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契約者の幻影 ~暗躍する者達~

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契約者の幻影 ~暗躍する者達~
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第4章(2)

「ふふ、ここも素敵なお部屋。神様の荒々しい一面を映し出してるみたい」
 他の者達と離れ、独自に部屋の中を動き回っているテレサ・ヴァイオレット(てれさ・う゛ぁいおれっと)。彼女は入り口で複製体を見た事により、更にテンションが上がっていた。
「人をお創りになられるなんて、さすが神様。きっとここには神様の遺した神器が眠ってるはずだよね」
 独自の考えに飛躍しながらも、自身の持つ神話やオカルト系の知識をフル活用して部屋のあちこちを調べていくテレサ。そんな彼女を、アテフェフ・アル・カイユーム(あてふぇふ・あるかいゆーむ)は苦々しく見つめていた。
(本当に油断したわ……最近は見なくなったと思ったら、まさか朔自身に憑依するなんて。羨ま……妬ましい! とにかく、この娘が朔の身体で何するかわからないし、きちんと監視しなくちゃ!)
 アテフェフにとって、テレサが憑依している鬼崎 朔(きざき・さく)を大切に思う気持ちはかなり大きいものだった。もっとも、彼女への愛情の注ぎ方は一般的に言うヤンデレの部類に属していたが。
 ちなみにテレサも朔に対してはヤンデレな愛情を注いでいる為、アテフェフは彼女に同属嫌悪を抱いている。とはいえ――
「アテフェフちゃん、見てみて。これも素敵だよね」
「え、あぁそうねぇ……」
(何故かテレサってあたしにも懐いてるのよね。客観的にみたら保護者みたいな物なのかしら、あたし)
 ――と、テレサ側はアテフェフにも朔と同様の愛情を注いでいる事もあり、何だかんだで意外と仲良しなのだった。
 
「敵を発見、と。さて、どうあしらってやるかね」
 それから少し進んだ頃、帆村 緑郎(ほむら・ろくろう)の複製体が現れた。彼はプージを手に、問答無用でファイアストームを放ってくる。
「……邪魔、するんだ。ワタシはただ、神様の為に働いてるだけなのに……神様に逆らう罪人は、塵芥残さず全て滅びればいいもん!」
 本来の朔であれば、ファイアストームどころかこの部屋の仕掛けですら近づくのを躊躇っていただろう。だが、今身体を動かしているのはテレサ。多少の炎は意に介さず、自身の行動を邪魔する相手に対してブリザードでお返しする。
「ちっ、向こうはやる気満々か。仕方無い、あんたにも出番があるみたいだぜ」
「そうみたいね……狙い撃つわ」
 ブリザードを回避しながら緑郎がどこかに声をかける。すると近くにいたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)の複製体が光学迷彩を解除して姿を現した。そのまま炎と氷嵐を壁として、死角からクロスファイアをお見舞いする。
「痛っ! そっちにも罪人がいるのね、神様の天罰を受けちゃえ!」
 お返しとばかりに光の閃刃を放つ。遠距離と中距離、双方からの攻撃にもテレサは怯まない。
「ちょっと! 大事な朔の身体なんだから丁寧に扱いなさいよね」
 むしろ心配するのは隣で見ているアテフェフだ。テレサは何でも神の試練と考える傾向があるので、部屋を飛び交う炎も龍鱗化で強引に突き進んでいる。リジェネレーションにより自己治癒が行われてはいるが、それでも見ていて安心出来る物では無い。
「ほら、応急処置してあげるから診せなさい。朔の為にもすぐに片付けるわよ」
「ふふ、アテフェフちゃん、優しい。じゃあ……やっちゃお」
 テレサの持つ十字剣、エクスピアティオが冷気を放つ。その剣を差し向けられた緑郎もまた、自身の戦斧に冷気を纏わせ始めた。互いが同時に駆け出し、交錯。ぶつかり合った冷気が渦巻き、周囲の炎を吹き散らして行く。
「聞いた事がある。『贖罪』の名を持つ十字剣の事を……その名に相応しく、己の罪を自覚して逝くんだな」
「斧相手だからって負けないもん。ワタシだけじゃなくて、神様と……朔ちゃんの力があるんだからっ!」
 鬼の力が宿り、重量では勝るはずのプージを押し返す。そのまま勢いに任せて弾き飛ばすと、隙の出来た緑郎の身体へと剣を向けた。

