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一角獣からの依頼

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一角獣からの依頼

リアクション

「えぇ?! 奴らのアジトを突き止めたの?!」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)の声は一同の視線を集めた。言葉を裏付けるように詩穂は大きく頷いてみせた。電話の相手は七刀 切(しちとう・きり)である。
「待って、そこにチェーンソーと同じくらいの男って居ない?」
「チェーンソーと同じ? いや、見えないかなぁ」
「そう」
 乙女たちを『石化』させている所をみると、仲間なんだろうけど。まだ合流してないって事?
「詳しい位置を教えて。詩穂たちもすぐに向かうから」
 ふと、今度は自分の携帯電話が唸っている事に気付いた。出ようにも今は通話中だし、電話の向こうではが「奴らが移動しようとしている」事を告げているし……って移動しようとしてる?!!
「ちょっと待って! 逃がすわけにはいかないわ、そのまま見張って、動きがあったらすぐに知らせて−−−って、うるさいなっ!!」
 邪魔もの扱いするように携帯を茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)に押しつけた。
「えっ、ちょっと詩穂さんっ??」
「出て!」
「えぇっ、でも……」
 慌て戸惑ってるうちに詩穂に通話ボタンを押されてしまった。
「あ、あの……もしもし」
「詩穂か! そこに姫さんは居るか? 姫さんに代わってくれ!!」
 電話の相手はトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)だった。バイモヒカンの男らの襲撃を受けたこと、数名が連れ去られたことを告げようとしていたのだが、いかんせん、興奮しきっているようで。詩穂衿栖の区別がついていなかった。
姫さんが『石化』したぁ?!!
 拡声器を耳に当てているかのような轟声が聞こえてきて、衿栖は腕を伸ばして耳から離した。その携帯を、イルマ・レスト(いるま・れすと)が腰だけを傾けて覗き込んだ。発せられている喚くような声を、イルマはじっと聞いてから、自分の携帯を取り出した。
「どこにかけるのです?」
 携帯を遠く離したままに衿栖が訊いた。呼び出し音が続く中、イルマは笑んで応えた。
夏菜さんですわ」
夏菜さん? 確か『ユニコーン』に会いに行ったのですよね?」
「えぇ。あちらでも『石化』された乙女がいるようですし。今のうちに解除法を見つけておこうと思いまして」
「解除法って…………あっ!」
 思い出して衿栖は口に手をやった。『ユニコーンの角は万病に効く』と言われている、もしそれが本当であるなら、『石化』も解除できるかもしれない。
「効果があるかどうか、本人に訊いて確かめてもらいましょう」
 呼び出し音が幾らか続いて、夏菜が電話に出たのだが。その声が突如に途絶えた。
 突然の出来事に、夏菜は言葉を失っていた。



