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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

リアクション


・番人


 パラミタ内海。
 中央制御室に向かわんとしている最後のグループは、途中で下層へ降りる組と分かれ、第三ブロック第二層を探索していた。
「この近くに何かありそうな気が……ん、この部屋は」
 支倉 遥(はせくら・はるか)がトレジャーセンスを頼りにブロック内を調べていき、ある部屋に入り込んだ。
「武器庫か、ここは?」
 パートナーのベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)が口を開く。
 室内には、整然と馴染みの薄いものが並べられていた。ワーズワースの試作型兵器、魔力融合型デバイスである。
「そのようですね。これが、例の兵器ってわけですか」
 遥はまだ現物を自分では見た事がなかったので、手近にあった物を手に取り、感触を確かめる。
「起動させる事は出来そうですが、これまでの報告だと一度エネルギーが切れると終わりみたいなんですよね」
 過去『研究所』とヒラニプラで魔力融合型デバイスが使われているが、いずれも使用したものはエネルギー切れで使えなくなっている。人工機晶石の交換は、実戦中にはまだ行われた試しがない。
「まあ、とりあえず持てるだけ持っていきましょう。貴重な物ですからね」
 遥がパートナー達と共に、魔力融合型デバイスを回収する。余分に持っていくのは、自分達が使う事の出来る刀型、銃型だ。
 それらを確保する者は他にもいた。
「……ここにもあったんですね」
 水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)だ。ヒラニプラでその力を目の当たりにした彼女には、これを放置しておく理由がない。
 強敵が現れた時、これがあればどれだけ有利になる事だろうか。
「後の事を考えたら、必要になる……でしょう」
 パートナーの鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)が使用する事を念頭に入れ、刀型を持ち出す。
 そして、それを使う機会は、思いのほか早く訪れる。

