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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

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第31章 クリスマスの夜の答え

「よぉ、朔。どうしたんだ?おじさんを町の外れとか・・・誰も来ねぇ所に呼び出してよ?まさかおじさんをおやじ狩りしようだなんて思ってないだろ」
 鬼崎 朔(きざき・さく)に呼び出され、裏路地にやってきた鬼崎 洋兵(きざき・ようへい)が冗談混じりに言う。
「―・・・ここでなら、幾ら暴れても迷惑は関わらないだろう・・・」
 無光剣の鍔に指をかけた朔は冷淡な口調で呟くように言い、今すぐにでも殺してやりたいほど憎い男を暗闇から睨みつける。
 地獄のようなスラムから助け出してくれた恩人であっても、家族を奪った憎い相手と知ったからには殺す。
「どうしたんだ?そんな駄々もれの殺気を放ってよ」
「今こそ、ここで・・・両親と・・・私の仇を討つ!」
「仇・・・?」
「洋兵・・・ごめんね。ボクが全て喋ったよ」
「お前、その姿は・・・そうか、そういうことか・・・聞いちまったか、朔。“俺がお前の両親を殺した”ことを・・・」
 現れたブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)の姿を見て、義娘の朔に知られてしまったのだと分かった。
「だから・・・朔ッチのために・・・ここで“共犯関係”は終了だ。・・・“覚悟”・・・してもらうよ」
 元々は塵殺寺院所属の剣の花嫁で花琳を殺し、そのまま洋兵にカリンの当時のパートナーを殺されてしまい封印されていた。
 洋兵側の事情も知ってはいるのだが、朔は幸福な時間を奪われたあげく、あのような生き方に変えるしかなくなった。
 それを思うと相手に復讐したいという決心が鈍らないために、心の奥底にずっと隠し続けている。
 あの事件は文字通り、洋兵とは共犯関係だったのだ。
「本当に・・・本当に洋兵が私の両親や妹を殺したのか?―・・・答えろっ」
「クックックッ・・・だったら、どうする?今まで教えたことを思い出して行動してみな?」
「それで・・・今まで何も知らないようなフリをして、私に近づいたというのか・・・。義父として接してくれていたのは、いったい・・・なんだったんだ・・・っ」
「はっ、そんな情ごときで俺を許すのか?」
「ごとき・・・・・・?そうだな・・・私の意志はそんなものでゆるぎはしない。義父と思っていた愚かさを呪い、その踏みにじられた心を嘲笑し、洋兵を・・・ナラカへ落とす!」
 直接この手で殺した感覚を得ようと剣は使わず、彼の背後を狙い素手で殴り殺そうとする。
「そんなもんじゃ俺は殺せないぜ?」
 子供と遊んでやるかのように彼女の拳を軽々と避けてしまった。
「ならば・・・、この姿に変わろう。たとえ人でなくなろうとも目の前の相手を殺せるなら・・・、私は何にでも変わってやるっ」
 黒犬の尻尾と耳、鬼神力でねじくれた一対の角、吸血のごとく尖った犬の歯を生やしたその姿はまるで人ならざる者のようだ。
「それを知りながら呼び出すなんてな。わざわざ死ににくるようなもんだぜ?」
 化け物のような姿へ変貌した朔に銃口を向ける。
 キリリッ・・・。
 走り回る獣を狙いトリガーを引こうとする。
「(ボクは、この決着に手出しはしないけどね。・・・いや、出せるはずがないんだ。だって・・・これは2人の決着だから)」
 その2人の命のやりとりをカリンは黙ったまま、ただじっと見つめている。
「(だから・・・それを今ここで見届けさせてもらうよ。どんな結末になろうとも、ボクは・・・“朔ッチの懐剣”であり続けるから・・・)」
 肌を刺すような寒さすら忘れ、復讐者の選ぶ結末を見届けようと見守る。
「ちっ。視界が悪いな、どこにやがる」
「フッ、遅いな・・・?」
 パシィイッ。
「くっ・・・!」
 カシャンッ、カララン・・・。
 懐への侵入を許してしまった彼は、黒薔薇の銃を凍結した道へ蹴り落とされてしまう。
「私がいる場所が分からないか・・・?私は・・・洋兵が逃げようとも匂いで追えるぞ」
「超感覚か・・・っ!?」
「あぁ・・・そうだ。だが、それが分かろうとも、お前の死は変わらない・・・!」
 ポリバケツを踏み台に電柱を蹴り獲物を狙う。
 自分の全てをめちゃくちゃにした憎い相手を殺したい・・・殺したい・・・。
 ただの思いを込めて赤色の双眸を冷たく輝かせて彼の利き腕を掴み、肘を背へ叩きつけ鬼神力で地面へ伏せさせる。
 ズシャァアアアーッ。
