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レッテの冒険

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レッテの冒険

リアクション

出発前日。

 その頃、安の農場には、続々と人が集まり出していた。レッテと共に東京へ向かう人々だ。


 「なんだかすっごく目立つ気がする」
 始めに言い出したのは、レッテだ。
 レッテと共に、空京から東京を目指す一行が一室に集まっている。
「そうですかぁ、修学旅行のように見える…見えますよねぇ・・・」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は、集まった一行の顔を見回し、困ったように言葉を切る。
「無理があるよ、修学旅行は」
 そっけなく言ったのは、国頭武尊だ。
「わたくしも、美女と野獣が共に旅するのでは目立ちすぎと思いますわ」
 のんびりとした口調だが、はっきりと、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が武尊の言葉を受けて言い放った。
「野獣はいいすぎだけどね、少しグループ分けしたほうが安心かな」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が、ちょっと慌てて口を挟む。
「レッテは気心にしれたメイベルと一緒がいいだろ」
 瓜生コウは、イングヴァルとレッテを別々に旅させたほうがいいと思っている。
「じゃ、オレがやつを受け持つか」
 ヤツとは、追っ手を恐れて、別行動をしているイングヴァルのことだ。
「イングヴァルは、名前と容貌をかかえてローザが連れて行くといっている」
「そうか、じゃ、俺は護衛もかねて後をつけ、現地で奴を受け取るとするか」
 イングヴァルとローザ、ライザの三人は、変装したとしても目立ちそうだ、東京に着くまでは何があるか、わからない。
「では、レッテと女の子たちと…」
 その場にいた早川あゆみはクスっと笑って言葉を切った。
「野獣に見えない男の子は、私が先生役で引率して、課外活動ということにしましょう。私が蒼空学園教師として皆を引率して旅行にいくような雰囲気を作ります。」
「追っ手には、偽の情報を流しましょう」
 顔を見合わせて、微笑むのは、シリウスとリーブラだ。
「彼らは混乱するでしょうね」



 度会鈴鹿と織部イルは、東京には行かず、このまま農場で子どもたちの様子を見ようと思っている。
 それなのに、この会合に出ているのは、少し気に掛かることがあるからだ。
「チエを…いえ、皆を…」
 鈴鹿は、人懐っこく、それでいて、怯えるように、近づいてくる孤児たちにすっかり心を奪われてしまった。それだけに、どうしてもしなければならないことがある。
 鈴鹿は、部屋の片隅で所在なさげに俯いている男の側によった。男の名は、アウナス・ソルディオン(あうなす・そるでぃおん)
「そちが以前行ったことを覚えておる」
 イルが唐突に口を開く。
「私の何を覚えてるのかは、分かりませんが…」
 アウナスは、言葉を切って、イルを見る。
「私の信条をご存知ですか?『多数派は常に間違っている、自分が多数派にまわったと知ったら、それは必ず行いを改めるか、一息入れて反省する時だ』です」
 鈴鹿が小さく息を吐く。
「私は東京には行きません。ただ、レッテの父親がまともな生業で暮らしてきた男だとは思えない。
傭兵であるイングヴァルが彼女の父親と知り合った次期を考えると、彼女は父親を探さずに、ここにいたほうが平穏に暮らせるような気がしています」
「では、なぜ加担するのじゃ?」
「ほかの皆さんとは理由が違うかもしれません」
「…浅はかな遊びで、何人もの人生を破壊するつもりかえ?」
「破壊ではありません、ご心配なく。私はただ、レッテの父親を調べるのみです」

