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怪人奇獣面相侵入事件!

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怪人奇獣面相侵入事件!

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【File6・エレベーター(下)】

P.M. 12:43

 囚われのエレベーターから、下に位置する階。
 この階のエレベーター前の扉は既に大量のツタによって破壊されており、現在そのツタを必死に排除している九条 イチル(くじょう・いちる)の姿があった。
「とにかく、エレベーターに絡まってるツタのモンスターをなんとかしないとね。でないとふたりを助けるのも、エレベーターを動かすのもままならないよ」
「そうだね。わかったよ、私たちも協力する!」
「一刻も早く助けないと、かわいそうだしねぇ」
 同様に、閉じ込められた彼らを助けるべく周りに集まってきたのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)。それから清泉 北都(いずみ・ほくと)ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)
 四人も協力し、イチルがエペを使って次々切り払ったツタを、邪魔にならないようにどけていき、抵抗するような動きを見せるツタは武器をちらつかせて追い払っていった。
 そうして何十分か排除活動に勤しんだ成果として、蔓延っていたツタはほぼ排除し終え。上を見上げれば、ケージを視界に捉えることができるようになっていた。
 のだ、が。
「動く様子が無いね。やっぱりまだどこか異常があるのかな」
 そう。下のツタは大半取り除いたものの、エレベーターは停止したままだった。
 機械にトラブルが残っているのか、上のほうでツタが絡まっているのか。
「んー……せっかくここまでやったのに。なんとか動かせないかな」
「あ! それなら、私たちに任せてよ! サイコキネシスを使ってちょちょいと強制移動させてみせるから」
 なにげにとんでもないことを口走る美羽に、イチルははじめ冗談かと思ったが。
「コハク、サポートお願い。さすがにひとりじゃ難しそうだし」
「でも大丈夫かな、こんな強引な方法……」
「やってみてもいいんじゃないかなぁ? 僕が禁猟区と超感覚で、安全面は確認してるからぁ」
「それに万が一落下しそうになったら、俺の奈落の鉄鎖でなんとか支えてやるよ」
 北都たちもまじえて、大真面目に議論しているので本当にやるつもりだと理解した。
 美羽とコハクは、じっとケージを見据えて腕をバンザイするように掲げる。
 そのままの状態で微動だにしなくなるふたり。
 何も考えずに見ればただ諸手をあげてるだけにしか見えないだろうが、よくよく観察してみれば美羽の額から汗がじわりとにじみ始めていることがわかっただろう。
 やがて。ガリ、というなにかが擦れる音がしたかと思うと。
 ガガガガガガガ! と、ケージが壁にぶつかり合いながら落下し始めた。
 降下ではなく、落下である。
 この場の誰も知る由もないが、中にいる利経衛は突然フリーフォール感覚を味わった。
「美羽! パワーが足りない、もっと力を込めて!」
「っ、ごめん! このぉっ!」
 ふたりは脳に気合いを入れる勢いで必死にサイコキネシスを調整する。
「落ち着いて! エレベーターの安全装置は働いてるみたいだから! 焦らないで、一旦その場で止めて!」
 北都が声を荒げて警告し、ソーマも奈落の鉄鎖で支えるのに協力する。
 おかげで壁を削る音は沈静化し、ケージはちょうどこの階で静止した。さすがに完璧にぴったりではなく下に四分の一ほどスペースが空く形になったが。
 美羽はサイコキネシスを維持したまま、片方の手を扉に向けてこじ開けると、中から太っちょの忍者が転がり出てきた。
「うぅ、もう、なんなんでござるか急に。本気で焦ったでござるよ」

