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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

リアクション


・因縁1

 
 第四ブロック。
 位置的には、第一ブロック第二層の下のようだった。なぜ番号が違うかの理由は、壁を見れば明らかだった。
 第一から第三ブロックは、五千年前のものとは思えないほど綺麗であった。だが、第四、第五ブロックは一部が朽ちていたりという状況だった。
「ここにきて、ようやく現れましたね」
 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)が機甲化兵の姿を捉えた。数は三体と少ない。
 まずはサンダーブラストで、敵の動きを鈍らせる。
 その隙に、遠野 歌菜(とおの・かな)が機甲化兵に接近、轟雷閃をねじ込んでいく。敵の攻撃は超感覚を使用し、即座に反応。一体を確実に葬った。
「んーっと、ここは節約節約っとぉ……」
 後方から佐々良 縁(ささら・よすが)が弾幕援護を行う。機甲化兵の強さはヒラニプラで実感している。今回は敵の数が少なく、こちらの人数や装備を考えれば優勢だ。
「これで、どうだ!」
 七枷 陣(ななかせ・じん)もサンダーブラストと雷術を機甲化兵に打ち込んでいく。遙遠と彼の二人が敵の動きを封じている間に、歌菜や東條 カガチ(とうじょう・かがち)が直接攻撃で機甲化兵を叩きのめす。
 敵を一掃するのに、さほど時間は要さなかった。
「ふう、制圧完了っと」
 機甲化兵は全て沈黙した。体内の人工機晶石も破壊するか、抜き取るかしたために復活する事はない。
「だけど、これで全部とは限らないよね。今のうちに、回復した方がいいと思うよ」
 ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)が言う。
 機甲化兵自体、本来なら決して弱い相手ではないのだ。今は相手が少なかったから楽に倒せたようなものだが、油断すると危険である。
「これまでの遺跡と同じだったらまだ強い敵がいるはず、ですから」
 歌菜が呟き、SPタブレットと愛の宿木で回復を図る。
 そうして、一息つこうとした時だった。
「――近い!」
 椎名 真(しいな・まこと)が超感覚で、物音を聞き取った。何者かが歩いてくる音だったが――
「真、向こうには近藤さん達がいるはずだ」
 原田 左之助(はらだ・さのすけ)もまた殺気看破を行使したため、敵の存在を感知していた。
「伊東か、芹沢か……とにかく、様子を見に行きたい」
「……俺も付き合うよ、兄さん」
 二人が移動しようとすると、
「俺も行くよ。鴨ちゃん、かもしれねえんだろ?」
 殺気看破にかかる以上、相手は人間の可能性が高い。カガチとしては、前に鴨と一騎打ちをして敗れて以来、彼の事が気にかかっているらしい。
 彼の仲間達、SSLの面々もまた、共に向かう事になる。

            * * *

「まったく、なんでわたくしがまたこんなところに……」
 日堂 真宵(にちどう・まよい)は、ぼやいていた。
 イルミンスールで発見した『魔法理論の研究』を元に、自分で応用しようと考えていたのだが、そこをパートナーの土方 歳三(ひじかた・としぞう)に引っ張り出されたからだ
「実地で験せと言われても、敵もいないし」
 魔力汚染もなく、魔法が使えそうだと思ったものの、それを使う機会もない事が、不安を煽っているようでもあった。
「なに、機会ならあると思うぜ」
 尋常ならざる殺気を、土方は感じ取っていた。
「歳、この気配は……」
「この前のヤツと同じ――伊東だ」
 新撰組に対して敵意を向けている段階で、相手は自ずと明らかになる。
「……伊東甲子太郎、か。こないだの芹沢とまた違うタイプみたいだが、どんな人なんだ、近藤さん?」
 マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)近藤 勇(こんどう・いさみ)に尋ねる。
「人望と徳のある人物……だった」
「策士だ。危険な男だぜ」
 近藤と土方では意見が分かれていた。
 そして彼らの前に、その男は現れた。二十代中ごろの、黒いスーツに実を纏った青年が。
「かつての局長と副長がお揃いとは、私も運がいいものです」
 声そのものは穏やかなものだった。だが、その目は冷たく、視線だけで射殺そうとするかのようである。
「近藤さん、土方さん!」
 そこへ、原田が姿を現す。
「おや、原田君もいるとは。なかなか面白い顔ぶれです」
「……伊東」
 元、新撰組だった者達同士の邂逅。原田は、キッと伊東を睨みつける。土方と伊東が争った事は、この三日のうちに彼も知ったのである。
 すっと、手を伸ばし、逸る土方と原田を抑える近藤。
「伊東君、まずは話がしたい」
「話、ですか」
「俺は歳や伊東君みたいにあれこれ難しく考える方じゃないが……」
 近藤が静かに問う。
「今、君は何のために戦っているんだ?」
 伊東が冷笑する。
「何のため、ですか。しいて言うなら、私自身の目的のため、ですよ」
「誰と繋がっていやがる。お前の事だ、ろくでもない相手とつるんでるのを隠してるんじゃあねえのか?」
 土方が挑発的な態度で投げかける。
「かもしれませんね。ですが、利用できるものは利用するまでですよ、人でも、物でも」
「目的、とは何だ?」
 近藤が聞く。
「教える筋合いはありませんよ。ただ私はそのためにも、あの方の力を手に入れる必要があるのですよ――理にすら触れる力を」
「またお前は相容れない連中と組んでるのか? その力を手に入れるまでは媚を売って、手に入れたら全部始末する、そんな所か?」
「ご想像にお任せしますよ。それに、これ以上話していても、無駄ですよ」
 刀を抜こうとする、伊東。