「鈴鹿さん…」
 小さな声がドア越しに聞こえる。
「私はここに危害は加えない。あなたの新しい小さな友達にも」
 アウナスは薄くドアを開く。
「チエちゃん…」
「眠れないの、みな…絵本を読んでほしいの」
 チエは鈴鹿から漂う甘い香りに包まれて眠りたい、レッテがいなくなってしまう恐怖を、きっとその香りが打ち消してくれる、そう感じている。
「分かりました、一緒にベッドに行きましょう」
 鈴鹿はそのままチエを手をとって、ベッドへと向かう。
「あなたは、信じないのですか」
「わらわは古の呪いで封じられた過去を持つからのう、どうかのう」
 それだけいうと、イルは
「わらわは昔話を語れるでのう、子ども達が安心して眠れる話じゃ」
 そういい残して、部屋をでて鈴鹿の後を追った。


 アウナスも農場で得た情報を持って、ある場所に向かう。
 そこにいるのは、「死の商人」を父親に持つ友人だ。
「どう思いますか?」
 アウナスは自分の考えを話す。
「そのレッテという子の父親は、表向きは商社マン風と言う事は武器など鏖殺寺院側、パラミタ側関わらず提供する武器商人ではないかと睨んでいます。
あなたのお父さんならすぐに見つけることができるでしょう」
「父を紹介することは…皆を苦しめることになりませんか…それに」
 言葉を切った。
「父に連なる人物なら、すぐに娘を探し出せるはずです」
「娘を探せない事情もある人物ということですか」
 アウナスは、農場で見かけた、痩せた瞳ばかりが大きな少女の顔を思い浮かべる。
「かつて哲学者であったルソーは世界で一番有能な教師よりも、分別のある平凡な父親によってこそ、子供は立派に教育されるといいました」
「優秀な教師を探すより、平凡な父親を探すほうが難しいです」
「そのようですね」
 アウナスは、レッテの未来に想いをはせる。




2 新幹線

 出発当日。
 レッテはあゆみが用意した白いサマードレスを着ている。淡いイエローに白い小花が刺繍されたボレロが愛らしい。
「素敵だわ、レッテ」
 メイベルが頭に同色のリボンを愛らしく結んでいる。
「馬子にも衣装といいますけど、ドレスを着ると誰でも楚々と見えるのですわね」
 フィリッパは、レッテの髪をとかし、三つ編みにしている。
「似合ってる…ようには見えないぞ」
 ひょいと顔を出したのは、王 大鋸(わん・だーじゅ)だ。
「ワンにーちゃん!」
 レッテが声をあげ、大鋸に向かって駆け出す。その肩に手を回し、ひょいっと持ち上げる大鋸。
「レディの着替えを見てはなりませぬわ」
 フィリッパが「レッテ、また大きくなったな」と大声を上げてレッテと戯れる大鋸を見て、軽くたしなめる。
「すまねえ。しかし…似合ってるのか、それ」
「わかんねーよ」
 レッテはスカートの裾をひっぱって、大鋸を睨む。
 大鋸は、レッテを右肩に乗せると大きくぐるっと回して、地面に下ろした。
「不思議だ、急に似合ってるような気がしてきた」
 大鋸はレッテを見つめる。
「ボロを着てても似合うし、いいとこの服も似合う。レッテ、よかったな」
「何がだよ」
「何でもだ、お前には東京の暮らしも似合うが、パラミタの暮らしも似合うってことだよ」
 大鋸は、メイベルのほうを向く。
「俺も一緒に行きたかったが、俺が動くと目立つ。レッテを頼む」
 頷くメイベル。
「私、ぜったいにレッテを危険な目には合わせません、約束しますぅ」
 大鋸が大きく頷く。
 セシリアが大きなバスケットを持って駆け込んできた。
「間に合ったー。特製サンドイッチ作ったよ。あ、大鋸さん、よかった!」
 セシリアは、バスケットからお弁当箱を取り出す。
「大鋸さんの分」
 はい、っと手渡すセシリア。
「みんな、同じ新幹線に乗るけど、現地までは別行動の仲間もいる。みんなの分のサンドイッチも用意したけど、渡せないかな」
 セシリアは、バスケットの中を覗き込んでいる。
「やつらの分は、俺と子どもらで食べる。農場に残った子どものことは俺らに任せろ!」


