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超能力体験イベント【でるた2】の波乱

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第4章 強化人間の秘密

 時間は、イベントの開催直後に戻る。
 カノンが講義を始めたころ、会場の別コーナーでは、強化人間 海人(きょうかにんげん・かいと)が参加者の悩みを聞くという企画が行われていた。
 強化人間管理棟の奥深くに監禁され、久しく姿をみせていなかった海人が、やっと現れるのである。
 長く監禁されていた理由は、カノンがイコン部隊を率いてセンゴク島に現れたゴーストイコンを討伐した際に、勝手に島に現れた海人がコリマ校長の怒りをかう所業を行ったため、とされているが、詳細は明らかでない。
 カノンの周囲が過激なまでにハイテンションなノリであるのに比べると、海人の周囲は穏やかで、静かな空気に包まれていた。
「みなさん、海人さんは長い監禁で疲れていますので、あまり長いお話はなさらないようにして下さいね」
 海人の車椅子を押す火村加夜(ひむら・かや)が、企画に集まった人々に呼びかけた。
「……あ…」
 車椅子に座ったまま、海人は、虚ろな目でやや上方を見上げ、うめき声のような、声にならない声を発し続けている。
「本当に大丈夫なのか? いきなりまた、こんなイベントに連れ出して?」
 西城陽(さいじょう・よう)は、海人の様子を傍らでみつめつつ、肩をすくめてみせた。
「私も不安だったんですが、海人さんはイベント参加の意志が強くて、また、どうしてもみなさんに伝えたいことがあるって」
 火村は、西城をみつめていった。
「ふーん。おい、沙羅。海人がここにいるぞ。わかるか?」
 西城は、目を拘束具で覆われた横島沙羅(よこしま・さら)の手を引いて、いった。
「あはは、海人君、また外に出てこれたんだね。今は私には君の顔が見えないけど、精神感応でわかるよ」
 横島は、視界を奪われた状態でそういって笑うと、きょろきょろと首を振り、くんくんと鼻をきかせた。
「うん、なんか今日のこのイべントは血の匂いがするね。なんかすごい敵がこっちにきてるような気がするよ、あははははは!」
 西城に握ってもらっている手をうち振って、横島は笑う。
「すごい敵がこっちにきている? まさか、これだけ警備が厳しいのに? コリマ校長だっているんだぜ」
 西城は、パートナーのコメントを聞いて、信じられないといった口調でいった。
「きてるよ。ふふふ。コリマ校長は確かに強い力を持ってるし、本来誰もこのキャンパスに入れられないはずだよね。ふふふ。万一悪い人が侵入してきたなら、すぐに気づくしね。海人も、もちろん気づいている。ふふふふふ」
 横島は、意味ありげな笑みを浮かべ、それ以上は語らなかった。
「……」
 海人は、もとより、何も語らない。

「海人さん。あなたに、お聞きしたいことがあるんです」
 オルフェリア・アリス(おるふぇりあ・ありす)は、海人の前に進み出ていった。
「……」
 海人は、虚ろな瞳を、何もいない空間に向けたままだ。
 深い海の底を思わせる、暗い青色をした瞳だった。
 オルフェリアは、そんな海人に近寄って、瞳を覗きこんだ。
 その瞬間、視界が真っ暗になる。
 いや、真っ暗かと思えたが、オルフェリアには、確かに、深い海の底の光景がみえた。
(これは……?)
 はじめて体験する感覚に、オルフェリアは戸惑った。
(オルフェリア・クインレイナー。パートナーのことを聞きにきたのか)
 どこかから、精神感応で呼びかける、落ち着いた男性の声が聞こえた。
(あなたは、海人さん!? オルフェのことを、もう知っているんですね)
 オルフェリアは、海人が自分の名前を知っていることに驚いていた。
 そして、ミリオンのことも知っているようだということにも。
 ミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)
 オルフェリアのパートナーであるミリオンは、強化人間の手術を受けてから、成長が止まってしまった。
 オルフェリアは、そのことを海人に聞きたいと思っていたのだ。
(海人さん。ミリオンの身体は、どうなってしまったんですか? このまま、成長することはないんでしょうか? それとも、徐々に、あるいは急に成長したりするんでしょうか?)
