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サンタ少女とサバイバルハイキング

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サンタ少女とサバイバルハイキング
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第2章 久しぶりと、初めまして。


 その頃、ハイキング参加希望者が集まり始めた山麓では。
「どう? 準備は進んでる?」
 季節外れのミニスカサンタ、フレデリカ・ニコラス(ふれでりか・にこらす)が、ハイキングのバックアップを申し出てくれた伽羅達の様子を見にやってきた。
「おぉ! サンタクロースのフレデリカ・ニコラスが姿を見せました。さっそく話を伺ってみましょう」
 ミヒャエルは、意気揚々とフレデリカにマイクを向けた。
「おはようございます。さっそくですが、本日の意気込みを聞かせてもらいたい!」
「意気込み? んーと、皆で楽しく『テッペン制覇!』…とか?」
「……いや、『テッペン』というのはいささかイメージが」
 ミヒャエルは言い淀んだが、
「いいです! とてもいいですよ、その笑顔!!」
 アマーリエがよしとした事に反論する気力は、とうの昔に捨ててきた。
「あれ? 地球人って頂上の事、そう言うんだよね?」
 完全に間違いとは言いきれない。ミヒャエルがどう説明したものか考えていると、
「サンタちゃーんっ!!」
 こちらへ走って来た蒼空学園の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がフレデリカに抱きついた。
「クリスマスぶりっ! 元気だった?」
 笑顔全開で訪ねてくる美羽に、フレデリカも笑顔で応える。
「うん! そっちも元気そうだね。あの時のくまさんも元気?」
 美羽は、それがクリスマスの日にフレデリカに見せたくまのぬいぐるみの事だと気づいた。
「うん、元気だよっ! 今日は、誘ってくれてありがとね。あ、そうだ。コハク、撮って!」
 美羽はフレデリカの腕に抱きつき直し、カメラを持つパートナーのヴァルキリー、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)に向かって、ピースサインをして見せる。
「ほらほら、サンタちゃんも笑って! はい、チーズっ☆」
 カシャ。という音が、コハクの持つカメラから聞こえた。
「美羽、撮られる人が先に掛け声かけてどうするんだよ」
 コハクはそう言いながらも、美羽のタイミングでバッチリ撮影できた自分がなんとなく気恥ずかしかった。
 そこへ、百合園のメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)、そのパートナーの剣の花嫁のセシリア・ライト(せしりあ・らいと)、同じく英霊のフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が、加わった。
「フレデリカさん、お久しぶりですぅ」
 メイベルが再会を喜び、顔をほころばせる。
「お誘いありがと。ハイキングにはいい季節だよね!」
 セシリアは3人の中でもいちばん張り切っているようだ。
「ハイキングという言葉の範疇に治まるとよろしいのですけど」
 ちょっと心配に思いながらも、フィリッパがにこやかに言った。
 3人は長袖のシャツに色違いの長ズボンという出で立ちで、準備された装備からも、山に登る心構えが出来ている事が分かる。
「わぁ、皆で来てくれたんだ。ありがとう! 楽しいハイキングにしようね!」
 フレデリカは3人と手を取り合って再会を喜んだ。
 一方、登りやすさを重視した服装と、万が一の時の道具にこだわった仕様で臨むのは、同じ百合園生のミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)だ。
「久しぶりっ! あたしも手伝うから、みんなで頑張って頂上目指そうね!」
