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【絵本図書館ミルム】ハッピーハロウィン

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【絵本図書館ミルム】ハッピーハロウィン
【絵本図書館ミルム】ハッピーハロウィン 【絵本図書館ミルム】ハッピーハロウィン

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 ようこそ、ミルムのハロウィンへ
 
 
 普段はのんびりとした時間が流れている絵本図書館ミルム前。
 けれど今日は、ミルムの前を通るだけでハロウィンの雰囲気たっぷりだ。
 和原 樹(なぎはら・いつき)はタキシードを着崩して大きな懐中時計を下げている。頭にはウサギの耳をつけたシルクハット。
 そしてフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)は白いタキシードに白いシルクハット。顔には星型等のペイントシールを貼り付けて。
 白ウサギとマッドハッターの扮装だ。
「ふむ……樹はウサギの仮装も愛らしいな。我が狼なら、襲ってしまいたいところだが」
 ウサギ耳姿の樹にフォルクスは目を細めたが、
「何言ってんだこのイカレ帽子屋」
 当の樹の返事はつれない。
 そんな2人のいつものコミュニケーションを、ショコラッテ・ブラウニー(しょこらって・ぶらうにー)は面白そうに眺めた。
 ショコラッテだけは特に仮装はせず普段と変わらない格好をしているのだけれど、それで十分アリスに見える。
 3人は不思議の国のアリスに登場するキャラクターに扮し、持ち帰りやすいお菓子を入れた籠を下げて、ミルムの入り口付近を巡回しては、訪れる人にお菓子をプレゼントしているのだった。
 籠には、ハロウィンのシンボルがカボチャだと聞いたショコラッテが探してきた、カボチャを象った土鈴がつけられている。音は控えめだけれど、興味を持った子供に持たせて振らせると、コロコロと優しい音で鳴った。
「はい、ハロウィンのお菓子だよ」
 図書館に入って行く子には、中で食べても大丈夫なように小さなサイズの飴を。帰る子や道行く子には、クッキーや棒つきキャンディを選んで樹は渡していった。
「匂い袋なの。どうぞ」
 大人にはショコラッテが、薔薇にラベンダーとオレンジピールを混ぜて作ったポプリを入れた匂い袋をプレゼント。
 ミルムの中にハロウィンの絵本や説明が用意されていることを伝えると、興味を持った人は中に入って行った。
 そんな様子が自然に見えて、ミルムはすっかり街に馴染んでいるようだと樹は安心する。出だしからしばらくは危なっかしくて仕方が無かったけれど、それを乗り越えて街に認められたことを樹は心から嬉しく思う。
 こうして、ラテルには今までなかったハロウィンという行事をやってみようと思えるのも、ミルムが街に受け入れられているとサリチェが感じられているからこそなのだろうから。
「ラテルの人にとって、ハロウィンの行事ってどんな風に感じられるんだろうね?」
 地球で実際に行われているのハロウィンの行事と、ミルムでやっている行事は同じではない。どちらかと言えば、日本で季節イベントのようにやっているものに近い。
 樹の問いかけにフォルクスは、元々はケルトの祭りが起源とも聞くが、と呟く。
「クリスマスもそうだが、地球から流入するそういった文化のほとんどから宗教色が消えているのは、日本を経由しているからだろうか?」
「……そうかもしんない。日本ではクリスマスもハロウィンも、宗教行事というよりは季節行事みたいなものになってるから」
「他の宗教の祭りでも気にはならないものなのか?」
「そうだね。うちもじーちゃんとこは神社だけど、他の宗教の行事にも便乗して普通に遊ぶし」
「懐が広いというのか何と言うのか……」
 八百万も神がいることはある、とフォルクスは苦笑した。
 
 
