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【ロリオとジュエリン】アンノルドル・ルージュ

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【ロリオとジュエリン】アンノルドル・ルージュ
【ロリオとジュエリン】アンノルドル・ルージュ 【ロリオとジュエリン】アンノルドル・ルージュ

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第1章 Pi‘ece Fille. Le garc,on ‘etait un jouet de Fille. -遊ぶ女子・弄ばれる男子-

 イルミンスールの図書館に面白そうな本がないか、無遠慮にパピリオ・マグダレーナ(ぱぴりお・まぐだれえな)が本棚を漁る。
「さすがイルミンスールの図書館ね、妙な本がいっぱいあるわ!日本語和訳だけじゃなくってヨーロッパの言語のタイトルもあるみたいね。―・・・アンノルド・ルージュ?何かしらこれ!?」
 その怪しげなタイトルに惹かれたのか、青色の双眸をキラリンッと輝かせる。
「命令させる口紅なんて面白そうじゃない!んー・・・何々。ルージュを唇に塗って、相手の近くで命令をすればいいのね?どうやって作るのかな・・・」
 製造方法を見ようと、ハードカバーの本を抱えてページを捲る。
「う〜ん、ここには載ってないわね。でも・・・こんな面白そうなもん見ちゃったら、ムキになって探しちゃうじゃない♪」
 せっかく発見したんだもの、使わなきゃ損よ!というふうに、彼女はペラペラと捲り探す。
「む〜〜っ。あるにはあるみたいだけど、別の本に書かれているみたい。えーっと、何々〜・・・。この図書館じゃなくって、イルミンスールの森にある屋敷にいる貴族が持っているのね?ちょっとこの本借りていこうっと♪」
 場所をメモするのが面倒なパピリオは図書館の本を拝借し、ページに記されている地図を頼りに屋敷へ向かった。
「パピリオ、なんだか楽しそうね。どうしたの?」
 魔法学校の外でニヤつく彼女の姿を見つけた六連 すばる(むづら・すばる)は首を傾げ、少女の視線の先を覗き込む。
「今からと〜〜っても面白いものを作ってもらいに行くの」
「面白いものって?」
「フフッ、来てみれば分かるわ♪」
 すばるの問いかけにパピリオは、口元に“まだヒミツ♪”というふうに人差し指を当て森の中へ入る。
 屋敷の門の前へ行った彼女は本を抱えたまま、大きな声で住人に呼びかける。
「こんにちは〜、誰かいない〜っ?この本に書かれているルージュのことなんだけどーっ!」
「何ですの、こんな夕暮れに・・・」
 その呼びかけにジュエリンは何事かと門の傍へ行き、突然の訪問者を軽く睨む。
「ごめんね〜突然来ちゃって。でもこの本を見つけちゃったら、今すぐにでも行かなきゃ損だと思ってね♪貴女にとっても損はないと思うの」
 不審そうな顔をするジュエリンにパピリオが本のタイトルを見せる。
「愛しの婚約者に言うことを聞かせたいのよね?」
「―・・・そうですわね。私がコーディネートした服をなかなか着てくれなくて困ってますの」
「命令させるルージュの存在についてこの本に書かれているの。でも作り方が書いてなくってね。で・・・貴女の屋敷に、それを作る方法が記されている本があるらしいの」
「えぇ、確かに私の書斎にありますわ。そうですわね・・・、その手がありましたわ!―・・・フフフッ♪」
「完成したらちょっとだけ貸して欲しいの」
「そうね、教えてくれたお礼にお貸しいたしますわ♪では、客室で待っててください」
 彼女たちを客室へ案内するとジュエリンは嬉しそうに書斎へ走る。
