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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…
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リアクション


第21章 隣は譲らない!クリスマスの熱きバトル

「そろそろ皆、お昼を食べる時間かな?レストランとかは並ばないと入れそうにないから、こっちに沢山来そうだね♪」
 クランプスのコスプレをして佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、ソリットビジョンが脅かす宮殿の庭へ移動式クレープ屋の店を引っ張ってきた。
「あぁ〜・・・カレーの匂いはいいけど、味がどうなんだろう・・・」
 彼が唯一作れない“カレーの風味”が、香りのよさとは魔逆に味の方は墓場から何かが出そうな雰囲気だ。
「響、味見してみない?」
「えっ!?僕・・・今お腹いっぱいだから遠慮しておくよ」
 サンタクロースの格好をしている仁科 響(にしな・ひびき)がつけ髭で口を覆い隠し、彼から離れるように仰け反りふるふると首を振る。
 お腹いっぱいというのは嘘で、いつまりはそれを食べてバイト中に昇天したくないということだ。
「―・・・だよね」
 何で食べてくれないか理解した弥十郎はため息をつく。
「あ、お客さんが来た!」
「いらっしゃいませ、おしながきはこの看板に書いてあるよ。さいころを2個ふって、出目で決まるんだよ」
「サイコロを振るんですね、えいっ。6のぞろ目・・・クリティカルです」
「では私も、それ!瀬織と同じですか」
 神和 瀬織(かんなぎ・せお)に続けて、クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)がサイコロをコロコロとテーブルの上へ転がす。
「じゃあ次は僕、それっ。ぞろ目じゃないね、ていうことは普通の注文でいいのかな?サーモンとサニーレタス・・・それとみょうがとゴボウを挟んだやつね」
 クリスの後に神和 綺人(かんなぎ・あやと)がサイコロを振る。
「最後は俺か、1のぞろ目・・・ファンブルだ」
 彼の後はユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)がコロンと振った。
「それじゃあ順番に渡してあげるね、どうぞ」
 クランプスから受け取ったクレープを、売り子のサンタが瀬織たちへ順番に渡す。
「具はホワイトグラタンですね?このシャキシャキとした食感、いいですね」
 茸とコーンの食感を口の中で楽しむ。
「熱さもちょうどいいですよ」
 クリスは頷きながらクレープを食べる。
「ゴボウをささがきにして、さっとごま油で炒めるといい香りがするんだよね♪出来たよサンタさん、渡してあげて」
 作っておいたクレープの生地が冷えないうちに巻く。
「はーい」
 持ち手を包み紙に包んだクレープをサンタクロースが綺人に渡してやる。
「あれ?生ハムも入っているよ」
「うん、ちょっとしたサービスかな」
「サーモンと生ハムって結構合うんだね、美味しいよ」
「フフ、そうかな?えーっとそちらのお客様はファンブルだったかな」
「あぁ・・・、そうだ」
「サンタさん、例の・・・渡してあげて」
「う、うん・・・。はい、お待ちどうさまー」
「―・・・・・・」
 受け取ったクレープをユーリはさっと背を向けて食べる。
「どうしたのユーリ?」
 顔から冷や汗を流す彼の顔を心配そうに覗き込む。
「それ美味しい?僕にも一口・・・」
「いや、やめておいたほうがいい。命を大事にするんだ・・・」
「えぇ。でもユーリは平気そうに見えるけど?」
「もう1度言う、命を大事にするんだ」
「う、うん・・・分かった。やめておくよ」
「(懸命な判断だね)」
 店の傍で彼らのやりとりを見ていたサンタがふぅと息をつく。
 薬学研鑚の癖で、食べた後、薬学の知識で作ったため効能は、食べた後ぽかぽかしすぎる感じだ。
 寒さにちょうどいい発汗作用があるのだが、味はとても残念な風味になってしまっている。
 というよりハバネロが大量に入っているせいで、口の中が大火事だ。