「ねーちゃん、このスカート短すぎ……パンツが見えそうで恥ずかしいよぉ」
 黒の猫耳と尻尾、首に鈴をつけて黒猫の仮装をした七那 夏菜(ななな・なな)はしきりとスカートの後ろを気にしていた。
 猫しっぽがミニスカートを持ち上げている為に、見えてしまいそうで気になって仕方がない。
「それくらいの長さが良いんだよ。あたしの衣装と対照的になるだろ」
 そう言う七那 禰子(ななな・ねね)の仮装は魔女。魔女とその使い魔の黒猫、という趣向だ。
 七那 勿希(ななな・のんの)はおそろいではなく、ファンのパッフェルの仮装をしている。ドレスや眼帯ばかりでなく、持っている武器までもがパッフェル仕様だ。
 配るお菓子は何にしようかと考えた末に、グミにした。オレンジや黄色、青、緑、赤。見ているだけで楽しくなりそうな色のグミを透明な袋に詰め合わせて、リボンで口を結んである。
 きらきらしていて見た目が可愛い、という理由もあるけれど、我慢できなくてこっそり食べてしまう子がいても、グミならば手や周囲を汚さないだろうという配慮からだ。
「ハッピーハロウィン」
 子供たちがミルムにやってくると、夏菜はそう呼びかけてグミを渡した。
 けれど、小さい子の為にかがむのは短いスカートにとっては危険なことで。
「きゃ、っ!」
 後ろからぱっと派手にスカートをめくられて、夏菜はあやうくグミの小袋を落としそうになった。
「やったー!」
 いかにもやんちゃそうな男の子が、飛び跳ねて喜んでいる。
「こらっ。せっかくお姉ちゃんががんばってるんだから、そんなことしちゃダメ」
 ぽんっ、と勿希が男の子にマシュマロをぶつけた。痛くはないけれど、何がぶつかったのかときょろきょろしている男の子に近づくと、勿希はぽかんと開いているその口にマシュマロをぽいっと放り込んだ。
「おいしい? お菓子もらったら、いたずらはしちゃダメなんだよ」
「そうなの?」
「うん。ハロウィンの時はね、『お菓子くれなきゃいたずらするぞー』だから、お菓子もらったらいたずらは無しなの」
「ふーん、分かった」
 素直に頷く男の子に、夏菜もお菓子を渡す。
「それならグミもどうぞ。お家に帰ってから食べて下さいね」
「ありがとう!」
 元気に走ってミルムに入っていく男の子に、この作戦はばっちりだと確信した勿希はそれからもいたずらする子に次々と、マシュマロ弾を発射して注意した……のだけれど。調子にのって撃ちまくっているのを禰子に逆に注意されてしまった。
「勿希、やりすぎ。これを見てみろ」
 禰子の指さす地面には、マシュマロがいくつも転がっている。ぶつけるのはいいけれど、落ちたマシュマロは土に汚れて食べられなくなってしまい、もったいない。
「ごめんなさい〜」
 マシュマロを拾う勿希に禰子は、悪い子のこらしめは自分に任せろと請け負った。
「あ、小さい子のお菓子を取り上げたりしたらいけないですよ」
 お菓子がたくさん欲しくて他の子から無理矢理取ろうとしている子に夏菜が注意しているのを聞きつけると、禰子はその子をむんずと捕まえた。
「そーんな悪いことする子は、あたしの魔法でお空の彼方に吹っ飛ばしてやんぜ!」
 その子の腕をしっかりと掴むと、禰子はぶんぶんぐるぐると回り出す。
 いきなりのジャイアントスイングに子供は恐怖の悲鳴を上げたが、禰子が笑っていて、自分を落とすつもりなんてないのだと知ると、悲鳴は笑い声にと変わる。
「今度やったら、ほんとに吹っ飛ばしちまうからな」
 そう言って子供を下ろすと、周りで見ている子たちに言う。
「他にやりたい奴がいたら回してやんよ」
「僕も僕も〜!」
「あたしも!」
 一斉にたかってくる子供たちを順番だと並ばせて、禰子は順にその子たちをジャイアントスイングしていった。
「ちょっと待ってくれ」
 さすがに暑くなってきて、禰子は途中で仮装していた魔女のローブと帽子を脱ぎ捨てる。
 ちょっと派手にやりすぎたかと後悔もよぎったけれど、期待の目で待っている子供を見ればここで終わり、とは言えず。
「こうなったらとことん行くぜ」
