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イコンシミュレーター3 電子のプレッシャー

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イコンシミュレーター3 電子のプレッシャー
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第10章 眠り姫のパンツ


「フハハハハハハ。国頭が倒れたか。まあ、今回は、カノンの周囲の生徒もきちんと護衛役を務められる状況だからな。護衛ではないが、藤原がついているのも厄介だ。よし、ここは俺が、真のパンツ道をカノンに教えてやろう!」
 南鮪(みなみ・まぐろ)が、邪悪な笑みを浮かべながらカノンの脇に座った。
「やあ、カノン。気分はどうだい?」
 自らお茶を注いだティーカップに口をつけ、唇を湿してから、南がいう。
「うん。最高かも!」
 カノンは何十杯目かのお茶を飲み干し、白い歯をみせて微笑みながらいった。
「そうか。カノン、俺は、山葉涼司(やまは・りょうじ)花音・アームルート(かのん・あーむるーと)の2人を知っている。あの2人は、俺をみたら黙っちゃいないんだ。いろんな意味でな」
「えっ、『私の涼司くん』と? あと、あの淫売とも?」
 カノンは、南の話に興味を示した。
「そうだ。カノン、知っているか? あの2人は野心に目覚めたぜ! さぁ、お前も野心を解き放てよ」
 南は、熱っぽい口調でカノンに迫る。
「野心ですか? でも、どうすれば?」
「俺についてこい。お前が花音に対抗して、涼司を独占できるだけの力を与えてやろう」
 南は、席をたった。
「わー、気になる! 行く、行く!」
 カノンは南の話に異様な興味を示して、その後を追っていく。
「お、おい!?」
 周囲の生徒はカノンを止めようとするが、わりと足早で、先に行かれてしまう。
 南がイコンシミュレーターの本体がある方角に向かったので、南はカノンをシミュレーション参加に誘うのだろうかと、生徒たちは考えた。
「ふふふふふ。面白くなってきましたね」
 藤原は笑って、カミソリを研いでいる。
「さあ、ここだ。一緒に入ろうぜ」
 学院内部のイコンシミュレーター接続室の扉を開け、南はカノンを誘う。
「うん! ここは? シミュレーターに接続している生徒さんたちが寝ている部屋、ですか?」
 カノンは、薄暗い接続室の中で、それぞれベッドに横たわり、頭部にシミュレーターへの接続装置をつけて寝そべっている生徒たちの姿を前に、きょろきょろとしていた。
「そうだ。この奥にシミュレーターの本体があるが、俺たちの興味は、ここにある!」
 南は、寝そべっている女生徒の1人に近づいていく。
「何をするんですか?」
 カノンは南の言動を興味深げにみつめていた。
「カノン、お前にトラウマがあることは知っている! だが、いつまでも逃げていてはダメだ! 自分のトラウマに立ち向かい、克服するのだ。パンツによってつけられた傷は、パンツによって埋めるしかない! わかるか、カノン? お前もパンツ狩りに目覚めるのだ。これは下ネタではない。パンツ愛を広める、愛ネタなのだ! さあ、この部屋の女どものパンツをごっそり頂こうではないか!」
 いいながら、南は、意識を仮想空間に送っているので、目を覚まさないと思われる女生徒のスカートをまくりあげようとする。
 だが、南が驚いたことには、スカートをまくろうとする南の手は、仮死状態にあるはずの女生徒自身の手によってつかまれ、打ち払われてしまったのだ!
「な、なに!?」
 南の目が大きく見開かれる。
「おお、おぬし。黙って聞いておれば、何をいってるのかさっぱりわからなかったぞ」
 女生徒の口からひどく大人びた声がもれたかと思うと、頭につけてあった接続装置を外して、イスカ・アレクサンドロス(いすか・あれくさんどろす)が立ち上がっていた。
「シミュレーターの護衛をしようと考えてたら怪しい者が入ってきたので、とっさに寝ているふりをしたのだ。まさか、パンツ狩りをしようと考える者がいようとはな!」
 イスカはベッドから飛び降りて、南を睨む。
「わー、すごーい、寝たふりー、騙されましたー!」
 カノンはニコニコ笑って、部屋の中を飛びはね始める。
「お、お前、中身はオヤジか!?」
 南は一瞬唖然としたが、すぐにイスカと闘う構えをとった。
「悪いか?」
 イスカは剣を構える。
 そのとき。
 ばーん!
 勢いよく扉が開かれたかと思うと、久遠乃リーナ(くおんの・りーな)が顔を出した。
「イスカさん! あなたは防御担当だといったじゃありませんか!」
 久遠乃も剣を抜いて、南に近づいていく。
「げっ、加勢か!?」
 南は焦り始めた。
「おお。通信機のスイッチを入れておいて正解だったのう」
 イスカは笑っていった。
久遠の名にかけて、皆さんの邪魔はさせませんっ!」
 久遠乃が叫んで、南に斬りかかる。
「ヒャッハー! 俺はそう簡単にはやられないぜ!」
 南は攻撃を避けて雄叫びをあげた。
「こうなったら、お前たちのパンツも狩ってやる! みてろよ、カノン! 奪う側になれば、大事な山葉もお前の思うがままなんだぜ!」
 南は腰をかがめて、久遠乃の下半身に抱きつくような動きをみせる。
「くっ、私のパンツ!? それは、少なくともあなたのものではありません!」
 思わぬアクションに久遠乃は顔を真っ赤にしながら、膝蹴りで南の額を打つ。
「だから奪うんだよ!」
 額から血を流しながら絶叫する南。
「あ、あれ? な、なにこれは? もしかして、この人、痴漢!? 嫌がる女の人にエッチなことをするつもりなの? あっ、ああっ」
 南と久遠乃のやりとりをみつめていたカノンが頭を抱えて、うずくまる。
 パラ実生に乱暴されたトラウマがよみがえり、精神が不安定になってきたようだ。
 そこに。
「カノン先輩! しっかりして! もうあの男をみないで。それで、この部屋からすぐに出て下さい!」
 平等院鳳凰堂レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)が現れ、カノンの手をとって立ち上がらせると、部屋の外へ誘導する。
「ゆ、許せない。……殺す。コロス!」
 カノンの口からは危険な言葉がもれていたが、部屋の外に出ると少しおとなしくなった。
「レオ、心強いです!」
 久遠乃がホッとしたように声をあげる。
「やれやれ。カノンの騎士を気取ったお兄さんか。恋に狂ったか? カノンのためなら何でもやりそうだぜ」
 南はペッと唾を吐くと、レオに拳を放つ。
 ガシッ
 レオは、その拳を掌で受け止めていた。
「そうだ! 僕はカノン先輩が、いや、カノンが好きだ! だから、カノンを守る。いったい何がおかしいんだ?」
 レオは、反撃の拳を南に入れながら、剣を抜く。
「カノンが好きなら、守るんじゃなくて、奪うんだよ。山葉涼司からな!」
「ふざけたことをいうな!」
 レオ、久遠乃、イサカの3人を相手に、南は接続室の中で大暴れを始めたが、ふと、学院内の警報が鳴り出したことに気づく。
「しまった。教官たちがくる。ここは外へ!」
 南はやむなく学院の外へ出た。
 すると、ぼうっと立っているカノンの姿をみかけ、思わず腕をつかむ。
「おい、俺と一緒に闘おう! パンツを狩るんだ!」
「さ……わ、る、な」
 カノンの口から、しわがれた声がもれる。
「ああ?」
「コロス!」
 その瞬間。
 カノンの超能力が解放され、全身からみえない力が放射されたようだった。
 ちゅどーん!
 大爆発が起こり、南は空の彼方へと吹き飛ばされていく。
「う、うわー! やっぱり強いな! 気に入ったぞー」
 南の叫びが、飛んでいった方角から聞こえていたが、そのうち聞こえなくなる。
「カノン先輩、大丈夫ですか!?」
 レオたちが、カノンに駆け寄ってくる。
 カノンは、無言のまま、うつむいている。
「さあ、早く広場に戻りましょう!」
 久遠乃が、カノンの手を引いていく。