「何かクリスからいい香りがするね?」
「そ、そうですか?」
「うん。甘い香りがするよ」
「(さっきのクレープでしょうか?)」
 近づいてくる綺人をじっと見据え、彼が傍にきてくれるのを期待しているのか、魔法で止められたかのように動かない。
「な、なんと破廉恥な公衆の面前で」
 カップルの2人の距離が縮まっていくその様子をサンタがガン見している。
 実は好きな子がいるのだが、どうやってよいのか分からず、今年は無理だったけど来年こそはと、じっと観察している。
「待っているだけじゃ駄目だよ。自分から前にでないとね。恋愛小説だけではわかんないこともあるよ」
「そうだね・・・。あ、お待ちどうさま・・・っ」
 店の中でクレープを作っているクランプスに見透かされたように言われ、サンタは顔を赤らめながらも出来立てのクレープをお客さんに渡す。
「瀬織からも香りがするね、同じやつを食べたからかな」
 綺人は足を止めて、傍に寄ってきた少女を見下ろして言う。
 それを見たクリスはピリッと一瞬、怒りのオーラを発する。
「昼食もとったし、アトラクションへ行こうか・・・?」
 クリスのオーラが殺気に変わらないうちに移動しようと、綺人たちはマップを見ながらアトラクションを探しに行く。



「氷と雪で作られたアトラクションってどんなのか気になるよね。まずそこから回ろうか?」
 昼食を済ませた綺人はマップを広げてクリスたちと相談してどこから行こうか決める。
「そうですね、お昼を過ぎると混んでしまいそうですし」
「ソリッドビジョンが脅かす館がすっごく気になるんだけど、そこからでいいかな」
「面白そうですね、行ってみましょう」
 綺人とクリスの間を割って入るように、そそっと彼の傍に寄った瀬織がこくりと頷く。
 隣を取られた彼女の方は一瞬ムッとした顔をするが、4人でクリスマスを楽しみたいという彼の言葉と、場の雰囲気を壊さないようにぐっと堪えて我慢する。
「(瀬織を相手にムキにならなければいいが・・・)」
 穏やかな感じからひりつく空気へ変わりつつある雰囲気を感じたユーリは、その様子を見て深いため息をつく。
「(ごめんね、クリス。瀬織とユーリの2人とも遊びたかったんだよ)」
 彼女の不満げな様子に気づき、心の中で謝りながらも綺人はアトラクションを探す。
「えーっとね、町の観光用の宮殿に似せて作った館が、この辺りにあるっぽいね」
「あの大きな庭があるところじゃないですか?」
 クリスは瀬織を押し退けるように綺人の傍へ行き、大きな窓に設置された青い時計がある氷雪の建物を指差す。
「入りましょう綺人」
 彼女ばかり綺人と遊ぼうとしてズルイ!と感じた瀬織が無理やり割って入り、彼の手を引っ張って円蓋を戴いた王冠の門から中へ入っていく。
「(せっかくのクリスマスなのに、2人きりにさせてくれたっていいじゃないですか!)」
 イブだけじゃなくってクリスマスも綺人と2人だけで過ごしたいのに、せめて隣だけでもキープしたいというクリスの願望が叶えられずムッとする。
 瀬織が彼に対する恋愛感情がないにしても、さっきからずっと割って入ってくる彼女に対して対抗心を燃やす。
「ゴーストの形をした乗り物に乗るみたいだね」
「あの場所で見たゴーストとは違ってかなり可愛らしいですね」
 ファンシーな形の乗り物とそれを比べたクリスは、可笑しそうにクスッと笑って乗り込む。
「4人がけですか?じゃあアヤの隣に・・・・・・瀬織っ!?」
「ぼやぼやしている方がいけないんです」
 さっと綺人の隣を奪った少女がちょこんと座っている。
「―・・・クリスは俺の隣だな。後がつかえている、早く乗るんだ・・・」
「うぅ・・・はい」
 しょぼんと顔を俯かせてユーリの隣に座る。
「(アヤの後ろにすら座れないなんて・・・これって何かの罰ゲームですか?)」
 ぶつぶつと心の中で不満を呟きながら、乗り物の端を掴んでアトラクションの中を眺める。
「昼間でも中は灯りがついているんですね」
 そんなクリスにお構いなしに瀬織はアトラクションを楽しんでいる。
 奥の通路まで並び、ライトブルーの灯りで道を照らしているシャンデリアを見上げる。
「わぁ〜中から外の照明のようなオブジェが見えますよ!」
 落ちそうになるほど身を乗り出して外の様子を見る。