 へとへとになりながらも、禰子は子供たちを回し続けるのだった。
 
 
 黒い魔女帽子と黒いマントの魔女姿。いつもの格好と色違いなだけ……という気もするのだけれど、これはパートナーと黒で衣装を揃えようとしたためだ、と自分を納得させつつ、セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)もミルムでお菓子を配布……する予定だったのだけれど。
「トリック、アオ、トリィトォォォ! さあ、つべこべ言わずお菓子を差し出すのじゃあ!」
 何故かセシリアは、お菓子を配るのではなく脅し取ろうとしている。
「お菓子なんて持ってないよ」
 子供がびっくりした様子で首を振ると、セシリアは目をむいた。
「何じゃと? よろしい。ならばいたずらという名のファイアストームを――」
「ばかぁぁぁぁ!」
 スパーン!
 ミリィ・ラインド(みりぃ・らいんど)の叫びと共に、ハリセンがクリーンヒット。まともに受けたセシリアが、ぐはっと頭を押さえる。いつもながら、ミリィのツッコミは過激だ。
「あたしたちはお菓子あげる側でしょう? どーして脅してるのよ!」
 黒の長袖のミニワンピースに、縞模様のニーソックス。蝙蝠の羽を背負ってドクロの小物をつけたミリィの扮装は悪魔っ子。
 腰に手を当てて注意してくる様子は、悪魔っ子どころか大悪魔のようだと、セシリアはちょっと涙目になってしまう。けれど、それを隠しつつセシリアは抵抗する。
「だ、だって私も子供じゃ! お菓子もらいたいお年頃なのじゃ!」
 そんなセシリアとミリィのやり取りを見ながら、エルド・サイファル(えるど・さいふぁる)はこっそりと嘆息する。
 実は、今配っているお菓子を用意したのはエルドだ。どうせこの2人は当てにならないだろうからと、クッキーを手作りし、それをカボチャのマスコットがついた小袋に分け入れた。きっとハロウィンではミルムのあちらこちらでお菓子をもらうことになるだろうからと、1つの袋のクッキーは少なめにし、袋の数を多くしてある。
 仮装も、2人からお揃いの黒にして欲しいと言われ、黒マントでドラキュラに扮している。
 何で自分がこんなことをしなければならないのか、と思うが、どうもこの2人には任せておけない。今も、
(……こいつら、いくらイベントとはいえ、図書館ではお静かにって習わなかったのか?)
 なんて考えつつ、けれど武術以外のことを教える気もなく。ただ、さっきから固まったままの子供にはフォローを入れておかねばならないだろうと、お菓子を取り出し。
「悪いな。あいつは……そう、ちょっと可哀想なお姉ちゃんなんだ。これあげるから許してくれ」
「かわいそうなの?」
 子供はお菓子を受け取りながら、セシリアを窺い見た。
 その間も、セシリアとミリィのやり取りは続いている。
「歳はそうでも、今はお手伝いできてるの! で、ここはおねーちゃんより年下の子がいっぱいなの! わかったら早く配る!」
「む、むぐぐ……」
 年下のミリィの指摘はご尤もで、セシリアには反論できない。しぶしぶ肯いて、こっそりと呟く。
「最近ミリィ容赦ないのう……お姉ちゃん寂しいのじゃ」
「おねーちゃんならおねーちゃんらしくするの!」
 余計な手間をかけさせるんだからと内心ぼやきつつ、ミリィは子供に申し訳なさそうな顔を向けた。
「ごめんね。悪い魔女さんは黙らせたからもう大丈夫だよ。ハッピーハロウィン、今日は楽しんでいってね♪」
「うん。……お姉ちゃんたちもがんばってね」
「がんばる?」
 何のことだろう、とミリィが思ううちに子供はミルムに入って行ってしまった。
 セシリアはといえば、素直にお菓子を配る気になったらしく、次にやってきた子供へと突進する。
「うむ! よく来たの! さぁさぁ! お菓子をあげるのじゃーー!」
 ぱかっと大きく口を開いて、目一杯の笑顔。セシリア的には最高の慈愛に満ちた笑顔を子供に振りまけば。
「ふぇ、っ……」
 セシリアの勢いに怯え、子供は立ちすくむ。
(ば、馬鹿な。この笑顔が通用せぬとは!)
