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すいーと☆ぱっしょん

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すいーと☆ぱっしょん

リアクション

 5−しぇなにがんず

 一人――シニカルに笑う。

 それは今回の黒幕である、シャムシエル・サビク(しゃむしえる・さびく)。彼女はただただ不気味な笑顔を浮かべながら、今回の展開を見つめていた。
「なんだかねぇ、みんなそんなに躍起になって。こんなに面白くて便利な出来事他にはないのにねぇ、クスクス」
 彼女の笑顔は何かを含む。彼女の笑顔は全てを含む。
 だからこれを不気味と取るか、だからこれを無邪気と取るか、見る者によってどうにでも変化する。それほどに悪意はなく、だからといって善意もない。何もないから、興味であり、何もないから、暇潰し。
「そろそろボクも行こうかね、折角作ったクローンが駄目になっちゃたら、それこそ詰まらない事になりかねないんだから」
 ビルの屋上に腰掛けていた彼女は、その一言で姿を消した。


 街中であろうと、その斬撃は充分に、生物の命を絶つ事が出来るものだ。
「お待ちなさいな、わたくしの正体がわかったのでしょう?ならばあなた方はもっと踏み込んで攻撃をしなくてはならなくて?」
 先ほどの表情は既になく、斬撃を放ち、周囲を破壊していく度に不気味に口元が歪む。
「なんですか、あの人!」
 シャーロットは驚きを口にしながら、ティセラの攻撃を回避する。
「ティセラなのか、違うのかはまだ判らないわ!でも兎に角、本物にしても偽者だとしても、一対一じゃあとてもじゃないけど勝ち目がない!もう…!」
 セイニィはシャーロットと反対側に飛び退いて攻撃をかわす。
 攻撃には正確性がない。本物では在り得ないような雑な剣戟が為に、辛うじて全員致命傷を受けずに済んでいる。大きな威力、雑な太刀筋。それは既に、本物のティセラではないことを証明するものである。
「話をしながら攻撃してると、舌噛むよ!」
 攻撃の隙間を探し、シリウスが攻撃を仕掛け、弓を放つ。が、ティセラの偽者はそれを寸前のところで回避し、彼女たちと距離を取る。
「わたくしに限ってそんな事、心配なさらなくても結構ですのに」
「なら、これはどうよ」
 背後から近付いていたサビクはティセラの体を羽交い絞めにしようと抱きつくが、突然彼女の姿消える。
「わたくし、そう言う趣味はありませんの」
 やはり笑顔のままで、彼女はシリウスの後ろに避ける。
「ちょこまかとっ…!」
 シリウスが横から腕を薙ぎ払うと、再び背後に飛び、攻撃を回避するティセラ。
「そう苛々なさらずに」
「シリウス!そこ空けて!」
 後ろから紅鵡の声が聞こえた為にシリウスがしゃがむと、ティセラめがけで無数の弾丸が放たれた。乾いた音が幾つも連なり独特の音色を奏でて、対象の命を用意に削ぎ落とす殺意を乗せて。
「銃器が駄目、とは聞いてないよ」
「ふん、それでもまぁ、わたくしはよろしいですけど」
 連射の利く銃での攻撃は、多少の誤差があっても広域による攻撃は出来ないものであり、ティセラはそれを知っている。故にその攻撃を回避する事は彼女にとって、そうそう難しい話ではないのだ。手にする大剣の腹で持ってそれをはじき、止める。
「うっそ…ボクのも駄目って事?」
 紅鵡はティセラからの反撃備えて数歩、後ろに飛び退きながらそう呟いた。
「銃弾が効かないならば、無敵ですか?」
 銃弾を叩き落としたが為に出来た隙を突いて、今度はリーブラが背後に回って切りかかった。
「…っ!数で物を言わせるのは、あまり美しいとは言えませんわね」
 咄嗟に出した剣戟の為に、ティセラは不十分な体勢でリーブラの攻撃を受けていた。
「これは決闘ではないのですよ。数で勝利を収めるのは、立派な正攻法ですの」
「ならばその切っ先、全て払いのけて差し上げましょう」
 轟音轟かせ、ティセラが大きく横に薙ぎ払った。体重を乗せていたリーブラが後ろに飛んでいく。
「くっ…!」
「危ない!」
 シャーロットが飛んできたリーブラを抱き止め、着地させる。
「ありがとうございます…」
「気をつけてください、此処で命を落としてしまっては何にもなりませんから」
 二人は頷き、立ち上がる。
「まぁまぁ皆さん、もうお疲れですの?ならばいい事を教えて差し上げましょう。キャンディに成ってしまう呪いの飴は、確かにわたくしが渡して回りましたの。そしてそれを治せる手段は二つ。片一方はもう、既に解決しているかもしれませんわね。そしてもう一つは――」