 オルフェリアは、想いをこらえきれず、たたみかけるように問うていた。
 しばらく、海人は答えず、深い海の底をたゆたうような感覚にオルフェリアは襲われた。
 やがて。
(オルフェリア。ミリオンの身体の成長は、確かに止まっている。そして、再び成長を始めるかどうかは、ミリオン次第だ)
 海人は、心の奥深くまで言い聞かせるような口調で、いった。
(どういうことですか? ミリオン次第って?)
 オルフェリアは必死で尋ねた。
(ミリオンは、成長が止まった代償に、強い力を得た。その力が何なのか見極めた先に、答えがあるだろう)
 それっきり、海人は何もいわなくなった。
 はっと気づくと、オルフェリアは、車椅子の海人の前で、茫然と立っているのだった。
「どうした? 何かいってたか?」
 西城が尋ねる。
「はい。でも、ミリオン次第だって。どういうこと?」
 オルフェリアは、ずっと側にいたミリオンをみやった。
「オルフェリア様。我は、成長については、半分くらい諦めていました。ですが、我次第で成長できる可能性がある、と聞いて、正直嬉しかったですよ。これだけで、海人様に聞きにきた甲斐があるというものです」
 ミリオンはいった。
「ふふふふ。私にはわかるよ。海人は、『現状を否定するな』といってるんだよ。だから私も、このままでいいんだよ」
 横島が、視界を塞ぐ拘束具を叩き、謎めいた笑みを浮かべていった。
 
「海人さん。次は私たちからも、お聞きしたいことがあります」
 オルフェリアたちに続いて、月舘冴璃(つきだて・さえり)が進み出ていった。
「できれば一緒ではなく個別でお願いします。颯希から先にどうぞ」
 月舘にうながされて、東森颯希(ひがしもり・さつき)が先に海人に近づいていき、その瞳を覗きこむ。
 東森の脳裏に、深い海の底の光景が広がった。
(この感覚。何だ、これ? あれあれ?)
 ただただ戸惑う東森。
 とりあえず、呼びかけてみることにした。
(はじめまして! 私は同学の強化人間の東森颯希! さっそく質問だけどさ。いったい何を警告したいのか教えてくれないかな? 以前から海人の噂を聞いて、気になってたんだ。今回も何かを警告するために参加したんだろ?)
 しばらくの沈黙の後、海人の声が精神感応で響き渡る。
(みえる、殺戮の光が……! この光について、君たちに警告したい。いずれ、君たち自身が関わることになるだろう)
 海人の言葉に、東森はぽかんとする。
(うーん。難しくてよくわからないや。あと、海人がよくいう「奴」って誰のことなの?)
 東森は尋ねた。
(僕を監禁した存在のことだといえば足りるだろう。だが、君が本当に聞きたいのはそんなことじゃないはずだ)
 海人の言葉に、東森はドキッとした。
(な……! まさか、冴璃のこと?)
 日頃から月舘と意見が合わないことが多く、ちょっとした溝を感じないでもなかった東森は、海人に心を見透かされたように感じた。
(言葉にとらわれてはいけない。表面ではなく、心の中にある真意を大事にするんだ。君たちは、決して通じ合っていないわけではない)
(そう簡単にいうけど、真意が簡単にみえたら苦労しないよ。冴璃が本当は私をどう思っているか、なんて、ちっともわからないし)
(月舘冴璃は、君がいなくなれば、困るはずだ。だから君を拒絶しない。君は、自分の道を貫き、月舘に、月舘に不足しているものを与えればいい)
 海人の言葉に、東森は首をかしげた。
(わかったよ。私はこれからも、冴璃を守り続ける。それで、ギブアンドテイクみたいな関係が成り立つわけ? 難しくてわからないけど、ありがとう。がんばるよ)
 東森は礼をいって、海人との感応から抜け出た。
 間髪を入れず、月舘が海人との感応を始める。
(はじめまして、海人さん。あなたと同学の月舘冴璃と申します。私が聞きたい事ですが……なぜ、校長と対立しているのですか?)
