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ムシバトル2021

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ムシバトル2021

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1回戦Bブロック

○Bブロック第1試合○

「Bブロックの開幕を飾るのは、フライ・ハイ!! 種類はパラミタオオワモン……」
 カードに書かれた類名を読み上げようとして、セレンフィリティの言葉がぴたりと止まった。
「どうしたの? 早く……」
 マイクが音を拾わないよう、セレアナが小さく問いかける。セレンフィリティはくっと唇を引き絞り、意を決して叫んだ。
「パラミタオオワモンゴキブリ!」
 かさかさかさ……
 異様な足音と共に、巨体ながら信じられないほどの速度で、黒光りする虫が現れる。空気抵抗が少なそうな平べったいボディに、根津 美男(ねづ・よしお)が堂々と腕を組んで立っている。
「フライ・ハーイッ! 俺とおまえの未来のため、このムシバトルで栄光を掴むぞ!」
「……なんだか、すまない」
 セコンドに突いている万有 コナン(ばんゆう・こなん)が思わず目を伏せる。どうやら、彼もあまり乗り気ではないらしい。
「うう……っ!」
 ぞわぞわぞわ、と生理的な嫌悪感に肌を震わせながら、セレアナは早く進ませようと、もう一方の呼び込みをはじめる。
「パラミタノコギリクワガタ、ダージュ(グラディウス)。小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)、そしてベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)と共に入場!」
 ゲートから姿を現したのは、フライ・ハイ! とは対照的な人気者、大きなハサミのクワガタだ。
「今日のために仕上がりはカンペキ……行けるはずです」
「よーし! 相手が誰だろうと関係ない! 行くわよ、ダージュ!
 乗り手の二人は、なんとかフライ・ハイ! への嫌悪感を抑えこんでいるようだ。当てが外れた美男は、それでも戦意を崩さない。
「いつかパラミタゴキブリダービーを作る時のため、ここで鮮烈デビューさせてもらうぜ!」
「馬や犬ならともかく、ゴキブリのレースなんて見たくないよ!」
「まったくだ」
 美羽に対して、なぜかコナンが同調。
 そうこうしている間に、ゴングが打ち鳴らされた!
「フライ・ハーイッ!」
 当然ながら、先手を取ったのはフライ・ハイ! 短い助走の後に、羽を大きく開いて飛び上がる!
「いやああああああ!」
 その姿に、会場のあちこちから悲鳴が上がる。仕事熱心な茅野瀬 朱里がばっちりカメラに捕らえ、ビジョンに映し出しているのだ。
 フライ・ハイ! はダージュの視界を逃れるため、ほぼ真後ろへと回り込む。その羽音が危険な超音波となって、ダージュを襲う!
「ダージュ! 捕らえて、押し出して!」
 美羽の指示に応えて、ダージュが素早くアゴを突き出す。走る速度ではフライ・ハイ! にはかなわないが、攻撃の鋭さは確実に動きを捕らえている!
「リングアウトを狙う作戦だね! ようし……!」
 ダージュのセコンドについたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が魔力を放つ! それはフライ・ハイ! の背後のリングをびしりと凍り付かせた。
「ムシバトル公式ルールでは、セコンドによる介入は一試合に一度、ムシを直接攻撃しない場合に限り許可されています! さあ、ダージュはフライ・ハイ! をリングアウトさせることができるのか!」
 実況席の叫び……だが……
「うぬぅ……ゴキブリは寒さに弱い」
 コナンの呟きの通り、フライ・ハイ! の動きは目に見えて鈍っていた。この隙を狙うのは難しくはない。結果、ダージュの鋭いツノから逃れることはできず、リングの外へと押し出された。
「よ、よかった。2回戦以降もあれを映さなくて済みそう……」
 実況という役回りながら、衿栖は思わず呟いていた。

Bブロック第1試合 勝者:ダージュ(パラミタノコギリクワガタ)
決まり手:ラッシュによるリングアウト
解説員によるコメント「試合のペースを作っていたのはフライ・ハイ! でしたけど、ダージュの鋭い一撃がそれを押し返していましたぁ。作戦が決まったのも大きいですぅ」