「そうはさせない!」
 
 その時、どこからともなくワイヤークローが伸びてきた。それはエクスピアティオに絡みつくと、テレサの手から奪い取ってしまう。
「蒼い空からやって来て、仲間の未来を護る者! 仮面ツァンダーソークー1! 邪神を崇めし貴公の闇……我が解き放ってみせよう!」
 奪った十字剣を手に、風森 巽(かぜもり・たつみ)の複製体が叫ぶ。彼は本物の巽が変身したソークー1と同様の格好となっているが、本来白色をしているマスクや前面、手首などは黒く、元々黒いライダースーツ部分と合わさって漆黒の戦士となっている。
 そのソークー1はエクスピアティオを握り直すと、先ほどの緑郎の言葉を現実の物とするが如く、本来の持ち主であるテレサに向かって突撃を行った。
「行くぞ! ツァンダァァァ、ペネトレ――」
 
「待ていっ!」
 
 今度はソークー1の武器が弾き飛ばされた。突如現れた全身鎧の男、蔵部 食人(くらべ・はみと)はテレサ達の前に立つと盾を構え、毅然とした態度で複製体と対峙する。
「ヒーローは颯爽たれ。殊に、何かを救いたいのであればな」
「邪魔をするか。貴公の名を聞こう」
「俺の名はヴェイダー、シャインヴェイダーだ」
「ちなみにボクと合わせて魔装侵攻 シャインヴェイダー(まそうしんこう・しゃいんう゛ぇいだー)だよ☆」
「シャインヴェイダーか、良かろう。我もこの戦い、退く訳には行かない」
 自分自身理由が分からぬまま、複製体の意志として立ちはだかるソークー1。そんな彼を、ヴェイダーはどこか寂しそうに見つめた。
「退く訳には行かない、か……お前からどこか空虚な物を感じるな。それが何かは分からないが……」
「あぁ、この人達、あの帽子の男は分からないけど他の二人は偽者よ。向こうは何でか偽者を作り出せるみたい」
 状況からこちら側の人間だと判断したアテフェフが相手の正体を教える。その言葉に、ヴェイダーは敵から伝わる違和感の理由がはっきりと分かった。
「なるほど、つまり本物のソークー1を名乗る男が別にいて、こいつはその上辺だけをコピーした存在という訳か。だが、ヒーローの根源であるその心までは写しきれなかったようだな……来い、お前達に本物のヒーローを見せてやろう」
 その言葉を合図に緑郎ソークー1が動き出す。ヴェイダーは二人相手でも怯まず、自身も前へと動き出した。
 
「ふぅ、危なかった……このわしで無かったらやられていたのぅ」
 その頃、戦場へと近づいてくる二つの影があった。その片方、天津 麻羅(あまつ・まら)は先ほど別の部屋で凶刃に倒れたにも関わらす、ピンピンとした姿で探索を続けている。
「しかしまぁここは随分炎が飛び交っておるの。ゴール地点には亀の王でもいて、その先にある斧を取ればクリアー出来るのじゃろうか」
「相変わらず変な知識はあるのね、麻羅」
 隣の水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)が呆れた表情を見せる。突如スペランカーなる者の魂に目覚めた麻羅の言動と異常な復活力は変としか言いようが無いが、いい加減それにも慣れた頃だ。
「あら? あそこで誰か戦ってるわね」
「む、本当じゃな。よし、ここはわしが援護してやるとしよう」
「大丈夫なの? またさっきみたいになったりは……」
「安心せい緋雨。例え飛び交う炎が魔王の放った火の鳥と同じ威力だったとしても、わしなら指先でちょちょいじゃ。ついでに邪魔をしておるあの敵も――」
 最近読んだマンガの影響か、出来もしない事に大きな自信を持っている麻羅。そんな彼女にローザマリアがヴェイダーに撃った銃弾が流れ弾として襲い掛かり――命中した。
 
