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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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第5章
黒羊郷最終決戦(2)

 
5-01 地下神殿の決着(2)
 
「ウワアアアアアアア!!」
 教祖ラス・アル・ハマルに異変が起こった。「ウワアアアアアアア!! わ、わしの精神がアアアアアアアだれじゃアアアアア」
 教祖の注意がそれた瞬間、仙國 伐折羅(せんごく・ばざら)は激しい炎に包まれたまま教祖にがっしりとしがみついた。
 祭壇、騎凛セイカ(きりん・せいか)の隣に横たわっていたジャレイラの手に、黒い炎がふと浮かび上がった。黒い炎のフランベルジュだ。
 ジャレイラの体が動いた。
「!? ソ、ソンナマサカアアアアアアア」
 ジャレイラが、ふらり、と立ち上がる。
「グ、ウグググ……キ、キサマハナレヨ、……!」
 教祖が更に両手に炎を掲げ伐折羅の体に腕を突き立てる。
「うォォォォ離さぬ、道連れでござるぅぅぅ!!」
 燃えさかる炎。
 その炎を断って、黒い炎が教祖の体を裂いた。ジャレイラはどっ、とその場に倒れる。
「グ、グウグググ……ワ、ワシハ死ナン……ワシハ復活スル……
 キリン、セイカ……!!」
 教祖は、セイカに手を伸ばす。
「させぬでござるぅぅぅ……!」伐折羅は教祖を離さない。
 教祖の腕に再び炎が浮かび上がり、伐折羅にめりこむ。
「伐折羅…………!」
 その向こうに教祖と伐折羅の燃えていく影をなす術なく見守る他ない、皆。
 クールーが、その前に眠るセイカをびんたしたり、大声を出したりして起こそうとする。
「クッ! クッ!」「るーっ るっ」
 くるくると飛び回っていたクーが、セイカの小鼻に思いっきり噛みついた。
「はっ。
 はあっ、……」
「おっ おきた??
 おまえ これひつよう! つかえ!」
 ルーは自らの薙刀をセイカに手渡した。
「えっ。わ、私……は……っ、あ、熱い……こ、これは……」
「キリン!」
 久多が、炎の向こう側から呼びかける。
「久多さんの顔が、ゆらいで見えます。ここは?
 はっ。ば、伐折羅さん……?!
 私の、私の生徒になにを」
 焼け崩れていく伐折羅。
 セイカは、薙刀を手に、立ち上がった。「アンテロウム? アンテロウム……」
「そいつとの決着は、アンタが付けろ! パートナーなんだろぉが! 騎凛セイカぁぁぁ!」
 デゼルが叫んだ。
 アンテロウムがキリンに手を伸ばす。
「キリン……セイカ……」
「たぁぁぁ!!」
 セイカの薙刀が、振るわれた。
 羊の着ぐるみが火の中へ燃え落ちた。
 

 
 イレブンが、続いて菅野ミーナが祭壇の間に入ってくる。少し遅れて、刀真玉藻朝野未沙(あさの・みさ)が入ってきた。
 祭壇では炎がくすぶって、もうあらかた煙になっていた。
「ラス・アル・ハマル、……おお!」
 焼け焦げた黒い羊の着ぐるみが祭壇のしたに落ちている。ほとんどもう燃えかすであった。
「市内は、内地の反乱軍と俺たち、東河からの連合水軍によって制圧されました。(ラス・アル・ハマル……死んだか。……)」
 幾人かが、倒れたり、座り込んだりしている。
 戦いは、終わったようだ。
 風次郎は、伐折羅に、
「伐折羅……。伐折羅、よく戦った……」
 ただそう呼びかけた。燃え尽きて、目を閉じたままの伐折羅。ジョニーがそっと風次郎の肩に手を置く。
 クー、クー。るー、るー……
「伐折羅さん……。あなたは常に自身にストイックな、よい生徒でした」
 セイカは、無事なようだ。
「生き延びたか……俺は。でも、キリンのこと……」
 久多は、座り込んでいたが、セイカの方に歩み寄っていく。
「久多さん! 久多さんですね。
 さっき顔がゆらゆらして見えたけど、ちゃんと無事ですね。ちょっと焼け焦げてますけど、凛々しいですよ」
「……」
 久多はちょっと照れた。(「やっぱり、お前を離したくないな。」……)
 しばらくして、セイカのところへと急いでいた朝霧 垂(あさぎり・しづり)もようやく駆けつけ事態を知る。
「でも、セイカ……」
 これって、やっぱりアンテロウムだったんだよな。(パートナーを殺してしまった……)
 デゼルも、かける言葉なく、壁にもたれている。戦いを終えたルケトは装備を外してデゼルに問うた。「あれで、本当によかったんだろうかな」「……」
 朝野未沙は、至極残念な様子であった。アンテロウムはもうまったく、その遺骸さえ残されていない。これではメカ・アンテロウム、じゃなかった、強化人間サイボーグ・アンテロウムにして、解放してあげることも叶わない……これで本当に、アンテロウムは……
「ええ。……」
 セイカは、皆さん無事でよかったです、ごくにこやかに微笑むだけだ。
 垂は、マントで身をくるんでいるだけだったセイカに装備一式を渡した。ここにこのままいても仕方がない、行かなきゃ、な。
 地上では、もう勝ち鬨が上がっているだろう。垂が駆けつけたときには、完全に市内は制圧されていた。
 よいしょと……着替えるセイカ。
 未沙は、黒い燃えかすの回りをまわって、立ち尽くすばかりだった。中の人も、消えた……
 セイカを生け贄に、復活するところだったのである。アンテロウムは永久に消滅した。
「うっ、……あ、ああああああ……」
「セイカ? おい……!」