天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

君が私で×私が君で

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君が私で×私が君で
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リアクション

「なんか胸にミサイル2基ついとるー!?」
「なんかマグナムついてるー!?」
 ツァンダにあるとある借家。どーん、と家が揺れるような叫びと共に、如月家の1日は始まった。
「……って、そんな事言ってる場合じゃないなコレ。早く元に戻る方法を見つけないと……!」
「……って、そんな事言ってる場合じゃないわねコレ。元に戻る方法探さないと……!」
 アルマ・アレフ(あるま・あれふ)如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)はほぼ同時に部屋の外に出た。アルマはとりあえず落ち着かないので、佑也の部屋に伊達眼鏡を取りに行く。ついでに知り合いに電話して状況を説明すると、運が良いのかそれほどまで騒ぎが拡大しているのか、あっさりと真相を知ることが出来た。
 話を聞くや否や薬作りを手伝う事を決めたアルマは、部屋を出て目を丸くした。自分の姿をした彼女が、ズボンの中をじっくりと眺めていたからだ。
「わ……こんなんなってるんだ」
「嫁入り前の娘がそんなモン見ちゃいけません!」
 姿勢はそのままに、顔だけ上げて佑也は言う。
「花嫁なのに嫁入り前とはこれいかに」
「全然うまくねーんだよ! 何なのこの子。ぶたれたいの?」
 アルマはさっき聞いたばかりのことを説明すると、蒼空学園に向かうべく玄関を出た。
「でも、補習なんでしょ? あたし達受ける必要ないじゃん」
「……補習の一環? 関係ないね! 手伝う!」
 答えながら、授業に参加する際に1番大切なことを思い出して振り返る。
「あと、あんまりその姿で女言葉使わないで欲しいんだけど……つーか、使うなよ?」
「んー、まあ出来るだけやってみるわ」
「だから!」

 朝起きると、そこは見慣れない部屋だった。
「……小僧と入れ替わってしまったようだ」
 自分が七枷 陣(ななかせ・じん)の身体に入ってしまったと理解しても、仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)は冷静だった。これで部屋が磁楠のものなら変身という可能性もあったわけだが。
 まあどちらにしろ――
「……コーヒーでも淹れるか」
 やはり冷静だった。

 朝起きて……鏡見たら磁楠と入れ替わっていた。
「な、なんぞこれえええ!?」
 事態を理解した途端、『陣』は吃驚して叫び、部屋を飛び出した。冷静のれの字も存在してはいなかった。いつも通りに穏やかな朝を過ごす陣を見つけ、ツッコミを入れる。
「なんで優雅にコーヒー飲んでんだクソ英霊コラ!」
「あまり気にせずとも良いだろう。幸いにも、私同士が人格交換しただけということだ。在りし日の私の姿というのは、何やら妙な気分ではあるが」
「はあっ!? ……まあ磁楠からすればそういうことになるんかな」
 磁楠が気勢を殺がれてクールダウンした所に、陣は独り言めかしてぼそっと呟く。
「……このままでもそれはそれでアリかもしれんな」
「このままで言いわけねぇっ! 何とかせんと……!」
「さて、冗談はこれくらいにして」
「冗談かい!」
 陣がカップを置くと同時、磁楠と陣はそれぞれの方針を話し出す。
「多分、昨日食ったあの大樹の実のせい……なんだろうなぁ」「恐らく、昨日食ったあの大樹の実の影響なのだろうな」
「「…………」」
 喋り方の違いはあれどほぼハモってしまったことに沈黙し――
「あの大樹を文献で詳しく調べてからもう一度向かって」「原因を突き止めに大樹へ向かい」
「どうにか対処策を見出さんと……」「残った実を採取して色々分析してみる必要があるだろう」
「「…………」」
 同じタイミングで、似ているようで違う事を言ったことにお互い再び沈黙し――
「文献が先や!」
「成分が解らなければ話にならないだろう」
「大樹の正体や解決法が出てるかもしれねぇだろ!」
 磁楠が言うと、陣は面白くもないが特別不快でもないといった顔で立ち上がった。
「……まあ、いいだろう。大樹を調べることに変わりはないしな。分析の際には、人格交換に影響した成分とそれを打ち消す為の成分を突き止めれば薬を作る指針にもなるだろう」
「よし、行くぞ!」
 図書館への道を走りながら、磁楠はそれでも安堵の混じった息を吐いた。
「……しっかし、リーズや真奈と入れ替わらんかった事がせめてもの救いや。女の子と入れ替わってたら激しく不味いもんな、トイレや風呂とかその辺な意味で……」