「ウボァー!」
 
「麻羅ー!?」
 緋雨の声が響く。ライフルの狙撃を受けた麻羅は倒れ、ぴくりとも動かなくなった。
  
 【天津 麻羅】残機:3/5
 
 倒れた麻羅とそれを引き摺って行く緋雨には気付かず、ヴェイダー達は戦いを続ける。彼の戦い方は卓越した防御技能による長期戦狙い。消耗戦に持ち込む事で付け入る隙を作るのが基本だ。
「影まで貫け……!」
「ツァンダークロー!」
 緑郎のライトブリンガーとソークー1のチェインスマイトが同時に襲い掛かる。ヴェイダーはそれすらも捌き、かわしきれない攻撃は龍鱗化で硬くしたその身で受けとめる。
「当ててもすぐに回復される……完全防御に回られると厄介なものね」
「俺の後ろには女性がいる……ヒーローとして、男として危険に晒す訳には行かないからな」
 遠くにいるローザマリアの言葉が聞こえたかのようにヴェイダーがつぶやく。ちなみに、麻羅に流れ弾が行った事に関しては全然気付いていない
 ともあれ、これでヴェイダー一人だったならいずれは押し切られていただろう。だが、この場にはまだ切られていない札が二枚も残っている。
「チャンスは逃さない……朔の身体を傷つけようとする人はあたしが燃やし、焦がし尽くしてあげるわ! アハハハッ!」
「神様、教えて頂戴。あの罪人達に与える罰を…………ふふ、そうだよね。やっぱりお仕置きならこれだもんねっ!」
 杖により攻撃力の上がったアテフェフの凍てつく炎とサンダーブラストが緑郎達に襲い掛かり、焼き、凍らせ、痺れさせる。そしてナラカに堕ちても失わなかったテレサの信仰心による神の奇跡が敵の急所を第六感的に感知させ、両手に剣を構えての突撃によって複製体達を一気に消滅させていった。
「あら、ダーリン、良い所取られちゃったんじゃない?」
「フ……ヒーローは賞賛の為に戦うんじゃない。その先にある笑顔の為に戦うんだ。その為なら誰が栄光を掴もうが構わないさ」
 魔鎧の方のヴェイダーの言葉に歯の浮くような言葉で返す食人。相変わらずヒーローモードの食人はキザな言動を躊躇無く行える男であった。
 
 ちなみに食人達の方でそんなやり取りがあった頃、テレサの頭の中では喧騒が広がっていた。
『わ、私は何でこんな所にいるんだ? というか、この格好は何なんだ!?』
「あ、朔ちゃん、気付いたんだね。ふふ、ワタシと朔ちゃん、今は二人で一つなんだよ」
『テレサ!? じゃあこれはテレサの……って、普段よりもボロボロじゃないか!』
 この部屋に入ってから飛び交う炎を強行突破した為、服の何箇所かが焦げてただでさえボロボロな服が一層酷くなっていた。幸い大事な部分はちゃんと隠れているとはいえ、身体の持ち主である朔にとっては気が気でない。
『と、とにかく早く着替えを――いや、その前にテレサ、私に身体を返せ!』
「え〜、もっと一緒にいようよ」
『え〜じゃない!』
 結局戦いが全て終わるまでテレサが主導権を譲る事はせず、朔は長い時間、恥ずかしさに耐えるハメになるのだった。