天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

神に捧げる奉納舞

リアクション公開中!

神に捧げる奉納舞

リアクション


優しき舞と贈られるもの

 ――風化された廃墟。そこから出てくる、ボロボロの衣服を纏った小さな少年、オスクロ。
 店店が並んでいる小さな町。オスクロは一軒の店先に並んでいた小ぶりの魚を盗って逃げた。
 追いかけてくる大人たちから逃げ切り、廃墟へ入って行く。廃墟の中の開けた場所で、盗ってきた魚を生のままガツガツとむさぼる。
 夜、隙間風がびゅうびゅうと吹き荒ぶ個室だった所で丸まって眠るオスクロ。月光がその隙間からオスクロを照らしている。
 ゆっくりと時が進む中、月光が何かに遮られた。
 少しすると個室へ二十代前半程に見える地祇、クラロが入ってくる。クラロは寝ているオスクロのふけだらけのボサボサの髪を優しく撫でた。
 眠りから覚めたオスクロは、驚いてクラロに向かって襲いかかる。クラロは悲しげな顔でそれを避けていく。
 避けられ、壁や床に手が触れられた所は不気味な音と共に腐食していった。
 息を切らしたオスクロをクラロはそっと抱きしめる。
 暴れていたオスクロも次第に動きを弱めていき、最後には大声で泣き出した。クラロはぎゅっとオスクロが泣き止むまで抱きしめている。

 シオンの花畑と化した開けた場所でクラロはオスクロの綺麗になった肩まである黒髪を櫛で丁寧に梳いていた。
 そこへ、ずかずかと町の大人たちが入ってくる。
 大人たちはクラロをこの地の守護地祇にしようとオスクロからクラロを取り上げた。オスクロはクラロと捕られまいと抵抗するも力の差を見せつけられ地に伏してしまう。ボロボロの濡れ雑巾のようになったオスクロはそれでもクラロへ向けて手を伸ばす。
 クラロは悲しげな顔をオスクロへ向けるが抵抗せずに大人たちに連れられて行ってしまう。残されたオスクロは、憎々しく連れ去られた方を睨んでいた。


 ――クラロを連れ去られた時と同じ表情のオスクロ。
 この地に奉っていた守護地祇がどのように出来たのか知ったレティーシアたちは誰も言葉を発する事が出来なかった。

「俺は……巫子を殺してかあさまを取り戻す! 邪魔をするなぁぁああああ!!」

 爆風を撒き散らしショックで動けないでいたレティーシアたちを散り散りにするオスクロ。

「かあさま、今度こそこの地から解放させますから。そしたらまた、あそこの地で暮らしましょう」

 頬を高揚させて邪魔をする者がいなくなった場所を悠々と歩き、七ッ音を背負ったサラブレッタに向かっていく。

「巫女さん、ちょっと飛ばしますからちゃんと捕まってて下さいね」
「逃がすか!」

 サラブレッタもオスクロに捕まらないよう懸命に逃げるも、背に乗せていた七ッ音を取られてしまった。

「かあさまの為に死ね、巫子」

 首を絞めていくオスクロ。七ッ音は息が出来ないながらも震える手で首を絞めているオスクロの腕を掴む。

「待って、下さい……あなた、は先程お母さんを取り戻すと、言いました」
「だからどうした」
「ぐっ……ですから、降りてきたお母さんとかい、わ」
「話せたからどうした」

