天御柱学院へ

なし

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蒼空学園へ

蒼空とプールと夏のお嬢さん。あと、カメ

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蒼空とプールと夏のお嬢さん。あと、カメ
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リアクション

 SCENE 04

 とにかく本日の影野 陽太(かげの・ようた)の機動力は凄まじい。
「リクライニングチェアのセッティング終わりました!」
 という言葉が終わらぬうちに、もう白いサイドテーブルを組み立て、よく冷えたトロピカルドリンクを置いている。グラスに浮いた雫が、太陽の光を反射して輝いていた。
「テーブルの設定完了です。ドリンクはご希望通り、グァバベースのものをご用意しておりますっ!」
 さっ、とひざまづき、女王でも迎えるかのようにその人を待つ。
 決して大袈裟な表現ではないのだ。『女王でも迎えるかのように』というのは。
 なぜって、陽太が待つその人は、
「ご苦労様。でも、ドリンクの下にはコースターくらい敷くのがエチケットよ」
 おお、その人こそは、誰あろう蒼空学園理事長兼校長兼生徒会長御神楽 環菜(みかぐら・かんな)なのだから! (環菜が陽太の想い人であることは、懸命な読者であればすでにお気づきであろう)。
「すみませんでしたーっ!」
 環菜の言葉を聞くなり陽太はマッハ級の速度で飛び出し、にわかには信じがたい速度で戻ってテーブルを拭くや、イルカの絵の描かれたコースターを敷いてグラスを置いたのである。
「よろしいですか、会長っ」
「上出来」
 環菜は悠揚に笑んで両肩にかけていたガウンを脱ぎ、陽太に手渡した。
(「ああ……」)
 そこに現れた眩いもの、つまり環菜の水着姿に陽太は圧倒される。
 なんと美しいお姿、まっ白なビキニ姿だったのである。純白素材の飾り気のなさが、環菜のスタイルの良さを効果的に引き立てていた。彼女の両脚はすらりと長く、二つの膨らみは『つん』と上を向き、瑞々しく、雪のような肌にも一点の曇りとてない。
「少し、リクライニングを倒してもらえる?」
 腰掛けた環菜が視線を向けたので、
「ただちに!」
 と陽太はこれを調整した。きゅっとしまった環菜のヒップが目の前だ。
(「俺は……俺は、このチェアになりたいですっ!」)
 胸の鼓動が止まらない。
「そのような雑用はわたくしが……」
 こき使われる陽太を見かねたか、目付役のルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)が声をかけるも、
「お気遣いなく。俺、好きでやっているんです」
 と答える陽太は、びっくりするくらい爽やかな笑みを呈していた。
「それならいいんですけど……」
 なお、ルミーナは水着を着ず、普段の格好のままだ。
 陽太はその有する能力をフル動員して根回しを行い、首尾良くこの日の環菜の護衛役に加えられていた。そこまでは良かったものの、いざこの日が近づくと、もう不安と緊張でガチガチになっていたのである。昨夜など、目がギンギンに冴えてほとんど寝られなかったくらいだ。それでも本日の彼は絶好調、環菜の命令をキビキビとこなしているのだった。
(「さて……ここからです」)
 環菜の雑用係として、一日そばにいられるだけで陽太は幸せだと思っている。だけど彼の内側からは、このままじゃだめだという声も聞こえているのだ。勇気を出せ、と陽太の心の声が言う。勇気を出して、もう一歩彼女に近づくんだ、と。
 やがて頃合いを見計らって、陽太は恐る恐る環菜に切り出した。
「あ、あの……か、会長……」
 心臓は口から飛び出す寸前、血はぐつぐつ沸騰し、頭はダイナマイトみたいに爆発しそうだ。
「どうかした?」
 ドリンクを飲み終わった環菜が振り返り、サングラス越しの視線を投げかけてくる。
 だめだ、やめよう……と、弱気な声が陽太に囁く。しかしそれを、もう一つの声が押さえ込んだ。そして彼を大胆な行動に走らせたのだ。
「じ、時間が空いたら……俺とデ、デートしませんか?」
 言った! 言ってしまった! もう引き返せないぞ!
 しかし、
「何言ってるの」
 抑揚のない声で環菜は答えたのである。
(「ああああああああああーー!」)
 天の一角から雷撃が落ち、脳天に突き刺さったような気がした。陽太は目の前が真っ暗になる。
 しかし、
「私はとっくに、そのつもりだけど?」
 環菜の口元には笑みが浮かんでいたのだ。
「一泳ぎしましょうか、一緒にね。その後は屋台でも行ってみる?」
 環菜は立ち上がると陽太の腕をとった。夢ではない……信じられないが現実だ。
「は……はいっ!」
 地獄から天国へ、陽太の心は龍と化して天空へ昇っていった。
「あの、わたくしは……」
 ルミーナが追いすがろうとするも、環菜は軽く視線を返して告げた。
「しばらく役目は解くわ。ルミーナも楽しんでらっしゃいな。水着、持ってきているんでしょう?」
「水着ですか? 会長がおっしゃるから、一応……」
「デートを申し込んできた男の子いたでしょ? その子と遊んできたらいいじゃない。ほら、更衣室はあっちよ」
 と有無を言わせず命じて、陽太と共に歩き出す。
 環菜の腕が自分の腕と絡んでいる――この奇蹟に震えながら、陽太は目を潤ませて言うのだった。
「会長の水着姿、素敵すぎてドキドキが治まらないです」
「ありがと、あなたもたくましいわよ。でもね、陽太」
 サングラスを人差し指でずらし、照れたような目を環菜は見せた。
「デート中くらいは、名前で呼んでくれる?」
「は……はいっ!」
 環菜様! と陽太は叫んだ。