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【じゃじゃ馬代王】秘密基地を取り戻せ!

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【じゃじゃ馬代王】秘密基地を取り戻せ!

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 炭坑口を見上げている理子の隣にヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)は並んだ。山が大きなあくびをしているようだ。
ヴァルはレオンの依頼を見たと言うよりは、「廃坑の付近で怪物を見た」との噂を聞きつけ、その真相を探るためにヒラニプラへやって来たのだった。
 その途中で依頼を知り、理子たちに協力することを決めた。
 目指すところは同じである。
「これだけ大きな炭坑だ。連絡手段はきちんと持っていたほうが良い。用心に越したことはないからな」
「どうする計画ですか?」
 一歩引いた所で2人を見詰めていたキリカ・キリルク(きりか・きりるく)が訊ねる。理子は振り向き、口元に指を当てると考えるように小さく唸った。
「計画と言うほどのものでも無いけど――まずはコボルトを退治しないと。あのこ達も安心してここで遊べないだろうし。ただ、どうして炭坑なんかに住み着いたのか、その 原因を突き止めないことには、コボルトが居なくなったとしても安全とも言えないわね」
「怪物の姿を見た、と聞いてここに来たんだが……今まではそんな噂は立たなかったらしい。突然ふって湧くものではないからな、どうにも不自然だ」
「やっぱりそう思う?」
「レオンは何と言っているんだ」
「取り尽くしたと思っただけで、実はまだ機晶石が眠っているんじゃないかって。それを狙った儲け主義のインケンやろうが独り占めしようと、コボルトを住まわせているんじゃねえかな理子っち!――と、こんな感じかしら」
 理子のやり過ぎなレオンの口真似に、キリカは薄く口元に笑みを刷いた。
「このあたりは教導団の管轄ですしね」
「それなのよね。だから、あたしもレオンの読みが当たってる気がする。まあ、機晶石がこの廃坑に残っているかは別として、“まだあるかも知れない”って考えて採掘しようとする輩が居てもおかしくはないかもね。あの子たちが秘密基地なんて作れるってことは、きちんと立ち入り禁止になっているわけでも無さそうだし」
 離れたところで円になっている子供達を眺めながら呟く。
「俺達は炭坑口で待機していよう。何が関与しているか分からない以上、様々な事態を考えておくべきであろう。外から埋められる可能性もある」
「分かった。何か合ったら連絡を入れるわ。これ、ありがたく借りていくわね」
 持って行けと手渡されたHCを理子は制服のポケットへ仕舞った。

