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【十二の星の華】黒の月姫(第2回/全3回)

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【十二の星の華】黒の月姫(第2回/全3回)
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 うつらうつらしていた真珠は、夕暮れの光のなか、目をさました。
 枕元には精神安定剤と、水を入れたデキャンタが置いてある。
「私、また、学校へ行けなかった…」
 そこに婆やの声がする。
「真珠様、起きてらっしゃいますか? 入って宜しいですか?」
「ええ、さっき起きたわ、婆や。入って…」
「それでは失礼します」
 着物と割烹着姿の婆やが、何かの包みを持って真珠の部屋に入ってくる。
「お加減はいかがですか? 今夜は、真珠様も食べやすい、野菜のスープに致しましたよ。そうそう、さきほど、お友達がいらっしゃって下さっていましたよ」
「え!?」
「真珠様がお休みだと言うと、『これだけ渡してください』って。お名前は、『御凪 真人』様と仰っていました。本当に先ほど、お帰りになられて…」
 真人が渡してくれたという包みを開けると、ノートの数冊が入っていた。そして「困った事があったら言ってくれ 真人」というメモが出てくる。
 それを見た真珠はパジャマのままで、ベランダに小走りに走っていく。
 窓をがらっと開けると、去っていく真人の姿が見えた。
「真人…さんっ」
 真珠のつぶやきが聞こえたのか、それとも偶然か、真人が振り返って戻ってくる。
 どきり、とする真珠。
「真人、さん…」
「具合はどうですか?」
「…ご、ごめんなさい、こんなパジャマ姿で…」
「大丈夫ですよ」
 にっこりと笑う真人に真珠も顔がほころぶ。しかし、確かに真人の目から見ても、明らかに真珠の顔色は青白く、痩せていた。
「真珠、俺は信じています」
「えっ…」
「俺は、君のことを信じています。だから、辛いことがあったら、いつでもメールなり、電話なり、下さい」
「まこと、さん…」
「授業、できるだけ判りやすくノートに取っておいたから。また、来ますよ。だから心配しないでゆっくりしてください」
 にこっと眼鏡越しに笑顔を向けた真人に、ぼろぼろと涙をこぼしはじめる真珠。
「まことさん、あり、がとう」
 手を振る真人に、真珠はベランダに座り込んでその姿を見つめる。
「真珠様、お体に触ります」
 婆やが真人に頭を下げながら、真珠を部屋に戻した。
「真珠…君のこころがはやく、やすらぎを取り戻すように」
 真珠の姿が見えなくなると、真人はきびすを返して、帰路に就いた。

 影野 陽太(かげの・ようた)は、ぶつぶつとつぶやきながら、映像を見ていた。
「前回のツァンダ美術館と蒼空学園特別会館…二人の『アッサシーナ・ネラ』ですか」
 陽太は、ツァンダ美術館を襲った『アッサシーナ・ネラ』と蒼空学園特別会館に現れた襲撃犯人、この2人は仲間で、後者が前者の為に陽動を仕掛けた、と考えていた。
「特別会館の襲撃犯が爆発物の仕込まで自分で行ったと仮定すると犯人は高確率で蒼空学園に自由に出入りできる学園関係者ですよね…」
 ツァンダ美術館と蒼空学園特別会館で、かろうじて残されていた画像を解析していた。
「…やっぱり…」
 陽太は、「二人」のネラの体格の違い、スキルの違いをデータ化していくなかで気がついた。
「蒼空学園特別会館の方が身長も体格もしっかりしているのに比べて、美術館の方は華奢な印象がありますね…やはりこの二人は別人ですね。…よし!」
 陽太は画像解析を一旦終えると、赫夜のところへ走り出した。
「赫夜さん!」
「どうした、陽太殿」
 駆けつけてきた陽太に赫夜は背中をさすってやる。
「あの、ストレートに言います。ネラを探して下さい!」
「…どういうことだ?」
 陽太は今までの経緯を説明し、赫夜に協力を自爆覚悟であおいだのだ。
「ネラと一戦交えた実績もある、赫夜さんにこの学園のアリバイの絞り込みを手伝って欲しいのですが…」
「…」
 しばらく赫夜は黙っていたが、
「すまない。今は、真珠が心配なので、授業が終わると直ぐに帰宅したいんだ。力になれなくてもうしわけない。ただ、翡翠さんや円さん、勇さんたちが何か探っているようだ。一度、話をしてみてはどうだろうか…陽太殿の環菜様のためにも」
「…は、はい、ありがとうございます!」
 自爆覚悟だった陽太だったが、思わぬ環菜への思いを指摘されたことと、アドバイスをもらえたことで、赫夜に親近感を抱いた。
「あの、あと、ネラと対峙したときの『感覚』などを教えて頂ければ…すみません…」
 陽太の言葉に赫夜の顔に影が差す。
「私が対峙した『ネラ』は、技術も何もない、ただの子供のようなものだった」
「でも、赫夜さんを上回る程だったのでは…いえ、すみません、怪我をされたのにこのような差し出がましいことを」
「いいんだ」
 恐縮する陽太に赫夜はほほえみかける。
「剣というのは、人殺しの武器だ。その剣を制するのは人間だ、そう私たちは傲慢になる。しかし、剣自身にも魂がある。時に剣に任せることしかできない場合がある。どんどんと強くなっていくということは、究極の話、自分以外の人間を全員殺すことにも繋がりかねない。剣士を名乗るからには、その矛盾と常に対峙しなければいけない。しかし、私の対峙したネラには一切、そう言うものがなかった。魂が無かった」
「たましいが、ない…」
「屁理屈をこねてしまったな。陽太殿。…真犯人捜し、私からもお願いする。頑張って下さい」
 赫夜は深々と頭を下げると、陽太は驚いてしまう。そしてそのまま、赫夜は立ち去った。