 一度言葉を区切ると、ティセラは懐から小さなビンを取り出した。
「この『エリクシル・ソーマ』を飲ませる事、ですの。皆さんにはこの手段、取れますのかしら」
 終始にこやかにそう言っていたティセラは再びビンを懐にしまい、両手で剣を握りなおした。
「みなさんのやる気もそろそろ起きて来た頃でしょうし、そろそろ再開いたしましょう」
 近くにいたサビクが第一の標的だった。慌ててサビクは薙刀を握り、攻撃を受けようとした瞬間――。
「相手はまだこっちにいるぞ!」
 再び銃弾が降り注ぐ。サビクとティセラはそれぞれ反対へと飛びのき、銃弾を回避した。
「…敵?」
 セイニィが銃弾の飛んでくるほうへと目を向けると、そこには空飛ぶ絨毯に乗ったエヴァルト、ファニ、武尊の姿があった。
「味方だよ。唯斗から連絡を貰って駆けつけたんだ。朔さんたちは来ないけどな」
「あ、危ないなぁ!ボクも一緒に殺す気!?」
 サビクが叫ぶ。当然、彼女がもし避けなければ、ティセラ共々銃弾の餌食になっているわけだからだ。
「いやいや、貴殿らの先ほどの動きを見るに、もし予告なく攻撃しても、回避できる筈だが?」
 エヴァルトの隣にいる武尊が豪快に笑う。
「それにしても、なんかすごい事になってるねぇ…周りの人が逃げ出すのもわかる、かも」
 絨毯の端から下を見つめ、ファニは苦笑しながらそう呟いた。
「みんな、頑張ってくれ!俺も空中から援護を…」
 と、エヴァルトは思わず言葉を止める。彼らの目の前には、何やら不思議な物体が数個、浮いているのである。
「油断しましたわ。これは本気で攻撃しないと、わたくしの身が危険な様ですの」
 それはどうやら、ティセラの放ったビットらしい。エヴァルトは絨毯の高度を落とし、何とかビットの攻撃を回避した。
「え、遠距離攻撃まで出来るの?」
「洒落になってませんね。あれはもう、ティセラさんじゃない気がします」
 セイニィが驚いていると、隣でシャーロットは苦笑した。
「だったらいいさ、こっちが連携すればそれでいい」
 弓を引くシリウスは、誰にでもなくそう呟いてから矢を放った。
 それが第二波の始まりの合図だった。
 全員がそれぞれに攻撃をする。セイニィ、サビク、リーブラが距離をつめて攻撃するのに対し、シャーロット、シリウス、紅鵡は後方支援として攻撃をする。ティセラは手にする大剣を振りまわし、何とか近距離で攻撃をするセイニィたちを振り払い、ビットで支援攻撃を迎撃する、が、全員が交互に追撃をしたのには、彼女も予想以外だったらしい。更にはそこに、新しい増援がやって来たのだ。流石にティセラと言えどこれ以上の増援と追撃は対応出来ないらしく、思わず蹈鞴を踏んだ。
「そ、そんなっ!?」
 よたけそうになった彼女は慌てて後ろに飛び退き、剣を大地に突き立てて倒れずに回避する。
「へぇ、今、手応えあったんだけど?」
 セイニィがにやりとほくそ笑み、追撃の姿勢を見せた。ティセラの左腕には、セイニィの武器によって五本の切り傷がついている。
「うっははのは♪私たちだっているんだよ!余所見してたら危ないんだかんね!」
「ほら、美羽さん。そんなところに乗っていたら危ないですよ」
「いーじゃんよぉ!こっちの方が目立つんだからさ!」
 二人の加勢。小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が壊れかけた塀の上に立っている。と、言っても、塀の上にいるのは美羽のみであるが。
「それより、セイニィ、お待たせっ、ちょっと手間取っちゃったんだよね」
「セイニィさんから連絡がなかったので、一応百合園女学院に行っては見ましたけど、誰もいなくて、セイニィさんの家に向かっても、なんだかとても愉快な事をなさっていた七日さんたちがいるだけ。どこに行ったか聞いたら、犯人を捜しに行ったとの事でしたので」
 セイニィが恐る恐る携帯を見ると、確かに美羽とベアトリーチェからかなりのメール、電話が表示されている。
「ご、ごめん…ちょっと焦っててさ」
「ま、いいけどね、っと」
 言いながら、美羽がベアトリーチェの横に着地した。
「さて、それじゃあもう一度…」
 セイニィが切り出した瞬間――彼女たちに異変が起る。
「あれ、なんだろう。私の光条兵器、ちょっと形が…あ、消えた」
「あら、わたくしも」
 セイニィたちの光条兵器が次々に消えていった。始めは首を傾げていたセイニィたちはしかし、気付く。