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モンスターの婚活!?

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モンスターの婚活!?
モンスターの婚活!? モンスターの婚活!?

リアクション

「おかしいだろ……。数で押していたはずなのに、いつの間にか負けていやがる……!」
 アーミーショットガンを構えながら、パラ実生リーダーは戦慄していた。知らぬうちに1人、また1人と倒されていき、気がつけば彼を含めて、立っているのは3人だけになっていた。
「さーて、私の相手になってくれるのは誰かな?」
 そう言って現れたのは霧雨 透乃(きりさめ・とうの)であった。
「おっと、結構強そうなのがいるよ。他者の人生をぶっ壊そうとしてるらしいんだから、殺される覚悟くらいできてるはずだよね」
「は? 何を言って――」
「私は勿論できてるよ。そんな覚悟が要るような戦いじゃないと、物足りないからね。というわけで、ぶっ殺させてもらうよ!」
 両手に炎の闘気を纏わせて、透乃は肩を回した。
 彼女はハルピュイアのことも攫われた男にも興味は無かった。そして勘違いもしていた。パラ実生たちはハルピュイアを捕らえ、金持ちに売るつもりだったのであり、ハルピュイアを抹殺する予定は全く無かった。瑛菜からの情報も「パラ実生が一儲け衣装と悪巧みをしている」というものであり「ハルピュイアを殺す」などといった情報は皆無だ。
 だがそんなことは透乃にとってどうでもいい話だ。彼女は最初から「現れる敵を抹殺する」という目的の元にこの救出作戦に参加したのであり、殺し合いができないのであれば参加する義理など無いのだ。
 コイツはヤバイ、完全に殺る気だ……! リーダーは汗が体を流れるのを感じた。確かに彼も散弾銃を持っているあたり、誰かを殺そうとしていると取られても仕方が無いことではあるが、それにしても透乃の意思は異常であった。
 そしてもちろんそのようなリーダーの内心など露知らず、透乃はその身から「殺戮の狂気」と称されるオーラを発しながら懐に飛び込んだ。
 だが彼女の予定はここで少々変更されることになる。
「ッ、何!?」
 透乃の右手方向、そこにある木の上から彼女の顔面を目がけて短剣が飛んできたのだ。自身に向けられる殺気の感知と、女王の加護によって授かった第六感のおかげでダガーをはじき返す。だがそのダガーはなぜか弾かれた瞬間に、まるで自ら意思を持っているかのごとく木の上に「帰ってゆく」。
「リターニングダガー!? 一体誰が……?」
「透乃ちゃん、木の上よ! 木の上に誰かがいるわ!」
 かけられた声は透乃のパートナーの1人月美 芽美(つきみ・めいみ)のものだった。エリザベート・バートリの英霊である彼女は、森の中での殺戮、もとい戦闘を想定し、あらかじめ木の上に登っていた。だからこそ透乃にダガーを投げた人物――辿楼院刹那の存在に気がついたのである。
「どこのどいつか知らないけど、せいぜい苦しんで死んでもらうわ!」
 枝という枝を跳び、ダガーが投げられたと思しきポイントに向かって、芽美は突撃する。だが、それをいつまでも待っている刹那ではない。跳んでくる芽美に向かって自分から飛び出したのだ。
「悪く思うなよ。こちらも仕事なのでな」
「その言葉、そっくりそのままお返ししてやるわ!」
 袖や裾が異様に大きい中華服を着こなした少女と、左足に電撃を纏った英霊が空中で交差する。芽美の蹴りに合わせ、刹那が他に持っていた刀を振るう。刀と電撃のオーラが接触するが、お互いにダメージは与えられず、両者は地面に降りた。
「ちっ、あいつ、結構やるわね……!」
 芽美のそれは緊張から来る言葉ではない。他者をなぶり殺しにすることを望む本性から来る期待だった。
 一方の刹那は特に表情を変えない。自分は請け負った依頼を黙々とこなすだけ。リーダーを襲った女や、今の殺戮狂の英霊のように戦闘や殺しを楽しむ感情など持ち合わせてはいない。地面に降り立つと彼女は刀をしまわず、周囲を警戒する。先ほどの女が襲ってくるのかと思ったがそうではない。別の所からおぞましい気配が感じられ、しかもどこからともなく幽霊のアンデッド「レイス」がやってきたのだ。
(見たところ、あのレイスは野良ではない……。なるほど、まだ仲間がいるのか……。どうせあのパラ実生がやられるのも時間の問題。金が入らないなら逃げてもいいんじゃが……)
 逃げるだけなら問題は無い。隠れ身を行いながらこっそりと離脱すればいいだけだ。だがどうやら先の女2人プラス1人は刹那を逃がそうという気は無いらしい。芽美は自分の攻撃をかわした少女をなぶり殺しにしたいと思っているし、透乃はパラ実生リーダーよりも強い存在がいると感じるや否や、森の中に入っていた。刹那の選択は1つ、適当に相手をし、適当なところで逃げるだけだ。
 そうと決まれば行動は早い。彼女はアボミネーションが発せられるそのポイントを探り、そこに奇襲をかけたのだ。だが真っ向から攻撃するのではない。まずダガーを牽制で投げつけ、そのまま隠れながら進み、死角から必殺の一撃を叩き込んだ。
「きゃあっ!」
 そこにいたのは透乃のもう1人のパートナー緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)であった。刹那のダガーと刀が彼女を襲うが、驚いてへたり込んだ拍子に両方とも回避できた。
「ちっ……」
 舌打ち1つ、彼女はまたその身を隠し、再び物陰からダガーを投げつける。
「朧さんやアボミネーションを掻い潜ってくるなんて……!」
 先ほどは驚いたものの陽子も負けてはいない。彼女は持っていた鎖の刃の部分を投げつけ、飛んできたダガーを炎に包み、弾き返した。
「朱の飛沫、そんな技も持っておるのか……」
 炎で燃えるダガーはなんとか消火し、刹那はまたその身を隠す。これには陽子も辟易した。物陰から出てくればその身を蝕む妄執を叩き込み、幻覚で精神を破壊してやるところなのだが、肝心の標的が姿を見せないのであれば狙いようが無い。
 そうこうしている内に透乃と芽美もやってきた。3人がかりでパラ実の用心棒を叩きのめすつもりらしい。
(ふん、まったくもって鬱陶しい……。ま、適当に相手をして適当に帰るか)
 ダガーを投げ、死角から襲い掛かり、すぐさまその身を隠す。3対1になろうがやることは変わらない。ここは勝つよりも負けなければいい。刹那は再び行動を開始した……。

