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テーマパークで探検しましょ

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テーマパークで探検しましょ

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 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、自然と手を取り合って進んでいた。
 道は段差が多く、慎重に進まないとつまずいてしまうからだ。
「やっぱりカップルが多いわねぇ」
 と、セレンフィリティは呟いた。どこからか聞こえてくる声はどれも二人ずつで、それだけ噂を信じて訪れる客が多いことを知らされる。
「ええ、そうね」
 セレアナがそう相槌を打ち、ゆっくりとした歩調で進む。
 人一人通るのがやっとの狭い通路もくぐり抜けて、二人はまた手を繋いだ。
 特に意識したわけではないのに、何故だか急にドキドキしてくるセレンフィリティ。手を繋ぐのはこれが初めてではないし、セレアナとはもっと深い付き合いだってしている。それなのに、何故か鼓動は高鳴っていた。
 セレアナはそんなセレンフィリティに気がついて、絡めた指から彼女の感情が伝わってくるような気がした。そんなことを考え出すと止まらなくて、セレアナまでドキドキしてしまう。これがステンノ洞窟の魔力か。
 そうしてしばらく沈黙が続くと、唐突にセレンフィリティがつまずいた。
「あっ」
 繋いだ手を離す間もなく、セレアナはセレンフィリティと共に転んでしまう。
「いったた……ごめんね、セレアナ」
 と、身体を起こすセレンフィリティ。
 セレアナは地面に手をつき、その場に座り込みながら口を開いた。
「いえ、それよりもセレン、怪我はない?」
「うん……ちょっと打っただけだから平気よ」
 セレアナがほっとして息をつくと、ふいに目が合った。
 何だか無性におかしくなってきて、くすっとセレンフィリティが笑う。すると、つられてセレアナも笑い声を漏らした。こんな風にわけもなく笑うのは久しぶりだ。
 気が済むまで笑うと二人して立ち上がり、身体に付いた砂を手で払った。
 そして歩き出そうとすると、セレンフィリティがセレアナへ手を差し出した。
「もう少し、こうしていようか?」
「……ええ」
 にっこり笑って再び手を取り合う。
 この時間がいつまでも続けばいいと、二人は思う。何でもないこの瞬間が、とても幸せだった。

 しかし、何もカップルばかりが洞窟へ行くわけではなかった。
 薄闇に紛れていちゃつく恋人たちを横目に進むブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)。その異様な姿の後ろにはステンノーラ・グライアイ(すてんのーら・ぐらいあい)が付いてきていた。『ステンノ洞窟』と名の付いたアトラクションに、同じ名前を持つ彼女は興味を引かれたのだ。
 一方のブルタはさりげなく『ダークビジョン』を使いながら進んでいた。アトラクションではあるが、この洞窟をゴールすることができれば、何か答えが見つかるような気がしていた。
 ばさばさとコウモリらしき羽音が響く。
 前方のカップルがびくっとして悲鳴を上げたが、ブルタは無表情に視線を送るだけだった。世の恋人たちはこの洞窟での釣り橋効果を狙っているかもしれないが、そんな事で育まれる愛情は安いものだと考えていたからだ。
 恋とか愛とか、そういったものを表現するのはブルタにとって難しいことだった。「愛は憎しみで始まった場合の方がより大きくなる」とか「愛と憎しみは相反する心理作用の両極を意味する者ではない。憎しみとは人間の愛の変じた一つの形式である。愛の反対は憎しみではない。愛の反対は無関心になる事だ」という二つの言葉がそれを阻むのだ。
 だからこそ、そこら辺でいちゃつくカップルが眩しくてならなかった。
 ステンノーラもまた、彼同様にどこか冷めた様子で――両目は閉じられていたが――カップルたちを見ていた。
「スノー、意外とゴールまでは遠そうだね」
 ただ歩くことすら辛くなってきて、ブルタはそう言った。がちゃがちゃと無機質な足音が洞内に反響している。
「ええ、そうですわね」
 行列が出来るだけのことはあった。これほど本格的であるなら、参加者も次々に勇んで挑戦するだろう。そしてそれを彼らが乗り越えていくことで、彼女の疑問に答えが出る。
『人とのつながりを持つと、人間強度が下がるというのは本当のことなのか?』
 それぞれの答えを探して、二人はカップルたちの横を通り過ぎる。
 ――やはり、最後までたどり着ければ何か見つかるはず……身体を失くした自分でも、確かだと信じられる何かが。
 そんな予感を胸に宿して、ブルタとステンノーラは仄暗い道を進んだ。