 蒼空学園に向かう道の途中、香住 火藍(かすみ・からん)はそこら辺にある山菜やきのこを採集していた。一緒にいる久途 侘助(くず・わびすけ)に話しかける。
「治療薬は3階で作ってるんだっけ? 早く治す方法を見つけないとな」
「風呂に入るとかいう冗談を言ってからこちら、まともな事しか言っていないしやってませんね。何というか……意外です」
「ん? 風呂に入ってほしかったのか?」
「別に、入りたいなら止めませんよ。特に楽しいことはないと思いますが」
 慌てず騒がず侘助は言う。
「そうかー? 意外と面白いと思うけどな……いや、だから冗談だって。お前の姿で不名誉なことしてみろ、俺は切腹もんだぞ」
「あ、久途先輩! 久しぶりであります!」
 親しげな声に振り返ると、草薙 莫邪(くさなぎ・ばくや)草刈 子幸(くさかり・さねたか)鉄草 朱曉(くろくさ・あかつき)を連れて歩いていた。ベトナムの民族衣装であるアオザイ姿の子幸はレジャーシートを、ラフな服装の朱曉は長髪を三つ編みにしておひつを持っている。そのちぐはぐな格好のおかげで、中身がどうなっているのかは簡単に判った。子幸は莫邪に、莫邪は朱曉に、朱曉は子幸になってしまったらしい。というか子幸は傍目……女装?いや……
「やっぱりさっちゃんは胸無いのぉー」
 民族衣装の中を覗いて、子幸が言っていることを考えると……まさか?
「なにしてるでありますか! やめるであります!」
「おい何見てんだ! 俺が許さねえぞ!」
 慌てる莫邪に、怒る朱曉。その2人をさらりとかわし、子幸は採集された野草を指差す。
「そがぁなもん集めて、どうするんじゃ?」
「……? ああ、えっと……草刈達も入れ替わったのか」
 火藍が言うと、莫邪はきょとんとして火藍と侘助を見比べた。
「先輩もでありますか! あの実は美味かったでありますね! 自分はごはんのおかずにして腹一杯食べましたよ! これからまた行くでありますが、ここで会ったのも縁というもの! 同じ釜の飯を食そうではありませんか!」
「ああ、いや……遠慮しとくよ」
 これ以上果実を食べる気もなくフルーツをおかずにする趣味もないので謹んで断る。
「え? 食べないのでありますか? でも……」
「俺達は化学の補習を手伝おうと思いまして。この野草はその材料として提供する予定なんですよ」
 侘助が説明すると、心底不思議そうにしていた莫邪は得心がいったかのように笑顔になった。
「こんな時に補習の手伝いとは……! 分かりました! お忙しい所お引き止めしまして申し訳ありません! では失礼します!」
 莫邪達を見送りながら、火藍は言った。
「何だか、微妙に勘違いしてないか? あいつ……」
 一方、森を行く莫邪はこんな事を言っていた。
「もう一度果実を食べれば元に戻ると思うのですが……、手伝いを優先するとは、さすが久途先輩であります!」