「うあ〜、なんか凄いことになってる……」
 ジェンド・レイノートがハルピュイアの少女と森を歩いていると、見えてきたのはハルピュイアのテリトリー、で繰り広げられる学生たちの戦闘現場だった。
「仲間ノ姿ガ見エナイ。ドコカニ行ッチャッタノカナァ……」
「危ない目に遭ってないといいんだけどね――って、うわあ!?」
 すぐさまその場を離れるべきだったのだが、呆然としていたジェンドは戦闘の余波に巻き込まれ、ハルピュイアの少女と離れてしまう。
 そしてそこに紫と緑の影が飛び込んできた。その影は高速で走り抜けたかと思うと、次の瞬間にはハルピュイアを小脇に抱えていた。
「だぁ〜ひゃっはっは! ようやく捕まえたぞこの鳥女!!」
 いかにも悪役っぽい高笑いをするのは、ジェンドのパートナー、ゲドー・ジャドウであった。鳥女ことハルピュイアの少女に鼻で笑われてから、今の今までずっとこの機をうかがっていたのである。この執念はおそらく誰にも真似はできないだろう。
「ヘ? エエ!?」
「さ〜て鳥女ちゃん、俺様の怒りを発散させるために、少しばかり人質に――」
「あ〜っと、手が滑っちゃいました♪」
 ハルピュイアを人質にとり、悪の限りを尽くそうとしたゲドーだが、その彼はジェンドに両膝の裏への攻撃――いわゆる「膝カックン」を食らい、その場で倒れてしまった。
「ってジェンドちゃん!? いきなり何すんの!?」
「手が滑っただけですよゲドーさん」
「いや手が滑って膝カックンになるわけないでしょ!?」
「あ、じゃあ、足が滑っちゃいました♪」
「言い直した!? ってそうじゃなくて、ジェンドちゃんは俺様のパートナーでしょ? なんでパートナーを攻撃しちゃったりなんかするの!?」
「え、だって、人質を取った悪役は大抵何らかの方法で人質を取り返されるものでしょ? それが今回はたまたまボクだったってだけですよ」
「あ〜、人質事件の典型的な解決パターン……、いやいやいやいや、いくらなんでもやっちゃ駄目でしょ、こういうのは!」
「残念ながらそれは無理ってものですよ……」
 なぜかジェンドは遠い目をしながらゲドーに背を向けた。
「だってゲドーさんは悪役だから」
「なんだそりゃ! まさに外道!?」
 そんなコントが繰り広げられている最中、ゲドーから解放されたハルピュイアの少女は、今度はパラ実生に同行していたリリィ・クロウに捕まっていた。
「ようやく捕まえましたわハルピュイアのお嬢さん」
「ホヘ?」
 先ほどは妙な悪役に捕まり、今度は妙なお嬢様っぽい誰かに捕まったりと忙しいハルピュイアである。当然のことながら彼女は、自分がなぜ捕まっているか理解できなかった。
「あなたがたにも何か理由があったのでしょう。そこまでは理解いたしますが、少々派手にやりすぎましたね」
「ハア……?」
 リリィは戦闘などそっちのけで目の前のハルピュイアに説教を始める。だが当の本人はなぜ自分が説教されなければならないのかわからなかった。
「その所業はパラ実生にまで知れ渡り、あなた方が逆に攫われることになるんです。これは報い。ただの自業自得ですわ。悪行を認め、悔いなさい」
「アノ、ナンノ話カヨク分カラナインダケド……」
「分からない、ですって……? 残念ながらそんな言い訳は――」
 通用しませんわ、と言おうとしたところで彼女の耳に笛の音が聞こえてきた。笛の音は森の奥から少しずつ近づいてくる。
「これは……?」
 草を踏みしめる音と共に、笛の主の正体が分かった。愛用のオカリナで哀愁漂う調べを奏でながら現れたのは、百合園女学院所属の退魔師、銀星 七緒(ぎんせい・ななお)であった。
「そのハルピュイアを……、どうする気だ……?」
 七緒の口からオカリナが離され、代わりに静かな声が紡がれる。