 一直線に向かったのは『ユニコーン』の縄張りの最北端。そこには一本の老木を囲むように深く暗い樹海が広がっていた。
 『ユニコーン』に会うべく歩みを踏み互えていた一行の中に居た七那 夏菜(ななな・なな)は唸る携帯に気付いて立ち止まった。画面にはイルマ・レスト(いるま・れすと)の名が記されてた。
「はい、もしもし−−−!!!」
 携帯を耳に当てて視線を戻した−−−そのときだった。瞳に飛び込んできた光景に夏菜は言葉を失った。
 老木の影から『ユニコーン』が姿を現した。
 悠然と歩み寄る様はどこか神々しく見えて、誰もが息を飲んで見つめていた。
あの、夏菜さん? 夏菜さん? 
「も〜ぅ、お姉ちゃん、ダメじゃないか、電話、繋がってるよ」
 七那 勿希(ななな・のんの)夏菜の手から携帯を取りて、代わりに出た。「はいは〜い、勿希ですよ〜」
 何とも軽快な声をあげる勿希だったが、さすがに空気を読んだのか、大手を振って輪から離れていった。
「メイド服を着て、紫色の髪をしたパッフェルに依頼されましたよね? 『バイコーン』を捜してほしいと」
 ティー・ティー(てぃー・てぃー)が背筋を伸ばして問いかけた。「彼女と一緒に『バイコーン』を捜しています。お話を聞かせていただけませんか?」
 『ユニコーン』は、じっとティーを見つめてから言った。
「パッフェルと言ったか。確かに私は彼女に依頼をした……故にこの件は彼女に任せたのだ、聞きたい事は彼女に訊くといい」
「私が聞きたいのは、アナタの事でもあるのです。なぜ、現場を離れたのですか?」
「現場を? ……何の事だ」
「普通なら、事件解決の為に一緒に捜索を行うのではないですか? それなのにアナタはパッフェルに事件を押しつけて、この場所に戻ってきた」
「押しつけたのではない、彼女に一任したとさっきから言っている」
「森に入る者の気配を感じられるアナタの方が『バイコーン』を捜すのには適しているはずです、それなのにアナタはしなかった。『バイコーン』に会えない理由があるのではないですか?」
「ふん……そんなものはない。私には森に生きる弱き者たちや精霊たちを守るという使命がある。故にここに戻ってきたまでだ」
「じゃあ、連れ去られた『乙女』を避け続けたのは、どうしてなの?」
 水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)は間を取らずに訊いた。「妹さんが不治の病だって知っていたんでしょう?」
「勝手な言い分だ。人間の勝手な理由で私の力が利用されるなど、許せるわけがなかろう」
「利用って……。彼女は妹さんを助けたい一心でアナタに縋ってきたんでしょう? アナタにしか助けられないのよ」
「そんな事を言って近寄ってきた人間は五万といる、彼女のそれが真実だとは到底思えぬ」
「そんな! でももし本当だったら−−−」
「えぇー!!! パッフェルさんが石にされたぁ?!!!」
 七那 勿希(ななな・のんの)が大いに叫んでいた。パッフェルの強さにもランチャーを構える姿にも憧れを抱く勿希には到底信じ難い事実だった。
「それで? パッフェルさんは無事なの?」
 だから石にされたのだよ、というツッコミは野暮だろう。心ないツッコミを入れる者など、この場には居ないのである。
「我が友よ……」
 ドルイドである天津 麻羅(あまつ・まら)は『ユニコーン』を友と呼んで続けた。「パッフェルが石にされた、事件解決の為に戦っていたからじゃ。それでも角の力は使ってはくれぬのか?」
「………………」
「パッフェルは信用して依頼を託す、一方『乙女』は邪険にする。その違いは何なのかのう」
「…………何が言いたい」
「『乙女』が信用に足る人物かどうかは、きちんと向き合って話してから見極めても遅くはないと思うぞ」
「…………小癪な」
「お願い! ユニコーンさん!」
「待て待て待て! 夏菜っ」
 歩み寄ろうとする夏菜七那 禰子(ななな・ねね)が止めた。「忘れたのか? 『ユニコーン』は『純潔なる乙女』としか接触しないんだ!」
 キミは男だろう! という言葉はどうにか飲み込んだ。
「いや、大丈夫だ」
 源 鉄心(みなもと・てっしん)は『ユニコーン』の正面まで歩んで言った。男である彼が『ユニコーン』と対峙していた。
「最初から俺のことは見えていたはずだ。それでも姿を見せてくれた。事件の解決をパッフェルに押しつけてしまったことや、事件の背後に『バイコーン』の影があること、それから『乙女』が攫われたことについても、どこか後ろめたい想いがあったんだろ」
 鉄心は同意するように言った。「だから『純潔』でも『乙女』でもない俺の話も聞いてくれてる。夏菜が近づいても、きっと平気だ」
「…………人間とは、つくづく勝手な生き物だ」
「そうかい。それなら勝手ついでだ。俺たちに手を貸してはくれねぇか」
 パッフェルを含め、『石化』させられた生徒が多発していること、また『バイコーン』に協力していると思われる『パラ実生』の居場所を突き止めたこと、そしておそらく『ユニコーン』にすがっていた乙女もそこに居るだろうということを伝えた。その上で改めて願いかけた。
「頼む。俺たちと一緒に来てくれ」
 一同が真っ直ぐに『ユニコーン』を見つめた。これまでのやりとりを整理するかのように、今一度想いを伝えるように。
 『ユニコーン』は空を、そして老木に目を向けてから「…………わかった。同行しよう」と言った。一同の顔が一斉に晴れた。
 夏菜は急いでイルマに電話をかけた。『ユニコーン』と一緒に現地に向かう、という最高の報告をしたのだった。