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未踏の遺跡探索記

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未踏の遺跡探索記
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序章 語り部は語る

 そこは、とても静かな場所だった。
 かつてはそこに、何らかの精巧な建物が建っていたのであろう。苔に覆われた建造物の跡地に足を踏みいれたランツェレット・ハンマーシュミット(らんつぇれっと・はんまーしゅみっと)は、かろうじてわずかに残っている柱に手をふれて、そんな過去の悠久に思いを馳せた。
「想像してたより、綺麗なものね」
 そんな彼女に、傍らで周りを見回すスクルト・クレイドル(すくると・くれいどる)が声をかけた。
「……人が寄り付かないからなのかも。だから、こんな風に形が残ってるのよ」
「うーん、空気も綺麗っ!」
 スクルトに同意するように、ティーレ・セイラギエン(てぃーれ・せいらぎえん)ミーレス・カッツェン(みーれす・かっつぇん)も同様のことを口にする。
 確かに、彼女たちの言うように、遺跡は綺麗なものだった。長い年月の経過は思わせるものの、少なくとも荒らされた様子が少ないという点では、綺麗と言って問題ないはずだ。そしてそれに伴うように、周りの森の様子も地面からの草木も、何ら人の手を加えられていない自然の美しさを保っていた。
 想像していた不吉なイメージよりは十分なほどにマシである。だがしかし……
「ということは、やはり噂は本当と考えたほうがいいのかもしれませんね」
 ランツェレットは、美しい藍玉の瞳の奥に、興味深げな光を湛えた。
 遺跡は、彼女の興味をそそる未知なるものの一つである。とある獣人の集落で話を聞いたときから、ずっと彼女はこの遺跡について考察を続けてきた。かろうじて残っている数少ない地方文献を当たり、そこに住んでいた民族について調べることで、少なからずの収穫は得られる。だがやはり、物事は直接見るということが肝要である。そう判断して、彼女はスクルトたちと一緒にこうしてやって来たのだ。
 四人は、ランツェレットの指示に従って、遺跡に残る過去の名残を調べていった。遺跡の奥に見えるのは、おそらく神殿への入り口だろう。本命はそこにあるのだろうが……いかんせん、噂は間違いではないらしいと先ほど判断できた。冒険は嫌いではないが――無謀なことに望むほど、彼女は頭が悪いわけでもなかった。
「これは……」
 しばらく調査を続けていたランツェレットは、石碑らしきものに刻まれた、わずかに残る絵を見つけた。苔をむしるように削って、その全容を明らかにする。
 二人の神官……?
 神官らしき人物像は、六芒星の中心にいた。まるで何かに祈りをささげているような姿である。祈りの先にあるのは、光か……それとも、何か別のものなのか。いずれにしても、ランツェレットは六芒星を見つけたことにわずかな興奮を覚えていた。
(天と地の六芒星……? それとも何か別のもの? 神官は……当時の人なのでしょうか?)
 ランツェレットの仮説が頭の中に巡った。
「おー、ここだな!」
 軽快な少女の声が聞こえてきたのは、そのときだった。はっとなって、ランツェレットたちは思わず身を隠した。そっと顔を覗かせてみると、そこには遺跡へと足を踏み入れる少女たちの姿が。
「あれは……」
 どこかで見たことがある。確か、遺跡の探索に協力する者を探していた歴史学者ではなかったか。依頼書をよく見ていなかったが、遺跡というのはこのツァンダの森の遺跡だったのか。先頭に立って偉そうに進む少女の後ろから、護衛であろう者たちが続いている。
 しばらく身を隠していたランツェレットであったが、少女たちが遺跡の奥――神殿の中へと侵入したのを見てようやく息をついた。
「あー、あれが噂の歴史学者さんね」
 ランツェレットと同じように合点がいったティーレは、身を隠すために固くしていた筋肉をほぐした。
 さて、彼女たちが来たということは、魔道書なる話もこの遺跡のことだったのだろう。もしかすれば、天地の六芒星と何か関係があるのかもしれない。ランツェレットは興味深そうに猫のようないたずらな微笑を浮かべた。
「面白そうですね」
 ――が、それもため息ひとつ、すぐに途切れる。
「……でも、今回はわたくしの出る幕はなさそうですわ」
「……? どうして?」
 首をかしげるミーレスに、ランツェレットはくすっと笑ってみせた。
「天才に魔王に冒険屋に……これ以上はキャパシティオーバーですのよ」