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君が私で×私が君で

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君が私で×私が君で
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リアクション

 ヴィアス・グラハ・タルカ(う゛ぃあす・ぐらはたるか)は、リボンたっぷりのふわりとしたワンピースを着てツァンダの街を歩いていた。一見いつも通りでおかしなことなど何も無いのだが、中身が違う。ヴィアスに預けた自分の体――白菊 珂慧(しらぎく・かけい)が『我の体なんだから、オシャレしなきゃダメよぅ?』と渡してきた服は、足元がスースーして落ち着かなかった。スカート以外の服を所望したのだが速攻却下され、今は何だか服屋に連れて行かれようとしている。
(……元に戻る方法や理由、考えなくていいのかな……?)
 スケッチをしようかと果実狩りに行った珂慧は、実を少ししか食べていない。それでも、バッチリと効果があったようだ。
「ねえ……ヴィー、僕……女の子の体だけど、べつに、興味なんて……ない、から……」
 後半になるにつれ声は細くなっていく。洋服屋になんか、行ったら……
 低い視線が、俯くことでますます低くなっていく。長い髪が前に垂れて、左右の視界を遮った。
「何言ってるのぉ。白菊の服を買いにいくのよぉ」
「……僕の、服?」
 予想外の言葉に、ヴィアスは僅かに顔を上げる。
「白菊の服は質素すぎてつまらないわ。制服が気に入ってるのは知っているけれど、華やかなのもきっと似合うと思うの」
「……でも……」
 自分の洋服にもあまり興味は無い。どうして、女の子は洋服屋が好きなのかな? というか、僕の体で、着替えるの……?
 抗弁する間もなく、珂慧はどんどん先へと歩いていく。
「ヴィー、足、速い。それ僕の体だから、たぶん君が思ってるより、速い」
 言ってみるものの、気付かないのか珂慧は足を緩めなかった。ヴィアスの体で迷子になるのも困るので『珂慧』は必死に付いていく。
(とりあえず、傷付けないようにしないと。腕とか、折れちゃいそうだ)
 そんな事を考えているうちに、珂慧は1軒の店に入って行った。ショーウィンドゥのマネキンは、それぞれにスーツや流行りの服を着てポーズを取っている。
「これと、これと……この機会にイメチェンするのよぉ」
 その話し方を聞きつけ、店内にいたラスとエミール・キャステン(えみーる・きゃすてん)が近寄ってきた。
「あっ、その話し方……もしかして、入れ替わっちゃったー?」
「着せ替えし甲斐がありそうだねー。マナカ達も、ラスの服を買いに来たんだよっ。写真を撮るにしてもこれじゃあつまんないからねー」
「白菊は、もっとおしゃれすればいいと思うのぉ」
「そうだよねー。何か着てればいいってもんじゃないよねえ」
「清潔なのは良いんだけどぉ」
「うん、そのシャツ真っ白だね! 皺もないし……。おにいちゃんとはえらい違い……面倒くさがってアイロンも掛けないんだよ!」
「アイロンくらいは、掛けてほしいわよねぇ」
「これなんか似合うんじゃないかなっ」
 何だかきゃぴきゃぴと言いたい放題であるが、如何せん全員、見た目が男である。事情を知らない店員は、遠くで笑顔を引きつらせていた。
「今日はへそくり持って来たんだー」
「我も、いろいろ試着していっぱい買うの。せっかくの機会だものね」
 次々と色んな服を手に持つ珂慧。
「え、全部……買うつもり?」
 ヴィアスは、やっとのことで会話に割り込んだ。慌てて腕を取るものの、笑顔で簡単にあしらわれてしまう。
「似合うのだけよぉ? 大丈夫、今ならお金だってあるもの」
「いや、そういう事じゃなくって……」
 もう何というか、ヴィアスからすると暴走しているようにすら見えるテンションだ。体が違うと……行動力も、違うのかな……。
 珂慧の消えた試着室の前で、ヴィアスは困ってうろうろとした。腕を取った時に感じた事。体格差というのは、結構大きい。力の加減も、よく分からなかった。
(試着室に乗り込んでくわけにもいかないし……うん? あ、僕の体なんだから見たって平気、だよね。でも……)
 それを傍から見た時のことを想像し、二の足を踏む。
(着替え覗く子なんてヴィーに噂が立ったら困るし……う、うん?)
「わぁ、背が伸びて得した気分ねぇ」
 そんなヴィアスの惑いを知ってか知らずか、試着室の鏡の前で、珂慧はあちこちを観察していた。あんなところやこんなところも。そして、持って来た服に着替えてみる。レースシャツに、赤いコサージュの付いた帽子を被り、やはり赤いスラックスを穿く。
「ヴィ、ヴィー?」
 その服装のままフロアに戻り、ヴィアスの表情を見てふんわり微笑む。
「薔薇学生みたいだけど、普段からパラ実生に見えてないから大丈夫よぅ」
 学校がどうとかではなく、純粋に、恥ずかしい。隣の試着室からは、ラスが出てくる。
「どうかなー?」
「あら、見違えたようじゃなーい。ねえ、お互いにお写真撮らない?」
「うん! 撮ろ撮ろ!」
 3人の中ではしゃぐ珂慧を見ながら、ヴィアスはすごい違和感を感じていた。
(それにしても、『僕』がずっと笑顔なのって…………誰かが早く、元に戻れる薬を作ってくれることを、祈るよ……)
 ……僕、なにもしてないけど