 レオンの依頼、それもヒラニプラで起こっていると聞き、叶 白竜(よう・ぱいろん)世 羅儀(せい・らぎ)はすぐさま駆けつけた。依頼主のレオンの他にもう一人、見覚えのある少女――理子の存在に気付き、思わず白竜は足を止める。羅儀はそんな胸中を見透かしていたから、あえてニコやかに手を振り声をかけた。
「こんにちは〜。依頼見たよ〜」
「あ!」
 理子と目が合うと白竜は顔を顰めた。眉間の辺りに棘が刺さったような、幻痛を感じたせいだ。どう反応すべきか迷い、結局白竜は軽く頭を下げるに留めた。そして灯りの着火を確かめているレオンの元へと向かう。
「相方さんに“またお前か”みたいな顔されたわ」
「まあまあ、悪気は無いからさ」
 腕を組み白竜とレオンを眺めていた理子は、羅儀の言葉に肩をすくめる。そのやり取りも白竜の耳へ入っているだろうに、瞬きの1つも乱れることはなかった。
 白竜としては理子の正体を気にかけている場合でもない。深入りしないと決めたのだ。余計な詮索や好奇心は軍人にとって無用の拭い去るべき油のようなものだ。それに、気軽に声を掛け合う仲でもない。
「機晶石がまだ眠っていると睨んだんだな」
「俺が勝手に、そう思ってるだけだどな」
 懐中電灯のスイッチも確かめ、問題なかったのか「よし」と呟きレオンは立ち上がる。ランタンと懐中電灯が1つずつ。何も気付かない不利を決め込むことは容易い。
「閉山されて居なかったのか」
「その辺を上手く突いて、子供たちへのお咎めは無しってことにしたいもんだ」
 いくら野ざらし状態だからと言っても、ここは私有地だ。その上、炭鉱と言う危険な場所でもある。不法侵入だの親の監督不行き届きだのと持ち出されたら面倒だ。
「何か手がかりは無いかと調べてみた。それで――」
「それってあたしが聞いてても良い話?」
 羅儀と共に2人の元へやって来た理子は口を挟んだ。白竜は返事の代わりに心ばかりの視線を向ける。どうぞ続けて、と白竜を真似、理子は目だけで先を促した。
「数日前に、所謂アングラサイトの掲示板で、ヒラニプラ郊外での採掘作業員募集が行われていた」
「アングラサイト?」
「そんな足の付くところで何やってんだかな」
 似つかわしくない単語がこぼれ、理子は目を丸くする。レオンはあまりの不始末さに、抑えきれない苦笑を漏らした。
「正規雇用ならそんな所を利用する必要は無い。機晶石についての読みは、当たっている可能性が高いな。それと、これはあくまで噂のレベルだが」
 噂−―とは珍しい。これには羅儀も驚かざるを得なかった。軍人を絵に描いて更に額に入れたような白竜が根拠も裏取りもしていない話題を口にするなど、思っても見なかったのである。もちろん同じ情報を羅儀も共有していたが、だからこそ、理子たちに提供するのは自分の役目だと思っていた。
「近頃になって機晶石売買の業績が不自然に伸びている店がある、とのことだ。街にある教導団と契約している武具屋の談だ」
「それはまた――深読みしたくなるわねえ」
 好戦的な笑みを浮かべる理子に、羅儀とレオンは顔を見合わせ、白竜は一瞥した。
 
「君達の秘密基地って、どうなってるんだ?」
 枝で地面に絵を描いたり、石を重ねてみたりと廃坑から離れたがらない子供の輪へ十七夜 リオ(かなき・りお)は目を輝かせて入っていった。何やらうずうずしているようだ。質問の意図がつかめず、黒髪の少年がちょっと考えるそぶりを見せた。
「どんなって……普通だよ。細い道がいっぱいあるから、好きなところを自分の部屋みたいにしたり、かくれんぼしたり、大事なものを隠しておいたりしてるだけ」
「何かこう、仕掛けたりとかはしてないの?」
「しかけ?」
「落とし穴とか、ネズミ捕りとか、そういうの。外敵からの襲撃に――」
「他に炭坑の中に子供は居ないのか」
 白竜は鋭い刃でリオの語尾を切り落とした。ちょうど炭坑内の様子を知りたいと思っていたのだ、この話題は都合の良いものだ。長身の白竜に見下ろされ、怯えるかと思えば栗色の髪の少年がムッとしたように眉を吊り上げた。
「中は広いから、全部なんて分からないよ! ミサもフォスターもカリエジも、今日は家に居るって言ってたんだ! それに、俺は子供じゃないんだからなっ今度6才になるんだ! 弟だって生まれるんだぞ! あっ、女の子かも知れないけど……」
「それが街に居る子供全員なのか?」
「違うよ! マリオもアリサもルドナーも――」
 街にすむ子供の名前を全て言うつもりだろうか。これだから子供は――と半ばうんざりと目を眇めた所で進み出てきた少年が居た。
「ここに一緒に来たのはオレたちだけだよ」
リーダー的存在なのだろう。意志の強そうな目をしている。このグループの中では一番身長も高く、おそらく年齢も一番上なのだろう。少しは話が出来そうだ。
「つまり、他の子供が中に居る可能性もある訳だな」
「中に居るときは誰も見なかった。声も聞こえなかったし」
「炭坑内の全てを確認したのか?」
 少年は気まずそうに視線をそらす。
「……そうじゃないけど。リベリアが言っただろ、この山、すっごく広いんだ」
「ここは俺たちの秘密基地なんだぞ! 他のやつらなんて、入れてやったことねーもん!」
 リーダー格の少年の背に隠れながらも白竜へ言葉を投げつける。この少年がリベリアと言う名前なのだろう。
「ねえねえ、中に行くんでしょう。俺たちも一緒に行く!」
「駄目だ」
 予想通りの訴えをにべもなく一蹴する。ぴしゃりと叱るような声色に、リベリアは悲しむどころか顔を真っ赤に怒り出した。
「白竜、あたし、この子たちの親御さんに連絡しておくわ」
本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)はパートナーのマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)から子供達の親へ連絡を入れるようにと指示を受けていた。それを聞いて慌てたのは抜けるように白い肌にソバカスのある少年だ。
「え、ダメだよ! ここが僕たちの秘密基地だってばれちゃう!」
「あのね、炭坑って暗いし、とっても危ない場所なんだよ。ちゃんと宝物は取り返してきて上げるから、これからはもっと安全な所で遊ぶようにしなね」
 とは言ったものの、飛鳥だって子供たちの気持ちが分からないでもないのだ。コボルト退治と炭坑の調査が済めば、この廃坑は子供達の手から離れてしまう。教導団とヒラニプラ家の管理下に置かれることだろう。せめてもの償いとして、何か出来ることはあるだろうか。
 ――新しい遊び場を提供してあげられたら良いけど。
 しかし、それでは「秘密基地」では無くなってしまう。飛鳥は肩を落とす子供達を見下ろしながら大きなため息をついた。