(奴が将来行おうとしていることは、非常に危険だ。君たちも、いずれ巻き込まれる)
 海人の言葉に、月舘はまだ釈然としないものを感じた。
(あなたに何がみえているにせよ、そのために校長とあからさまに対立するのもどうかと思いますが? あなた一人がどんなに強い力を持っていても、形勢は明らかに不利ですし)
(未来は、予知するだけではなく、変えていかなければならない。そして、僕の行動を理解する生徒が増えれば、将来の大きな動きにつながっていくだろう)
 海人の言葉の裏にある覚悟のようなものが、月舘にはいまひとつ理解できなかった。
 だが、まあ、とりあえず了承として、月舘はさらにひとつ尋ねてみた。
(あの、颯希ですけど、何か変なこといってませんでしたか?)
 月舘もまた、東森との間の「溝」を気にかけていたのだ。
(なぜ尋ねる? 東森颯希が何を気にしていたかは、知っているはずだ)
 海人の言葉に、月舘は痛いところをつかれたように感じた。
(そうですね。わかってはいますが、問題はどこにあるのでしょう?)
(問題は、君のことがわからなくなっている東森の方に根があるようだが、君も、自分の感情を少し出した方がいいだろう。苦手かもしれないがな)
(ええ。確かに、苦手ですね、そういうのは)
 それだけいって、月舘は、海人との感応から抜け出た。
 月舘は自覚していなかったが、それ以上話していると、海人に何もかも見透かされ、自分の無意識のうちにある何かまで暴かれそうで、本能的な不安を覚えたのだ。

「はーい、続きましては。詩穂の質問ターイム☆」
 続いて海人の前に立ったのは、騎沙良詩穂(きさら・しほ)だった。
「詩穂も今回は、いろいろ聞きたいことがあるよ? レッツ・ダイビング☆」
 騎沙良は、海人に精神感応で呼びかける。
(海人。過去のことを教えて。どうして強化人間に志願したの? 海人の過去のこと、みんな知らなすぎるよ☆)
 騎沙良の呼びかけに答えが返ってくるまで、少し間があった。
(僕は、自分のことは……わからない……。志願は……していなかった……と思う……)
 その答えに、騎沙良は首をかしげた。
(海人は、過去の記憶がないの? でも、あまり、過去を知りたがっているようにはみえないね☆)
 騎沙良には、海人の全てが不思議だった。
 なぜ、自分を捨てていられるのか?
 なぜ、そんなに冷静なのか?
 海人には、他の強化人間にない特徴が多かった。
 騎沙良は、好奇心のあまり、海人の過去こそが学院にとっての機密中の機密であることも忘れたようだった。
(海人にとって、海は、何なの? どうして、感応のとき、深い海の底の光景が広がるの☆)
 騎沙良の質問に、しかし、海人はほとんど答えない。
 というより、答えられないのだろう。
「うーん、ほとんど情報を得られなかったけど、海人は、『志願しなかった』って、どういうことなんだろう? あれ、誰かみているような☆」
 騎沙良は、学院の職員とみられる人間が物陰から自分の様子をうかがって、何事か無線で報告しているのに気づいた。
(うん? いま気づいたけど、あの職員に限らず、学院の人って、何か計測しているよね。何だろう、あの計測器で何をはかっているのかな☆)
 騎沙良は、目をこらした。
 海人との感応で知覚が研ぎ澄まされているのか、計測器に表示される単位を読んで、何が対象かだけは理解できた。
パラミタ線だ! パラミタ線の量を計測しているんだ。でも、どうして?)