 そしてまた、こちらでも着せ替えの被害者が出ようとしていた。
 ウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(うぃるへるみーな・あいばんほー)は、キャミワンピ姿で楽しそうに街を歩いていた。
「はわわ〜♪ いつもより視線が高くて、ウィノナちゃんやファイがちっちゃく見えるなんて、珍しくて楽しいです〜。ウィルちゃんの可愛いワンピ姿を見れたのも良かったです〜」
「ウィノナさん……な、なぜボクの身体でキャミワンピなんですかー!? ファイリアさんの身体でっていうのは、分かるんですけど……これじゃあペアルックみたいです……」
 広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)は恥ずかしがって身を縮こまらせ、顔を赤くして周囲の目を気にしていた。
(絶対、ウィノナさん楽しんでますよね……)
 と、少し恨めしげに思う。
「いいじゃないですか〜。ウィルちゃんすっごく可愛いから、もっとこういう服を着たらいいですのに〜?」
「そ、そんな……!」
「ショッピングモールだね〜、入ってみよ〜!」
 ウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)は大型ショッピングモールの前まで来ると、迷わずに中に入って行った。
(ウィルが今どきの女の子みたいで、ファイが恥ずかしがる所を見られるなんて、とっても楽しい〜♪)
「にゃ? ウィノナちゃん、そこは昨日寄っていませんですよ?」
「ん〜〜? ねーねー、ファイ、いい機会だから、ウィルの洋服、見立ててあげたら〜? 時間もあるしさ〜」
「え?」
 ウィノナの言葉に、ファイリアはぴくんっと反応した。2人が入れ替わって厄介な事になったから、原因を探ろうと言ったのはウィノナなのに……、と思う。3人は、前日の行動を振り返ってみよう、ということでツァンダの街に来ていたのだ。ファイリアはその時、ウィノナが『面白そ……』と言いかけた事に気付いていない。
「可愛いウィルの姿、見たくない〜?」
 ウィノナに唆さ……言われ、ウィルヘルミーナはショップに興味津々な様子を見せる。
「そうですね〜。ウィルちゃんはほとんどファイの薦める洋服を着てくれませんし〜。せっかくですから、色々ウィルちゃんに似合う服を大発掘するです〜!!」
「いいですいです勘弁してくださいー!? これ以上恥ずかしい目に会いたくないー!?」
「あ、このお店はどうですか〜?」
「女の子っぽさ全開のお店だね〜。入ってみよ〜」
 ウィノナとウィルヘルミーナは、2人で可愛い服を選んで着せ替え、盛り上がっている。ファイリアは、それをおろおろと涙目で見つめていた。
(……うう、ボクが色々可愛い服を着せられていくー。とっても似合っているのが複雑です……)