を掠める。
「こんなこともあろうかと、家庭科室からもってきたのじゃ!」
「私としたことが、迂闊でしたわ・・・」
「他校の生徒と言え、こちらから反撃して大怪我させるわけにもいかぬからのぅ。というわけで・・・逃げるが勝ちじゃあっ」
「あぁっ、しまった!」
 望がへこんでいる隙にその場から、アーデルハイトはぴゅぃ〜んっと走り去る。



「まさかこの私が狙われるとは、思ってもみなかったのじゃ・・・」
 望から逃げ切ったアーデルハイトは、校舎内の廊下をゆっくりと歩く。
「やっと見つけましたアーデルハイトちゃん」
 通路の角からヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)がひょっこりと現れる。
「百合園の生徒じゃな。何かようかのぅ」
「今日、何の日か知っていますよね?」
「おぉ〜っ。知っておる、知っておる。もしかして、私に何かくれるのかのぅ!?」
 普通のプレゼントをもらえると思ったアーデルハイトは目を輝かせた。
「はい、沢山用意してきましたよ」
「なんと!?おまえは良い子じゃのう〜♪もってきたそれを早く私に見せるのじゃっ」
「焦らなくても今、見せてあげます」
「何かのぅ〜。楽しみじゃ♪」
「ホワイトデーのプレゼントですー!」
 可愛らしい声音で言うヴァーナーからのプレゼントを見た瞬間、アーデルハイトの表情は喜びから一変し、顔を青ざめさせる。
 少女が持ってきた袋の中には、何と飴玉銃用の飴が入っているのだ。
 身の危機を察知したアーデルハイトは、すぐさまヴァーナーから離れて距離をとる。
「受け取ってくださいーっ」
 スガガガァアッ。
 銃のトリガーを引き、渡したい相手に向かって飴玉を放つ。
 “ス”と“キ”の文字書かれている2種類の飴玉が、魔女の身体の傍をギリギリ通過する。
「せっかく沢山用意したんですから、喜んでください〜」
「喜べるわけなかろぉおお〜!」
 圧力鍋の蓋でガードし、兆弾した玉がヴァーナーの腹を貫通する。
「きゃうっ!」
 ヴァーナーはバタンと廊下に倒れ、貫通した飴が床に転がる。
「これくらいでは倒れませ・・・ん・・・・・・はぅうっ!?」
 グレーターヒールで傷を治して立ち上がろうとした瞬間、秋日子が放つキルティスを狙った流れ飴玉が、塞いだ傷と同じ箇所と脳天を貫通してしまう。
「あちゃー。やっちゃったわ。ごめんねーっ」
 秋日子は飴玉銃を抱えたまま、廊下の奥の方から大声で謝る。
 階段から転げ落ち、床に転がっているキルティスを狙ったはずが照準がずれてしまい、ヴァーナーに命中してしまったのだ。
「流れ飴玉ゲット!」
 持ってきた空鍋で霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は、彼女の貫通した飴玉をキャッチする。
「うぁっ、血まみれじゃないですか」
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)はキャッチした飴玉を見て顔を顰める。
「食べものだから大丈夫」
「そうでしょうか」
「鉄分の味が気になるなら洗えばいいじゃん」
 透乃はへらっと笑い、気にしない様子で言う。
「起きないわね・・・大丈夫かしら。あっ動いた!」
 心配そうに秋日子が見ていると、ヴァーナーの手がピクリと動く。
 脳天を撃ちぬかれて意識が途切れる寸前に、服の袖から取り出して握った一角獣の角の放つ輝き、傷を癒した少女は戦闘不能状態から復活した。
 流れ出た血にまみれた顔をアーデルハイトに向けてニッコリと笑う。
「おっ、おかしいのじゃ!術で貫通した傷を癒したり・・・いくら戦闘不能を回復するアイテムだからといって、脳天を撃ち抜かれたりしたら終わりじゃぁあっ」
「こういう全体的がお笑い的に流れるやつは、死なないと相場が決まっているんですよ」
「だっ、誰がそのようなことを決めたのじゃっ」
「いいじゃないですか誰だって。それより、ボクの想いを込めた飴をもっと受け取ってください♪」
 ヴァーナーはずるりと両手で床を這いながら、アーデルハイトの腕を掴み、彼女の顔面に銃口を向けて撃つ。
「ひぎゃぁあ!!」
 ズギュゥウーン・・・。
 飴玉はアーデルハイトの帽子を貫通し、流れ飴玉が秋日子の身体に貫通した。