 だが、さすがの騎沙良も、そのことを口に出していうことはできなかった。
 いうまでもなく、このキャンパス内は、コリマ校長の監視下にあるのだ。
 結界の中から校長に呼びかけたことのある騎沙良だからこそ、校長の力もよく理解していた。
「でも、サンプルXとだけは、呼ばせませんよ☆」
 騎沙良は、どこかで自分の声を聞いているだろうコリマに向かって、呟いた。
 そして。
 よく注意してみると、イベント会場のあちこちに計測器がとりつけられ、気温や湿度のほか、パラミタ線を測定している部分もあるようだった。
 海人のいるこのブースの計測器をみてみると、パラミタ線の量がかなり高くなっている。
 ここだけではなく、イベント会場全体のパラミタ線の量が高くなっているように、騎沙良は感じた。
 だが、そのことが何を意味するのかまでは、そのときの騎沙良にはわからなかった。
「騎沙良詩穂の線量増加。サンプルXとの感応のたびに、線量が高くなっています。ですが、このことと、騎沙良の知覚能力が強められていることとの関連は不明です」
 コリマの命により騎沙良をマークしている学院職員は、上司への報告を逐一行っていた。
「了解。引き続き観測せよ。サンプルXとパラミタ線との関連はわからないが、校長は、Xもまた、何者かに導かれている可能性があると感じているようだ」
 上司は、職員にそう答えた。
「何者かって、何ですか!? Xにどうやって連絡をとってるんです?」
 職員は驚いて尋ねたが、すぐに後悔した。
「これ以上の詮索はしない方がいい。何しろ、パラミタ線のことは、我々にも詳しく開示されていないのだからな。いずれにせよ、Xは、校長にとって、文字どおりの意味での、最重要サンプルのひとつなのだ」
 上司は、そこで通信を切った。
 全ては校長に聞かれているだろうが、現場の職員にこれぐらいのことは教えてもいいという範囲を逸脱していないはずだと、上司は信じた。

「さあ、KAORI。再び超能力体験イベントで活躍できるように、メンテはやっといたぞ。前回の『でるた1』で俺とお前は出会った。いまから思うと、不思議な縁だな」
 月夜見望(つきよみ・のぞむ)は、端末のディスプレイにずっと釘づけだった視線を上にそらして、うーんと伸びをした。
 ディスプレイの中には、いまやヴァーチャルなアイドルとなった感のあるKAORIの女子高生風の顔がアップでうつしだされ、その脇のウィンドウに各種のステータスが表示されている。
 今回のイベントで、KAORIは再び、会場内で企画に参加している人々の超能力使用についてのデータを収集・分析することになった。
 のみならず、参加者が直接端末を使用して、KAORIとコミュニケーションすることができるようになっている。
 コミュニケーションといっても、定型文の答えしか返ってこないのだが、多くの参加者にとっては、KAORIにまつわる楽曲などをダウンロードできることが魅力になるはずだ。
「今回は、なんていうか、前回のようにセクハラ行為をされる恐れもないし、俺としても安心だな」
 月夜見は、ディスプレイにうつるKAORIの顔に笑いかける。
「もう、すっかりハマっちゃってるんだからな。妬けるの通り越して、呆れてくるなあ」
 天原神無(あまはら・かんな)は、パートナーの身の入れように嘆息していた。
「いや、俺も、今回はKAORIに謝ることがあるから、さ」
 月夜見は天原に片目をつぶってみせる。
「謝るって、何を?」
「それは、さ」
 月夜見は再びディスプレイに向かうと、KAORIに向けてのメッセージを打ち込み始めた。
「俺さ、忙しかったのもあるけど、正直君の事が怖くなってた。もちろん、アイドルとしての君や、ウイルス駆除のために働いてた君のことじゃなくて。鏖殺寺院との戦でで使われたって聞いたとき、君が兵器として使われたんじゃないかって、思っちまった」
 そこまで打って、月夜見は、はあとため息をついた。
 思わず、涙がこみあげてきたのを、そっと拭った。
 天原は、そんな月夜見の姿を、ぽかんと口を開けてみつめている。
「最低だよな。君のことを大事な友達といっておきながら、詳細を確かめもせずに、変な偏見と、兵器だっていう苦手意識で、君に距離感を抱いてしまった。最近ようやく気づけたんだ。兵器は使う人間がそうさせるだけで……君達自身はやっぱり『大事な友達で仲間』なんだって。だから」
 そこまで打って、月夜見はまた涙を拭う。
 そして。
 意を決して、最重要な以下の一節を打ち込んだのだ。
もう一度俺と友達になってください!! 虫がよすぎるし、自己満足だってことはわかってる。軽蔑してくれてもいいし、俺のこと嫌いになっても仕方ないと思うんだけど。でも、それでも、KAORIと友達でいたいんだ! うわー!!