「うん。この前は、手伝ってくれてありがとう。今日もよろしく!」
 ミルディアとフレデリカはがしりと熱い握手を交わした。
「よっ! 久しぶり! 俺も参加するぜ。よろしくな!」
 蒼空学園のトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)もフレデリカを見つけ、軽く片手を挙げて挨拶する。
「トライブさん、あれから、背中のケガ大丈夫だった?」
 心配で顔を曇らせるフレデリカに、トライブは何の問題もないと、笑顔を見せた。
「あ、サンタさんがいるの!」
 茶色のメイド服に登山用具を身に付けた機晶姫の朝野 未羅(あさの・みら)が、フレデリカに駆け寄った。
「えへへ、クリスマスはプレゼント、ありがとなの。今日は、サンタさんと一緒にハイキング出来てありがとなの!」
 無邪気にはしゃぐ未羅の頭を、フレデリカがよしよしと撫でる。
「うん、私も一緒にハイキング出来てうれしい!」
「あたしも、またフレデリカさんと会えて嬉しいよ」
 ようやくパートナーの未羅に追いついた蒼空学園の朝野 未沙(あさの・みさ)が、未羅と色違いの紫を基調としたメイド服姿でフレデリカに笑顔を向けた。
「未沙さん、久しぶり! 元気そうでよかった!」
 フレデリカと未沙が再開を喜ぶ中、黒いメイド服を着たもう一人のパートナーである魔女の朝野 未那(あさの・みな)は、きょろきょろとあたりを見回し、乗って来たトライポッド・ウォーカーで山に入るのを諦めなければならない現実に、ため息をついた。
「運動は余り得意ではないのですけどぉ、頑張って付いていきますぅ」
 そう言いながらも、手は名残惜しそうにトライポッド・ウォーカーを撫でている。
「あっ、あのっ!」
 意を決した様にフレデリカに声を掛けたのは、同じく蒼空学園の浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)だった。
「翡翠さん、来てくれたんだ! 元気だった?」
 フレデリカに名前を呼ばれ、感極まって動けなくなる翡翠を、パートナーのヴァルキリー、北条 円(ほうじょう・まどか)が支えて気遣う。
「ほら翡翠、渡したい物があるんでしょう?」
「うん。……あ、あのっ!」
 翡翠は円に促されるように、緊張した足取りでフレデリカに近付くと、特製珈琲の入った水筒を勢い良く捧げた。
「しゅ、修行、御苦労様ですっ!」
「え? あ、うん」
 フレデリカがためらいがちに水筒を受け取ると、
「あ、ありがとうございますっ!!」
 ぶんっと音がなりそうなほど頭を下げて、翡翠はその場から走って逃げた。
「えっと、お礼を言うのは私の方…だよね?」
 びっくりしているフレデリカと翡翠の様子に苦笑しながら、円がフォローを入れる。
「ごめんなさい、あの子、本当にサンタクロースが大好きみたいで。それ、一生懸命用意してたすごく美味しい珈琲なの。あとで飲んであげて」
「もちろん。いただきます!」
 フレデリカは、翡翠の水筒を大事に胸に抱きしめた。
 その胸を狙う視線が、フレデリカとの距離を測っていた。
「フレデリカちゃん、久しぶりっ!」
 パラ実の葛葉 明(くずのは・めい)が、サンタ服の胸元目がけて明るく挨拶すると、フレデリカは頬を少し赤くしながら、久しぶりと返した。クリスマスに明から寄せ書きを貰った時、大泣きしてしまったのがまだ恥ずかしいらしい。
「今回は、きっちり参加させてもらうよ!……やり残した事もあるしね」
 そう言って明が不敵な笑みを浮かべた事に、近くにいた未沙が気付いた。
「奇遇だね、あたしもだよ」
 2人は通じあうものがあったのか、それでいてお互いを牽制するように、ふふふと不気味な笑いを交わした。
「ねぇ、それって、訓練……?」
 パラ実の白菊 珂慧(しらぎく・かけい)が、ぼんやりとフレデリカに尋ねる。
 フレデリカは、クリスマスパーティで彼が書いていたスケッチを思い出しながら、珂慧の問いに首を傾げた。
「訓練って、なにが?」
