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ミリアのお料理教室、はじまりますわ~。

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ミリアのお料理教室、はじまりますわ~。

リアクション

「ミーミル様は、包丁の扱いは慣れているのですか?」
「はい、ミリアさんに教えてもらいました。まだ『かつらむき』とかの難しい切り方は出来ませんですけど」
「ミーミルおねーちゃんすごーい! みってちゃんもしゃきーん、しゃきーんってきっちゃうよ〜!」
 ナナ・ノルデン(なな・のるでん)の質問に答えるミーミルの横で、セプテム・ミッテ(せぷてむ・みって)が包丁を逆さに握り締め、まるで何かの皮を剥ぐかのような仕草を見せる。恰好だけならハンターになれそうである。
「では、ミーミル様にはより料理に習熟していただくために、及ばずながら力になりたいと思います。……ズィーベン、準備の方をお願い出来ますか?」
「はいはい、本当は食べ専といきたかったけど、そうもいかないよね……っと!」
 ナナの指示を受けて、ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が火術及び氷術で、ゼリーを冷やすための道具と温めるための道具をそれぞれ適した温度に調節する。
「果物を切りましょう。お好きな果物を選んでください」
 数ある果物の中からミーミルはリンゴを選び、セプテムのリクエストで選ばれたミカンと共にまな板の上に置く。
「ミーミル様はリンゴがお好きでしたね」
「はい♪」
 リンゴを愛しそうに撫でるミーミルの面影は、彼女がまだ『ちび』と呼ばれていた頃を思い起こさせる。
「リンゴは皮を剥く必要がありますね。オレンジは半分に切って、絞り器で果汁と果肉に分けましょう。皮剥きは力を入れ過ぎず、表面を優しく撫でるように包丁を動かしていきます」
「こ、こうでしょうか」
 恐る恐る包丁を入れていくミーミル、最初のうちは大分厚かった皮も、最後の方には薄く、そして長く剥けるようになっていた。
「あ〜ん、みってちゃんもきるの、きるの〜!」
「ダメダメ、セプテムにやらせたら大惨事だよっ」
 慌ててセプテムから包丁を取り上げたズィーベンの横で、半分に切られたオレンジが絞り器にかけられる。
「力を入れないと絞れませんけど、入れ過ぎると――」
「……ナナさ〜ん……」
「――遅かったみたいですね。少しの間じっとしててくださいね」
 潰してしまったオレンジの果汁攻撃を受けて汁だらけのミーミルが、ナナの手によって綺麗になっていく。
「まぜまぜ〜まぜまぜ〜わぷっ! くり〜むがおはなにくっついちゃったよ〜」
「ああほら、もっとゆっくりかき混ぜないと」
 クリームだらけの顔を拭いてやるズィーベンの前で、熱して溶けた寒天が程よい温度に冷める。
「では、用意したこれらを溶かした寒天の中に入れます」
 切った果物、砕いたツバメの巣などが、溶けた寒天の中に放られていく。
「わ、一旦沈んだのがぷか〜って浮いてきます。ふふ、面白い♪」
「おもしろ〜い!」
「こうして見ると、外見は全然違うけど、中身はホント一緒だなあ」
「ズィーベン、失礼ですよ。ミーミル様、できましたか?」
「はい、できました!」
「できた〜!」
 空になったボウルを掲げて、ミーミルが満足気な笑みを見せる。その隣でセプテムも同じ真似をする。
「ズィーベン、冷やすのはお願いしますね」
「はいはい、人使いが荒いね……っと!」
 ズィーベンの氷術で冷やされ、果実とツバメの巣入りのゼリーの完成である。
「後は飾り付けをして完成です。お疲れ様でした」
「ありがとうございます、ナナさん、ズィーベンさん」
「ミーミルおねーちゃん、いっしょにかざりつけ、しよ〜?」
 ナナとズィーベンにお礼を言ったミーミルが、セプテムに引っ張られていく。楽しげに飾り付けをするのを、片付けをしながら二人微笑ましく見守っていた。