 締め上げを少しだけ緩め話せるようしたオスクロ。

「あの話が本当で、お母さんも開放されたいのでしたら……私がそれを願いましょう」
「七ッ音さん、なにを言うんですか。そんなことをしましたらツァンダの地が!」

 七ッ音の発言に慌てるレティーシア。それを一睨みでオスクロは黙らした。

「なら、降ろしてみろ。降りてこなった時は……分かっているだろうな?」
「はい……その時は私の命、あなたに差し上げましょう」

 落ち着いた声でオスクロを真っ直ぐ七ッ音は見てはっきりそう言う。
 首から手が離された七ッ音は、しっかりした足取りで御神木の前へ行くと、祈り始めた。

 静寂が辺りを包みこむ。

「(守護地祇さま……もしこの声が聴こえましたらご降臨下さい)」

 真剣な表情でクラロへ向けて言葉を届ける七ッ音。その雰囲気にさゆみは思わず居住まいを正しているのに気付き、苦笑する。

 七ッ音は祈りが終わると、懐から龍笛を取り出し奏で始めた。

「(守護地祇さま、あなたはどのような思いでこの地を守っているのでしょうか)」

 言葉を乗せ、想いを乗せ、奏でていく。
 その音は、済んだ水面の様な響きかと思えば力強い響きに変わったり悲しげな響きになったりと感情豊かな音が包み込んでいく。

「綺麗な響きね……」
「そうですわね」

 聴き惚れていたさゆみが思わずそう呟くと、アデリーヌがそれに同意を示した。
 詩穂もレティーシアも、その場にいる全員が七ッ音の奏でる龍笛に聞き惚れている。

 曲も佳境に入る。

「(守護地祇さま、もしこの地の加護が強請の下行われているのでしたら、私は守護地祇さまの解放を願います)」

 七ッ音の閉じていた瞼から涙が流れだす。

「(我が子同然の子と離れ離れなのはとても寂しく、悲しいことです。どうかオスクロさんと幸せに暮らして下さい)」

 月光に照らされていた御神木の上空が優しく輝き、地祇・クラロが姿を現した。
 クラロは七ッ音の傍まで降りていき、七ッ音の龍笛に併せて踊り出す。クラロが動くたびにシオンが空から降ってくる。

「わぁ……これが今年の贈られるモノかな」
「シオン、あなたを想う。これが花言葉」

 アインケルがそう呟くと、ツヴァイリスは深く頷いた。

 降りてきたシオンの花のひとつがオスクロの目の前に落ちてくる。オスクロはそれをそっと掴み、クラロを見つめる。
 櫛で丁寧に梳いていた時と同じ表情で踊っているクラロにオスクロは一筋の涙が流れ、どんどんと後から後から静かに流れ落ちていった。

「かあさま……」

 龍笛が静かになっていき、曲が終わりを告げる。
 クラロは自らの肩を抱くと両手を広げた。月明りと同じ光がクラロからほとばしる。
 光が収まるとクラロは現れた場所までふわりと舞い上がった。

「待って、かあさま!」

 涙の線をそのままにオスクロはクラロを引き留めようと声を荒げる。

「かあさま、昔のように俺と一緒に暮らしてよ……」

 クラロは新たにひとつシオンの花を出してオスクロの前へ落した。それを受け取ってもそれでもクラロへ手を伸ばすそんなオスクロにクラロは、優しくもどこか悲しげな微笑みで首を微かに振って消えてしまう。

「なんで……なんで、なんで、なんで! 俺はかあさまと一緒に暮らしたいだけなのに……こうなったらこの桜だけでも腐らしてやる!!」

 御神木の所へ駆けていくオスクロの頬を引っ叩くコトノハ。

「バカな事言わないで! この木はあなたとお母様を繋ぐ唯一のものじゃない」
「うるさい! かあさまと一緒にいられないならこんなものいらない!」
「それじゃあ、今回贈られたこのシオンはどうなの!?」

 びくりとするオスクロ。

「シオンをあなたに渡したということは、ここの守護地祇になった今でもあなたのことを大切に思っているということなのよ」
「かあさんは今でも俺の事を……?」

 シオンの花を見るオスクロ。オスクロの手の中にあるシオンに雫が当たる。

「離れていてもあなたとお母様はあなたの母であるのよ。お母様が守る地でちゃんと生きないと」
「もしかしたら、加護の光はオスクロを守る為に与えているだけだったりしてね」
「その余波を私たちが受けているとでも言うのです?」

 夜魅の言葉にレティーシアは思わず尋ねてしまう。

「だって、母って我が子を一番愛してるもんじゃない?」
「それは確かに……」
「だから、ここの守護地祇になっちゃっても我が子を守る為に加護を与えててもおかしくないじゃない」

 夜魅の考えに周りもそういう考えもあるかと納得してしまう。

「ということは、ここにいるオスクロって現世の神様になるのか?」
「神ではないだろ。せいぜい寵愛者ってとこだろ」
「ま、なんにしてもツァンダの中でも大切な人になるんじゃない」

 氷藍と命のやりとりからオスクロの立ち位置がどうなるかといった話しに発展しそうになったのを玄秀は待ったをかけた。

「そのような話は別な所でもできるでしょう? いまはオスクロさんをそっとしておきませんか」

 玄秀の発言でレティーシアたち一同は、静かに涙を流して泣いているオスクロをその場に残し森の中へ入って行った。


 木の陰から出てきた和輝と稔。

「ここの守護地祇は違かったようですね」
「そうですね」

 今までの戦闘から奉納舞まで見ていた和輝と稔はそれだけ話すと森の奥へ消えていった。


 オスクロ以外誰も居なくなった静かな場所に柔らかな風が吹き、地に広がっていたシオンが空に舞っていく。
 それを憑き物が落ちたような表情で空を見るオスクロ。

「ありがとう……クラロかあさま。今でも大好きです」

担当マスターより

▼担当マスター

冬神雪羅

▼マスターコメント

初めまして、冬神雪羅です。
今回が始めてのシナリオで、ものすごくドタバタしてしまいました。
ですが、参加して下さった皆さんのリアクションを読ませて頂きとても楽しく想像できました。
またの機会がありましたら参加してくださると嬉しい限りです。