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学生たちの休日4

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学生たちの休日4
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    ★    ★    ★
 
「ここでよろしいでしょうか」
「ああ、頼む」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)に確認して、重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)が、担いできた石碑をパラミタ内海が望める丘の上においた。しっかりと地面に固定して、この先ずっと倒れたりしないようにする。
「なんだ、お前たちも来ていたのか」
 背後に複数の気配を感じて、武神牙竜は振り返った。
「まあ、アルマゲストとして、みんな考えることは同じだったということだな」
 篠宮 悠(しのみや・ゆう)が答えた。他にも、久世 沙幸(くぜ・さゆき)たちと樹月 刀真(きづき・とうま)たちと如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が集まっている。
「人生には二つの悲劇がある。一つは心の願いが達せられないこと。もう一つはそれが達せられること。ジョージ・バーナード・ショーの『人と超人』からの言葉だ。十二星華を巡る戦いには多くの悲劇と心からの願いがあった。
死者に対してできる手向けは、生き残った俺たちが心の願いを叶えることだと思う。アルマゲストには大義名分はないが、助けられる命、守れる人々、やれることをやっていこうと思う。俺はエリュシオンと戦う。利用された多くの者たちの魂に報いるために。みんなの手を借りる時もあるだろう。そのときは、よろしくな」
 慰霊碑を前にして、武神牙竜が言った。
 アルマゲストとは、十二星華たちをサポートする目的で作られた集団だ。だが、その活動結果は、武神牙竜としては決して満足のいくものではなかった。ヒラニプラの南部の戦いでは、ジャレイラ・シェルタン(じゃれいら・しぇるたん)を救うことはできなかった。空峡では多くの空族が倒れ、ザクロ・ヴァルゴ(ざくろ・う゛ぁるご)は石化してしまっている。洗脳されていたとは言え、ティセラ・リーブラに率いられたキメラは多くの人々を傷つけ、蒼空学園では多数の生徒が襲われる事件が頻発した。そして、ここパラミタ内海でも、多くの海賊やモンスターが命を落とし、ジャタの森も深く傷ついたのである。
「ごめんなさい。もっと早く、もっと確実に動けていたら、笑顔で過ごせた人もいたはず。戦い以外に生きる道を見つけられた人だっていたはず。救えたのはほんの一握りの人たちだけ……。無力な私たちを許してください。そして、今は涙を流すことを……」
 慰霊碑に花を供えながら、リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)が涙を流した。
「未来が悲しみが終わる場所にするために。平和な日常を取り戻すために。 牙竜の決意と共にエリュシオンと戦います」
「これ以上、誰にも傷ついてもらいたくはない。特にチッパイには……」
「牙竜、本音が混じってる」
 武神牙竜がセイニィ・アルギエバに片思いなのを知っていて、リリィ・シャーロックが突っ込んだ。
 それを聞いて、重攻機リュウライザーは、ケンリュウガーの復活も遠くはないと心の中で思うのであった。
「戦いで死んだ人は、実力がなかったか運がなかったか……よ。生き残った者の糧になったの」
 一人そっぽをむきながら、真理奈・スターチス(まりな・すたーちす)がつぶやくように言った。
「マリナ……言いたいことは分からなくはないが、もう少し言葉を選んだ方がよいのではないか? 志半ばで倒れた人々にも最大限の敬意を払うのは、残されこの世界を託されたワタシたちが表すべき礼儀であろう」
 さすがに、隣にいたレイオール・フォン・ゾート(れいおーる・ふぉんぞーと)が注意する。
「マリナだって、嫌だったらついては来ないだろう。じきにデレるから、少し待ってやれ」
 篠宮悠が、レイオール・フォン・ゾートに言った。
「誰がデレるのよ、誰が。貴方たちは倒れた人の屍を踏み越える勇気もないのかしら? 死んだ人の死を無駄にしないためにも、私たちは半端なことはできないわ」
「そうだな。だからこそ、俺たちが強くあらなければならない。そして、そういう人々を守らなくては」
 真理奈・スターチスの言葉を聞いた樹月刀真が、自戒の意を込めて言った。
「アルマゲストはあくまで情報共有組織だった。それがここまで全員で行動できたのが奇跡だったよな。本来なら互いに敵対してるのも多かっただろうし。まだまだ、これからっていうことだ。そう、果たすべきことがある。まだ立ち止まれないんだ」(V)
 慰霊碑に酒を供えながら、如月正悟が言った。
「よし、では黙祷!」
 武神牙竜の言葉で、全員が一斉に目を閉じて慰霊碑に手を合わせた。
 長い沈黙の後、一同は目を開けた。
 一面に花が舞っていた。
 無数の薄紅色の花びらが、風花のように風に舞い、彼らの顔に、肩に、そして、真新しい慰霊碑の周りに降り注いだ。たちまち、丘の上が薄紅色の花の絨毯に覆われていく。
「遅くなりました……」
 舞い散る花の中、レビテートを使ってふわりと漆髪月夜が樹月刀真の前に舞い降りた。ついと、まだ花吹雪の舞う空を見あげる。
 つられるようにして、一同も空を見あげた。
 大きな翼を持つ影が、反転して帰っていく。
「来てくれたか……」
 樹月刀真がつぶやいた。
「ここまで来たのなら、降りてくればいいですのに」
 藍玉 美海(あいだま・みうみ)が、ちょっと不満そうに言った。
「でも綺麗だよ」
 久世沙幸がつぶやく。
「ああ、充分すぎる」
 武神牙竜は、海から吹きつける風にのって、まだ舞い続けている花吹雪を見て言った。
 