――それがお前の理念か、伊東。

 そこへ、新たな声が響き渡る。
「俺を差し置いてこんなとこで話を進めてるたぁな」
「おや、芹沢さんじゃないですか」
 芹沢 鴨が鉄扇で扇ぎながらゆっくりと歩いてくる。だが、片腕を吊り、包帯を巻いた姿は、痛ましい。
 三日前の傷は簡単には癒えないようだ。
「あひるさんだー!」
 その姿を見るなり、柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)が全力でタックルをかます。が、それを簡単に受け止める。
「この前の嬢ちゃんじゃねぇか。悪ぃが、話は後だ」
 名前を間違えている事はスルーだった。
「伊東、お前が始めっから旦那の事なんざ考えてねぇのはよく分かった」
 芹沢は伊東に対し、静かに憤慨していた。
「その身体で何が出来るというのですか? 全力の貴方には到底及びませんが、片腕で私に勝とうというなら――舐められたものですね」
 既に満身創痍の芹沢では、おそらく伊東には及ばない。
「だが、いくらお前とはいえ、俺だけならまだしも、コイツらも一緒に相手には出来ねぇだろ」
「それを、油断だと言うのですよ」
 その時、芹沢に向かって斬り込む姿があった。
「ちっ!」
 鉄扇で咄嗟に受け止める。
 刺客は、額に傷のある若い男だ。
「ち、芹沢、伊東ときて今度はお前かよ!」
 土方が顔を歪める。近藤、原田も同様だ。
「ようやく来ましたか――平助」
「すいやせん、伊東さん」
 元新撰組八番隊組長、藤堂平助その人だった。
 この場にはもう一人いた。その人物が、彼をギリギリまで気付かせずにここまで連れてきたのだ。
「まさか、転送に妨害が入るとはね。でも、彼は送り届けたよ」
 傀儡師だ。和装の少女の姿がそこにあった。
「まあ、君達二人なら僕抜きでも問題はないよね。ちょっと、依頼主の所へ向かわないと」
 傀儡師の姿が消えようとした。夢幻糸で自分の姿を覆い隠そうとしているのだ。
「逃がしません!」
 小尾田 真奈(おびた・まな)が傀儡師へと近づいていく。
 相手が傀儡師だというのは、ヒラニプラの遺跡のPASDメンバーからの報告で知っていた。その姿も。
 槍型の魔力融合型デバイスを起動し、夢幻糸を掻き分け、傀儡師を穿とうとする。
「先を急がせてもらうよ」
「えっ――」
 真奈の手にあった試作型兵器が、爆発した。
「真奈!」
 陣が駆け寄る。魔力融合型デバイスの動力源は、人工機晶石だ。それを傀儡師が操り、暴発させたのである。
「あの、女!」
 だが、既に夢幻糸も、傀儡師の姿もない。
 敵は藤堂平助と伊東甲子太郎の二人だ。
「全力の出せる私達二人と、かつての力を持たぬ君達では、差は歴然です」
「は、かつての力も兼定も今の俺にはねえよ。ない物強請りをしても仕方なかろうさ。だが、この『誠』の一文字は何時如何なる時もある、それで結構!」
 持ってきていた、新撰組の羽織を翻し、それを纏う土方。
「うむ……気組こそ天然理心流の根本。足りない技半分などそれでどうにでもなるというものよ」
 近藤刀を構える。彼は常に羽織っているのだ。
「誠の意味、それは世界が変わっても変わらんねぇよ」
 原田も羽織を纏う。
「元十番隊組長、原田左之介――いくぜ」
 槍を構え、攻撃体勢をとる。
「油断してんのはどっちだ? 壬生の狼を舐めんなよ、伊東、平助」
 不敵に笑う、芹沢。

 壬生浪士組対御陵衛士の戦いが、幕を開ける。