天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

ルペルカリア盛夏祭 ユノの催涙雨

リアクション公開中!

ルペルカリア盛夏祭 ユノの催涙雨
ルペルカリア盛夏祭 ユノの催涙雨 ルペルカリア盛夏祭 ユノの催涙雨 ルペルカリア盛夏祭 ユノの催涙雨 ルペルカリア盛夏祭 ユノの催涙雨 ルペルカリア盛夏祭 ユノの催涙雨

リアクション



新しい家族と共に


 今回の結婚式は、蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)に見せたくて行うと言っても過言はない。
 だから邸宅を借りて、慎ましく挙げることにした。

 花嫁の準備室で、すっかり準備の整ったコトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)を憧れの瞳で見上げる夜魅。
「ママ、とっても綺麗だよ!」
 これから行われる式への期待に夜魅の声も表情も弾んでいる。
 コトノハのドレス姿は、まるで妖精のエウリディケを思わせた。
 ありがとう、と夜魅の頭をやさしく撫でるコトノハ。
「夜魅もとてもかわいらしいですね」
 綺麗なピンク色のドレスが夜魅にぴったりだ。
 時間になった。
 コトノハは式を挙げるパーティルームへ向かう。
 すでに一度挙式している身だが、あの時とはまた違う緊張感に包まれていた。
 ややこしい誤解を避けるため、両親は呼んでいない。
 夜魅がパーティルームの扉を開ける。
 ギリシャ式の結婚式があると聞いて見に来た人達が拍手で出迎えた。
 その中には、招待したルドルフの姿もあった。
 コトノハはお礼の意味を込めて彼に目礼する。
 決められた位置に立ち、花婿のルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)が来るのを待つ。
 今回の式は七夕のイメージと融合させた内装をとった。
 室内には綺麗に飾り付けられた笹が掲げられている。ギリシャ風と日本風、うまく調和のとれたつくりになっていた。
 コトノハの短冊も飾られているはずだ。
 異文化同士を組み合わせた内装にしたのには意味がある。
 この調和のように、地球人の自分とパラミタ人のルオシンもお互いの味を殺しあわずにとイメージした。
 やがて、扉の向こうのほうから竪琴を爪弾く音が聞こえていた。
 扉のすぐ向こうではない。音の遠さから、このパーティルームへ真っ直ぐに続く玄関から歩いてきているのではと思わせた。
 それは事実で、ついにこの部屋の扉が開くと、そこにはオルフェウスの竪琴を奏でるルオシンがいた。
 彼はコトノハを見て眩しそうに目を眇めると、やさしく微笑みながらゆっくり歩み寄っていく。
 一歩一歩コトノハに近づきながら、ルオシンはルペルカリア祭の時の結婚式を思い出していた。
(あの時は空京をイメージしたフロアだったな。あれから我達に二人目の子供が生まれて……早いものだ)
 守るものが増えたルオシンは、もう以前のように『命に代えてでも守る』とは思わなくなっていた。今は『誰が欠けてもいけない』と思っている。
 コトノハの隣に立ち、神父の言葉を待った。

 いつも見ているほうが赤面しそうになるくらい仲睦まじい二人が、神父を前にとても初々しい様子でいるのは、夜魅にとってとても新鮮な眺めだった。
 二人はワインを三度、口につけた後、スタッフの手により頭にのせていた白いリボンで結ばれた冠──ステファナという──を交換した。
 神父は歌うように祝いと祈りの言葉を述べ、最後に二人に夫婦の誓いを確かめる。
「我は再び誓う。どんな時も君を……いや、君達を守ろう。我と共に生きてもらえるだろうか」
 後半はコトノハを見つめて。
 コトノハは幸せいっぱいの微笑みで頷く。
「私はずっとルオシンさんを愛していますから……永遠に」
 その言葉は夜魅にもはっきり聞こえ、飛び出しそうになる歓声を抑えるのは大変だった。
 交換の指輪に選んだのはペリドットを戴いたもの。
 古代エジプトで太陽の石と言われ、そこから、困難な状況でも明るい希望の光で照らし、夢を実現するのを手助けしてくれる力を秘めていると信じられるようになった石だ。
 お互いの指に指輪を差す儀式は、夜魅にはとても神聖なものに映った。
 瞬きも忘れて見つめていると最後に二人はキスをして、式は一応の終わりを告げた。
 その後は参列者達へ記念品を贈った。
 クフェタという、白砂糖で固めたアーモンドのお菓子だ。
 コトノハとルオシンは一人一人と握手をし、お礼を言って手渡していく。
「良い式だったね。招待してくれてありがとう。お二人とご家族の幸福を祈るよ」
「ルドルフさん、お忙しいのにありがとうございます」
 コトノハはにっこりしてルドルフにもクフェタを渡す。
 ルドルフも二人の幸せを分けてもらったように微笑んでいた。
 と、その後ろから夜魅がひょこっと顔を出す。
「パパ、ママ、おめでとう!」
 パアッと蒔かれたライスシャワーはルドルフも巻き込んだ。
 しかも二回、三回、四回と連続で蒔いたため、彼らの足元は何だか白い。
 全てが終了した後、コトノハとルオシンは庭園に出て身を寄せ合っていた。
 空には天の川がかかり、風はやわらかい。
「何だか少し恥ずかしかったです……」
 今になって照れるコトノハの赤く染まった頬に、ルオシンはそっと触れる。
「あのような姿を見られるなら、我は何度でもかまわない」
 包むように添えた手でコトノハの顔をわずかに上向かせると、結婚式とは違う、もっと熱のこもった口付けを──
「あっ、ここにいたのねー!」
 笹飾りを見ているうちにいなくなっていた二人を探していた夜魅の声だった。
 ハッと二人は距離をあける。
「あれ? お邪魔しちゃったかな? ごめんなさい。えと、やり直しやり直し……」
 戻ろうとするその姿に思わず笑いがこぼれるコトノハ。
 ルオシンが夜魅を引き止めた。
 抱き上げられた夜魅は素直にルオシンに甘える。
「一人にしちゃってごめんなさいね」
「平気よ!」
 やさしいコトノハの手が大好きだ、と夜魅は笑った。