 魔女の方はとっさに顔を伏せたおかげで、なんとか避けることができたのだ。
「がはぁあ゛っ!?」
 蜂の巣状態にされた秋日子は口の中から鮮血を吐き出す。
「きゃぁあ、ごめんなさいーっ!」
「(死んでる・・・死んでるっ。お笑い的ノリなオチじゃなかったら・・・確実に死んでるーー!!)」
 ヴァーナーに術で傷口を塞いでもらいながら、秋日子は身体を痙攣させ、心の中でそう叫んだ。
「やったぁあ♪また流れ飴玉ゲット!」
 飴を確保しようと透乃は軽身功の体術で壁を走り、彼女の背後へ回って飴をゲットする。
「今ので20個くらいでしょうか」
 どれくらい取れたのか陽子は手にしている鍋を覗き込んで数を数える。
「それじゃあ改めて・・・」
「やっぱりまだ撃つんですね。・・・今度はしっかり狙ってくださいよ。―・・・はぐぁっ!」
 治療してもらった秋日子はよろめきながらも、立ち上がったキルティスに向かって飴玉銃を撃ち、さらに階段を転げ落ちる彼女を追って下の階へ降りていく。
「うぁあーんっ。さっきから誰もまともなプレゼントを、1つもくれないのじゃーっ!」
 1つもまともなプレゼントをもらえないアーデルハイトは、とうとう泣き始めてしまう。
「あわわっ、ごめんなさいです」
 泣き出してしまった魔女をそっと抱きしめたヴァーナーは、持ってきたアーデルハイトの形をしたバナナクリーム入りのタイ焼きを渡す。
「これ、私にくれるのかぅ?」
「はいっ、ボクからのプレゼントです♪」
「私そっくりのタイ焼きじゃ!どれ記念に写真を・・・うむ、バッチリ撮れたのじゃっ!味はどうかのぅ、もぐもぐ・・・美味いのぅ♪」
 受け取ったアーデルハイトは携帯で記念に写メを撮り、アーデルハイト人形型タイ焼きを美味しそうに食べる。
「あっ。エリザベートちゃん、こんにちわです」
 偶然通りがかったエリザベートを見つけたヴァーナーが挨拶をする。
「どうもこんにちわ〜」
「あの、よかったらこれ。食べてください」
「私にくれるんですかぁ〜?ありがとうございますぅ♪良かったらタイ焼きを持って3人で写メ撮りませんかぁ?」
「いいですね、撮りましょう!はい、かわいいポーズッ」
 ヴァーナーはエリザベートと、タイ焼きを食べているアーデルハイトと一緒に写メを撮った。



「イルミンスールの様子を見に来たんだけど。何だ・・・この騒ぎ・・・・・・」
 魔法学校へやってきた篠宮 悠(しのみや・ゆう)は校舎内の惨劇を見て唖然とする。
「今日ってバレンタインデーのお返しをする日だろ?」
 確認するように言い、パートナーたちの方へ顔を向ける。
「そうだヨ〜」
 彼の問いかけにヴェル・ド・ラ・カッツェ(う゛ぇる・どらかっつぇ)が頷く。
「ここのホワイトデーはめちゃくちゃ物騒だな・・・」
「かなり過激なアタックだネ!」
「普通にお返しすればいいのに・・・、これはいったいどういうことだ・・・!」
 悠は鮮血にまみれている“キ”と書かれた飴玉を1つ拾い上げ、飴を持っている手をぷるぷると震わせる。
「―・・・フ、フフフ・・・」
 それを見たミィル・フランベルド(みぃる・ふらんべるど)は顔を俯かせ、彼の傍で身を震わせる。
「どっ、どうした?ミィルもやっぱりこんなホワイトデー、ショックだったのか!?」
 ミィルが恐怖で震えているのかと思い、心配した悠はパートナーの顔を覗き込む。
「流石大物魔女の考えるコトは違うわ!」
 ぱっと顔上げたミィルは喜びに満ちた声音で言う。
 恐怖からではなく、歓喜のあまり震えていたのだ。
「想う相手に飴玉ぶつけて回ればいいのね!」
 床に転がっている飴玉を拾い、ミィルはそれを高らかに持ち上げた。
「そうと分かれば、この飴も拾って・・・」
 廊下に散らばっている飴玉を掴み、すでに持ってきた飴が入っている袋の中に入れる。
「魔女はどこ?どこにいるの!?」
 ミィルは大声で言いながら走っていく。
「乙女たちよ、朕に向かって撃つといいネッ」
 爽やかに微笑み、ヴェルも校舎内を駆けていってしまう。
「あ〜、行っちまったか」
 パートナーが2人とも走り去ってしまい、悠はどうしたらいいもんかとため息をつく。
「しゃぁーない。ミィルとヴェルの気が済むまで、その辺に隠れておくか。おっ、あれなんかちょうどいいな」
