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【空京万博】海の家ライフ

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第二章:ラーメンたべたい

「ふ……またも蛮族に助けて貰うとはな」
 海の家のラーメン改良に向けてスープの試行錯誤を繰り返すノーンとなななを見ながら、セルシウスが満足気に呟く。
 店の表には、ルカルカの提案で、貸し浮輪や水着等の販売コーナーが新たに設置されており、ルカアコが張り切って集客していた。
 また、その品物は全長3メートルの黒曜石の石棒、所謂「黒のリンガ」を物干し竿として吊るされており、人目を引きつけていた。

 その甲斐あってか……。
「喉が渇いたね。休憩にしてあそこに行ってみない?」
 四条 輪廻(しじょう・りんね)ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)、はたまた沖に来ていたパラミタイルカ達とボール遊びをしたり海を満喫していた黒崎 天音(くろさき・あまね)が、ふと目に止まった海の家を指さす。
 水中メガネをつけていた輪廻が目を凝らす。
「あそこ……? どこだ?」
と、水中メガネを外す。
「でも、君は以前に海の家のラーメンは不味い、て言って……たっけ?」
「え……お、俺ってそ、そんなこと言ったっけ?」
「輪廻、メガネを外さないほうがいいであろう」
 パラミタイルカとの別れに手を振っていたブルーズの突っ込みに、オドオドしていた輪廻が水中メガネを再びかける。
「ふむ、確かに体を動かして腹が減ったな、いいだろう」
「決まりだね。よし、浜辺まで競争しよう!」
 天音が海へと潜水し、クロールで泳ぎだす。
「ふ……天音よ、海の表面は波立っているから速度など出ないのだよ。はっ!」
 輪廻がザブンと海中に潜り、魚雷の如く潜水で泳ぎだす。
「やれやれ……」
と、ブルーズが二人の後に続く。犬かきならぬ、ドラゴンかき、で。


「アズー、そっちのラーメンも食わせてくれよ」
「しょうがないなぁ。はい、アーン」
 梓がナガンにラーメンを食べさせる。
「どう?」
「……凄い! 本当に両方とも不味い!」
 海の家でラーメンを食べさせ合っているナガンと梓のテーブルをすり抜けて、天音達がやってくる。
「ふぅ・・・中々楽しませてもらったが、次は負けんぞ、俺が先にいかせてもらうからな」
 日に焼け、少し赤く染まった肌で笑う輪廻。
 そんな輪廻の言葉に天音も微笑み返す。
「うん? 僕はそんなに早くなかったと思うけどな。それにしても、四条があんなに深く……ちょっと意外だったよ」
 赤いチェック柄の水着の上にエプロン姿で接客をこなしていた久世 沙幸(くぜ・さゆき)が、二人の会話に一瞬言葉を失うも、元気の良い声で彼らを出迎える。
「いらっしゃいませー! こちらのテーブルにどうぞ!」
 沙幸に案内されたテーブルに着いても、天音と輪廻はお互いの早さと深さを褒めあって、談笑している。
「(このお客さん達……ひょっとして……あぁ! 駄目よ! 海は一夏の出会いのメッカだけど、同性同士なんて……!!)」
 注文を待つ間、沙幸は二人の間に飛び交う単語「早い・深い・顔・口の中に・手の角度」等に、胸をドキドキさせていた。
 ノシノシと二人の後からやって来たブルーズが、沙幸をチラリと見る。
「おまえ……」
「は、はい!?」
「うむ。期待を裏切ってすまないが、『早くなかった』や『深く』という言葉は、全て海に関するものだ……まぁ、紛らわしいのは認めるが」
「え……あ、あはは、そ、そうですよね?」
「うむ。口の中に海水が入ったとか、クロールの手の角度だとか、会話がややこしいのだよ。あぁ、我の注文は塩ラーメンだ」
 沙幸の前をブルーズが通り過ぎ、席につく。
「よし、折角だから俺も塩ラーメンを貰おうか」
「はい、塩ラーメンお二つですね? 他はよろしいですか?」
 メニュー表を見ていた天音が顔を上げ、
「僕はトロピカルドリンク一つ!」
 輪廻がふと近くのテーブルを見ると、二本のストローが刺さった南国でしかお目にかかれない様なカラフルなドリンクを向かい合って飲むナガンと梓の姿が映る。二本に思えたストローは先は一つであり、ご丁寧に真ん中でハートマークを描いている。
「すいません、コーラ一つ」
 自分の考えを華麗にスルーした輪廻の反応に、つまらない顔で「残念だねぇ」と呟く天音。
「天音、トロピカルドリンク残したら我が飲んでやろう」
 ブルーズの提案に天音が首を振る。
「君の吸引力は掃除機並みだろう?」

「困ったな……」
 そう呟いたのは、先程まで特製ラーメンを華麗に作っていたダリルである。
 現在、彼は万博の四パビリオンを模した氷の巨大彫刻を二刀流で実演作成し展示する、という作業に勤しんでいた。と、いうのも、麺が切れてしまったのだ。
 ダリルが作成する巨大彫刻の下には氷を敷き、上部の天井にも氷塊を設置しておき、周辺温度を低温にキープしながらの作業である。温度維持用の氷は氷術で補充していたが、太陽はダリルのSP等関係無しに容赦なく照りつけてくる。
「うむ。見事な腕前だ」
 セルシウスが彫刻を建築家の視点で見つめる。
「涼しさと美しさで楽しませるのも、有りだろう……実際問題、味は落ちるのだしな」
 そう、海の家のラーメンは一時的ではあるが、また、あの海水ラーメンに戻っていた。
 にも関わらず、海の家のラーメンが売れているのには理由があった。
 海の家で食事をした人にボディペイントをサービスしていた師王 アスカ(しおう・あすか)の影響である。