「えーっとこの辺りに・・・、ありましたわ!まずはこの粉をシャーレに入れて、それから・・・・・・くふっ」
 怪しげな笑みを浮かべ、ドロドロしたダークグリーンの謎の液体に粉を加えて混ぜ、爽やかなブルーカラーの溶液が入ったシリンダーにドボドボッと流し込む。
 カシャカシャカ・・・ッ。
「まだ使っていない口紅がありましたわね、それを材料にしましょう♪」
 混ぜ合わせたそれに、ボトンッとピンクのルージュを落とす。
 それは可愛らしい色合いに変化し、毒々しいトーンのルージュへ変貌してしまった。
「ジュエリン、入りますよ?」
 たまにはジュエリンの話し相手でもしてあげようと、ロリオが書斎の扉をノックする。
「そ・・・、それはまさか!!?やっぱりそんな本・・・、さっさと廃棄処分してしまうべきでしたね」
 屋敷にやってきた少年はそのおぞましい光景を目にしてしまい、さーっと顔を蒼白させる。
「きっとこれで着替えてくれるはずですわ♪あ、先にあの方にお貸ししないといけませんわね」
 客室で待っているパピリオに貸そうと、本を抱えたまま書斎を出て行く。
「あら、ロリオ。ちょうど明日、お屋敷にお呼びしようと思っていたんですの」
「―・・・へぇ〜、そうなんですか。じゃあまたその頃に来るかもしれません」
 行くのか行かないのか、わざとらしく曖昧なセリフを言い、平静を装いつつ屋敷から逃げ出そうとする。
「ではまた明日に♪」
 逃げようとする彼の態度に気づかずジュエリンは客室へ向かう。
「ルージュが出来ましたわ♪」
「ありがとう!じゃあ、ちょっと借りるね」
「それって、門のところで2人が話していた口紅?」
 どう見てもただの口紅にしか見えないというふうに、すばるは睨むように見つめる。
「うん、そうよ。せっかくだからすばるんが使ってみて」
「確か・・・、言うことを聞かせる口紅よね?―・・・面白そう。マスターに、使ってみるわ。―・・・あの・・・寝室を一室、貸してくれないかしら?」
「え?いいですわよ。お客様用はこちらですわ」
「ありがとう。(マスター、森の中にある屋敷へ来てください)」
 ジュエリンに寝室を借りたすばるは、パートナーで試してみようと精神感応でアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)を呼び、屋敷までの道順を教える。
「(もうすぐ夜になってしまうのに、こんな時間に呼ぶなんてどうしたんでしょうね。不安定さでも生じたのでしょうか?)」
 そこでどんな事件が起きるとも知らずに、安定させてあげようと森の中の屋敷へ向かう。



 一方、ジュエリンの方はロリオが何かを感づいてしまったと察知し、玄関の扉の前で通せんぼする。
「本当に明日、来てくださるの?」
「えぇ・・・行くかもしれませんよ」
 かもしれない・・・と、逃げ言葉のように曖昧な返事を返す。
「どうしてちゃんと来てくれるって、言ってくださらないのです!?」
「そろそろ自分の屋敷に戻らなければいけないので、通してくれませんか?ほら、誰かお客さんが来たようですよ」
 屋敷へ入れてもらおうと外から呼びかけるアルテッツァの声を聞き、ジュエリンの魔の手から逃れようとする。
「だったら泊まっていらしたらいかがですの?あなた専用のお部屋をちゃんとご用意してありますのよ」
「そうですね、別々の部屋があれば・・・。って、泊まりませんよ!実はちょっと習い事があるかもしれないので、早く戻らないといけないんですよ」
「かもしれないってそればっかりじゃないですの!明日のお約束を守ってくれるかどうか分かるまで、帰らせるわけにはいきませんわ。お客様はメイドに案内させますから、どうぞご心配なさらずに♪」
「(くっ、なんてこった・・・)」