「―・・・ちっ、年には敵わねぇな・・・娘の動きに付いてけねぇや」
「これが復讐のために得た力だ。お前に向けることになるとは思わなかったがな、洋兵。・・・何か言いたいことはあるか?」
 本来は銀の月光色のグリントフンガムンガ“月光蝶”を赤く輝かせ、彼の喉元へ突きつける。
「・・・さあ、殺しな?遠慮することはねぇ。お前の憎き仇だ、朔」
 洋兵は元々の女性に手を出せない性格なのだか、それ以上に“朔に殺される覚悟”を持ってここへ現れた。
「―・・・そうか。・・・じゃあ、さらばだ。私の仇」
「(ごめんな俺のパートナーたち・・・。だけどな、朔に復讐を遂げさせて別の道を歩ませてやりたいんだ。そうすればきっと、真っ暗な道から抜け出して幸せな未来を掴めるから・・・)」
 自分の命1つでそれが出来るならと、死を受け入れようと目を閉じた瞬間・・・。
 路地の出口の方で聞きなれた声音が響いてきた。
「もう、今日は皆でクリスマスやろうって言ってあったのに!お姉ちゃんもブラッドちゃんもどこに行ったのよ〜。私1人で寂しくジングルベルジングルベル♪なんてイヤよっ」
 花琳・アーティフ・アル・ムンタキム(かりんあーてぃふ・あるむんたきむ)は膨れっ面をして朔を探している。
「あっ、あんな所にいた!・・・って、えっ、どうしてお姉ちゃん・・・洋兵おじさんにっ!?やめて・・・、やめてよお姉ちゃん!!」
「花琳か。やっと見つけたんだ。今更、やめるなんてことは出来ない・・・」
「お姉ちゃん、やめて!―・・・お姉ちゃんが洋兵おじさんにどんな恨みがあるか、私にはわからない」
 殺したカリンの中で魂を同化させていた花琳はアリスとして復活し、洋兵側の事情もカリンと同化している時に知っている。
 彼とは復活してから今日初めて会った。
「でも・・・お姉ちゃんが人の命を奪う姿を私は見たくないの。だから・・・洋兵おじさんを殺しちゃダメなの!」
「くっ・・・、―・・・っ」
 見つけた復讐相手を目の前にして、みすみす逃せというのか・・・と、必死にとめようとする花琳の声に手をとめて迷ってしまう。
「―・・・花琳に、私の妹に免じて今日は許してやる。・・・だが、忘れるな?私は洋兵・・・貴様を許さない。だから・・・簡単に死ぬな。貴様を殺すのは私なのだから・・・」
 洋兵の顔面の横すれすれに月光蝶を突き立てながら冷淡な口調で言い放つと、ズッと刃を地面から抜き鞘に収める。
「(朔ッチ・・・それが選んだ結果なら何も言わないよ)」
 ずっと朔を見守っていたカリンはそう心の中で呟き、去っていく彼女についていく。
「待ってよお姉ちゃん、ブラッドちゃんっ!(いつか2人が笑いあえる日くるといいね・・・)」
 雪の上からゆっくりと起き上がる洋兵の方へちらりと振り返り、彼女たちの後を追いかける。
「―・・・久しぶりね。洋兵、元気してた?」
 3人が去った後、茂みに隠れていた月読 ミチル(つきよみ・みちる)が姿を現した。
「ミチルさん・・・なんで!?」
「あら、何?幽霊を見た顔して♪」
「あの時、確か死んだはずじゃ・・・」
 この手で殺したはずの者が目の前に現れ、幻を見るようにミチルを見つめる。
「クス・・・死んだ人間が魔鎧として蘇っちゃダメ?ちなみにアーティフもいるわよ?・・・あなたとは話したくないそうだけど」
 洋兵の前に現れた魔鎧、月読 ミチルの正体は朔の亡くなった両親の魂が入った存在なのだ。
 彼とは懇意にしてた友人同士だった。
「―・・・そうか、魔鎧か・・・アーティフの旦那も一緒か。・・・良かった。あの時は本当にすまなかった!あなたたちの幸せを犠牲にしたのに俺は・・・護りたかった者を救えなかった。本当に・・・本当に申し訳なかった!」
 ドスッと膝をつき顔を俯かせた洋兵は、ミチルたち家族の人生を壊してしまったことを必死に謝る。
「そう、あの時人質になってた恋人さんとそのご家族の皆さん・・・助からなかったのね・・・あ〜あ、結局やられ損か〜」
 彼女はそれを知ると悲しそうにふぅと息をつく。
「どう謝ろうともこの罪は・・・一生かけても償いきれない。今すぐこの場で命を差し出せというのなら俺は・・・っ」
「でもね・・・私は恨んでないわよ」
 膝をつく洋兵の傍へ行き屈んでそっと彼の肩に手をかける。
「そりゃあ、1回死んだし、色々怒りたいことはあるけど・・・あなたはあの約束“娘をどうか助けて欲しい”を守ってくれた。裏切ってまでね・・・。娘を見守り続けてくれて・・・ありがとうね、洋兵」
「本当に・・・すまなかった」
 差し出された彼女の手を取って立ち上がると、一筋の涙が零れ落ち雪を溶かす。
 願わくは朔の凍りついた心を、この雪のように溶かすことが出来るならと、じわじわと溶けていく雪を見下ろした。