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長雨の町を救え!

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長雨の町を救え!

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「うおおおおっ!」
 健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)が構えた光条兵器……光り輝くボウガンを立て続けに放つ。
 それはゴーレムの硬い表皮を打つが、穴を穿つには至らない。
「馬鹿な、効かないだと!?」
 驚愕が満面に広がる。
「はわわわ! どうしましょうどうしましょう!?」
 防水カバーを取り付けた自らを抱え、アニメ大百科 『カルミ』(あにめだいひゃっか・かるみ)が甲高く悲鳴を上げた。
「まだまだね。こういう相手には、力を増幅して戦うのよ!」
 枸橘 茨(からたち・いばら)が、自らの光条兵器を両手に構え、ゴーレムへ向けて斬りかかる。
 けして素早いとは言えないゴーレムに対し、攻撃を当てるのは難しくない。しかし、その一撃もつるりとしたゴーレムの肌を切り裂くことはできない。そして、懐に飛び込んだところにゴーレムの拳が飛ぶのだ。
「危ない!」
 勇刃が横から茨の体を抱え、横へ飛ぶ。危うい場所を、ゴーレムの拳が掠めた。
「連撃を加える事ができれば……そうだ、茨、カルミ! 奴の動きを封じてくれ!」
「あの大きさじゃ無理よ。重力を操作したって、せいぜい半身ってところね」
「この雨じゃ、魔法で温度を下げても、カルミの力じゃ周りの水が手当たり次第に凍るだけでうまく操れないです」
「くっ……」
 二人の回答に、勇刃は歯がみする。
「ダーリン、どうしましょう!?」
 カルミの視線の先では、ゴーレムがのしのしと近づいてきている。
「……逃げる!」
「ええっ!?」
 勇刃は勢いよく叫び、光条兵器から細かな光をいくつもゴーレムに向けては鳴った。目くらましだ。
「こっちだ!」
 そして、ゴーレムに背を向け、遺跡の外縁部へ向けて走り出す。
「なるほど、とにかく中央部から引き離すというわけね」
 勢いはあっても説明がない勇刃の目的を察し、茨が煙幕を巻いた。雨の中ではいまいち効果は薄いが、今は雨がそれ以上の効果を発揮してくれるのだ。
 と……
「わわわ!? 避けてくださいませ!」
 別の方向から、バシャバシャと足音を立ててリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)が彼らに向けて走ってくる。その後ろには、別のゴーレムがどかどかと追いかけて来ている。
「でええっ!?」
 勇刃達も止まれない。Y字に合流して、なぜか足並みを揃えて走り出した。
「ま、まさか同じことを考えるひとが居るとはね!」
 茨が走りながら、リリィの横顔をうかがう。リリィはぶんぶんと首を振った。
「お、囮ですの!」
 ちらと後ろを振り返る。二匹のゴーレムが仲良く四人を追いかけて来ている。
「囮?」
「この先に、水が深くなっている場所がありますの。そこまで連れて行かなければなりませんの!」
 と、リリィ。
「そうか! その水の中にゴーレムを沈めるという作戦だな!」
 勇刃が勢いに乗って加速する。カルミはついていくのでいっぱいという様子だ。
「いや、あの……」
 言いかけるが、走りながらしゃべるのでも精一杯だ。やがて、彼らが走る先に、くぼんで水たまりのできている一角が現れた。
「あ、あそこですの!」
「よおし!」
 勇刃が懐から鈍器のようなお菓子……あるいはお菓子のような鈍器、茸山を抜き放ち、足を止めて振り返った。
「健闘くん!?」
「俺が水に突き落とす! 後は任せた!」
 またも勢いだけは満点の様子で、勇刃は叫ぶ。そして、周囲の建物の壁を蹴って、高く跳び上がった。後から追いかけるゴーレム達の頭上を飛び越え、その背中側に回った。
「こっちに!」
 リリィが水の浅い場所を示し、一気に水たまりを渡る。ハラハラした様子で、茨とカルミがその後に続く。
「おおおおりゃあああ!」
 勇刃が叫び、茸山を地面へ打ち付けた。石畳が砕かれ、一体が地震のように震える。勇刃を捕らえるため、足を止めようとしていたゴーレムが、ぐらっと体勢を崩す。
「もう! それだけで転ばせられたら、苦労はしないわよ!」
 叫ぶ茨の瞳が、赤く染まる。目に見えない重力場がゴーレムの上半身を捕らえ、水の中へと引きずり込む。
「って、もう一体居ますよ!」
 カルミが指さす方には、足を止めずに彼女らを追いかけたもう一体のゴーレム。水たまりを踏み越え、彼女らに迫っている。
「いや、狙い通りだ。研究の成果を見せてやる!」
 別の……男の声が聞こえた。と思った瞬間、ゴーレムの足下の水たまりがぼこぼこと浮き上がり、その足を捕らえる。
「そのまま運んでやれ!」
 カセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)が指さした方へ、その水がうねり、二体のゴーレムが浮き上がる。それはすぐそばの通りを流れる濁流へと流れ込み、すさまじい水流によって押し流されていった。
「は、はわ……今のは、水を操ったんですか……?」
 姿を現したカセイノに、きょとんとカルミが問いかけた。
「いや、スライムを水の中に潜ませておいたんだ。狙い通りになったな」
 鼻の下を擦りながら、カセイノが答える。
「もう、ひやひやしましたわよ!」
 リリィが批難するような口調で訴える。
「すごいぞ! 見たか、今の! 2体も倒した! 名付けて、茸山振動波!」
「ダーリン、素敵でした!」
 茸山を振り上げ、勇刃が叫ぶ。それを見て、カルミが手を叩く。
「……お互い、苦労するわね」
 茨がリリィの肩を叩いた。


