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【空京万博】海の家ライフ

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最終章:HANABI
 夕暮れの空を飛行する一匹のドラゴン。
 その背に、長い銀髪を揺らした褐色の肌の男が座っていた。その姿はセルシウスと比べ随分華奢である。
「セルシウス海水浴場か……。蛮族共の文化を少しばかり吸収した位で随分イイ気になっているね」
 この少年とも青年ともとれる顔立ちの男こそが、エリュシオン帝国の龍騎士エポドスである。
「まぁ、ヤツの名前がつけられた海水浴場なんか大体想像ができるけどね。どうせ、海の家の不味くて高い食事に、今年買った水着と急激なダイエットを敢行した女や男といった類が、一夏のアバンチュール等を求めてサカっているのだろうし」
 エポドスはある時期を境に神である龍騎士に突然変異したのだが、その前まではセルシウスに何をしても負けていた。そのジャンルは学校のテストから身長まで幅広い。そのため、何をしてもセルシウス以上の能力を持った今でもなお、壮絶なライバル心を燃やしていたのである。
 例えば、セルシウスがエリュシオンにコンビニを開き、「斬新なセールをやる」と言えば……。
「我に蛮族のことはよくわからないけど、まさか『おにぎり100円セール』とかではないだろうね?」
 また、セルシウスが居酒屋チェーンの蒼木屋をエリュシオンに開き、「客のリピート率を増やす」と言えば……。
「もしやと思うけど、ポイントカードで『貯めるとビール一杯サービス』や『ボトルキープ』なんてわかりやすいこと、しないよね?」
 負けず嫌いの勉強家である故にシャンバラのことを実は良く知っているエポドスは、そうやって絶えずセルシウスの一つ上をいって見せることに執着していた。セルシウスが彼を『知識と嫌味の宝物庫』と言うのは、あながち間違ってはいない。
 世間からは神と呼ばれる龍騎士のエポドスだが、彼にとってセルシウスは未だ永遠のライバルなのである。ただし、世間一般においてエポドスの行動は『ストーカー』と呼ばれるそれに近いのだが、本人は一切気にしていない。
「……あれがセルシウス海水浴場だね……何だろう? あの盛り上がりは?」
 上空を飛ぶドラゴンに乗ったエポドスがゆっくりと降下していく。


 『ミス・セルシウス海水浴場コンテスト』は小谷友美が優勝するという結果で閉幕した。
 優勝トロフィーと副賞をセルシウスより渡された友美は、感涙にむせび泣く。
 しかし、それは優勝の嬉しさよりも、一瞬の恋人であった変熊仮面が『全裸姿がデフォルト』との事が判明した方が勝った涙である事は、会場にいる勘の良い者なら誰でもわかった。
 そして閉会式……といった手はずだったのだが。
「ここで846プロの衿栖と未散の二人から、ファンの皆様に重大発表があります!」
 幽那の声に、家路へと足を向けていた観衆がピタリと止まる。
 幽那の宣言に呼応するかのように、ステージ上の衿栖と未散が並んで一歩前に出る。
「フゥ……長かったぜ。このまま終わられたんじゃ、交通費を払ってまで来た意味がないからな!」
「シン総統閣下。これが例のファン向けサイトで載っていたという……あれ? ラル大尉が居ないでゴザルな?」
「放っておけよ、ジョニー。それより何だろうな? 気になるぜ!!」
未散と衿栖が前に出て、「せーの」で息を合わせる。
「 「わたし達、ユニットを結成しましたっ!! ツンデレーションですー! 宜しくお願いしまーす!」」
「「「おおおぉぉぉぉーー!?」」

 観衆がざわめく。
「(なんか成り行きでアイドルユニット結成しちゃったけど、それでいいのか 自分よ!)」
 衿栖がニコリと微笑む傍で、未散がそう自分にツッコミみつつファンに手を振る。彼女の真なる夢『正統派落語家』への道はまだ遠いようだ。
 帰ろうとしていたジークフリートが再びマイクを持ち、壇上に駆け上がってくる。
「おおーーッと!! ここでまさかの新ユニットの発表会です!!」
「はい! この後はツンデレーション最初のイベント、撮影会ですよ?」
と、 衿栖がジークフリートに言う。
「なんと! 今日は特別に撮影会だって? 肖像権問題は? 無い!? 皆様、思う存分撮っていいそうです!!」
「「「「うぅおおおぉぉぉぉーー!!! イェエェェアァァーーッ!!!」」」
 絶叫する846プロのファンたち。
「けど、条件があります」
「?」
 一同が、会場の端っこにある売店で売り子をしていたハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)のマイクに注目する。
「撮影会には、参加券が必要なのでございます。そして、その参加券をゲットするためには……」
 言葉を区切って、ハルが不敵に微笑む。