 第二ブロックに入り、一つ下の階層に降りた。
 同じフロアには、他のグループの者達もいるが、それぞれ置かれている状況は異なる。
「エミカ殿達が、機甲化兵の雛型と遭遇したようです。こちらの近くにも敵がいるかもしれません」
 小次郎が警戒を促す。
 彼が受けた連絡により、第二ブロックの構造はこちらのグループも把握した。そのため、第四層へと向かう事にする。
 下層へ至る階段を探しながら、通路を先へ先へと進んでいく。
「電波に異常はなし、か」
 伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)が携帯ラジオ電源を入れ、ノイズが発生するかを確かめていた。電波に異常があれば、すぐに分かるように。
 傀儡師は電波で機晶姫や機甲化兵を操るという。ならば、電波の異常はその存在を示す一つの手掛かりとなる。
 その時、
「伏せて下さい!」
 小次郎が禁猟区により、危険をいち早く察知した。
「――ッ!!」
 頭上を掠めたのは、収束された光条であった。ビーム、のようなものである。
 かつて、雛型機甲化兵・ドゥーエも同じような攻撃を使っていたが、あちらは拡散しながら放出される――短・中距離上の相手を殲滅するためのものだった。
 今回のは同じような波動砲でも、収束された――遠くの相手を狙撃するタイプのものだった。
「あれは……」
 攻撃の主の正体が明らかになる。
 これまでの機甲化兵に比べ、一回り大きい機体だった。その最たる理由は、バズーカ砲のようなものが腕と一体化しているからである。装甲にもかなりの厚みがあるようだ。
――雛型機甲化兵・チンクエだ。
「先に進むには、あれをどうにかしなければいけない……という事ですか」
 敵がいるのは、通路上だ。しかも向こうから動く気配はない。ただ、下の階層へ行くためには、どうしてもそこを通らなくてはならないようである。
「長距離型なら、接近戦に弱いはずです」
 小次郎の指摘により、敵に接近して叩く事にする。
「九頭切丸!」
 最初に動いたのは、睡蓮と九頭切丸だ。
 敵の攻撃は先程の長距離砲だけではないだろう。そして、その予想は当たった。
 機甲化兵の装甲が開き、そこからミサイルが打ち出されてくる。睡蓮が氷術でミサイルを防ぎ、九頭切丸が轟雷閃で打ち落とす。
「私達もいきますよ」
 遥達も敵へと向けて動き出す。その際、屋代 かげゆ(やしろ・かげゆ)が確保した試作型兵器を手渡した。
 すぐに、彼女は保管用に取っておいたものを守るべく、安全圏へと一時離脱する。
「また来るか」
 前衛として、距離を詰めている藤次郎正宗が声を漏らした。
 敵の砲口が遥達を捉えていた。光が射出口に集っていく。それが収束されるまで、敵は無防備だ。
 反動を抑えるため、機甲化兵がしゃがみ込んでいる。
 発射される前に叩くべく、砲口の真下へと入り込もうとする藤次郎正宗。射程を考えれば死角であった。
 だが……
「!?」
 光が収まり、代わりに繰り出されたのは――衝撃波だった。
 その反動で、機甲化兵はわずかに後退する。それは近くのものを遠くまで飛ばす――自らの適正射程に合わせるためのものだった。
 藤次郎正宗が弾き飛ばされる。砲口の近くにいたのが、今回は悪かった。
「攻撃が単調ではないみたいですね。ならば……」
 遥とベアトリクスが簡易チャフカプセルを機甲化兵の周囲に投擲する。それらは全て当たらず、ちょうど敵を囲うように散布された。
 もし、傀儡師が操っているのであれば、これで動きを抑えられるはずだった。ところが、
「変化なし、か」
 機甲化兵に異変は起こらなかった。
「傀儡師ではないとなると――雛型ですか」
 六体の雛型だけは別格、というのはPASDのデータベースで判明している事だった。
(じゃあ、あれもきっと……)
 その単語に反応したのは、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)だ。イルミンスールで彼女は雛型・セイと遭遇している。その時は歯が立たなかった。
(今度は、負けない!)
 雪辱を果たすため、チンクエに挑むリカイン。
 雷電属性攻撃を持たない彼女にとっては、直接の破壊は不可能に近い。だが、勝機がないわけではなかった。
 パワーブレスで自らを強化し、超感覚でミサイルの軌道を読みながら接近していく。敵は射撃体勢のまま構えているが、武器の形状や機体の構造を見ると、バランスを崩したら起き上がれないように思えた。
 敵の衝撃波も利用した上でなら、それを狙う事も出来そうだった。
 リカインが砲口の手前まで近づくと、案の定それが彼女の身体を襲おうとした。予想通りだった。
 ドラゴンアーツによる攻撃。
 それによって衝撃波を相殺し、その隙に敵の機体を叩こうとする。反動が起こる様子は見ていたので、必ず無防備な状態が生まれると思われたのだ。
 機甲化兵の体勢を崩そうと攻撃を仕掛ける。しかし、
「く……硬いッ!」
 これが通常の機甲化兵だったら、間違いなくバランスを崩して倒れていただろう。だが、目の前の雛型はびくともしない。
 重火器類と装甲の重さが合わさり、他の機体よりも重力があるのだ。敵はほとんど移動はしないが、簡単には崩れない。
 ここにいる機甲化兵はまさしく、施設を守るガーディアンなのだ。
「近づけなくとも、これなら……」
 遥が銃型の魔力融合型デバイスを起動する。攻撃属性は炎熱、熱線銃よりも強力で、それは青白いレーザーとなって敵へ向かって発射された。
 だが、装甲に焦げ目がついた程度だった。遠過ぎたのだ。もう少し近いか、あるいは敵の装甲が薄ければ十分な効果があっただろう。
 その間にも、機甲化兵による砲撃の準備は整っていた。
 衝撃波を撃つ際に、エネルギーは一度リセットされているように見えたが、放出されない限りは内部に留まっているようだ。
 遥達はまだギリギリ避けられるかもしれない。しかし、より前で攻撃を仕掛けようとしている三人には厳しい。
「何とか……しないと」
 睡蓮が九頭切丸に指示を出した。彼は手に魔力融合型デバイスを持っている。
 光の奔流が襲う。
 それを、九頭切丸が刀型のデバイスで斬り裂いた。エネルギーは綺麗に割れ、壁に激突する。
 それでも、壁には傷一つ付かない。敵が強力な攻撃を仕掛けられる理由はそこにあるようだった。
「これがあれば……いけます!」
 幸いな事に、武器庫を経由したおかげで試作型兵器を使える者が多い。

 ここから、反撃が始まる。