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【十二の星の華】狂楽の末に在る景色(第2回/全3回)

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【十二の星の華】狂楽の末に在る景色(第2回/全3回)

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 十二星華のパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)に協力す生徒の一人、ベルナデット・アンティーククール(べるなでっと・あんてぃーくくーる)は、ガラクの村を見下ろすと、頬を上げて言葉を雫した。。
 「おおぅ、空から見るとまた壮観じゃのう」
 広大な森の中にあって、その敷地も広い。村に落ちる滝から生じる川を挟むように畑や家屋も見る事ができる。ヴァルキリーたちが暮らす、静かで穏やかな村が今や、混乱と恐怖が渦巻く地へと姿を変えていた。
「もう少し、逃げ惑う姿を見たいのう」
「あら、でもほら、あそこ」
 ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)の視線を追うと、そこには白い煙幕が拡散の様を見せていた。
「面白い事になってるでしょう?」
 失意の底に墜ち始めたミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)から、青龍鱗を強奪した、その者たちが煙幕を張った所であった。先程までパッフェルと共に居た場所が、今はすっかり煙幕に隠れてしまっていた。
「ね〜ぇ、パッフェルちゃ〜ん。ミルザムちゃんを亡き者にしたいなら、下の連中を引っ掻き回せば大自然の動物達… っていうか蠍がやってくれると思うけど… やる?」
 漆黒のグリフォンに腰掛けたパッフェルは、黙々と村周辺の木々にランチャーを向けていた。「赤い光」に撃ち抜かれた木々や岩々は、例外なく、次々に水晶と化していった。
「パッフェルちゃ〜ん?」
「…… しなくて良い……」
 パッフェルは少しだけ顎を引くと、
「泣きついてくるのを待てば良い」
 と、呟き応えた。
「ミルザムちゃんで遊んでるみたいね♪」
 ヴェルチェベルナデットは笑みを交わし合った。
「泉を作る、だったかしら?」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、パッフェルが言った『大きな、大きな泉を作るの』という言葉を思い出しながらに問いていた。
「ここに泉を作るのには、何か理由があるの?」
 顔も体も向きを変えぬまま、ランチャーを構えたままに彼女は応えた。
「…… 泉を作る事と…… ここに造る事は別…… だった」
「だった… ?」
「…… ミルザムが来たから…… ここに決めた…… それだけ」
 顔も体も向きを変えぬままに、ランチャーが「赤い光」を放った。
「ミルザムさんって、青龍鱗使いこなせていませんよねー」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)は、先の光景を思い出しながらに問いた。ミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)が青龍鱗の力を使っても、ヴァルキリーの水晶化を解けなかった、あの場面である。
「あれって、ミルザムさん本人が、女王の血が薄いからなんですか?」
「…… 血の濃さは関係ない」
「そうなんですかぁ? それならどうして…」
「あれは…… ミルザム・ツァンダ、個人の問題」
「え? うん、だからねぇ…」
 わざと惚けているのだろうか。祥子の位置からは、眼帯を着けた瞳しか見えなかったが、それでも彼女の瞳は色めいているように思えていた。彼女の声に張りを感じられたからである。
「そもそも、どうして泉なの… ? 造る意図が分からないんだけど」
「…… 泉に沈めれば…… 触りたくても、誰も触れない」
「沈める? 一体なにを?」
 祥子が空飛ぶ箒を回り込ませようと動き出したとき、オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)の声が背中側から放り込まれた。
「お話はそこまで〜 来たわよ〜」
 振り向き見たときは、向かってきた小型飛空艇から煙幕ファンデーションが放たれた瞬間だった。
「せっかちねぇ〜 ミネルバ!」
「はいはーい。パッフェルちゃん、上に抜けるよっ」
 ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)パッフェルに先行して小型飛空艇を上昇させていったのだが−−−
「どうなってるのっ!」
「落ち着きなよぉ〜 成分が変わってるでしょぉ〜 これは…」
「…… アシッドミスト」
 パッフェルが呟いた時、濃霧の中から巨大な氷の塊が目の前に現れた。
「うそー!!」
 巨大な壁の如き氷塊が瞬く間にミネルバの鼻先に迫った時、
 ズガァァン!!