 いまいち会話の噛み合わない2人に、珂慧のパートナーの機晶姫、クルト・ルーナ・リュング(くると・るーなりゅんぐ)が橋渡しを務める。
「彼は、あなたの服装で山に登るのは大変でしょうから、その衣装でいること自体がサンタクロースの訓練なのかと聞いているんだと思います。」
「ああ、なるほど。でも、別に大変じゃないよ? 動きやすいし」
 微笑むフレデリカに、珂慧はふぅんと頷き、クルトはそうですかと無難な答えを返した。
「フレデリカさん、お久し振りです~」
 イルミンスールの神代 明日香(かみしろ・あすか)も、フレデリカと手と手を取り合って再会を喜んだ。
「ほんと、久しぶり! 元気だった?」
「元気です~。今日もご一緒させていただきますねぇ~」
 明日香の言葉にフレデリカはうんうんと頷く。
「女の子にはちょっぴりきついかもしれないけど、サンタクロースだって出来たんだから、きっと頑張れるよ! 一緒に『テッペン』目指そうね!」
 いくつか気になる台詞があったが、明日香は頑張ると頷いた。
「フレデリカさん、久しぶりだね」
 空京大の如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が声を掛けると、フレデリカが笑顔を向ける。
「正悟さん、久しぶり! ツァンダではすっごく助かったよ。ありがとう!」
 正悟の後ろに隠れるようにしてフレデリカを見ていた百合園の川上 涼子(かわかみ・りょうこ)は、本当にサンタさんはいるんだと感動しながら、そのサンタさんに親しげに話しかけられている正悟を尊敬のまなざしで見上げた。
「あ、そうだ。紹介します」
 視線に気づいた正悟が、そっと涼子の背を押し、フレデリカの前に導く。
「友人の川上 涼子さんです」
 涼子は正悟の手の温もりとフレデリカの視線に胸をドキドキさせながら、ぺこりと頭を下げた。
「はっ、初めまして! お兄さんから、クリスマスの時のお話を聞いて、私もいろいろお話したくて来ちゃいました。よろしくお願いします!」
「初めまして。よろしくね!」
 フレデリカにそう言われた涼子は、正悟の顔を見上げ、挨拶を上手くやれたかと目で尋ねる。
 正悟が微笑んでうなずき、優しく涼子の肩に手を置くと、涼子は今度こそ安堵の笑顔を見せた。
「ねぇ、フレデリカって、人づてに聞いた話だとサンタクロースなんだって? 道理でサンタのコスチュームなんだね!」
 蒼空学園の芦原 郁乃(あはら・いくの)が明るくフレデリカに話し掛けるが、フレデリカはじっと郁乃の顔を見ている。
「えっと、キミとは…初対面、だよね?」
「うん、そうだよ!」
 郁乃の返事に、フレデリカは恩人の顔を忘れたわけではないのだとほっとしながら、ぎこちない笑みを浮かべた。
「初めまして。ハイキング、楽しんでね」
「あ、……うん。」
 見掛けとはうらはらに、人見知りをするらしいフレデリカは、ろくに郁乃の顔を見ることもせずに手を振って行ってしまった。
「どうしました、主」
 郁乃のパートナーで魔道書の蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)が、考え込む郁乃の顔を覗き込む。
「うん、……なんか、もっと明るく話しかけてくれる、気さくな人だと思ってたんだけど」
 思い描いていた反応が返ってこなかったため、郁乃はいささか戸惑ってしまった。
 フレデリカを見れば、やはり旧知の人達に見せる笑顔は、先ほど自分に向けられたものより楽しそうに見える。
「ちょっと、想像してた人と違うみたいだわ」
「私が初めて会った時も、あんな感じだった」
 通りすがりに郁乃の言葉を耳にしたクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が、戸惑う郁乃に声を掛けた。
「だが、すぐに仲良くなれるだろう」
 クレアの言葉に、郁乃のしぼみかけた心がまた膨らんでいく。
「そうかな? そうよね! よし、私、頑張る!」
 奮起した郁乃は、同行のパートナー達を連れて、再びフレデリカの元へと向かった。
 クレアは静かに微笑み、自分もフレデリカの元へ歩いて行った。