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リアクション
一階専門店街 世界の茶葉のコーナー
ティセラたち一行は、案内役の玲を先頭に、ぞろぞろと茶葉コーナーにやって来た。
「うわあぁぁぁぁ!」
ティセラが子供のように飛び跳ねる。
空京堂の茶葉コーナーは、世界中のあらゆる茶葉が揃えられている、お茶好きにはたまらない場所だ。
茶葉の香りを試したり、ものによっては試飲もさせてくれる。
「このあたりが日本茶、右手に中国茶、左手に紅茶のコーナー。茶菓子の類は一番奥」
玲が、コーナーのつくりを説明した。
「端から全て、見て回りますわ!」
買い物に興味がないと言っていたはずのティセラが、ものすごい勢いで買い物モードに突入していた。
「気になるのがあったら、試飲用の茶葉とお湯を使っていいんだよ」
隼人の言葉に、ティセラがにぃ〜〜〜っと笑った。
さっきからさんざんお茶を飲んだはずなのだが、まだ飲むのだろうか。
「まずは日本茶コーナーからじゃな」
カナタとケイに解説をしてもらいながら、まずは日本茶コーナーをじっくりと見て回った。
ひとくちに日本茶といっても、緑茶に煎茶、抹茶のようなものまである。
どれもティセラにとって興味深いものばかりだった。
カナタにすすめられたものを中心に、買い物かごに入れた。
そして中国茶コーナー、紅茶コーナーと歩いていく。
「……んー、やっぱりアールグレイの香りは心が落ち着きますね」
紅茶のコーナーには先客がいた。アールグレイを試飲していた戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)だ。
「わたくしも、それを試してみたいですわ」
小次郎の言葉に惹かれて、ティセラもアールグレイの売り場で足を止めた。
「気になったら、試してみるのがいいだろう」
すぐに玲が、試飲用に置かれている茶葉を使い、ティセラにお茶をいれた。
「あら、これおいしい!」
小次郎が、ティセラに解説を始めた。
「地球産の茶葉ですよ。ベルガモットの精油で香り付けされたタイプですけど、この品種はホットでもきつくなりすぎないんですよ」
知識なら負けないと、ティセラも言い返す。
「このアールグレイは、ベルガモットだけでなく、レモンとオレンジの香りも足されているようですわね。キリッと冷やして飲んだらさぞかしおいしいでしょう」
「そもそもベルガモットは、アロマでも心を落ち着ける香りとして知られています。この芳醇な香りは、あえてホットでいただいた方がよいかと」
「いいえ。これだけ香りが立つのであれば、やはりアイスでいただきたいですわ」
「……ホット」
「……アイス」
「ホット!」
「アイス!」
「ホット!!」
「アイス!!」
いつの間にか、ティセラと小次郎は紅茶論で言い合いになってしまった。
傍目から見ると、小学生レベルの言い争いのように見えなくもないが。
「いや、まあ……二人とも、そのくらいで」
近くでその様子を見ていたロッソ・ネロ(ろっそ・ねろ)が、さすがに止めに入った。
「結局、好きなお茶を、自分が好きな飲み方をするのが一番いいよね!」
「……それが正論ですわ」
ロッソの言葉に、ティセラと小次郎は笑ってうなずいた。
「それではあなたは、どの茶葉がお好きですの?」
ティセラが、ロッソに尋ねる。同じお茶好きのオーラを感じ取ったのかもしれない。
「このアッサムを、チャイにするのが好きですね」
ロッソは、アッサム茶を差し出した。
「チャイとな?」
カナタが首をかしげる。
「煮出したミルクティのことだよ」
ケイが、簡単に説明した。
「俺もチャイは好きだな。じゃ、今度は俺がいれようか」
隼人が、試飲用の茶葉にお湯を注いだ。
さすがにチャイをここで作ることはできないが、アッサム茶は試すことができた。
「濃厚ですわね〜」
「だから、チャイみたいに、ミルクティにして飲むのがいいんだよ。こっちに、チャイ用の茶葉もあるよ」
ロッソに説明を受けながら、ティセラはチャイ用のアッサム茶をお買い上げした。
「アールグレイ、アッサムときたら……ダージリンもひとつ買っておきたいところですわね」
「おねえさん。ダージリンはここですよ」
たまたまダージリン紅茶を探しに来ていたソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が手招きした。
ソアはちょうど試飲用のお茶を自分でいれていたところだったので、ついでにティセラの分もいれて手渡した。
「やっぱり、ダージリンは色が上品ですわね。なんて美しいんでしょう」
試飲用の地味な紙コップではあるが、ダージリンの美しい色が見て取れた。
「おねえさんも、お茶が好きなんですね」
ティセラが手にした買い物かごの中には、既にたくさんの茶葉が詰め込まれている。
「ちょっと買いすぎてしまいましたわ。早く飲んであげないと香りが飛んでしまいますから、これからはいつもよりたくさんお茶の時間をとらなくては」
「うふふ。がぶ飲みすることになっちゃいますね」
「嬉しいことですわ。わたくしの血は紅茶でできていますから」
ソアとティセラは、顔を見合わせて笑い合った。
同じ趣味を持つ者同士というのは、打ち解けるのも早い。
「お嬢さんも、良いお茶と巡り会えるといいですね」
「ありがとうございます。いつかおねえさんと一緒にお茶でも飲みたいですね」
「機会があれば、わたくしのお茶会に、ぜひいらしてくださいね」
「ええ、ぜひ!」
「またお会いしましょう」
立ち去るティセラに手を振りながら、ソアはぽそりとつぶやいた。
「それにしても……十二星華のティセラ・リーブラさんにそっくりなおねえさんですね。あれだけ似ていたら、間違えられて大変でしょうに……」
近くにいた玲やケイには、そのつぶやきが聞こえたが、あえて聞こえないふりをして通り過ぎた。
……波風立てないのが、一番。
「結局、たくさん買い物をしてしまいましたわ」
一通り茶葉を買った後、イルマにすすめられるがまま茶菓子もたくさん買ったティセラは、「空京堂」と印刷された大きな紙袋を二つ下げていた。
「みなさん、お付き合いくださって、ありがとうございました」
買い物に付き合ってくれた一同に、ティセラはお礼を言った。
「楽しかったなら、何よりだよ」
ロッソの言葉に、ティセラは大きくうなずいた。
「とっても、楽しかったですわ!」
「またお会いできたら、その時もご一緒したいものだ」
玲が握手の手を差し出すと、ティセラも笑顔でそれにこたえた。
「また、紅茶論で話し合いたいものですな」
「決着がついていませんものね」
小次郎と顔を見合わせ、ティセラはにやりと笑った。
「さて……と」
ティセラは、壁にかかっている時計をちらりと見た。
「みんな、どうしてるのかしら……」
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