「どうする気、ですって? しれたこと。人を攫う悪い魔物に天誅を加えるのですわ!」
 そう言うが、彼女に抱えられたハルピュイアの怯えようを見れば、どちらが悪そうなのかは一目瞭然というものであり、しかもリリィはハルピュイアを金儲け目的で攫おうとしているパラ実生に同行した身。七緒がリリィを敵と認識するための材料は揃っていた。
「どちらにせよ、そのハルピュイアが売られる、あるいは見世物にされるのは明白……。悪いが……、全力で阻止する……」
 言いながら七緒は身につけた篭手――それと一体化した鞘から刀を引き抜く。
「くっ……、戦うつもりはありませんでしたが、やむを得ませんわね……」
 相手に攻撃する意思がある以上、自分も戦わなければならない。リリィは歯噛みしながら傍らのハルピュイアを横に押しのけ、フェイスフルメイスを両手で構えた。
「さて正義の味方気取りのあなたは、どこのどなたですの?」
「通りすがりの……、退魔師……」
 七緒の構えた刀から聖なる光が放たれる。かつてクイーン・ヴァンガードに伝わっていた破邪の刃の技だ。そのまま七緒は銀狼の耳と尻尾を体から生み出し、一気にリリィとの間を詰める。
「くっ!?」
 振り上げられた刀の一閃をメイスで何とか受け止める。そう思ったのもつかの間、今度は近くの木の上から何かが飛んできた。刀を受け流し、飛んできたそれをメイスで打ち返す。
「今度は何者ですか!」
「あたしかい? ……通りすがりの娼婦さね」
 飛んできたのはリターニングダガーだった。弾かれたそのダガーが帰っていく方向を見やると、そこには木の上に座ったロンド・タイガーフリークス(ろんど・たいがーふりーくす)がいた。
「ロンド……。って、それは誰の真似だ……?」
「さあね。あたしも混ぜてもらうよ、坊や」
 手元に収まったダガーをもてあそびながら、ロンドは木から降りる。
「2対1ですか。まったく余計なのが現れましたわね」
「余計で結構。あたしらは契約したパートナーだからね。パートナーの危機には駆けつけるもんだよ」
「わたくしにもパートナーはいますわ。……今ハルピュイアに捕まっているであろうパートナーがね!」
 今度はリリィの方が攻撃を開始した。それに合わせてロンドがまたダガーを投げるが、リリィは簡単に体をずらして回避する。そのままリリィは七緒の方にメイスの一撃を浴びせかけようとするが、七緒もただでやられるわけにはいかず、刀でメイスを受け止める。
「まったく、戦うつもりなど無かったといいますのに、本当に余計なことを――!?」
 メイスの重みで七緒を押し込もうとしたリリィだが、次の瞬間、彼女は驚愕していた。先ほど投げられたリターニングダガーが自分目がけて「帰ってきた」のである。見れば七緒の真後ろに、ダガーの持ち主がいる。リターニングダガーの「投げた本人に帰ってくる」特性を生かしたロンドの作戦だ。
 リリィは背後から飛んできたダガーを打ち返すべく七緒に背中を向ける。だがそれこそが命取りだった。
「甘いよ、お嬢ちゃん。坊やの影にあたし在りってね」
「あぎゃっ!?」
 ダガーはメイスで打ち返せたものの、七緒の頭に手を置いて反動をつけて逆立ちし、そのまま落下速度を上乗せしたロンドのかかと落としを脳天から食らい、リリィは昏倒してしまった。
「さて、お仕事完了」
「…………」
 戦闘が終わると、七緒は近くで呆然としていたハルピュイアに手を振った。そして彼女は背中を向け、またオカリナを奏でながらその場から立ち去る。
 それは、人間と魔物が共にいられるようにと願いを込めた祈りだった。
「な、何だったのですか、今のは……?」
 倒れたリリィのそのつぶやきは、誰にも聞こえなかった。

 ジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)ガイアス・ミスファーン(がいあす・みすふぁーん)のコンビがやってきたのはそんな時だった。2人は今回起きるであろうハルピュイアと人間とのトラブルをジャスティシアとして調停するつもりでいた、のだが……。
「ガイアスさん……」
「何かな、ジーナ……」
「これは一体どういうことなんでしょう……」
「…………」
 2人は今、それぞれ光る箒と小型飛空艇オイレに乗り、この状況を遠くから呆然と傍観していた。
 このコンビが呆然としている理由を探るためには、出発前の会話から遡る必要がある。

 そもそもはジャスティシアであるガイアスが、今回の騒動の結果如何によっては、ハルピュイアは討伐対象と認定されてしまうかもしれない、と考えたことが始まりである。
「森の隣人との融和すら果たせぬようでは、分裂したシャンバラに未来は無い」
 ハルピュイアと人間との「対立構造」を、東西に分裂してしまっている今のシャンバラとの構図に置き換えて、彼は考えたのだ。
「まずは騒動を収める。それから密猟者からの保護体制なども含め、将来的なハルピュイアとの交流の道を、その後の交流の中で探るのが良かろう」
 そしてそのための手段、道具、およびスピーチ文面を用意し、ガイアスは何が何でも調停する勢いで出発した。
 だがジーナとしてはどうしても不安が残る。確かに志は立派だし、ガイアスの思想には賛同しているが、騒動を収める手段そのものについては、あまり信頼していなかったのだ。
「というか、そもそもお話を聞いていただける状況にあるんでしょうか……。場合によっては『カオス』な状況にありそうなものですが……」

 そして結果がこれである。
 戦闘が起きているのは人間とハルピュイアの間ではなく、むしろ人間同士――さしずめ「諸学校連合軍」対「一部のパラ実生」であり、ハルピュイアに対してはほぼ全員が「攻撃」ではなく「説得」を試みており、ハルピュイアの方もしっかりと話を聞く態勢にある。「カオスな状況」といえば、せいぜい捕まった男たちに対して救出隊の一部が暴走しているといった程度のものだ。
 なんということはない。ジャスティシアの調停が無くとも、全員が物事を平和的に解決しようと考えていたのだ。もっと端的に言えば、ジーナとガイアスの行動は最初から失敗していたということである。
「せっかくラブセンサーまで持ってきたというのに、これでは出番無しですね……」
 幸せの歌を歌いながら光る箒に乗って、人間およびハルピュイアたちの注意を引き、ガイアスにスピーチの機会を与える。そのスピーチに従い、ラブセンサーを使って「レオンと最も相性がいい者」を測定し、もしハルピュイアの方が高ければこちらは身を引く、というのが2人の作戦だった。だがこうなっては、もはやその行動自体が余計である。
「せっかくスピーチ文面も考えてきたというのに、これでは出番が無いではないか……」
 主にハルピュイアへ訴えかけるための文面が書かれたメモを、ガイアスはこっそりしまい込んだ……。