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蛙の代わりに雨乞いを……?

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蛙の代わりに雨乞いを……?

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     ◆

 ところ変わって公園内、ウォウルたちは蛙を取り巻き何やら意見を出し合っている。
「それで、私たちはこれからどうすればいいのかな? 『協力してくれ』って言うから来たけど、何が何だかさっぱりわかんないんだよね。ってこら! 蛙君にちょっかいだしたら休めるものも休めないってば!」
 喋りながら、隣でちょっかいを出そうとしているウォウルを静止する鳳明。その様子を結と直樹が笑いながら見ている。が、ウォウルが説明をせずに彼女を連れてきた事を知った二人は、ウォウルから聞かされたなんとなくの事情を説明し始める。
「どうやらウォウルさんが言うには、この蛙さんの為に雨を降らせたいんだって」
「その雨を降らせる為にはある程度人数が必要らしから、それで僕たちが協力する事になったんだよ。もしかして……聞いてなかった」
 結、直樹が説明を終わらせると、「成程ね」とでも言いたげそうにウォウルと蛙を見やる鳳明。
「全く。事情なんてこれっぽっちも聞いてなかったよ。ありがとうね、二人とも」
「現状、協力してくれるのは五人ってところかな」
「五人?この場には貴方含めて四人しかいないけど。貴方を抜かせば三人だよね?」
 ウォウルの言葉に鳳明は首を傾げて尋ねた。
「もしかして、ラナ先輩も来るの?」
 結が少し考えながら、ウォウルに目をやりそう呟いた。
「そうだね、彼女はもう――僕が関与した時点から強制的に協力して貰うからねぇ」
「……誰だかわからないけど、ちょっと可愛そうだよね。って、わわっ! ウォウル君! そんな事したら蛙君苦しそうだよ!?」
 何の罪悪感もない、と言うウォウルの口ぶりに直樹が思わず苦笑した。と――
「ふぅ……何事かと思いましたら」
 鳳明、結、直樹が思わず声の方へと顔を向ける。すると、そこに立っているのはウォウルのパートナーであり、何とも可愛そうな扱いを受けるラナロック・ランドロックの姿があった。眩しそうにしながら一同を眺めている彼女。
「うぁ……なんか綺麗な人来たねぇ……」
「同感。この人がその、ラナって人なのかな?」
 鳳明の呟きに頷きながら、直樹が隣に佇む結に尋ねる。彼女は頷いてから、ラナロックへと近づきお辞儀をした。
「おはようございます、先輩」
「えぇ、おはようございます。えっと――」
 笑顔を浮かべるラナロックに、ウォウルがすぐさま声をかけた。
「コウフクソウを探しに行ったときに手伝ってくれた、堂本 結ちゃんだよ」
「ど、堂島だってばっ!」
「あぁ、あの時の。お久しぶりですわね」
 彼女はウォウルの元に向かい、中腰になってベンチの上に寝かせられている蛙を見下ろし、不思議そうな顔をする。
「この蛙さんは――?」
「初めましてお姉さん! その蛙君は、最近雨が降らなくて参っていたところを、ウォウル君が見つけてあげたそうですよ!」
 直樹が慌ててラナロックに事情を説明する。「あら、そうなの」と、特に何と言った様子もない彼女は立ち上がり、若干固まっている直樹と鳳明に笑顔を向けて挨拶した。
「はじめまして、ですわよね。ラナロック・ランドロックと申しますわ。以後お見知りおきを。どうせまた、ウォウルさんが強引に誘ったんでしょう?」
「……ラナ」
 ウォウルが少し苦笑を浮かべながら声をかける。その様子を見ていた結がクスクスと笑っている。
「まぁ、それはさておき、ラナが来たのならばらこの蛙君はラナたちに任せて、僕はまた協力者を探してくるとしようかな」
「あ! 貴方。私の時みたいないじわる言ったら、もうダメだからね!」
「そんなに意地悪、言ってやしないよ。じゃあ後は任せたらから」
 にたりと笑ったまま、そう言い残して再びウォウルがその場を後にした。