 その頃、カティ・レイ(かてぃ・れい)は大樹の元に辿り着いて幹によじのぼっていた。入れ替わってしまった自分の身体、鳥丘 ヨル(とりおか・よる)に薬を作りたいから実をもいでくるように、と頼まれたのだ。
「うーん、放っておけば数日で戻ると思うんだどな。ボクは特に不自由してないよー」
 持てるだけ持って、樹から降りる。戻る道すがら、カティは腕の中の実を見て思う。
(これ、食べちゃだめかな? だめかなー)

 その頃のイルミンスール魔法学校。
 神代 明日香(かみしろ・あすか)は前日、ピノ・リージュンと意気投合して果実狩りに参加していた。
 そして――
「あれ〜? ノルンちゃんになってますぅ〜。それとも、縮んじゃったんですか〜?」
 入れ替わったノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)の腕やちまっとした足を見て声を上げる幼女1人。何せ、ノルニルは明日香の幼少期にそっくりなのだ。そう思ってしまうのも無理はない。
 しかし、彼女は寝ぼけていた。
「悪い夢に違いありません〜。寝直すです〜」
 布団をかぶって夢の中。入れ替わりに気付くのはさていつになるのやら。ノルニルは、明日香の身体でいつものように過ごしていますよ……?
 本体の禁忌の書を回収してうろうろとしていた明日香は、購買のレジカウンターの前でじっ、と立ち止まっていた。POPには『日本酒入りチョコレートボンボン限定入荷しました』と書いてある。
「おや明日香ちゃん、それが気になるのかい?」
「私は明日香さんではありません。入れ替わってしまったのです」
「入れ替わ……? また変な魔法かい?」
「よく判りませんが、視点がちょっと高くなってしまっただけですし気にしないことにしました。これ、何ですか?」
 明日香がボンボンを示すと、購買のおばちゃんは笑って言った。
「これはね、薄いチョコレートの中にお酒が入ってるんだ。この何でもない時期に、日本酒っていうのがまた珍しくてねえ。『どうして日本のお酒なんですかぁ〜』ってエリザベートちゃんには怒られるかもしれないけど」
「お酒とチョコレート……これ、全部くださいです」
 明日香はボンボンを買い占めると、どこか暖かい場所を探し始めた。

「えっ……何これ、自分……女の子になってる?!」
 ピンクの長い髪は緑色で……何より、胸がある。
「…………」
 鏡を見ると、ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)であった筈のその姿はドヴォルザーク作曲 ピアノ三重奏曲第四番(どう゛ぉるざーくさっきょく・ぴあのとりおだいよんばんほたんちょう)(通称、ドゥムカ)になっていた。
「ドゥムカさんドゥムカさん!」
 慌ててドゥムカを探し回るドゥムカ。
(ケイラがやけに騒いでいるな……)
 忙しないその様子に、マラッタ・ナイフィード(まらった・ないふぃーど)は何事かと首を傾げた。
(ドゥムカを探しているようだが……奴の事だ、大方何処かで昼寝でもしているんだろう)
「うー、どうしよう、どこに行っちゃったのかな……。昨日、実を貰った時にピノさんも一緒にいたから、もしかして会いに行ったのかな?」
(……まあ、可能性の1つとしてはあるだろうな)
 ドゥムカは黙っているマラッタを振り返り、言った。
「ねえマラッタさん、一緒に蒼空学園に行ってくれない?」
「それは構わないが……」
 マラッタは立ち上がると、さっきから思っていたことを遅まきながら口に出した。
「……ところでケイラ、なぜドゥムカの体なんだ?」
「知らないよ! 何か変なもの食べたのかなあ……」
(果実を食べたと自分で言ったばかりじゃないか……大方、それが原因だろう。ならば……)
「ケイラ、とりあえずその実を、もう一度食べてみるのはどうだ?」
「え? 何で?」
「…………」
 マラッタはきょとんとするドゥムカを残して、歩き出した。
(ドゥムカがどうなっているのか……、興味があるといえば、あるからな)