 砕け散った破片が当たったものの、氷壁の直撃だけは避けられた。
「ありがとー パッフェルちゃん」
「まだ、来る」
 次なる氷塊を避けるべく上昇を始めたパッフェルたちを追いながら、アンドラス・アルス・ゴエティア(あんどらす・あるすごえてぃあ)スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)に笑みかけた。
「あのタイミングで間に合うとはね。くく… 大した速さだ」
「次! 行くであります!!」
 小型飛空艇の前面にミストの映像を映しだしていたスカサハは、メモリープロジェクターを解除すると、漆黒のグリフォンに六連ミサイルポッドを掃射した。 
 弾は一直線にグリフォンに向かっていったが、到達するよりも前に、オリヴィアが放った毒虫の群れに衝突し、遮られた。
「残念♪」
「… 虫… 焼き払うまでであります!!」
「焼ききれるかしらねぇ〜」
「舐めないで下さい!!」
 叩きつけるように、火術が虫の壁に当たってゆく。休むことなく、間を空けず。燃やして燃やして燃やしいった。
「フフフ、まだまだイクわよぉ〜」
 破られた箇所からは、更なる虫が放たれた。不適に笑むオリヴィアの表情が表しているように、燃やしても燃やしても、何事もなかったかのように虫は沸いてくるようだった。
「くっ!」
 火術を放った刹那に、六連ポッドへと手を伸ばしたのと同じ時、パートナーの鬼崎 朔(きざき・さく)パッフェルに飛びかかっていた。
 パッフェルの首を刈る。ブラインドナイブスによる一撃が、それを成すはずだった。が、ミネルバの高周波ブレードに防がれると、自らに向かい来た銃弾を鬼崎は受け捌く事を要された。銃弾を撃ったのは桐生 円(きりゅう・まどか)であった。
「よく見る顔だけど、懲りないね」
「… お前、なぜ…」
「なぜって、殺気、隠せてないんだもん」
 が放ったクロスファイアが小型飛空艇の側面を撃ち抜いた。重心が傾くと共に飛空艇も大きく傾いてゆく。
「さようなら」
「… くそっ」
 跳ぼうとした鬼崎を、の追撃がそれを妨げた。
 滝、生ずる岩山へと墜落してゆく鬼崎の小型飛空艇を視界の隅に捉えた
ナナ・ノルデン(なな・のるでん)であったが、動き出そうにも動けないでいた。
「おっと、させねぇぜ」
 引かれる腕に力を込めて、どうにかバランスを取らねばならない。ナナの腕は、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)のダークネスウィップに絡め取られていた。
「青龍鱗を奪った時みてぇに、体ごと突っ込まれたら…… 堪んねぇからなっ」
「つぅっ」
 腕力では敵わない。握っている金砕棒では、ウィップを斬ることは出来ない。それに、こう距離を取られていては……。
 こうしている間にも飛空艇は墜ちているとうのに。
「ズィーベン!!」
「了解っ!!」
 ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が空飛ぶ箒を走らせ、飛空艇からアンドラスを箒上に跳び移らせた。
 墜落する、その刹那に鬼崎スカサハを抱きかかえて跳び出した。背から転げる事で、その衝撃を和らげたが、そのせいで大きく派手に転がり回った。
「鬼崎さんっ」
「… ぐっ …… 大丈夫だ」
「見せてっ! ヒールをかけるから」
「大丈夫だ… それよりも箒を貸してくれ… 自分がパッフェルを…」
「ダメだよっ! ほら、じっとして」
「… くっ、パッフェル…」
 見上げた先の上空の視界は、完全に晴れていた。その中では、ナナトライブに捕らえられていた。
「あれ? キミもよく見る顔だね」
「…… 青龍鱗の強奪に成功した今、あなたたちは、この上何をしようと言うのですか!」
「………… ん?」
「青龍鱗の強奪に… 成功した?」
「え?」
 顔を見合わせた2人は、パッフェルへと瞳を向けた。
 声だけは聞こえていたのだろう。視線を感じたパッフェルは手を止めて、
「私は… 知らない」
 とだけ呟いた。その頬が、少しだけ引き上がったのだが、引き吊った訳では… ないのだろうか。
「私たちが追おう」
「ヒャハハハハ、任せてよ」
 いち早く、迷いなく飛びだしたのはシャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)
マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)であった。
 界下を見下ろせば、生徒たちの集まりの中から、森へと向かう数名の姿を見ることができた。シャノンマッシュは、この姿を追うことを瞬時に決断したのだった。村に三槍蠍に大群が迫る今、敢えて村から離れる理由とは…。事態と重ね合わせれば、彼らが青龍鱗の奪回を目的としている可能性が高い、と推測しての事だった。驚くべきは決断までの思考の速さであったが、直感と呼ばれるものが芯を取って走っていた事もまた事実であった。
「状況が、厄介になってるですぅ」
 戦闘が起こる事は当然想定していた、しかしそれでも、明日香は足早にパートナーの神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)を呼ぶ事を決めた。
 以前についた嘘がバレているとしても、パッフェルは傍に居る事を咎めたりしないだろう、そう感じたからである。事態が展開、収束に向かった時に到着するように。明日香夕菜にそのように伝え、戦線最前線に呼んだのだった。
「…… あれ……」
 一同と同じく界下の追跡者たちを見つめていたベルナデット・アンティーククール(べるなでっと・あんてぃーくくーる)に、パッフェルが飛び寄った。
「あれ…… まだ出来る?」
「あれ、とは?」
「壁を造る…… あれ……」
「…………あぁ、出来るぞ」
 滝、生ずる岩山の洞窟内にて、三槍蠍を食い止める為に、ベルナデットは確かに地を砕いて壁を造っていた。
「…… あそこ……」
 パッフェルは村の西側を指さしていた。ヴァルキリーたちが通路として使っていたであろう平地路上には、無論に木々も岩も転がってはいなかった。
「了解じゃ」
 ベルナデットは雷術で地を砕いて障壁を生み出した。それをパッフェルが「赤い光」を照射して水晶化してゆく。
『大きな、大きな泉を作るの』
 言った彼女の言葉の通りに、それを成す為なのであろう、村の周りには確実に『壁』が築かれてゆくのであった。