 意地でも退くものかというジュエリンから逃れるすべはないのかと思考を巡らせる。
「夜分遅く失礼します。スバルに呼ばれてきたんですけど、どこにいるんですか?―・・・2階にいるんですね」
 アルテッツァはメイドに案内され、大理石の階段を上ってすばるの元へ行く。
 敷地に入った時に“レクイエムは門の前で待たせてください”とすばるに伝えられているため、ヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)だけ屋敷の中へ入れず、寒空の下で待たせている。
 “何であたしだけここで待ってなきゃいけないの〜!”と、レクエイムが怒り顔をする。
「今日はいったいどう・・・」
「マスター、“こちらのベッドルームへ入ってください”」
 唇にルージュを塗ったすばるがアルテッツァに命令する。
「ハイワカリマシタ、イキマショウ」
「次は・・・“服を脱いでください”」
「フクヲヌグンデスネ。―・・・・・・っ」
 すばるにヒプノシスの催眠をかけられ、絨毯の上へ昏倒させられてしまう。
「ふぅ、傷つけないように運ぶのって大変ね」
 ぐっすり眠った彼を今度はサイコキネシスで優しくベッドへ運ぶ。
「後は、レクイエムを呼ばないと」
 扉を開けて庭に出た彼女は、屋敷のメイドに門を開けてもらいレクイエムを寝室へ連れて行く。
「まったくこんなに寒いのにっ。ずっと外で待たせるなんて酷いじゃないの!―・・・あら、“お楽しみ”だったの?」
 レクイエムが扉を開けると、ベッドの上に転がっているアルテッツァの足の部分が見えた。
「なぁに〜、あたしに自慢する気だったの?まったもう、そんなこと一々見せつけなくたって・・・」
「レクイエム、“下着姿になってください”」
「・・・ワカッタワ、ヌグワヨ」
 彼はすばるに命じられるがまま、服を床へ脱ぎ捨てる。
「―・・・えっと、“マスターのベッドに寝てください”」
「ワカッタワ、ゾディノトナリニネルワ」
「―・・・って、何やってるの?“お楽しみ”じゃないの?」
「えぇ・・・。それ以外の使い道が、特に思いつかなかったわ」
「そうなの?すばるんがそれでいいならいいけど」
 意外な展開にパピリオは目を丸くし、すばるがヒプノシスで昏倒させたレクエイムを見下ろす。
 すばるにアルテッツァへの思いを遂げてもらうと善意で渡したのだが、その優しさは彼女にまったく通じなかった。
「ねぇ、すばるん。何、それ」
「ん?パピリオ・・・これが気に入ってるの」
「ぶっ!これサイコ−、いーじゃないの。ビデオカメラ用意してくるわ、ばっちり撮影させて貰いましょ」
 彼女が手にしているBL系同人誌を見たパピリオはぶはっと噴出し、部屋の外に置いてきたカバンからビデオカメラを取り出す。
「パピリオ、ポーズどうしたらいいかな?」
「う〜ん、もっと顔を近づけさせちゃうとか♪」
「そうね・・・」
 彼らの顔がくっつき合うスレスレの位置にしようと念力で調節する。
「後は・・・マスターの足を、レクイエムの足の上に乗せて・・・。こういうのはどう?」
「どうせならお腹もくっつくくらいにしちゃおう」
 玩具で遊ぶようにパピリオは録画しながらクスクスと笑う。
「それ、いいかも。ギリギリの幅に調節するのって難しいわね」
 念力を使って彼らにポーズをとらせ、すばるとパピリオは明け方まで男ども2人で遊んだ。
「・・・どうやら昨日はあの後、寝てしまったようですね。ふぅ・・・今日が休日だったから良かったんですけど・・・。え・・・、どうしてヴェルが?」
「・・・ちょっとゾディ、アンタ何でアタシのベッドに寝ているのよ!」
 小さく声を上げるアルテッツァの声にレクエイムが飛び起き、ぎゃぁぎゃぁと怒鳴り散らす。
「ヴェル、何故貴男がボクのベッドに寝ているんですか?」