 ショックを受けたセシリアは、何とかせねばと考えてかぶっていた魔女帽子を取った。
「ほーら、何の変哲もない帽子から、カボチャのアクセサリーをつけた鳩さんじゃー」
「わあ!」
 目を輝かせる子供に、これはいけるとセシリアはふんだ。
「私の手をよーく見るのじゃ。空っぽじゃろう? しかし、ほれ。何もない手から万国旗じゃー。今度は何かの……おお、お菓子ではないか。おぬしにこれをやろう」
 手品で子供の気を惹いてお菓子を渡す。
「ありがとう!」
 笑顔でお菓子を受け取ってもらうことに成功し、セシリアはふぅと額に浮いた汗をぬぐった。
「おぬしもお菓子が欲しいのか?」
 パンプキンヘッドをかぶったジャックオーランタンに気づいて、セシリアはクッキーを押しつけた。
「私が食べたいところをこらえてやるのじゃ。ありがたく受け取るが良い。さあ、中でもハロウィンの行事をいろいろやっておるから行くと良いのじゃ」
 身振り手振りで応えているジャックオーランタンを、セシリアはミルムの中へと追いやった。
(本物……には見えませんかね)
 ジャックオーランタンに扮した戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は声は出さないまま苦笑する。迷い込んできたジャックオーランタンとしてやってくるつもりだったのだけれど、仮装している人だらけの中では本物として見てもらうのは難しそうだ。
「それおもしろいねー。あたしのは悪い魔法使いなんだよー」
 かぎ鼻のつもりか、ぶらんと鼻に紙の筒をつけた子の扮装に吹き出すのをこらえながら、小次郎は子供たちといっしょにミルムに入って行くのだった。
 
 
 ミルムの玄関を入ってすぐの場所には、来館者を仮装させる場所が作られていた。
「今日は何に変身するでござるか?」
 椿 薫(つばき・かおる)は魔女やドラキュラ、フランケンシュタイン等を題材にした絵本を広げ、子供たちに尋ねる。
 薫が調べてみたところ、ハロウィンのテーマは不気味なものや恐ろしいもの全般らしい。だから仮装の題材には、民間で伝承されてきた幽霊や魔女、バンシーなどの他に文学作品に登場する怪物も選ばれるとのことだ。
 だから薫はハロウィンに向きそうな絵本を探して、そこから仮装のネタをとっていた。
 用意した仮装自体はこったものではない。
 魔女になってみたい女の子には、とんがり帽子とステッキを渡してその気分に。ドラキュラに扮してみたい男の子には、つけ牙とマント。ぱぱっと仮装させて送り出す。
「さあ、好きな絵本のキャラに変身出来たでござるか?」
「うん、できたー」
「なら、絵本をお供に、お菓子をもらう旅に出発でござる」
 次々に子供を仮装させると、薫は館内に送り出した。
 エルシーたちはもう少し本格的な衣装で来館者を仮装させ、絵本と一緒に貸し出ししている。
「大人の方も遠慮なくどうぞ。せっかくのハロウィンですから、素敵な思い出を作ってくださいね」
 エルシーの呼びかけに興味をひかれて来た人に、
「ねーねー、どれにするー?」
 ラビがつり下げられた手作りの仮装を示してみせた。
 これと決まったら、衝立で囲って作った臨時スペースで着替えてもらう。
 着替え終わった人にはルミがカメラを手にこう勧める。
「もしよろしければ、仮装姿の写真撮影はいかがでございますか? よい記念になるかと存じますが」
