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盗まれた機晶爆弾

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盗まれた機晶爆弾

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   12

「犯人は誰でしょうね?」
 ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)は空京大学の地図を見ながら尋ねた。誰にというわけではなかったが、その場にいたのはリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)だけだったので、当然、彼が答えることとなった。
「さてね。悪戯にしてはタチが悪いし、テロなら尚更だ」
 テロで両親を失ったリュースにとって、たとえ大義名分を振りかざそうと人殺しは人殺し。そこには正義も悪もなく、決して許せるものではない。
 ヴィナは【防衛計画】を使うことにより、空京学生であるリュースよりも更に詳しく構内の地図を頭に叩き込んだ。が、実際どこに何があるかはリュースの方が詳しい。
 そこでまず、リュースの提案で研究室のある建物から探索した。西門 基樹らの研究室も、全ての棚を開けて調べてみた。隣に倉庫があることは、設計図も見ていたヴィナに言われなければ分からなかった。基樹ですら、そこのことは忘れていたほどだ。
 埃だらけのその倉庫に明らかに人が潜んでいた痕を見つけ、犯人はここに潜んでいたのだろうということになった。
 建物を出たところで、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)の二人に会った。彼らも同じく構内を探していたのだが、ヴィナと違って地図を見ながらなので大分時間を食っていた。
 ちなみにこの時刻、外では停電爆弾が発見され解除されたと伝わっている。
「ここは終わりましたよ」
とリュース。
「何か見つかったか?」
「犯人の潜んでいた痕跡がね」
 エースの問いに、ヴィナが答えた。
「西門さんはいましたか?」
と、これはエオリアである。
「ええ。入れ代わり立ち代わり質問されて、不貞腐れてましたよ」
「あの馬鹿。自分がどういう立場か分かってるのか? 危険物を管理しているんだから、もう少し物品管理とか危機管理とか気を配るべきだろーに」
 エースがイラッとして舌打ちすると、エオリアが宥めるように微笑んだ。
「人間、図星を指されると逆ギレするものですしね。……しかしそうなると、彼ならどこに仕掛けるかという質問も、まともには答えてもらえないでしょうね」
「そのことですが――、こうやって構内を見回っているということは、お二人もこの空京大学内にある、と考えているわけですね?」
 エースとエオリアは頷いた。
「犯人は西門の研究室横の倉庫に潜んでいた。倉庫の存在はあまり知られていない。西門すら知らなかったぐらいだ。すると、空京大学に詳しい人物――少なくとも、学生か教授、或いは建築関係者か」
 ヴィナは目を細めながら考えを進めていく。
「おそらくは複数名。爆弾は五つ――停電爆弾は駅にあった」
「残るは地雷、手榴弾、時限爆弾、それからナパームだな」
とリュースが合いの手を入れる。
「手榴弾は外じゃないかな。他もそうだと思う」
 エースも考え考え口を開いた。
「『テロ行為』として成果を上げるには『不特定多数の対象者をより多く殺傷する』ことが大事だろ? いつ何処で自分たちが犠牲になるか判らないという恐怖感を一般の人たちに与えてこそ効果があるわけだし」
「じゃあ、街じゃないんですか? 停電爆弾もそうだったんだし」
「うーん。時限式だったら対物対象に仕掛けて、単純に設置するより殺傷対象を広げる工夫をする。物を少しだけ爆発させて大きな事故を誘発できるように、とか。それなら街かな」
「地雷なら構内の可能性がありますね。しかし何より」
と、リュースは言葉を切り、周囲を見回した。「五十キロあるものを、そうそう外に持ち出せますか?」
 エースがぱちりと指を鳴らした。
「ならナパームだ。それだけはここにある。この建物にはなかったんだろ? となると――燃えるものがたくさんあるところだな」
「たくさんありますよ?」
 エースはうーんと唸った。
「――!!」
 突然、リュースが振り返った。
「どうしました、リュー?」
「何かが……来る!」
 リュースの【禁猟区】に、何か危険なものが近づいてくる。それが何であるかは分からない。
 爆弾の話は多くの生徒に広がり、既に休講も出ていることから生徒の数は少ない。それでも平然と歩いている者はいるわけで、一体誰が「危険な存在」なのか、四人は目を凝らした。
 ヴィナの目がある一団に注がれた。父と娘、それに息子の親子連れのようだ。息子は足が悪いのか、ヨタヨタフラフラ歩いている。不思議なことに、前を歩く父と娘は振り返ろうともしない。澄ました顔だが、二人からは切羽詰った、殺気のような感情が洩れ出ていた。
「おかしな親子だな」
 視線に気づいてリュースが言った。
「息子の方、パーカー着てフード被ってキャップでマスクって、まるで犯罪者じゃん」
 そのセリフに、リュースとヴィナは顔を見合わせた。
「そこの方、よろしいですか?」
 声をかけられ振り返った父親の顔が、驚愕に満ちた。チッ、と娘――メリッサ・ゴードンは舌打ちし「バカだね!」と言うなり逃げ出そうとした。
 それをエースとエオリアが遮る。
「ホラ見ろ。しらばっくれればいいものを、すぐ顔に出すから……!」
「すまん」
 マックス・ハロウェイは年下の少女に頭を下げた。
「そんなことしても、いずれはバレたはずですよ」
と、リュースは息子のキャップを外し、フードをどけた。
 リュースは息を飲んだ。それはグールだった。
 ぐるりと首を巡らし、マスクより大きな口を開け、リュースに食いつこうとする。リュースは慌てて後ろへ飛び下がった。
 ガチン、と音がして、グールはマスクをむしゃむしゃ食べた。
「何でこんなのを……!」
「用心棒さ」
「アンデッドだったらお任せ。俺はこれでも、ハイエロファントなんだぜ」
 一歩前に進み出たエースの鼻先を、何かが掠った。赤い筋が、鼻の天辺に通る。
「イタタ! 何だこれ!」
 エオリアが【ヒール】で切り傷を治す。すると再び、ダガーが戻ってきた。リターニングダガーだ。何者かが隠れて攻撃しているらしい。
「ならばこれだ!」
 リュースが【神の目】を使うと、強烈な光が彼から発せられた。周りにいたヴィナやエースですら目を覆った。
 だがその光で、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)の姿が焙り出された。
 刹那は動じることなく再び姿を消し、すぐ現れた。その時にはヤタガンを手にしていた。そしてメリッサとマックスを庇うように構える。
「このままじゃ逃げられちゃうぞ」
 エースがエオリアに囁いた。
 その時、ワイヤークローが刹那の腕に絡みついた。――エヴァルト・マルトリッツだ。
「待っていた甲斐があった。大人しく捕まってもらおうか」
 刹那は腕をくるくると回し、あっという間にワイヤークローを外すと、さっと敵全員を見渡し、エヴァルトにのみ半身を開いた。
「勝負だ!」
 エヴァルトは【ドラゴン・アーツ】を発動した。しかし刹那は【先制攻撃】と【妖精のチアリング】で素早く避ける。叩きつけられた拳が、地面を抉った。散らばった破片に紛れ、ヤタガンを素早く振るう。エヴァルトは鉄甲でそれを受け止めた――。