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黎明なる神の都(第2回/全3回)

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黎明なる神の都(第2回/全3回)

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 第12章 空の珠

 ネヴァンの棲家は、ファリアスとは別の浮き島らしい。
 シャンバラの周囲には、大小様々な浮き島が存在し、ファリアスのような規模であれば町が築かれる場合もあり、無人島も多く、そして、小さな島を所有して別荘などを建てる富豪などもいる。
 しかしその別荘に行く為には、その都度飛空艇を融通しなくてはならないので、浮き島を別荘に持つのは余程の富豪だ。
 ネヴァンは現在、借り受けたのか購入したのか、その、屋敷ひとつあるだけの、小島のひとつに住んでいるのだった。
 だが、ファリアスからの定期船はタラヌスにしか来ないので、タラヌスで待ち続けているのである。


「ここでずっと待っているのも暇でしょう。退屈しのぎに何か話でもしませんか」
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)はそうネヴァンに話しかけた。
 ネヴァンの依頼通り、結界を壊しに行くことも考えたが、離れている間にネヴァンの姿が消えていたりすることを危惧したのだ。
 港近辺の人通りの多さを嫌ったのか、ネヴァンは暫く前から、郊外の岬から、それでもファリアスを小さく望めるところに居る。
「同行する協力者がいた方がいいでしょう?」
と、ザカコはネヴァンと共にいることにした。

「あそこに大事なものがあると聞きましたが、結界があるのに解るものなんですか?」
 ザカコの問いに、同じくネヴァンと話をしようと訪れていた、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)のパートナー、ゆる族の雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)がうんうんと頷く。
「そもそも、大事なものって何なんだよ?」
 ネヴァンは首を傾げ、くすりと笑った。
「……解るわ。呼び合っているもの」
「呼び合う?」
 ソアが訊ねる。
「そう……。あたしが、あの島を見付けることができたのも、そのお陰」
 そう言って、ネヴァンは、首から下げている、不思議な色合いの珠に触れる。
「それは?」
 訊ねたのはザカコだ。
「秘密」
 ネヴァンは意味ありげに笑うだけで、それには答えない。
「……その、大事なものを、誰かが持っていたとしたら、取り返すんですか?」
 続くザカコの問いに、ネヴァンは少し考えた。
「……本当は、それは既に持っているの。
 でも、完全にあたしのものになってはいないのよ」
 ネヴァンはそう言って、ファリアスのある方を見る。
「呼び合ってる……それを、断ち切らなくては、ね」
「……じゃあ、大事なモノってのは、ソレかよ?」
と、ベアはネヴァンが首から下げている珠を指差す。
「……そう。でも、まだ、空っぽなの」
 ネヴァンは珠に触れて、そう呟いた。
 その拍子、ネヴァンの身長には見合わない大きな杖が揺れた。
 ベアは無意識に支えてやろうと手を伸ばしたが、ネヴァンは素早く抱え直し、ベアの手は虚しく宙をさ迷う。
「……その杖、おまえにゃ随分でかいな? 随分大事に抱えてるが……」
「ええ。大事なの」
「……フラガラッハ、か?」
 ベアの言葉に、ネヴァンは目を見張った。
「……何故、知ってるの?」
「いや、当てずっぽうっていうか。
 話に聞いたんだが……知り合いが、人探しをしてて、その探し人が持ってる筈だって。
 だが、探し人は男なんだよな。何であんたが持ってんだ?」
 ネヴァンは、薄く目を細めたが、それには答えなかった。
「……そういえば、ファリアスで、結界を張る為のプレートが見つかったそうですね。
 人の名前が刻まれていたそうですけど……」
 沈黙を割って、ファリアスに渡り、結界を調べていた者達から現状を聞いたソアが、そう言った。
 ネヴァンはええ、と頷く。
 彼等より、少し前に会いに来たレキ・フォートアウフに、その文字の写しを見せられたのだ。
 その古代文字を、ネヴァンは読むことができた。
 初めて知る名前ではあったが、それが誰の名前かは、察していた。
「お知り合いでしたか?」
「いいえ」
「それと……結界解除の為に、領主の館に侵入した盗賊がいたそうなんですけど、私達契約者とは、別の人達らしいんです。
 ネヴァンさんの仲間、とかじゃないですか?」
「……違うわ」
 少し考えたが、ネヴァンは首を横に振った。

「――契約者といえば」
 ソアは思い出したように言った。
「ネヴァンさんは契約者じゃないそうですけど……。
 これから、パートナーを探す予定はありますか?」
「パートナー?」
「私の友達に、今、パートナーを失ってしまって、ひとりの子がいるのですけど……。
 もしよかったら、って思ったので。ハルカっていう、素直な、優しい子ですよ」
「……そう。それは、素敵ね」
 ネヴァンは、首を傾けるようにしながら、ゆっくりと微笑んだ。
「……ええ。
 素直で、優しい子は、いいわ」
 ゆっくりと、ネヴァンは杖を傾ける。
 そっとソアの手に触れて、その顔を覗き込んだ。
「あなた、みたいに」
「……?」
 瞳が、かち合う。
「……ご主人!?」
 ベアがはっと気付くが、ソアを抱え込んだネヴァンが、それを阻むように、杖をベア達に向けた。
 何かに阻まれるように、ベアとザカコの体が動かなくなる。
「……何を!?」
 ザカコが叫んだ。
 ソアはぼんやりとした表情のまま、ネヴァンにもたれかかっている。
「手は、多い方がいいわ。この子、使わせて貰うわね」
 微笑むと、ネヴァンは杖を両手に持つ。
 ズシ、と周囲の空気が重くなった気がした。
 直後、二人の足元にフッと魔法陣が浮かび、その姿が光に包まれたかと思うと、消え失せた。
「ご主人!!」
 二人の負荷が失せ、強張っていた二人はがくりと体勢を崩す。
「テレポート!?」
 立て直しつつ、ザカコはぎょっとした。
 転移魔法は、簡単に使えるものではないはずだ。
「杖の魔力、ですか……!?」
 しまった、と悔やむ。
 ネヴァンが間違った行動を起こすなら、彼女を止める為にもと思って、近くにいたというのに。
「ちくしょう、あのガキ!」
 ベアはぎり、と歯を噛んだ。