 周囲をキョロキョロと見回すと、空っぽのダンボールを見つける。
「念のためにこう書いておこう」
 “起こすな危険”とダンボールに書く。
「この辺りでいいか。それじゃあ、少し昼寝でも・・・・・・スヤスヤ・・・」
 教室の窓際の隅っこに行き、ダンボールの中へ隠れた。



 エリザベートの校長室の前に来た明日香は手に持っている飴玉銃を構えようとしたが、大切な相手にそれを向けるのかと矛盾した行動に苛まれる。
 でもせっかく飴に文字を書いたのだから見てもらおうと、ドアをノックするが返事は返ってこない。
「あれ、いないんでしょうかぁ?」
 そっとドアを開けて中を覗くと、いるはずのエリザベートが姿はない。
「(とりあえず、机の上に置いてきましょう)」
 飴玉を入れた銃を机に置き、手ぶらで会うことも出来ないと、簡単に作れるクッキーでも焼きにいこうと校長室から出た。
「―・・・明日香さん、忘れたんでしょうか?」
 明日香が置き忘れたのかと思ったノルニルは、飴玉銃を抱えて彼女の後を追った。
 一方、家庭科室についた明日香はそのことにまったく気づかず、クッキーを焼いている。
「いい焼き具合ですね。後10秒・・・出来ましたぁ!」
 ミトンを両手につけ、オーブンから天板を取り出す。
 焼きあがったクッキーを、明日香は可愛らしくラッピングする。
 彼女はクッキーとティーポット、カップをカバンに入れる。
「あっ、お皿を忘れるところでした!」
 取り皿用に小皿もカバンに入れた。
「エリザベートちゃんだ!」
 教室の傍の廊下を歩くエリザベートを見つけた明日香は急いで駆け寄る。
「あら明日香さん、今日はどうしたんですかぁ?」
「その・・・、バレンタインデーのお返しにプレゼントを作ったんです」
「そうなんですかぁ〜。でもちょっと今、お返しにあげるものがないですけどぉ」
 バレンタインデーの日に、彼女たちは互いに交換しているが、エリザベートの方は何も持っていなかった。
「いいんですよー、気を使わなくても。これ、私からのプレゼントです!」
 明日香はエリザベートに焼きたてのクッキーを渡した。
「美味しそうですねぇ〜」
「今、食べますか〜?」
「えぇ、食べてみたいですぅ♪」
「明日香さん〜、忘れ物ですよー!」
 クッキーをお皿に乗せようとすると、明日香を追いかけてきたノルニルが声をかける。
「はい、どうぞ」
 ノルニルは明日香が校長室の机の上に置いてきた飴玉銃を手渡す。
「あの〜・・・これは・・・」
 それを見たエリザベートが眉を潜める。
「えっ、あのその・・・。エリザベートちゃんに思いを伝えたくて用意したんですけど。撃つのをやめて机の上に置いてきちゃったんです!何て言ったらいいか・・・うぅ・・・」
 じーっと訝しげに見つめる彼女に、どう説明していいか明日香は混乱してしまう。
「それの変わり・・・というか、クッキーを作ったんです。冷めないうちに食べましょう?」
 明日香は何とかごまかそうと手作りクッキーを勧める。
「飴に文字が書いてありますねぇ。何があっても護ります・・・?」
 焼き菓子に手をつけず、少女は銃の中にある飴を取り出して文字を読む。
 読まれた明日香は恥ずかしそうに顔を両手で覆い隠す。
 飴に書かれている文字を1つずつ組み合わせると、大好きなエリザベートちゃんへ♪何があっても護ります、明日香からエリザベートへ気持ちを込めたという文章だ。
「ありがとうございますぅ、これももらっていいんですかぁ?」
「ど、どうぞ!」
「それじゃあお菓子の方も、いただいちゃいますねぇ♪」
 エリザベートが皿からクッキーを取ろうとした瞬間、凄まじい勢いで廊下を走る足音が近づいてくる。
「どこにいるの〜、魔女ーー!!」
 大声で叫びながらミィルがやってきる。
「むっ、魔女じゃないわね」
 ミィルはエリザベートを見つけ、じろじろと見る。
「ここの校長みたいね。生徒はどこにいるのかしら!?」
 在学している生徒じゃないことが分かると、ミィルは再び走り出した。
「何があったのでしょうかぁ」
 もらったクッキーを食べながらエリザベートが首を傾げる。
「お味はどうです?」
「とても美味しいですよぉ♪」
 あげたクッキーを喜んでもらい、作ったかいがあったと明日香はニッコリ笑った。