     ◆

 公園付近の道路で、パートナーであるセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)と共に散歩をしている御凪 真人(みなぎ・まこと)は、眩しそうに空を仰いでいた。
「どうしたのよ、真人。って言うかさ、さっきからそんな感じだけど、ちゃんと人の話聞いてる!?」
「聞いてますよ。“転校早々、君の前に『白茄子に乗った伝説の王子様』が、君に愛の告白をしてきた”でしたよね」
「違うわよ! 全然違う! 何より白茄子に乗った伝説の王子様って何よ!」
「おかしいなぁ……確かに俺はそう聞こえたんですけどねぇ」
 二人がワイワイと話しながら歩いていると、当然公園の出入り口から、二人の見知った顔が現れる。
「……おや?」
「ん? ってわぁぁぁっ!! で、出たぁ!」
「うん? おやおや、これはこれは。お久しぶりだね」
「セルファ、“出た!”って、それはちょっと先輩に失礼じゃないですか?」
「……そんな事ないわよ、なんだってこんな、空京でまで」
「あれ、言ってなかったかな? 僕の大学はこの近くにあるんだよ」
「ま、そうですよね。ここら辺で名のある大学なんて、そのくらいしかないですし」
「………」
 セルファが表情を引き攣らせながら数歩後ろにたじろいでいると、真人がふと、何かを思い出したかの様にウォウルへと尋ねた。何故彼が、今この時間に此処にいるのか、と。
聞かれたウォウルは「あぁ」などとわざとらしく言うと、話を切り出す。
「ちょうど良い、君たち、お友達のよしみでちょっと今回も僕に手を貸してくれたりは、しないかな」
「誰が“お友達”よっ!」
「そうかい、それは有難い! いやぁ、うれしいね!やっぱり持つべきものは友達だ。よし、この公園の……ああ、此処から見えるねぇ。あそこにラナの姿が見えるだろう?」
 言いながら彼が指差す方をしっかりと見る辺り、二人ともに人が良い。
「あそこに困っている本人が今寝ていてね、彼の命を助けてあげるのが、今回僕が君たちに協力してほしい事なんだよ。さ、もっと人を集めないとね、ってな訳で、あそこに行っておいておくれ。僕も直ぐに合流するから」
 どうやら言うだけの事は言ったのか、満足げに手を挙げ二人に挨拶を交わしたウォウルは、二人の返答を待たずに背を向け、歩き出した。当然言葉を失いながらその背中を見送る真人とセルファ。
「いや、まだ何も……言ってないんだけど?」
「相変わらず力技に持っていきますね、先輩は」
 ようやく声を発した二人は、何処か諦めた様に公園へと入って行った。指定された場所に向かう為に――。


 真人、セルファの両名がウォウルに遭遇し、一連の事件(かはさておき)に巻き込まれたその近くで、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)も、この日の絶好の散歩日和を満喫していた。
「いやぁ! 梅雨だって言うのに天気いいわねぇ! 暑いったらないわ」
「セレン……あんたが言っても何だか説得力がないわ」
「そう? まぁ端っからそんなもんは持つ気ないけどね」
 水着姿にコートを羽織っただけの二人は、そんなやり取りをしながら歩いている。と、魔の手が二人に標的を定めたらしい。セレンフィリティとセレアナは突如として背後から声をかけられる。
「そこの奇抜なファッションセンスのお姉さん方二人、ちょっと僕の話を聞いてはくれないかな」
「ん?」
 いきなりの言葉に首を傾げながら振り向いた二人は、ニヤニヤとした表情のままのウォウルに目をやる。
「何よ、あんた。怪しいわね」
「あっはっは、そうかな。僕は至って普通なんだけどねぇ」
「彼も怪しいけど、私たちだって充分普通じゃない気がするんだけど?」
 セレアナの言葉に「そうかもねぇ」などと適当に相槌を打ったウォウルはしかし、すぐさま話を切り出した。
「僕は今、非常に困っていてね。お姉さんたち二人の力を是非とも借りたいんだよ」
「いきなりっ!?」
 突然の話題転換に、思わず驚く二人。しかしそんなリアクションも虚しく、ウォウルは事もなげに話を勧める。
「最近梅雨だっていうのに、雨が全く降らないだろう? それで困っている人もいてね、だから雨を降らせたいんだけど、それには結構人数が必要なんだ。それで人を集めているんだけど、協力してくれるかい?」
「ちょ、話がいきなりすぎるし、第一人に物事頼むってのにその頼み方はないんじゃない?」
 セレアナが尤もな事を言うが、しかし隣に佇むセレンフィリティは少し考え込んでから一つ、ウォウルに質問を投げかける。
「雨を降らせる、って、具体的にはどうすんのよ」
「それは後で、まとめて協力してくれる人たち全員の前で話すよ。僕は何度も同じ話をするのが苦手でね」
 再び沈黙――。
「ちょっと、セレンったら」
「いいわ、なんだか面白そうだしね。協力したげる。どこに行けばいいのよ」
 しめた、とばかりに一層歪めた顔をしながら、ウォウルは先程真人たちに説明した様に公園内の一角を指差した。
「あそこに僕のパートナーと協力してくれる数人が既に集まっているんだ。そこで待っていてくれるかい?」
「わかったわ。行こ、セレアナ」
「ちょ! もう! 厄介な事になっても知らないわよ!」
 セレンフィリティに強引に腕を掴まれながら、セレアナが声を荒げる。が、お構いなしのセレンフィリティは、そのままウォウルの指差した方向へと歩みを進めた。
「なんだ、随分話の分かるお姉さんたちだねぇ。ま、いっか」