 広場では、巨大モニタ上の戦闘を見物していた生徒たちが、レオたちに連れられてカノンが戻ってきたのをみて、ホッとしたような顔になる。
 みな、カノンの帰りを待っていたのだ。
「そうか。やはり、あの男は邪な意図を抱いていたか。カノンが無事でよかった」
 グレンは、レオの話を聞いて、安堵の息をつくと、カノンの肩に優しく手をかけ、席に座らせる。
「カノン、変な人の変な行為をみたみたいだけど、気にしないでね」
 御剣は、心配そうにカノンの顔をうかがいながら、ティーカップにお茶を注いで、カノンに渡す。
 カノンは、カップに口をつけた。
「……おいしい!」
 カノンの口から、明るい声がもれた。
 再び、テンションがあがり始めたようだ。
「カノン先輩!」
 レオが、カノンに近づく。
「カノン、でいいですよ。レオ!」
 カノンは笑って、レオに抱きついた。
「えっ!」
 レオの顔が真っ赤になる。
「先輩後輩とか、そんなに気にしないで。私を守ってくれたんですね。ありがとう! そして、グレンさんも!」
 カノンは、グレンの胸にも抱きついていた。
「カノン。感謝はいいが、人前で、若い女性が男性に気安く抱きつくものではない。誤解を受けるもとになるぞ。君の心はあくまで山葉涼司にしか向いていないはずだ」
 グレンは、カノンを引き放した。
「はい、はーい!」
 カノンは、ニコニコ笑いながらうなずいている。
 グレンの話が聞こえているようにはみえなかった。
 再びテンションが度を越して高くなったカノン。
 その笑顔に胸をうたれた生徒たちは、2度とこの笑顔を崩させまいと誓うのだった。