リアクション
ステーキ
『さあ、思いっきり焼くよー!!』
熱した鉄板を前にして、深き森に棲むものに乗ったカレン・クレスティアが叫んだ。
すでにさばいて適当な大きさに切っておいた巨獣の肉を、ドンと鉄板の上に載せる。
じゅうぅぅぅぅぅっ!!
焼けた鉄板の上で、肉の塊が美味しそうな音をたてた。脂身の部分から溶け出した油が、鉄板の上で跳ね踊る。
「いいぞ、カレン」
「はいよ、ジュレ」
ジュレール・リーヴェンディが示したドラム缶を、カレン・クレスティアが斬龍刀の先でひょいと跳ね上げる。
クルクルと宙で回転するドラム缶から、黒コショウの塊がパラパラと肉の上に降り注いだ。
それをひょいとイコンの手で受けとめると、今度は別のドラム缶を踊らせて、塩を振りかける。ギャラリーから、やんやの拍手がわき起こった。
『どうも、どうも』
それにちょっと気をよくしたのか、まるで剣舞をしているかのような動きで、イコンが肉をひっくり返していった。綺麗に六面全部を焼き固めると、蓋をしてちょっと蒸し焼きにする。
『さあ、これからがクライマックスだよ』
蓋を取ると、カレン・クレスティアは斬龍刀を縦横無尽に使って肉を人間用のステーキ大に細かく切り分けていった。
肉塊が鉄板の上で舞い踊る度に、次々にステーキが生み出されていく。
焦げないように鉄板の端へと切り分けた肉を追いやると、待ち構えていた者たちが殺到するという感じだ。
「わんこステーキ最高。後で口直しにまたうどんに行かなくっちゃね」
もうほとんど化け物なみに食べ続けているセレンフィリティ・シャーレットが、呆れるセレアナ・ミアキスに言った。
「いったい、そんなにエネルギー補給してどうするつもり?」
「それは、もちろん今夜のため……。なんなら、今でもいいんだよ……」
力が有り余っているセレンフィリティ・シャーレットが、ちらんとセレアナ・ミアキスを見つめた。その目がぎらついている。
「そ、そういうことは、家に帰ってからにしましょうね」
じりじりと後ずさりしながら、セレアナ・ミアキスが言った。
「いや、もう待てないかも……」
逃がすものかと、セレンフィリティ・シャーレットがにじり寄る。
「我慢しなさい!」
「待てー」
たまらず逃げだすセレアナ・ミアキスを追いかけて、セレンフィリティ・シャーレットが走りだした。
「うっぷ。さすがにちょっと食べ過ぎたかも」
走り去るセレンフィリティ・シャーレットたちを紙一重で避けながら、ルカルカ・ルーがお腹をさすりながら言った。
「そうだな。ここは、食べなくても充分楽しめそうだ。こういうのもまたいいだろう」
パフォーマンスを繰り広げながら肉を焼き続けていく深き森に棲むものを見あげながらダリル・ガイザックが言った。
たこ焼き
「さあ、タコを取り出して焼くぞ。たこ焼き器の用意はいいか?」
コンテナを縦にドンとおいて、緋桜ケイが言った。
「ああ、もう好きにしてくれ」
すでに雪国ベアはほとんど投げ槍状態だ。
「型だと? そんな大きい物は特注するしかないであろうが……」
「えっ、用意してないの……?」
「うん。忘れた♪」
緋桜ケイの問いに、悠久ノカナタがかわいらしく両手の人差し指でほっぺをつっつきながら答えた。
「今さら可愛くごまかしてもだめだろうが」
「忘れた物は忘れたのだ。しょうがないであろう」
あっけなく素に戻って開きなおるが、事態が好転するはずもない。
「どうするんだ。これじゃたこ焼きは作れないぞ……」
「仕方ない。文字通り、焼くしかないであろう。タコを」
「いったい何をしているのでしょうか?」
突然動かなくなったアルマイン・マギウスを見あげてソア・ウェンボリスが首をかしげた。
「あ、動き始めましたよ」
ようやく中で話がまとまったのか、アルマイン・マギウスが、用意しておいた薪の山に火をつけた。コンテナの扉を開くと、そこにマジックソードを突き入れて、串刺しにしたタコを取り出す。
「これから刻むのでしょうか」
「だろうな……多分……きっと……」
見守るソア・ウェンボリスと雪国ベアの前で、アルマイン・マギウスが串刺しにしたタコをそのまま火の上にかざした。
ちりちりと、タコが丸焼きになっていく。
「ちょっと待てー! 関西風たこ焼き作るんじゃなかったのかあ!!」
雪国ベアが叫んだ。
『えっと、タコの丸焼きに変更になりました……』
そう答えると、緋桜ケイは焼けたタコをまな板の上に移動させて、マジックソードで微塵切りにし始めた。
「俺様の白熊号の犠牲はなんだったんだあ!!」
雪国ベアが吼えたが、無事にタコの丸焼きは完成していた。
意外にも、串に刺したタコは、会場内の食べ歩きのおやつとして大好評だった。
閉会
「はい、お菊さん。これ買ってきたから食べて」
「おや、ありがとね」
ノーン・クリスタリアが持ってきたタコ串に、お菊さんが美味しそうにかじりついた。
「まあ、盛況だったということかしらね。――みんな、残しちゃだめだよ。作った物はきちんと全部食べて帰りなー!」
そろそろ閉会も近いという時間で、お菊さんが場内放送のマイクにむかって言った。
「えっ……」
黒カレーのタンクを担いだアーサー・レイスは、まばらになってきた人並みの中で行き場をなくして立ちすくんだのだった。
イコンお料理大会、無事終了いたしました。
結構、みんな色々なところで絡んでいます。
予想外の展開も多々ありましたので、カオスとは違う意味でちょっと面白かったです。
当初の予定ではもうちょっと狩りで戦闘シーンが多いはずでしたが、イコン同士が絡んだのでそちらの描写にシフトしています。
料理は成功した物もあり、失敗した物もあり、怪我の功名もあり、いろいろでした。結果にかかわらず、どれも面白かったです。
なお、イカの吸盤はタコと違って爪のような物がついているので痛いです。痕が残ります。気をつけましょう。