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【借金返済への道】ホイップ奉仕中!

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第6章


 日が完全に暮れると、ホテルも観覧車もライトアップされる。
 かなり電気料金がかかっていそうだ。


 夜になってから観覧車に乗る人達が増えた。
 観覧車から見える夜景を狙ってのことだろう。

■□■□■□■□■

「ホテルにある観覧車って珍しいですよねっ! ホイップさん!」
 ホイップの手を取って、観覧車まで引っ張ってきたのはソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)だ。
「うん、確かに珍しいかも。えっと、観覧車に一緒に乗って話し相手になるって事で良いんだよね?」
「はいっ!」
 ホイップが確認をすると、ソアは嬉しそうに返事をした。
 観覧車の乗り場に到着した。
「いらっしゃいませ!」
 胸元のロケットを見ていた影野 陽太(かげの・ようた)がソアとホイップに気が付いて、元気よく声を掛ける。
「お2人様ですか?」
「はいっ!」
 ソアが答えると、陽太は回ってきたゴンドラの扉を開けると、2人を促した。
「足元お気を付け下さい」
 2人がゴンドラに乗りこむと陽太は扉をしっかりと閉めた。

 ソアとホイップは対面に座った。
「借金返済をがんばるホイップさんを見るのも久しぶりな気がしますね」
 2人きりの空間になると、ソアがさっそく切りだした。
「そうだね。ずっとバタバタしてたから……」
 ホイップは苦笑いした。
「最近までホイップさんは十二星華として色んな事件に関わっていましたからね……」
 ソアもしんみりと言う。
「うん……」
「そうそう! 十二星華といえば、マ・メール・ロアの決戦で無事にティセラさんを救うことができたのは、本当に良かったと思います! 私もホイップさんのお手伝いが出来て嬉しかったです」
「うん! ティセラが元に戻ってくれたのは本当に嬉しいよ!」
 えへへと2人で笑い合う。
「そういえば、あれからティセラさんには会ってるんですか?」
「たまにお茶を一緒にしてるよ」
「わあ! 素敵ですね!」
 ソアは自分の事のように喜んだ。
「あ、ホイップさん! 凄い景色ですよ!」
 丁度、一番上まで来たところでソアが観覧車の外の景色に目を奪われた。
 眼下には空京の街の明かりが煌めいていて、空には三日月が浮かんでいる。
 他愛もない話しで盛り上がり、時間はすぐに過ぎてしまった。

「いかがでしたでしょうか? 足元お気を付け下さい」
 陽太がソアの手を取り、降りるのを助けてから、ホイップにも手を差し出した。
「ありがとうございますっ!」
「ありがとう!」
 ソアとホイップはお礼を言い、ホテルの入口まで歩いていった。
「今日はありがとうございました! また一緒に遊んで下さいね」
 そう言うと、ソアはホテルの自分の部屋へと歩いて行った。

■□■□■□■□■

 観覧車の前ではしゃいでいる人達の姿がある。
「わ〜、観覧車だ! 大きい! マユ君、観覧車初めてだよね? 一緒に乗ろうよ!」
「いいのですか?」
 ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)に手を引いてもらっているマユ・ティルエス(まゆ・てぃるえす)早川 呼雪(はやかわ・こゆき)ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)の方へと振り向いた。
「ああ、行ってくると良い」
「では私も一緒に乗りましょう」
 呼雪とユニコルノの許可が下りるとファルもマユも凄く嬉しそうに笑った。
 今回、ユニコルノは普段の格好とは違うフリルやリボンの付いたカットソーにスカートを着ていた。
「そうだ、ホイップ。何か観覧車の中で食べられるような軽食と飲み物をお願いしたい。それと一緒に乗って給仕をしてもらえると助かる」
 呼雪は陽太と一緒に観覧車に乗る人の接客をしていたホイップに声を掛けた。
「えっと……抜けちゃって大丈夫?」
「大丈夫です!」
 ホイップは一緒に働いている陽太に確認をとると、ホテルへと一度戻り、すぐに食べ物や飲み物を持ってやってきた。
 ホイップがファルとマユに近づくとマユはユニコルノの後ろに隠れてしまった。
「ホイップちゃん、よろしく!」
「お久しぶりです。ホイップ様。あなたもホイップ様にご挨拶を」
 ファルとユニコルノに挨拶され、ホイップも返す。
 ユニコルノの後ろに隠れていたマユも少し顔を出した。
「……あ、あの……はじめまして」
「うん、はじめまして! 今日は宜しくね!」
 挨拶はなんとか出来たが、またユニコルノの後ろに隠れてしまった。
「コユキ、行ってくるね!」
 ファルが呼雪に手を振りながら乗ると、マユもそれを真似して乗る。
「行ってきます」
 ユニコルノは普通にゴンドラへと乗り、最後にホイップが乗った。
 呼雪は軽く4人に手を振ると、持ってきていたデジカメで4人の乗ったゴンドラを撮影した。