 強面のドラゴニュートの自分がカメラマンでは、撮ってもらう相手が笑顔になれないのではないかと気にして可愛い動物のマスクをかぶったルミは、生まれてはじめての仮装を楽しむ人々の姿をカメラに収めていった。
「できあがりました写真はミルムのカウンターに預けておきますので、今度お越しの際にでもお受け取りください」
「よかったら、元になった絵本も読んでみてくださいね。帰るときに衣装と一緒に返してくれればいいですから」
 これがこの絵本を読むきっかけになれば、とエルシーは仮装した人に元になった絵本も共に貸し出した。
「ずいぶん盛況みたいだね」
 お菓子の配布を手伝おうとやってきた宇佐川 抉子(うさがわ・えぐりこ)は、仮装してはしゃいでいる子供たちの間を縫うように進んでいく。手にはミルムに入る際にもらったクッキーの包みがある。
「手伝いでござるか? ご苦労さまでござる」
 薫に声をかけられて、抉子は玄関口に用意されている仮装に目を見張る。
「すごい。仮装まで用意してあるんだー。あたしも何か考えてくればよかったかな」
 ハロウィンの手伝いを募集していると知ってずっとわくわくしていたのに、抉子が準備したのは何故か当日。大急ぎでお菓子を買ってきたものの、仮装にまでは手が回らなかったのだ。せっかく仮装できるイベントなのに、と残念がる抉子に、
「仮装なら貸し出すでござるよ。こんなのはどうでござるか? フランケンシュタインセット、頭のネジもセットでござるよ」
 薫は両側に大きなネジをつけたカチューシャを振って見せた。
「いいの? じゃあそれ貸してもらえる? お礼にこのお菓子あげるねっ。手作りお菓子じゃなくてゴメンだけど」
 買ってきたばかりのハロウィンのお菓子を仮装コーナーにいる皆に配ると、肩パッドの入った衣装を貴、頭の両側からネジを飛び出させた抉子は軽い足取りで閲覧室に入っていった。
 
 
 ハロウィンの今日も当然ミルムでは通常の貸出返却業務が行われているけれど、飾り付けや置かれたお菓子、そして業務をしている皆の仮装と、カウンターの雰囲気もイベントらしく華やいでいる。
「これだけ華があれば、来てくれた人も大喜びだよねっ」
 ひょんと頭からネコミミを飛び出させた久世沙幸は、満足そうにネコミミメイドたちを見やっていたが、ふとその目が隠れるようにして座っている如月正悟を捉える。
「そんな隅っこに座ってないで手伝ってよ、正悟! 今日は人手はいくらあっても足りないくらいなんだからねー」
「分かった。分かったからそんな大声で名前を呼ばないでくれ……」
 他の人には見せられない格好だからと隅っこにいたのだけれど、名前を呼ばれたらたまらない。覚悟を決めて前に出ると、正悟は来館者に声をかける。
「いらっしゃいませ。今日はハロウィンなので、お菓子のプレゼントがありますよー」
 にこっ、と小首を傾げてみせれば、さらりとロングヘアが流れる。
「お菓子?」
「ええそうですよ。地球のハロウィンでは、『トリック・オア・トリート』、お菓子をくれなきゃいたずらするぞ、と言って街の家々を訪ねて回って、お菓子をもらうんです」
「トリック・オア・トリート?」
「ハッピーハロウィン♪」
 満面の笑顔でお菓子を渡してから正悟ははっと気づく。
(なんか今俺、すごく女性っぽくなかったか?)