「雨量がどんどん増えてる……」
 四谷 大助(しや・だいすけ)が空を見上げ、呟いた。
「どうやら、水が流れ込む地下水路みたいなものがあるみたいだけど……さすがに、流れる量より降る量の方が多いみたいね」
 グリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)が、足下で浸水し続ける遺跡の様子を眺めて言った。
「一刻も早く、女王器を止めよう。ゴーレムを引きつけて、彼らが遺跡の中へ向かう道を作らないと」
 雨の中、マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)が視線で、遺跡の一角を歩くゴーレムの姿を示す。
「もう、早く片付けるわよ! 服が濡れて気持ち悪い!」
 雨の音の中、切り裂くようにグリムゲーテが叫ぶ。そして、建物の上、すっくと立って胸に手を当てた。そして、朗々と響く歌声を響かせはじめる。聞く者の勇気と力を与える、そんな歌だ。
「普通の武器は通じない、って話だが……」
 大助が強く拳を握りしめる。
「まさか、ここで倒すつもりか?」
 マクスウェルが問う。
「普通の武器じゃなけりゃ、通じるはずだ!」
 大助は答えざま、屋根から屋根に飛び移り、ゴーレムへ接近していく。
「……仕方ない!」
 マクスウェルは両手に銃を構え、その後を追う。
 大助が接近すると、ゴーレムはそれに感づいて腕を振るう。屋根ごとたたきつぶそうとするのを、大助は跳び上がってかわした。
「力を貸せ、ブラッグブランド!」
 漆黒の手甲に刻まれた紋が、不気味に輝きはじめた。勢いそのまま、ゴーレムの側頭部に向けて打ち付ける。
「これでひとつ……」
 半月のように崩れたゴーレムの頭に足をかけ、次の標的を探して周りを見回す。そのとき、ゴーレムの腕がぬっと上に伸びた。
「まだだ!」
 マクスウェルが叫び、弾丸を放つ。が、太いゴーレムの腕に弾丸が突き刺さっても、動きを止めることはできない。
「大助!」
 思わず歌を止め、グリムゲーテが叫ぶ。そのとき……
「古き深淵の盟主よ!」
 低い叫びと同時、魂が底冷えするような冷気が吹き荒れ、ゴーレムの腕が巨大な氷塊に包まれる。
「っ……!?」
「雨の中、あまり制御に自信はありませんでしたが……巻き込まずに済んだみたいですね」
 ボロ切れのようなローブに身を包み、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)がにやりと笑う。
「頭は飾りです。体の中心を狙ってください」
「どういうつもりだ?」
「たまには、人助けくらいしたっていいでしょう」
 ゴーレムが凍り付いた腕を、そのまま振り回す。大助は下へ、エッツェルは上へかわした。
「よかった……っ!?」
 ほっと胸をなで下ろすグリムゲーテの背後で、ずしん、と足音。ゴーレムがすぐそばまで迫っている。
「しまった、音を聞きつけて……?」
「もっと……歌って……ください」
 ずるり、と何かが水面から浮かび上がる。暗い触手を全身にまとわせたネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)が、ずぶ濡れになりながら、小さな口に大きな笑みを浮かべている。
「もっと、おびき寄せて……これなら、いくら破壊してもいいから……」
 肺が震えているかのような笑みをこぼしながら、ネームレスが告げる。そして、触手と共に大斧を構え、あまりにもサイズが違うゴーレムと対面した。
「とにかく、俺たちと争う気はないんだな?」
 マクスウェルが問う。エッツェルはゴーレムを誘うように上空を旋回しながら、大きく頷いた。
「ええ、共闘と行きませんか?」
「ちょうど良い、そうやってゴーレムをおびき寄せてくれ!」
 大助がゴーレムの背後に回りながら告げる。
 曇天の下、ひときわ暗い気配を身に纏ったエッツェルへ向け、さらにゴーレムが一体、近づいてきていた。