「エリザベートちゃんがかなしむといけないから、ぜったいおいしくおりょうりするです!」
「当然ですぅ。美味しく作ってくれないと駄々こねてやるですぅ」
 エリザベートからドラゴンの皮を受け取ったヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、片手を挙げておー、と意気込んで料理に取り掛かる。
「あたしはデザートで、ヴァーナーちゃんのお料理をサポートするよ!」
「うん! 楽しみにしてるね、ネージュちゃん!」
 ここに来る途中でヴァーナーを見かけたネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が、一緒のテーブルで同じく準備を始める。
「二人は何を作るですかぁ?」
「ボクは『煮こごり』! こんなにぷるぷるだから、い〜っぱいゼラチンがでてびようとけんこうにもいいはずだよ!」
「あたしは『ツバメの巣のフルーツカクテルヨーグルト風味』! フルーツいっぱいでも甘さは控えめ、お料理の後にぴったりな一品だよ!」
 ヴァーナーが鍋でドラゴンの皮を煮つつ、中に入れる長芋、なめ茸、それにミニトマトにアボガドを切り分けていく。
「わー、ヴァーナーちゃん包丁さばき上手だねー」
「えへへ〜、これくらいネージュちゃんにもできるよ〜」
 次々と材料の下ごしらえを済ませていくヴァーナーに感心しながら、ネージュもマンゴー、白桃、ミカンといった果物の皮を剥き、適度な大きさに切り分けていく。柔らかい果物が多い中、潰すことなく包丁を入れていくネージュも、なかなかのものである。
「いただきですぅ〜!」
 とそこに、エリザベートが白桃の切れ端を横から頂戴して口に放る。
「うぅ〜ん、甘くて美味しいですぅ」
「もー、エリザベートちゃんったら、ダメだよ、大人しく待ってなくちゃ」
「だって、美味しそうな匂いがして待ちきれなかったんですぅ」
 エリザベートが言うように、皮を煮込んでいた鍋からは食欲を刺激する香りがひっきりなしに漂っていた。覗き込んだヴァーナーの目には、まさに皮だけになったドラゴンの皮と、皮を埋めるほどに溶け出したゼラチンが映る。
「……わ、なにもあじつけしてないのに、おいしい!」
「ヴァーナーちゃん、あたしにも食べさせて〜」
 スプーンで掬って味見をしたヴァーナーが、その濃厚な旨味に驚きの表情を見せる。
「あむ……ホントだ〜! よーし、あたしも頑張らなくちゃ!」
 ヴァーナーに食べさせてもらったネージュが、再び意気込んで料理に取り掛かる。ツバメの巣を細かく砕いて、ヨーグルトにハチミツを適量加えたものにフルーツと混ぜ合わせれば完成である。
「ボクのほうはこれでおしまいっ! あとはひえるのをまつだけ〜」
 鍋に、調理を終えた具材を入れ、少々甘めになるように味を整えて、蓋をしたヴァーナーがふぅ、と息をつく。
「ヴァーナーちゃん、お料理ができるまであたしのデザートで一息つこっ!」
「わ〜、ありがとうネージュちゃんっ」
「エリザベートちゃんもどうぞっ!」
「いただきますですぅ!」
 器に盛られたデザートを囲んで、ヴァーナーとネージュ、エリザベートの笑顔が花咲く。

「どんな料理を作ってる? 色々、としか言い様がないんだな。洋食和食中華、肉に魚に野菜に果物に多岐に渡り過ぎて、まとめられないんだな。リンネだけでもアレコレ言ってくるのに、最近はカヤノまで注文つけてきて大変なんだな。お気に召さないとリンネの火術とカヤノの氷術のコンボでお仕置きされるんだな」
「うわ〜……モップスさんも大変だね〜。で、今は何を作ってるのかな?」
 立川 るる(たちかわ・るる)が覗き込むと、モップスはタマネギ、ニンニク、赤唐辛子をみじん切りにしていた。
「リンネが『ディアボラ風』ってのが食べたい、って言い出したんだな。ちょうどミリアのところにレシピがあったから、今は漬けダレの材料切りなんだな」
 るるの質問に答えながら、モップスがその巨体からは到底想像できない包丁の規則的かつ正確な動きで、野菜をさばいていく。
「ほぇ〜……モップスさんってこんなにゆるゆるなのに、すっごい手先器用だよね」
 るるが感心しながら、モップスの着ぐるみを引っ張る。伸びて揺れる様はとても、ぷるん、という感触ではなくでろん、という感触が相応しい。
「ゆる族も、ただ可愛さを振りまいているだけで済まされなくなったんだな。色々出来るところを見せて、みんなに印象付けられないと生き残れないんだな。でも、ロッククライミングとかハンググライダーとかは真似できないんだな。スキューバダイビングなんて死んでもやりたくないんだな」
「そ、そんなことまでやるの!?」
「やる人はやるんだな」
 モップスの言うように、確かに宇宙飛行までやってのけたゆる族も地球にはいる。……彼がゆる族なのかは甚だ疑問だが。
「でも、モップスさんには料理っていう特技があるじゃない。それを伸ばしていけばきっと生き残れるよ。そしていつかは目立つけど人気ないゆる族を代表する一人になれるはずだよ!」
 るるがモップスを元気付けるように言いながら、皿を目の前に置く。
「……ありがとうなんだな。それにしても、最近ボク、ゆる族の存在を危惧する声をよく聞くんだな。人間の恰好をしていないから、なんて言われても困るんだな。それがゆる族なんだな」
「う〜ん、よく分からないけど、可愛いって大切だよ? 可愛ければ結構許されちゃうことだってあるよ」
 その言葉に、モップスの手がはた、と止まる。その何も映していないような瞳に、今は何かを思い浮かんだような光が差し込んだ、かもしれなかった。