 乗ってすぐにホイップはバスケットに持ってきたお菓子や軽食、飲み物を広げた。
「お菓子ー! 全部美味しそう!!」
 目をキラキラ輝かせてファルがお菓子を覗きこんでいた。
 ユニコルノの横でマユもキラキラと目を輝かせている。
 オレンジピールの入ったクッキー、チョコレートプリン(生クリーム付き)、ホテル特製生ドーナッツ、ソーセージパイ、サンドウィッチ……飲み物はミントティーだ。
 ちゃんと紙ナプキンも持ってきている。
 ホイップが冷たいミントティーをコップに入れていると、ファルがバスケットからクッキーを取り出し、マユはプリンを手に取って食べ始めていた。
「美味しいーーーっ! ね、マユ君!」
「うん!」
 2人はかなり夢中のようだ。
 その微笑ましい様子を見て、ホイップとユニコルノは少しだけ笑い合った。
「ユニコルノさんもどうぞ?」
「それでは……パイを頂きます」
 ホイップは紙ナプキンを渡し、バスケットを少しユニコルノの方へと向けた。
「美味しいですね」
 ユニコルノも満足のようだ。
「2人とも、口に沢山ついてますよ」
 ホイップはウェットティッシュを取り出し、1枚をユニコルノに渡した。
 ホイップが横にいるファルの口元を、ユニコルノがマユの口を拭ってやる。
「ありがとう! でも、うわぁ……恥ずかしいなぁ」
「ありがとう」
 ファルとマユがそれぞれお礼を言うと、どういたしましてと2人とも返す。
「すごい景色だよっ!」
 しばらく食事タイムとなっていたが、真上に来たときにファルが窓の外の景色に気がついた。
「わぁ!」
 たくさんの宝石をちりばめたような、その景色にマユも息を飲んだ。
「あっちが薔薇の学舎の方角だよ」
「えっと……ありがとう」
「どういたしまして」
 ホイップがマユに方角を教えると、まだ少し緊張はしているみたいだが、最初よりはだいぶ心を開いてくれたようだ。
「あ、コユキだ!」
 ファルは下でヘッドホンを付けている呼雪を発見した。
 ユニコルノとマユ、ホイップもそっちを見ると、呼雪が上を見上げてくれ手を振ってくれた。
 それに4人とも手を振り返してみる。
 見えているかどうかはよく分からないが……。
 バスケットの中身が綺麗になくなったところでゴンドラは下へと到着した。

「足元にお気を付け下さい」
 陽太が1人、1人手を取り、ゴンドラの外へと誘導する。
「おかえり、楽しかったか?」
 4人とも、無事に降りると呼雪が聞いてきた。
「うんっ!」
「うん」
「綺麗な景色でした」
 ファル、マユ、ユニコルノがそれぞれ返す。
「ホイップは……少しは息抜き出来たか?」
「え? あっ……うん! ありがとう!」
 呼雪の気遣いに気づいて、ホイップは笑顔で返したのだった。

■□■□■□■□■

「みんなで観覧車乗ろうよ〜!」
 ホテルの部屋から出て、夜のお散歩をしていた榊 花梨(さかき・かりん)が、一緒にいる神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)柊 美鈴(ひいらぎ・みすず)にねだる
「観覧車ですか? これに乗るんですか?」
「ええ、これに乗って景色を楽しんだりするんですよ。懐かしいですね……子供のときに乗ったきりですよ」
 物珍しそうに美鈴が言うと、翡翠が説明をした。
 花梨は水色のワンピースを翻し、観覧車乗り場まで走る。
 よほど嬉しいのだろう。
 その後ろを黒のジャケットに黒のジーンズの翡翠と黒地に菖蒲柄の着物を着た美鈴が後を追う。
「そういえば、乗るの初めてかも」
 先に着いた花梨が呟いた。
「最後のお客様ですね。楽しんできて下さいね」
 陽太がゴンドラの扉を開けて、中へと誘導した。

「すご〜い、遠くまで見えるよ。あれ、何?」
「あれは空京の住宅街の明りのようですね」
 少し上までくると、景色がよくなり、花梨が翡翠にひっきりなしに質問をしている。
「ずいぶん高くまで登るんですね? これ、回りの景色、本当に綺麗です」
 美鈴も楽しそうだ。
「あまり動いてたら、駄目ですよ? 揺れますから」
「はーい!」
「気をつけますね」
 翡翠が言うと、2人は大人しく返事をする。
 はしゃいでいる2人を見ている翡翠の目は温かい。
「浮いているのって、こんな感じかな? 羨ましいかも」
「そうですねえ……飛べるのは、私とレイスのみですから。めったに見せませんけど」
 花梨の言葉に反応して、美鈴が言う。
 一番上まで来ると満点の星空がよく見える。
「あ、流れ星ですよ!」
 夜空を流れる一筋の光を見つけて翡翠が2人に教える。
「ええっ!? どこどこ?」
「見逃してしまいました……」
 見る事が出来なかった2人は残念そうだ。
 下に到着するまでの間、3人は星空を眺め、流れ星をさがしたりして満喫した。

「ありがとうございました! 足元にお気を付け下さい」
 陽太の案内で無事にゴンドラから降り、ホテルへと歩いて行く。
(本当は、翡翠ちゃんと2人きりでデートしたいけど、そのうちできるかな〜? 色々と邪魔入りそうだけど)
 花梨は1人、そんな事を考えながら翡翠の後ろを歩いて行ったのだった。


「ふ〜。これで今日の業務は終了ですね。事故が何もなくて良かったです」
 ずっと接客をやっていた陽太は胸をなでおろしたのだった。