○Bブロック第2試合○

「タカトラバッタ! O’z!」
 謎のBGMと共に、前翅に虎縞模様のついたバッタがゲートから飛び出す。いかめしい顔つきと大きな体は、肉食獣を思わせる。
「勝負となれば、譲るわけにはいきません。勝利の栄光はかならず我らが掴みますよ」
「当然よ! O’z、負けは許さないわよ!」
 騎乗したアーサー・ペンドラゴン(あーさー・ぺんどらごん)、そして近衛シェリンフォード ヴィクトリカ(このえしぇりんふぉーど・う゛ぃくとりか)が告げる。O’zは虎縞の羽を鳴らして自信満々の様子だ。
「去年に引き続き、セカイジュオオカマキリのキリーが戻って来た! ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)と共に入場!」
 対するは、大きなカマを掲げたカマキリだ。マントのように羽織った百合園女学院の旗を、リングの上でばさっ! と広げた。
 歓声を浴びながら、ロザリンドとテレサが手を掲げる。
「さあ、今年も頑張りましょう」
「よっしゃー、派手にいこかー!」
 会場の盛り上がりも最高潮だ。興奮を逃さず、ゴングが高らかに鳴る!
「ロザリンド、テレサ! タカトラバッタのスピードは脅威よ。先手を取って、一気に攻めるのよ!」
 セコンドのシャロン・ヘルムズ(しゃろん・へるむず)が、情報を解析して指示を飛ばす。
「分かりました! キリー、距離を取って戦いましょう!」
 キリーが素早く鎌を振るう。刃物と見まごうようなカマがリングを切り裂き、つぶてのように放つ!
「かわすのよ、O’z!」
 バッタの発達した後ろ足で、高く飛び上がる。その高度は、キリーのつぶても届かないほどだ。キリーは上空に向けてカマを大きく広げて威嚇の体勢だ。
「つぶてをかわして、インファイトに」
「分かってるわよ!」
 アーサーの指示に応えながら、ヴィクトリカがO’zを操る。キリーの石つぶてが切れたタイミングを見計らって、あえてカマの中へと飛び込んだ。
「ああっと! 激しい攻防! 実況席からでは、とても二匹の動きを捉えきれません!」
 互いに密着するような距離で、O’zの大きなアゴがキリーを打ち、キリーのカマがO’zへ振り下ろされる。信じられないことに、互いに攻撃をかわしあっている。
「打ち負けるな! 手数で勝ってりゃ勝てる! オラオラオラオラ!」
 熱くなったテレサが叫ぶ。キリーの攻撃の速度はさらに加速していく。
「こうなったら……O’z! 行くわよ!」
 ヴィクトリカの叫びに答えて、O’zがリングを蹴って高く飛び上がる!
「おおっと、O’zが空高く舞い上がった! ムシバトル史上、他に類を見ない高さです! いったい、何を狙っているのかー!」
「あれは、鷹のような急角度で飛び上がり、虎のように鋭い一撃で獲物を捕らえるタカトラバッタの必殺技、タトバコンボですぅ!」
 解説のエリザベートが叫ぶ。
「真上からの攻撃に対応できる生物などいません! この戦い、どうなるのかーっ!」
「キリー! 受け止めてやれぇ!」
 一瞬の交錯……スローモーションで確かめなければ、何が起きたのか、観客には理解できなかっただろう。
 真上から飛び来るO’zの一撃を、キリーは両手のカマを交差させて受け止める。そして、激突の衝撃が広がりきる前に、そのカマでO’zの巨体を弾き飛ばしたのだ。
 結果、気づいたときにはO’zの体はリング外までとばされていたのだった。
「O’z! そんな……!」
 衝撃に失神しかけているO’zにすがりついて、ヴィクトリカが思わず叫ぶ。そっと、アーサーがその肩に手を置く。
「大丈夫、少し気を失っているだけです。全力で戦って負けたのですから、O’zもきっと満足でしょう」
 一方、リング上ではキリーが観客の大歓声を受けている。
「よく頑張った! でも、次の試合が待ってる。まずは休憩や」
「また、体を磨いてあげますね」

Bブロック第2試合 勝者:キリー(セカイジュオオカマキリ)
決まり手:大鎌ストライク
解説員によるコメント「共に素早さに重点を置いたムシどうしのバトルは、強烈な一撃を持っていたキリーに軍配が上がりましたぁ」