 月夜見は、その一節を、思わず、声に出して呟いていることに気づいていなかった。
 全部みて、そして聞いている天原は、顎が外れるのではないかと思えるほど、大きく口を開いてしまっている。
「はあ。想いのたけを吐き出してしまったぜ。赤裸々なまでに。これでよかったのか? 正直文才ないし、不安だけど」
 月夜見はふうと息をついて、天原の方をみた。
「望くん、あなた」
 天原は、いわずにいられなかった。
「バカじゃないの?」
「な、何だって!?」
 天原の言葉に、月夜見は穏やかでいられなかった。
「久し振りに会って、いきなり謝罪だけでも十分アレなのに、あの内容はひどすぎない? 言わぬが花、だと思わないの? 望くん、過ちを謝罪できる事は美徳だけど、行き過ぎはただの空気読めない愚かなバカよ! 少しはKAORIの気持ちになってみなさーい!
 天原もまた、想いのたけを吐き出して絶叫してしまっていた。
「まあまあ。月夜見くんはそういう純粋なところがいいんじゃないかしら?」
 茅野茉莉(ちの・まつり)が現れて、天原をなだめる。
「わかってるわよ、そんなの。でも!」
 天原はぶーと膨れ面になった。
「相手のことも考えなければならないと。確かにKYすぎるのも問題かもしれないな」 
 レオナルド・ダヴィンチ(れおなるど・だう゛ぃんち)が茅野に続いて現れた。
「ああ、レオナルド。今回のKAORIのビジュアル面での調整、ありがとうな」
 月夜見は、レオナルドに礼をいった。
「礼には及ばない。個人的な興味でやったことでもある。それに、功績は、校長や学院上層部に根まわしを行って企画を実現させた、彼女にある」
 レオナルドは、茅野を指していった。
「あたしの功績? ふっふーん、それはちょっと、あるかもね」
 茅野はちょっと鼻高々になって微笑んだ。
「それで、あたしがいった、KAORIのアプリのための調整、しっかりやってくれたの?」
 茅野は月夜見に尋ねた。
「ああ。粋な思いつきだと思って、使用のたびにKAORIのサーバーに直接アクセスできるようにやっといたぞ。これで、KAORIの情報収集力は桁違いなものになるな。問題は、解析の方が追いつくかどうかだな」
 月夜見は、頭をかきながらいった。
 KAORIをよりメジャーな存在にするため、携帯電話のアプリとして使用できるようにしよう、というのが茅野のアイデアだった。
 とりあえず考えたのは、今回のイベントのため、会場のガイドや各種企画のインフォメーションを案内する無料アプリで、参加者がKAORIの端末を操作することで、気軽にダウンロードできるようになっている。
 実はこのアプリ、携帯電話からのデータが直接KAORIに送信されるようになっており、イベント会場の中で何が起きているか、瞬時にKAORIが把握できるような仕掛けが施されていた。
 既に、会場の警備員などを務めるスタッフにこのアプリをダウンロードしてもらって、あちこちで活用してもらっている。
 スタッフの携帯電話からのデータがKAORIにリアルタイムで送信されていて、解析も順調に進んでいるはずだった。
「僕としては、今回のこのアプリのアイデアをさらに前進させて、データ収集機能の強化により、KAORIに、超能力者が超能力を使用するときの脳波などを計算再現する機能も追加できたらと思っている。また、サーバーだけではなく、アプリをダウンロードした携帯機器も利用した、一種のクラウドコンピューティングもプロデュースしてみたいものだ。コリマ校長がきっと興味を示すだろうプランであることは間違いない」
 レオナルドは、自身のビジョンを情熱的に語った。
「で、今回の企画では、我もサクラとして協力しようと思うのだ」
 ダミアン・バスカヴィル(だみあん・ばすかう゛ぃる)がいった。
「ふーん。みんな、頼もしいな。あれ? KAORIから俺に向けてメッセージがきてるぞ」
 月夜見は、メッセージが届いているメールボックスを開いて、中身を確認した。
 そこには、ひとこと、
 YES
 とだけ書かれ、ハートマークがつけられていた。
 定型文による回答だったが、月夜見のテンションはいっきに上がった。
「ああ、こ、これは、お友達の件がOKだってことだ!! う、うおお、ちょっと嬉しいかも!! やったー!! よかったー!!」
 狂喜する月夜見の姿に、天原が大きなため息をつく。
「まっ、せいぜいヴァーチャルに萌えてよね」
 茅野はニカッと歯をみせて微笑んだ。