    ★    ★    ★
 
「じゃあ、約束していた模擬戦を始めましょうか」
「うん、刀真、始めましょう」
 樹月刀真と久世沙幸が広い場所で相対した。それぞれのパートナーは、後ろでそれを見守る。
「なんだなんだ、余興か?」
 持参したバーベキューセットで肉を焼きながら、如月正悟が言った。
「そういうのを始める前に、ちょっとみんな、これにサインしてくれないか」
 そう言って、何やら書類のような物を配り始める。模擬戦を始めようとした二人を始めとして、一同がちょっと困惑気味にその紙に目を落とした。
「おっぱい党入党申請書の用紙だ。さあ、書け、書くんだ皆! たっゆん好きも、ぺったんこ好きも入るんだ。この政党は、今にパラミタの第一政党になるからな! だいたいおっぱいについてプールで相当語ってたという話を聞いたぞ、今さらNOはなしだ、樹月、武神!」
「今は後だ。月夜、黒の剣を」
「あんっ、また……」
 樹月刀真が、背後にいる漆髪月夜へ手をのばした。むんずと、また事故を引き起こす。
「樹月、もはや入党拒否は世間が許さんぞ」
 如月正悟が叫んだ。正論である。
「ええい、今はそういう状況じゃない」
「そうだもん」
 放り投げた入党用紙を、樹月刀真と久世沙幸は、持っていた得物で一刀のもとに真っ二つにした。
「なんということを……。だが、用紙ならまだたくさんある」
「あ、わたくしはもちろん入党いたしますわ。もちろん、マッサージ大臣担当で」
 藍玉美海が、躊躇なくサインをする。
 その間に、樹月刀真たちは模擬戦を開始していた。
 投げつけた手裏剣を樹月刀真が切り払って叩き落とす間に、久世沙幸は一気に間合いを詰めて栄光の刀で斬りつけた。だが、剣を振る勢いそのままに、樹月刀真がブラックコートの端を振って久世沙幸の顔を打って、同時に斬り返そうとしてくる。海賊島でヴァイスハイト・シュトラントに食らった戦法を自分のものにしたものだ。
 間一髪身を沈めてなんとかそれを回避する久世沙幸に、樹月刀真が左手でつかみかかった。喉輪を決めて、締めつけるつもりだ。だが、彼がつかんだのは、久世沙幸の振り袖であった。空蝉の術にやられたのだ。
「当然、次に来る攻撃は……」
 樹月刀真は、光条兵器の破壊目標を敵の刀だけに設定すると、自らの身体に突き立てて背後を攻撃すべく黒の剣を逆手に持って振りかぶった。
「背中ががら空きだよ」(V)
 見透かされている久世沙幸が、予想通り樹月刀真の背後からブラインドナイブスを仕掛けようとする。
 どちらが先かという瞬間、横っ面に大量のゴム弾をまともに受けて、樹月刀真が吹っ飛んだ。
「月夜、何をするんだ!」
 地面に転がった樹月刀真の上から、今度はつららが降り注いだ。容赦なく樹月刀真の身体の輪郭に合わせて地面に突き刺さっていく。
「刀真、相手は女の子……セクハラは……撃つ!!」
「そうですわ。沙幸さんの裸を見てもいいのはわたくしだけです」
 藍玉美海の言葉に、樹月刀真と久世沙幸は、あらためて久世沙幸の姿を見なおした。すでに、他の男性陣は、久世沙幸をガン見状態である。
「ひゃう、いつのまに!?」(V)
 下着姿の久世沙幸が、思わずしゃがみ込んで叫んだ。空蝉の術で、身代わりに振り袖から何から全部脱いでしまったらしい。
「さあ、みんな、今こそ正直な自分の心を認めるんだ。この入党申請書にサインを……」
 如月正悟が、ここぞとばかりに叫ぶ。
「覚悟はよろしくて? 全員、氷づけですわー!!」(V)
 光術で男どもの視力を奪うと、ぶちぎれた藍玉美海は無差別に周囲へ氷術を撒き散らした。