「あれ・・・今、オブジェの中に灯りが見えたような気がしませんでしたか、綺人」
「まだ昼間だよ?まさか外のが中に入ってくるなんて・・・」
 綺人はそんなはずないよと笑い、前へ向き直った瞬間、すぅ・・・っと何か冷たいものが首筋を撫でていった。
「わっ!?何っ、クリス・・・今、後ろから何かした?」
「いえ、何もしてませんよ」
「あぁ・・・クリスは何もしてないな。俺もな・・・」
 彼女でなければ隣にいる者の仕業かとじっと見られて、ユーリは冷静な口調で言葉をつけ加える。
「窓側とは逆の方を見ていたから分からなかったが。どうしかしたのか?」
「今、誰かが僕の首の後ろ側をさ・・・。うわぁっ!まただよっ、もう誰の仕業なのさ」
「―・・・あっ綺人。後ろを見てくださいっ」
 瀬織が指差す方向を見るとその頭上に、丸い灯りが浮かんでいる。
 グリーンの球体の灯りの中にあるブルーの発光体がチカチカと点滅している。
 犯人はオーブのような球体で、スゥーッと彼の背後を撫でるように通り過ぎたのだ。
「灯りが器の中に入ったら、器が動き出しましたよ!?」
「へぇ〜っ、もしかしてそれもソリットビジョンなのかな!」
「どうなんでしょうね。何だか不思議な感じがしますよ」
 驚くクリスたちを見てケタケタと笑うかのように、氷で出来た陶器のようなポットの蓋をかちゃかちゃと鳴らす。
「消えちゃいましたよ・・・?きゃぁあっ!?」
「―・・・っ!」
 シャンデリアの前でふっと消えたかと思うと、球体はグリーンの瞳の小さな精霊へと変わり、そこからにゅーっと現れてクリスとユーリを脅かす。
 40cmサイズの小さな雪の聖霊へと変わると指揮棒のようなステッキを振り出し、その周りにオレンジやピンク、イエローの球体を出現させて纏わせる。
「今度は何をする気だろうね!?」
 その様子を綺人は子供のように目を輝かせて見上げる。
「あの丸い光が天井のところで弾けちゃった!―・・・えっ、わぁ!?」
 球体が花火のようにパァアンッと弾けたかと思うと、辺りが急に真っ暗になり、ゆっくりと進んでいた乗り物が少しだけ加速して進み始める。
 “きゃっきゃ♪きゃはは♪ここから出られるかな〜♪”
 幼い子供の声音が辺りに響く。
 吹雪の中に冷たい雪の結晶が降り注ぎ、聖霊の姿をしたソリットビジョンが綺人たちの周りを飛び回る。
「そんなに中は寒くないですけど、この雪や結晶は冷たいですね」
 ソリットビジョンなのに肌に触れた瞬間、クリスはひんやりとした冷たさを感じた。
「見て、聖霊のステッキの周りの球体が、別の聖霊になったよ!」
 綺人の声にそれを見上げると、少女のような姿へと一瞬にして変わり、彼女たちは飛びながら話し始めた。
 オレンジの子が“ねぇ〜可哀想だよぉ、出してあげようよぉ〜”と言い、ピンクの子は“面白いから閉じ込めておきたい♪”と言ってクスクスと笑う。
 ピンク色の少女が4人を道に迷わすかのように、手の平からライトブルーの灯りを弾かせる。
 “そんなことしちゃいけないよ”と、イエローの子が言うと、乗り物の速度が戻りゆっくりと進む。
 さらに彼らの元となったブルーの子が“やだやだ〜もっと遊ぶんだぁい”と、言い放つと乗り物はまたもやガタガタンッと音を立ててスピードが増す。
「ゆっくりになったり早くなったり、ちょっとだけ怖いですねっ」
 瀬織が綺人の裾をぎゅっと掴む。
 “お家に帰してあげようよぉ〜”“そうしよぉうよ〜”とピンクとイエローの声が言うと、しぶしぶオレンジの子が頷く。
 “2人の言うとおり、そろそろ館から出してあげよう〜”とオレンジの子が言い、“むぅ〜”とブルーの子がしばらく考え込む。
「私たち出られるんでしょうか!?」
 すっかりアトラクションだということを忘れた瀬織が不安そうな顔をする。
 “じゃぁ、この子たちがまた遊び来てくれるっていうなら出してあげようかなぁ”とブルーの子が言う。
「来ます、来ますから出してください!」
 その様子を見て隣にいる綺人が可笑しそうにクスッと笑う。
 “出してあげるぅ”と言うとパッと灯りがつくと、綺人は館の中の大広間にいる。
 “ごめんねぇ、これをあげるから許してねぇ”そう言うとブルーの子はステッキを振り、瀬織の手の平に粉雪を降らし真っ白なチョコをあげた。
 聖霊たちがパァンッと消えると、乗り物はゆっくりと元の乗り場へ戻っていった。