「え?違うの?・・・ここアンタのベッド?何でよ?どーしてよ!!」
 寝ぼけて彼のベッドに侵入してしまったのか、それとも何かありえない間違いでも起きたのかと、頭の中でもわもわと想像し始めたレクイエムがパニック状態になってしまう。
「ちょっと待ちなさいよアンタたち!いくらガレていても、ゾディは喰わないわよっ!というか、アタシノーマルよっ!!」
 扉を開けた隙間から覗くすばるたちの視線に気づいた彼は、慌てて服を着て彼女たちを追いかける。
「―・・・スバル、パピリィ、2人とも何をやっているんです?というかここって、私の部屋じゃないみたいですけど?」
 混乱するあまりどうしてこんな場所にいるのかすら、アルテッツァの記憶からすっとんでしまっている。
「だってここ、他所様のお屋敷よ?ここの寝室を借りたの。それにしても、昨日はお楽しみだったようね、テッツァ♪」
 まるで間違いが起きた現場を目撃したかのようにパピリオがニヤつく。
「しっかり、見させて貰ったわ」
 はっきりとこの目で見たとすばるはこくりと静かに頷く。
「これに、ばっちり撮ったわよ。うふふ、ごちそーさまでした」
「・・・ごちそう、さまでした。」
「トッタ?・・・今アンタ、撮ったって言ったわよねぇ!!ちょっと、というか、そのビデオカメラ渡しなさいってば!!」
 キャハハと笑いながら走るパピリオの手から、レクエイムがビデオを奪い取ろうとする。
「―・・・何が、あったんでしょうか?」
 自分の身に何が起こったのか、いまちい理解出来ていないアルテッツァは不思議そうに首を傾げる。
「そーんなに見たいなら〜、見せてあ・げ・る♪」
「いやあああああああ!!」
 その映像を見せられたレクイエムが絶叫する。
「―・・・ヴェル、まさか・・・」
 もう1人の被害者もそれを目にしてしまい、絶対にありえない間違いが起きてしまったと思い込み、失神してしまう。
 すっかり太陽が空へ登った朝、ルージュでいたずらされただけだと知ったアルテッツァは、パピリオを1時間くらい叱りつけた。
「まったく。これくらいのお説教で済んでよかったとか思わないでくださいね?このビデオテープは没収します。今度、同じようなことをしたら・・・、お説教だけじゃ済みませんからね」
「うぅ・・・分かったわよ〜。(たぶんね♪)」
 顔では謝っているように見せかけ、本当はまだ懲りていないように、心の中でパピリオがニヤッと笑う。
「すみません、パピリィたちがご迷惑をかけてしまったようですね。これ、お返しします」
 アルテッツァはジュエリンに深々と謝り、まだロリオを屋敷に帰さず通せんぼしている少女にルージュを返す。
「いえ、気にしていませんわ。それにおかげでよいことを思い出したんですもの♪」
「急いで学校に戻らないといけないので、これで失礼しますね。ほら皆、帰りますよ。ヴェル、いつまでもぼーっとしてないで行きますよ?」
 まだショックから立ち直れないレクイエムの腕を引っ張って屋敷を出ていった。
「なにぃいい!?なんでそんな危険極まりないものを消滅させず、平然と返しているんですか!」
「ウフフッ、ロリオ。お着替えの時間ですわよ」
「オレが着せ替えさせられるなら、その前にジュエリンが着せ替えられてくださいよ」
「着せ替えるのが趣味だから、着せ替えられるのはイヤですわ♪ちょうどよいところにあの方たちが、本の存在を思い出させてくれましたの。だからこのルージュで、あなたを着せ替えようと考えたんですのよ♪」
「お断りします!オレが着ても、筋肉が服を破ってしまうだけですからぁああーーーっ!!」
 通せんぼする彼女の手から逃れたロリオは屋敷の中から飛び出して庭へ逃げる。
「オホホホッ、お待ちなさぁい〜♪」
 好みの服を着せようと唇にルージュを塗り、全身で拒否する彼の後を追った。