○Bブロック第3試合○

「パラミタオオナナホシテントウ、ななほし(アーカディア)、騎乗は冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)だ!」
 呼び込みに答えて、赤い外皮に点の散らばった姿のテントウムシが現れる。
「こ、こんな大きいテントウムシ……一体、いつの間に……捕まえたんですかぁ?」
「それは内緒だよ」
 その背には、ちぐはぐな身長の二人が寄り添って立っている。
「こちらはタングステンルリイロマイマイ、名前は! 騎乗しているのは秋月 桃花(あきづき・とうか)、そして荀 灌(じゅん・かん)のふたりです!」
 もう一方から現れるのは、青い殻を輝かせる大きなカタツムリ。雨上がりの似合いそうな首を伸ばして、リング上のななほしをみつめている。
「ああっ! 入場も決まりすぎ! さすが蒼! きゃー!」
 セコンド席で騒ぎに騒いでいるのはブリーダーの芦原 郁乃(あはら・いくの)だ。リング上で蒼と共に戦う二人よりもさらに熱狂的である。
「お、落ち着いてください。まだ、試合も始まってないんですから」
「そうだよね! 蒼のカッコイイところはまだまだこれからだもんね!」
 蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)がなだめても、ぴょんぴょん飛び跳ねる郁乃は黄色い声援をあげ続けている。
 あまりその状態が続くのは危険だと判断してか、カン! とゴングが打ち鳴らされた。
「先手必勝だよ。距離をとって戦うんだ」
 ななほしの背から、千百合が指示を飛ばす。ななほしの羽が細かく振動し、空気を乱す衝撃波がわき上がる!
「この程度で、蒼はくじけません」
 桃花と荀灌は蒼の背にしがみつき、進むに任せている。青光りする甲羅は衝撃波を受けても一行に傷はつかず、むしろそれを跳ね返すほどだ。
「こ……これなら、どうですかぁ?」
 その硬さに驚きながらも、日奈々は次の指示を飛ばす。ななほしの体から、こぶし大のテントウムシが無数に飛び出してくる。
「ああっと! リングに上がることができるのは、互いにムシ一匹だけのはずですが……」
「事前のチェックでは、ななほしがムシを隠し持っている様子はありませんでしたぁ。今生み出したのか、別の手段を使ったのかは分かりませんが、とにかく、ルールには抵触していないはずですぅ」
 本大会のスポンサーの意向は「面白ければなんでもあり」だ。それをよく理解しているエリザベートは、試合を中断させるよりも、盛り上がりを優先する解説を入れた。
 飛び来るテントウムシが蒼に体をぶつけると、何故かその体が爆発する。これも、爆発物などをななほしが隠し持っている様子はなかったため、ルールには抵触していない。
「まだまだ……耐えられるです!」
 蒼の体は爆発を受けながらもゆらがない。ゆっくりだが、確実にななほしへと近づいている。
「あんなに激しい攻撃を受けてもびくともしないなんて、さすが蒼! 鉄壁! 浮沈艦! 難攻不落!」
 セコンドの郁乃がマビノギオンを掴んで、がくがくと揺さぶっている。
「ちょ、わ、分かりましたから、も、やめて……ください……」
 早速気分が悪くなってきたらしいマビノギオンががっくりとうなだれている。
「こ、こうなったら……!」
 日奈々が静かに歌を歌う。ムシを威圧し、動きを封じる歌だ。その間にななほしはさらなる攻撃を加えるが……それに対して、蒼が取った作戦は単純そのもの。動けるようになるまでじっと耐えるというものだ。
「蒼の防御は、決して貫けません」
「やってやるです!」
 蒼がついにななほしの元へと辿り着く。そうなれば、もはや押し合いだ。動きは鈍いが、体重で勝る蒼はななほしをリング外へと押し出した。
「さすが蒼! 蒼最高! 蒼ばんざぁぁぁぁぁいっ!」
 郁乃がモノもいわなくなっているマビノギオンをさらにがくがく揺さぶりながら叫んでいた。

Bブロック第3試合 勝者:蒼(タングステンルリイロマイマイ)
決まり手:押し出し
解説員によるコメント「圧倒的な防御力が光った試合でしたぁ。攻撃と速度に優れたななほしは、反撃に対抗することができなかったのがいたかったですぅ」