 どうやらメイド服とこの雰囲気につられてしまったらしい。
「……なんか激しく誰かの影響を受けた気がする」
 ぼそりと呟いて、正悟は視線をカウンターの外に向けた。
「うん? 何だ?」
 カウンターの外側で、来館者への案内を行っていた樹月刀真がその視線に気づいて振り返る。
「いやあ、似合ってるなと思ってさ」
「うん。刀真も正悟もよく似合ってる可愛い」
「はい。刀真さんも正悟さんもどちらも可愛いです」
 月夜と白花がすぐに同意してくれる。
 同じネコミミメイドの格好をしていても、月夜の方は黒のネコミミにホワイトブリム、紺色のロングメイド服とエプロン。黒のストッキングをガーターベルトで吊った黒猫メイド。
 白花はネコミミもメイド服もストッキングも白の白猫メイドと対照的だ。
「……前にも言ったけどその評価は嬉しくない」
 再び女装して接客する羽目になるとはと、刀真は渋面を作った。
「良かった。俺は今回はさせられなくて」
 如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)は今回はハロウィンの行事はパートナーに任せ、自分は子供たちに配る飴の担当をしている。沙幸が予備にと持ってきたメイド服が正悟に回った為、着せられずに済んだのだ。
 危なかった、と胸をなで下ろしている佑也に、月夜がハロウィンの言葉をかける。
「お菓子を頂戴ご主人様。くれないと悪戯しちゃうぞ♪」
「ええっ?」
 ネコミミメイドのいたずらな笑顔に佑也は焦った。
「何だその台詞は?」
 他の来館者には普通に、トリック・オア・トリートと声をかけていたはず、と刀真が訝る。
「こうされると嬉しいって本に書いてあった……佑也嬉しい?」
「どんな本読んでるんだ……と、とりあえずお菓子の方で」
 びっくりした、と佑也は汗をかきながら手作りのべっこう飴を月夜に渡した。
 月夜の方は今度は沙幸のところにいって、同じように声をかける。
「月夜がしてくれるんだったら、いたずらでもいいかなっ」
 沙幸はそう言って笑いながら、カウンターに用意されていたお菓子を月夜にプレゼント。
 月夜から視線で促されて、白花も正悟にハロウィンのご挨拶。
「お、お菓子を……あの……つっ月夜さん、無理です! 凄く恥ずかしいですよっ」
 けれど、最後まで言えずに白花は真っ赤になった。
 そこにミニスカネコミミメイドがもう1人入ってきた。
「あ、ママ見て〜、白花たちもあたしと同じ仮装してるよ〜」
 ネコミミメイドたちを見て蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)を振り返って呼ぶ。
「あら刀真さんたちはやっぱり女装したんですね。知っていたらお揃いにしましたのに」
「謹んで遠慮させてもらいます」
 揃いの女装がしたかったわけではないと、刀真はカウンターから離れて行った。それを追っていった月夜と白花は、他の人の目につかない場所まで来ると、目を合わせ。
 2人でタイミングを合わせてミニスカメイド服のスカートの裾を指先で摘み上げ、刀真に心からの笑顔を向ける。
「ご主人様大好き♪」
「ご主人様大好き♪」
 刀真が、ついその様子に見とれていると、白花がちょっと不安そうに尋ねてきた。
「刀真さん……嬉しいですか?」
「あっああ、うん凄く嬉しいよ」
 夢見心地からさめて、刀真は慌てて頷いた。
「……はい!」
「ん」
 それぞれに嬉しそうな白花と月夜に、刀真は2人に渡そうと思っていたお揃いのネックレスを取り出した。
「はい、これは俺からのプレゼント……2人ともいつもありがとう」
 トリック・オア・トリート。
 お菓子より甘いもてなしをどうぞ。