「何もらったんだい、瀬織」
「え、ソリットビジョンじゃないんですか?」
「ううん。ちゃんと手の中にあるよ」
「あっ、あります!」
 乗り物から降りて綺人に言われて見ると、手の中にはホワイトチョコがいくつかある。
「私たちにはないんですか?」
「残念だけどないね。外見が子供の15歳未満じゃないのもらえないみたい。実年齢が子供でも、外見が大人だともらえないね」
 首を傾げるクリスに綺人は看板を指差して言う。
「そんなぁ〜、外見年齢が子供の人しかサプライズでくれないなんて・・・っ」
 彼の隣に座れないわチョコをもらえないわでクリスはムーッと頬を膨らませる。
「あはは・・・別のアトラクションへ行こうか」
 険悪な雰囲気になってきたのを察した綺人は、とりあえず場所を移動しようというふうに提案する。
 ムスッとしたままのクリスを連れてミラーハウスへ向かう。
 そこでは迷うと1時間以上出られないかもと話し合い、乗り物で進むことを決めた。
「じゃあ私は綺人の隣に座ります」
「いえっ、私がアヤの隣に!」
「ふぅ〜。助手席に座らせてもらうね、ユーリ」
『あぁーーーっ!そんなぁ〜』
 それを見た彼女たちは残念そうに声を上げる。
「ねぇ見てよ。氷の鏡に映ると体を捻った方向に、ぐねーっと曲がって見えるよ。まるでワープ中みたいだね?・・・・・・」
 後ろの席にいる2人に話しかけるものの、険悪な雰囲気が悪化し、返事が返ってくる気配はない。
「―・・・・・・ふぅ」
 ユーリはこれ以上耐えられそうにないといわんばかりに、ナビを頼りにさっさとミラーハウスを出てしまった。
「あぁ〜どうして出ちゃったんですか!」
「そうですよ、もう少し遊びたかったのに」
「(はぁ、どうしたらいいものか)」
 抗議の声を上げるクリスと瀬織に対して困ったように眉を潜める。
「せっかくのクリスマスだから恋人同士で過ごしたいじゃないですか!でも綺人が4人で過ごしたいっていうから・・・。別にユーリさんと瀬織がいるのがイヤっていうわけじゃないんですよ。でもせめてアヤの隣にいたいんです!それなのにっ」
「どうやら、クリスはわたくしたちがいるのが不満らしいですが・・・?いいじゃないですか。昨日は2人きりでデートしたのですから。たまには綺人をわたくしたちにも貸してください。クリスばかり綺人と遊んでずるいです」
「瀬織、“わたくしたち”ということは、俺も入っているのか?別にクリスがずるい、と思ったことはないんだが・・・。いや、綺人と一緒に過ごしたくないという意味ではないから」
 僕を1人板ばさみにさせて放置するの?というふうな目で見られたユーリは言葉をつけ加える。
「クリス、この前だってかなり楽しんだそうじゃないですか。一方的みたいですけど」
 貴族の館で綺人を着せ替えたことを知っている彼女が、クリスに対して不服をぶつける。
「2人とも・・・夕食にしよう。ここまま言い合いを続けていると、閉館になってしまう」
 言い合いを止めようとユーリが割って入るように口を挟む。
 話の腰を粉砕された2人は“はーい”とムスッとした顔で返事をした。
 夕食後、4人は観覧車へ乗ったが、そこでも綺人の隣を奪い合っていた。
「そこを退いてくださいっ」
「イヤです。わぁ〜夜になると観覧車もライトアップされるんですね。キレイですね、綺人」
 瀬織はクリスに席をゆずらず、彼の傍に寄ってべたっと窓にはりつく。
「そうだね・・・」
 彼女たちのやりとりにぐったりとしている彼にはもう感動する余力はなくなっている。
「その席、ちょっとは恋人に渡す気はないんですか」
「ありませんよ!」
「くぅう〜っ。こっちが大人しくしていればーっ。もう許しません!」
「力任せで退けるつもりですか?」
「いいえっ、ちゃーんと口で言いきかせてみせます」
「へぇ〜やってみてくださいよ」
 席をガタッと立ち上がった2人が睨み合い、バチチチィッと火花を散らす。
「園内の様子がよく見えるね!」
『あぁ〜っ、どうしてそっちに行くんですかっ』 
 ユーリの隣へ移動した綺人を見て、2人同時に大声を上げる。
 彼女たちはユーリに退くように迫るが、彼の方は“秘奥義・寝たフリ”を始めてしまう。
 数分後、どちらも綺人の隣に座ることが出来ず、無情にも観覧車は下へついてしまい降ろされてしまった。