P.M. 12:54

 どうにか助け出された黒衣の男と、内谷利経衛。
 ふたりは無事、下の階のエレベーターホールで合流していた。
「それにしてもよかった。エレベーターが落ちた時には肝をひやしたぜ」
「拙者もでござるよ。まさかあのような助け方があったとは予想できなかったでござる」
 上の階にいた春美達もこちらに移動してきている。
 それから新たに本郷 翔(ほんごう・かける)赤羽 美央(あかばね・みお)も加わっており、
「皆様、お疲れでしょう。このような状況下ですが、だからこそ一度腰を落ち着け頭を切り替えるべきでございます」
 翔はシートをひいてティータイムによるもてなしを開始していく。
 さっき中で菓子や飲み物はいただいた筈の両名だったが、他の生徒達に囲まれて話していくうち結局腰をおろしていた。
「利経衛、大丈夫? 蒼空学園に来るなら言ってくれればよかったのに……」
「はは。実は最近ちょくちょく遊びに来てるでござるからな、わざわざ声をかけることもないかと思ったんでござるよ」
「おや、利経衛じゃないか、久しいな。だが、今は世間話している場合じゃないな……」
「で、ござるな。事情は大体わかっているものの、はてさてどうしたものでござろうか」
 利経衛は美羽やエヴァルトと相談し、そこにまた美央が話を振っていく。
「うっちゃり君こと利経衛さんじゃないですか。あれからしばらくが経ちますね、開花した才能、ちゃんと使ってますか?」
「ああ。ご無沙汰でござるな、なんとか精進しているでござるよ」
「まあ、そのあたりは今はのんびりできないですから後で食堂でゆっくり話すとしましょう。それで、今回の事件ですけど。利経衛さんから見て、あちらの黒服の男の人は怪しいように見えますか?」
「え? そうでござるな……人を見かけで判断するつもりはござらんが、それでも少し怪しい気がするでござる。匂いを外に漏らさないよう、あんな格好をしているのやも」
「ふーん。なるほど、そうですか」
 美央は若干目を細めて、視線をもうひとりのほうへ泳がせる。
 当の黒衣の男のほうは春美に話しかけられていた。
「なんとか全員無事救助完了ね。あら、香歌ノ樹研究の植物学者さんですよね?」
「ああ、そうだよ。今日は少し調べものがあって蒼空学園に寄らせて貰ってたんだけど、そこでまさかこんな騒ぎに巻き込まれるとは思わなかったな」
「論文読ませていただきました。私も植物が好きでお花屋さんでバイトしたり、華道の腕もなかなかのものなんですよ……って言っている場合じゃないですね」
「そうだな。なんでも誰かがアンキラの花を持ち込んだって聞いたけど」
「っていうかアンキラの花の匂いここからしてませんか? 持っている方がいたら名乗り出て下さい。それのせいで学校が危ないんです」
 さっきから超感覚で探っていた春美は、この周辺から蜂蜜の香りがしている気がしてならないのだという。
 春美は利経衛のほうへと視線を向けて、
「特に強い甘い匂いが、そっちの人から漂ってくるような」
「え? あー、それは多分さっき食べた菓子の匂いでござるよ。昼を食べてなかったので、チョコやら蜂蜜入りクッキーやらバクバク食べてしまったでござるからな」
 苦笑いの利経衛は、現在進行形でもビスケットをパクついている。
 これでは匂いがしないほうが不自然とも言えた。
「となると空振りかぁ……でも今回の件おかしなことが多いですね。探偵Aなんて聞いたことがないですし、怪人の自作自演ともとれます」
 揃って答えの出ない問題に頭を悩ませる中、翔が話に入ってきた。
「こんにちは。執事の卵、本郷翔と申します」
「これはご丁寧にどうも。植物学者のミード・C・ブランです」
「葦原明倫館、隠密科の内谷利経衛でござる」
「このたびは、ご不幸なことに巻き込まれられましたけど、原因解決に協力いただけませんか?」
「ああ。俺は以前、蒼空学園には世話になったからな。協力するのはやぶさかじゃない」
「拙者もでござるよ。とはいえ、たいしたことができるわけではござらぬが」
「それはよかった。とりあえず事情はご存知のようですし、疑いを晴らすためにも身体検査を行ないたいのですが」
「ん、ここでか? さすがに少し隠れるところは欲しいけど」
「仕方ないでござろうけど、一旦この場を離れたほうがよいのではござらんか?」
 利経衛が指をさす先の廊下から、確かにツタがまたまた這い出してきているのが見えた。
「せやな、とりあえず校外へ出よか。話はそれからでもええやろ」
 カリギュラが同意し、皆も頷きあって小休止を切り上げることにした。
 そうして逃げ出す最中、イチルはあることが気にかかっていた。
(アンキラの花がモンスターを呼び寄せるなら、モンスターが向かってる場所がアンキラの花があるところだとは思うけど。なんか、こっちに向かってきてないかな……?)
「こっちやボクが相手したるで!」
 ツタの相手はカリギュラが引きうけ、バキィドカァと殴り飛ばしていく。
「よっしゃグルービー☆」
 イチルの不安をよそに、カリギュラはツタを倒し続けていった。

P.M. 13:00

 ところかわって泰輔とレイチェルは。
 あわただしい様子の管理棟の設備を借り、送信されたメールの出所を調べあげ。
 今ようやくその場所へと辿り着いていた。
「話によると、送られてきたのはここらしいな」
「ええ。間違いないです」
 そこは古くなったパソコンが廃棄される倉庫。蒼空学園は設備の発展がめまぐるしく動いているため、専用の廃棄場が用意されていたりするのだ。
「おーい、ネット探偵Aさんよう、えーい」
 倉庫の扉を開けると、まさにパソコンの墓場と言わんばかりの旧式機械が数多くぞんざいに転がされていた。中にはまだ内部電源が生きているのか、画面が明滅しているものまである。
「この場所からメールは送信されてきたんでしょうか……あっ、泰輔さん、あれ!」
 叫ぶレイチェルが指差す先には、口に猿轡をかまされて、身体をロープでぐるぐる巻きにされた、とある人物が横たわっていた。
「ちょい、大丈夫か? あんたがネット探偵Aさんなんか?」
 急いで泰輔が拘束をとくと、その人物はこくりと頷いて一台のパソコンを指差す。
 表示されている内容はメールの通りだった。やはり間違いないらしい。
「けど一体どういうことなんや? みたところ誰かに監禁されてたみたいやけど。何か色々事情がありそうやな」
「あなたがもっと自由に行動できるために、わたしたちにできることはありますか? ネット探偵Aさん?」

 そしてその人物は語る。今回の事件の、真相を。

 怪人奇獣面相とは何者なのか?
 なぜこんな騒ぎを起こしたのか?
 そして一体誰に変装していたのか?
 加えて、ネット探偵Aとは一体誰か?