「ねえ、オレだけ場違いじゃないかな」
 レッテの瞳が揺れている。
 空京の駅は、レッテがこれまで見た場所のなかで特別だった。
 とにかく、人が多い。みな美しい服を着て背筋を伸ばし、大きなトランクを引きずっている。
「人が多すぎるんじゃないか、底が抜けないか」
 動く階段にのって、ホームまで辿り付いたレッテは、メイベルの腕をギュッと掴む。
「だいじょうぶですわぁ、か細く可憐なお嬢様にしかみえませんですぅ」
 メイベルは優しくレッテの頭を撫ぜる。
少し怯えて、いつもの威勢のよさが消えたレッテは、どこからどうみても、普通の子で、戦禍の中を逃げ延びてきた孤児には見えない。
「少し痩せすぎなのが気になるけどね」
 細すぎる手足を見て、セシリアがバスケットを空けた。
「列車が来るまでには、まだ時間があるよ。少し食べて元気だそう!」
 休憩場所を兼ねたカフェに腰掛ける4人。その前を、金髪の痩せたアメリカ人が通りすぎる。
 傍らは家族のようにも見える女性が二人ついている。
「かなり上手な変装なのでしょうがぁ…」
「わたくしたちが見破るってことは…」
「僕もそう思う」
「敵もですわ」
 痩せた男は、イングヴァルのように見える。
「こちらは…」
「こちらは大丈夫」
「ん?」
 レッテがサンドイッチを頬張りながら、顔をあげる。その口にはソースがついている。
「食べ方さえ気をつければ、立派なレディですわ」
 メイベルがハンカチでレッテの口元を拭い去る。
「怪しげな人もちらほら後をつけているようですわ」
 レッテも事情はうすうす気がついている。
「あゆみさんたちに合流するのは、新幹線出発ギリギリが良いようです」
「ありがと、みんな。大変なことになってしまって…」
「僕たち、家族も同然でしょ、お礼はお父様が見つかったときにね」
 セシリアがレッテの口元を拭く。
「まずは、汚さずに食べる特訓だよ」



「レッテ!」
 小さな声がする。
 レッテが振り返ると、ガガ・ギギ(がが・ぎぎ)が隣の席に座っている。
「レッテ!」
 今回の東京行き、弁天屋菊は共に東京へと向かうが、ギギは留守番することになっている。
「ギギさん!誰だかわかんないよ、そんなカッコじゃ」
 ギギはパーカーを頭に被り、肌の露出を抑えた格好をしている。
「レッテ、大声出したら変装している意味ないじゃん、あっち向けよ」
 ギギは、レッテが心配で様子を見に来たのだ。
「身体に気をつけてよ、水も変わるしさぁ、変な奴についていっちゃだめだよ。おなか空いたら菊に握り飯作ってもらうといいよ、それとこれ!」
 ギギは紙袋を取り出した。
「今、サンドイッチ食べたら、中で食うもんがないじゃん」
 ギギは小さな声で、本当に小さな声で呟くと、「空京土産」とかかれた紙袋をレッテの前を投げ出した。
「弁当だよ。新幹線とか夜行列車とか、長く電車に乗るときには、駅弁ってのを食べるんだ。旅って感じがするよ」
「ありがと!」
 レッテは素直にお礼をする。
「また、あおうね、じゃ、ギギは行くよ。メイベル、レッテを頼むね」
 ギギはそっと席を立つ。
 少し鼻声になっている。
「また、会ます」
 メイベルがギギを見る。
「見るなよ、他人のふりして近づいてるんだから」
 レッテの父親が見つかって地球に住むことになったら、レッテはパラミタには戻ってこないだろう。ギギは、次にレッテに会うときを考える。
「戻って来いとはいえないよ」
 ギギはフードを脱いで顔を出す。目立つ要望のギギは、少しでもレッテから追っ手を遠ざけるために、わざと別方向に歩いてゆく。