「白竜にひるまないなんて、中々骨がありそうな子達だねえ〜」
 羅儀がのんびりと白竜の肩を叩く。口調や声音に変化はないが、面白がっているのがまざまざと感じられ(おそらく羅儀も隠すつもりはないのだろう)白竜は無言で戒める。慣れきった相手には何の効果もない。暖簾に腕押しぬかに釘とはまさにこの事だ。
 白竜はちら、と少女へ視線を向けた。目元がわずかに赤い。泣いていたのだろう。何かを抱くように洋服の袖や裾を掴んでいる。制帽の下で鋭く光る瞳に、少女は射すくめられたのか小さな肩を震わせる。これだからと苦笑しながら羅儀は目線を合わせるためにしゃみこんだ。女の子の頭を優しくなでてやる。
「泣かないであげてね〜このお兄さん、怖い顔するのがお仕事なんだよ〜かわいそうでしょ〜」
 同時に安心させるために微笑みかける。
 すると少女は目をまんまるにし、それから恥ずかしそうに俯いてしまった。


「何やってるの? リオ」
 子供から秘密基地について尋ねたかと思えば、今度はノートパソコンを前に真剣な顔をしている。ひょいとフェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)はパソコン画面を覗き込んだ。
「秘密基地! やっぱりこういうのは、どこの子供でもやるもんだねえ〜。うん、良いね、夢があるね!」
「これ……図面だよね?」
「せっかくだから、本格的な基地を作ってみたらどうかなって思ったんだ。コボルトを追い払っても、また現われるかもって不安だろうし。もしもの対策をしておけば、子供たちも安心して遊べるだろ? ここは徹底的にやってみたら良いと思うんだ。例えば入り口に認証システムとか……それから防衛用にも何か欲しい所だね。あ、余ってた機関銃があるから、それをBB弾仕様に改造して――」
 ひらめきを次々と設計に組み込んでいく。どう考えても子供の遊び場らしからぬ機能を搭載したそれは、秘密基地なんて可愛らしいものではなくなっていた。
「子供の遊び場にこんなのつけちゃっていいの?」
「まぁ今回の事もあるし、念には念を」
「……壁や天井の補強が必要なのは判るけど、装甲版とか……」
「ダンボールで作るのが王道って聞くけど、それだと耐久性が不安だからね。それに、ここはヒラニプラだよ! 端材やクズ鉄が多いから、その気になれば何でも作れるはず」
 腕が鳴るよな〜! と嬉々としてパソコンと向き合うリオの横顔を見ながらフェルは何だか違う時代に来たような遣る瀬無さを感じていた。
そういう問題だろうか、というか。
「コボルト退治の依頼……じゃなかったんだっけ?」
 もちろんその呟きが届くことはなかった。