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リアクション
「最近エメネアちゃんに謹みを身につける教育係りとして家庭教師させてもらっている神代明日香と申します〜」
エメネアと共に、ティセラへと近付いた神代 明日香(かみしろ・あすか)はそう告げて、ぺこりと頭を下げた。
以前にも何度かティセラとは遭っているのだが、名乗ったことがなかったのだ。
「まあ、謹みを……ですか。しっかり教えてあげてくださいね、エメネアさんは何処か危なっかしいところがありますから」
「ティセラさんまでひどいですよー」
むっと頬を膨らませたエメネアの様子に、2人で笑い合う。
ティセラの傍から離れれば、長テーブルの端の方に座ったエメネアの隣へと明日香は腰を下ろした。
その向かい側に、パートナーのノルン――ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が座る。
禁忌の書を大事そうに抱えたまま、ノルンはテーブルの上を見回した。
「お酒は、ないですか?」
お茶や菓子を運んで、傍を通りかかった神野 永太(じんの・えいた)にそう訊ねる。
「お茶の席、だからね。流石にお酒は用意されてないよ」
思わぬ問いかけに、盆に載せた食器を落としかけたけれど、すぐに持ち直して、永太は答えた。
「そうですか」
残念そう肩を落としながらも「代わりに」と永太の置いていった紅茶をノルンは口に運ぶ。
向かい側のエメネアと明日香の前にも紅茶とケーキが置かれていった。
「おいしそうですねー」
ケーキをフォークで切り分け、口元へと運ぶエメネア。
「はぅっ!」
そのフォークの先から、欠片が落ちてしまい、声を上げた。慌てて、それを拾おうと椅子を引くと大きな音を立ててしまう。
「エメネアさん……もっと厳しくしないとダメですか?」
名を呼ばれて明日香の方を見れば、笑顔の彼女が脅すような言葉をかけてきた。
「ごめんなさいー……」
しゅんと項垂れるエメネアの様子に、明日香は横目で会場全体を見回す。賑やかな茶会の席だ、大きな音を立てても、それに害意がなければ、関係ないのか、気にしている様子の者は居ない。
「まあ、今日の席に免じて今回は許してあげますけれど、2度目はなしですよ?」
「はい」
明日香の言葉に、こくんとエメネアは頷きながら答えた。
ヒーロー『ケンリュウガー』の格好をした武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、持ち込んだコタツを食堂の片隅に置いた。天板には麻雀牌が置かれている。
「環菜校長、エメネア、ティセラ。麻雀やろうぜ?」
牙竜の急な申し出に、3人はそれぞれ驚く。
「楽しそうですわ」
「そうですね。楽しそうなのですよー」
ティセラとエメネアは快く引き受けた。
「環菜はどうするのか?」といった視線が、彼女へと集まる。
「私は……」
お茶会中もオンライントレードの動向を見ていた環菜だ。そちらの動きが気になるため、断ろうかと口を開く。
「麻雀と思って、侮ると後で泣くぜ。これは現状の縮図になっている。勝負事の駆け引きは麻雀も変わらない。やらないと言うことは負けを認めることになるぜ」
挑発するような牙竜の言葉に、環菜は口を噤んだ。
「その勝負、受けるわ」
改めて口を開くと、牙竜を真っ直ぐ見つめて、そう告げる。
「そうと決まりゃ、早速開始だ!」
コタツへと移動する牙竜に、環菜、エメネア、ティセラの3人も着いていき、座った。
牌を混ぜ、並べると牙竜を親に、開始する。
「質問への受け答えなんかで大変だろうが、どうしても言いたいことがあってな」
手を動かしながら、牙竜が環菜とティセラを交互に見て言う。
「ミルザムとティセラ。それぞれ、女王候補として欠けてるところがあると俺は思うんだ」
「欠けているところとは?」
引いた牌を手元に残し、不要な牌を捨てながら、環菜が訊ね返す。
「ミルザムは行動に一貫性がないよな。むしろ、自分の中で芯がない脆弱なところがある。クイーン・ヴァンガードの生徒間での評判が両極端なのも理由の一つだな」
「では、わたくしは?」
牙竜がそう告げる間に、エメネアが手番を終え、ティセラが牌を手にしながら、訊ねてきた。
「ティセラは力による統治を目指すと宣言しているので、好感が持てるところはある。だが、手段が致命的に問題だ」
「手段が問題……ですか」
手にした牌は不要だったらしく、ティセラはそのまま捨てる。
「2人に足りないのは女王としてのカリスマだ」
言いつつ、次の牌を引いた牙竜は、ニッと口元に笑みを浮かべた。
「リーチだ。アタリ牌を引付けるのは運ではない。カリスマがアタリ牌を呼び寄せるんだ」
告げて、手牌全体を倒す。
「!」
あまりの速さに3人ともが目を見張った。
周りで見ていた学生たちも驚きの声をあげる。
環菜、エメネア、ティセラと回っていくけれど、リーチに至ることはない。
再び牙竜の番が回ってきた。手にした牌をチラと見る。
「……ツモ」
その顔から笑顔が絶えることはなく、彼の目の前に倒された手牌に、その牌が加えられた。
「ま、どっちもカリスマを身に付けることだな」
そう告げると牙竜は席を立った。
環菜やティセラ、エメネアも元の長テーブルの席へと戻っていく。
「あぁかっこぉなぁぁぁ……169せんち、108ぱうんどぉ……十二星華所属ぅ、リーブラのティセラァッ!」
席へと戻ってくるティセラの姿に、伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)が来ていたタキシードの上着を脱ぎ、声を上げた。
「あぁおっこぉなぁぁぁ……168せんち、116.7ぱうんどぉ……蒼空学園理事長兼校長兼生徒会長……御神楽ぁっカンナァッ!」
次に環菜が戻ってくるのと同時に、そちらを指して声を上げる。
お茶会という名の女のバトルが始まるのだと睨んだ支倉 遥(はせくら・はるか)は、給仕を買って出ると、カロリーの高そうなものをティセラに、逆にカロリーの低そうなもの、脂肪分解などを手伝うような効果のあるものなどを環菜へと回していく。
「作戦成功の暁には、貴女が精神的優位に立てていることをお約束します」
その黒ウーロン茶を出しながら遥は、環菜へとそっと耳打ちするように、『敵に塩を送る』ならぬ『敵にスィーツを贈る』という悪魔のような作戦を簡単に説明し、そう告げる。
ティセラと環菜、それぞれの摂取カロリーを計算するのは、遥のパートナーである屋代 かげゆ(やしろ・かげゆ)とベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)だ。
タキシードを着たベアトリクスは、環菜が口へと運んでいくお茶や菓子を手元の紙へと記していく。
(せっかくだしもう少しかわいい服とか着たかったのに……)
不意に、出発前に彼女がぼやいた言葉を思い出した。
その言葉を聞いた遥は、かわいい服よりタキシードのようなかっこいい服の方が似合うと答えた。
似合ってるだろうか。
そんなことを思いつつ顔を上げれば、テーブルの反対側でティセラの摂取するカロリーを計算しているかげゆの姿が視界の中へと入ってきた。
学園の近くで拾った子猫3匹を頭と左右の肩に乗せ、チャイナドレスを着たかげゆは、難しい顔をしながら、手元の紙へとティセラの口にするものを記しているようだ。
彼女の数学の練習も兼ねた役なのだ。
計算間違いを起こしていないかとベアトリクスは気にしながら、環菜の摂取カロリーを計算していった。
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