 メリーゴーランドにジェットコースター、観覧車のあとにコーヒーカップ。
 一通りアトラクションを巡った黒崎天音(くろさき・あまね)は、チュロスを片手に『ステンノ洞窟』へ向かっていた。
 その後ろから、ふらふらとブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が追う。
「気分が悪そうだけど、どうしたの?」
 と、振り返った天音にブルーズはうんざりしたように答えた。
「どうしたもこうしたも、お前がコーヒーカップをあのように回すからだろう」
 と、気持ち悪そうにする。
 天音はそんなパートナーを気遣う素振りもなく、『ゴルゴーン』の列へと並ぶ。
 洞窟へ入るまでに多少の酔いは覚めたものの、その入り口が見えてくるとブルーズは溜め息をつきたくなった。すでに疲れているのに洞窟探検とは。
 いつもと変わらない歩調で薄暗い中を進む天音。
 点々と灯る明かりを頼りに道を行くが、奥の方はさらに険しくなっている様子だ。
「行き止まりか……これを上れってことみたいだね」
 と、立ち止まって見上げる。ごつごつした壁にはきちんと出っ張りがあり、それを使って数メートル上へ上がれば良いようだ。
「気をつけろよ、天音」
「分かってるって」
 手頃な位置に手をかけ、足をかけ、天音が上を目指し始める。ブルーズは彼が上り終えるのを待つことにして、その様子を見守っていたが……。
 天音が一瞬の油断から足を滑らせた。はっとしたのも束の間、天音はブルーズを下敷きに落ちてしまう。
「……悪いね、ブルーズ」
 と、笑う天音に彼は答えた。
「それはいいから、早くどいてくれ」
 アトラクションといえど、天音の隣にいる限り苦労しそうだ。

「うーん、やっぱりレプリカだと気合いが入らないですねぇ……」
 ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)は呟きながら、手にした剣を何度も持ち直した。
 普段なら武器を持つことで動きが自然と機敏になるのだが、レプリカではその効果が出ないらしい。
 仕方なく歩き進むルーシェリアだが、洞窟ということもあって歩きにくい。
 段差に気をつけながら前進を続けていると、人一人通るのがやっとの細い道が見えてきた。他の参加者が苦労して通っていくのが分かる。
「あれくらいならどうってことないですぅ」
 しかし、いざ自分が通ろうとすると、腕が壁に当たって痛かった。平均より太っていたら通れないんじゃないだろうか。
 身体を横にして進んでいき、ようやく道が開けてきた。
 遠くに見えるその灯りを横目に確認し、身体の向きを元に戻す。
「きゃっ!」
 その直後、踏み出した足が石にぶつかって転んでしまった。すぐに起き上がるルーシェリアだが、転んだ拍子に剣を落としてしまったようだ。
 薄暗い中を慎重に、手探りで剣を探す。ごつごつした地面は手の平に優しくなかった。
「レプリカじゃなければ転んだりしないのに……」
 と、呟くルーシェリアの指先に硬いものが触れた。剣かと思って目を凝らすと、それはごそっと動いた。
「……虫?」
 そう分かった瞬間から、似たような音が周囲に溢れていたことに気づくルーシェリア。
「い、嫌な予感ですぅ……!」
 ――薄暗さが彼女の恐怖心を煽る結果になっていた。